なぜかモチベーションが高いので連続更新です。
「空洞の中心に魔力反応、それも爆発的に大きな――先生はどう思われますか?」
「そうだな――同じ、とは言い難いがこのパターンには覚えがある。よくお前とルヴィアゼリッタが引き起こしていたな」
「……?」
「――――」
ん? というふうに顎に手を当てる凛と、そんな彼女を見て愕然とする元ライダーのマスター……ロードの2人を従えて雪で白く染まった道を駆ける。
そのスピードはもしも見る者がいたならばあまりの衝撃に周りに吹聴し、回り回ってなにか新しい都市伝説を生みだしてもおかしくないようなものだ。
なにせ私が手を抜かずに走るのと同等のスピードなのだ。およそ普通の人間が出せるものではない。
もちろんこんなことをするのには理由がある。
そしてそれは決してこの寒空の下を走りたくなったとかそんな適当なものではない。
「戦闘……でしょうか。それも突発的な。それならば納得がいく」
私の顔をみた瞬間に腰を抜かさんばかりに驚きを見せたロードであったが、かつての彼に比べるとその後の立ち直りは非常に早かった。
最初こそ不安げに何度か話をしながらも不自然なタイミングで私に視線を向けたりしていたものの、危害を加える気がない、そもそもそんな理由がないということを自分の中で確かな物と確立したのか次第に非常に冷静かつ分かりやすい語り口調に変化していった変化はなかなかに興味深いものだった。
そしてそんな彼の話を纏めるとこうなる。
いつものように様子見をしていた彼だが相も変わらず動きはなく、空振りを覚悟してその場を立とうとしていたそうだ。
しかしその時突如として今まで故障を疑うほどに沈黙を保っていた探知用の宝石が起動。
より詳しく探るために使い魔を現地に放ったところーーその尽くが跡形も無く霧散し、それが膨大な魔力負荷がかかったことに起因するということを示すフィードバックを受けたということだ。
そうしてこれがただ事では無いと判断し凛の助力を受けるために帰還した所私と遭遇したということだ。
「えっ!? 何言ってるのよセイバー、そんなこと――そもそも私とルヴィアがどんな関係かなんて」
「いや、その通りだアーサー……セイバーと呼んだほうが良いか。
魔力痕としては突然フルスロットルで戦闘が始まった際に流れるそれが一番近い――全く、世界を飛び越えてもお前たちの仲は変わらないとは……その世界に私がいるのかは知らないが、もしもいたなら一緒に酒でも飲みたいものだな。
無論、出来が良く外面も満点、それでいて精神年齢には些かの問題がある教え子についての愚痴が中心になるだろうがね」
――自覚はあるということなのでしょうか。彼女が聡明なのは分かりきっていることなのですから、少しくらい自制心を働かせればそんなことを言われるようなことをするはずがないのに。
黙り込むリンにそんなことを思う。
そしてすぐにその当たり前の判断すら出来なくするのが犬猿の仲というやつであり、腐れ縁、天敵同士というやつなのかと一人納得した。
私自身にそんな経験はないものの、かつて付き従ってくれた騎士の中にはそのような関係同士の者もいて、彼等の距離感はリンとルヴィアゼリッタのそれと同じようなものだったはずだ。
「まあとりあえずは――」
微妙な沈黙を崩しにかかる。
「明らかに不自然な何かが私達の目的地で起こっている。そういうことですね?」
2人は無言ながらもお互いにそれを肯定する。
今はそれだけで十分だ。
―――――
「止まってセイバー!」
数分後、住宅街を駆け抜けきるといよいよ空気が変わり、そして爆心地に辿り着く。
視界に入ってきたのはとにかく広く、そして白い空間。
そこだけ霧がかかっているように奥を窺うことは難しくなっているがそれでもそこがどれだけの大きさを誇っているかを理解するのはそう難しいことではなかった。
正にその中に飛び込もうとしたところリンから静止の声がかかる。
アスファルトから離れ地面に深く積もった雪を巻き上げながらブレーキをかけて振り返るとリンとロードは数m後ろで止まり、なにか目を瞑って集中しているように見えた。
「ここから先はもう危険地帯よ――少しだけ待って、家を出るときに飛ばした使い魔がそろそろ中心につく。そしたらそのイメージを視認化出来るようにするから……先生?」
「分かっている――ったく、教え子に魔術師としての格の差を見せつけられるのはいつもの事だがやはり気持ちの良いことではないな」
「そんなこと言わないでください。その力を身につけられたのも先生の力あってのことなんてすから……出します」
かつての少年の面影が残る不満げな口調のロードをリンがなだめる。
そして彼女が腕を伸ばすと同時にロードが私達3人を包み込める程度の大きさの結界を展開する。
すると私と彼等の間の空間にノイズ混じりの映像が浮かび始める。
「これは!?」
「使い魔を通して所有者がその場にいなくても偵察とかが出来るのは知ってるでしょ? けどそれだと一人しか見れないからその思考イメージを具現化――簡単に言うと本当なら私にしか見えないものを皆が見れるように変換してるの。
因みにこの術式の元の理論を構築したのも先生」
「持ち上げるな……結局不完全だった私のそれに手を加えて形にしたのはお前だろう、遠坂」
要するに戦場に放った斥候が得た情報をより早く、そしてより正確に皆が見れる。そう言うことだろうか。
私の解釈で合っているのならばこれほど便利なものもそうあるまい。
「段々とはっきりしてきて――ってなによこれ!? こんなバカでかい城があるっていうの!? アインツベルンも真っ青よ!」
「いえ、それよりもあれは……リン、そこをもう少し大きくすることはできますか?」
そうして私が感心しているうちに写ったのは巨大な城だった。
それはリンの言うとおり確かにアインツベルンの城を思わせる絢爛さを誇っており、そこに目が行くのが普通である。
だが私の目を引きつけたのはそこではない。端の方にわずかながら見えた人影の方が遥かに大きな問題だった。
「イリヤ……!」
「えっ!?――ほんとだ……確かにあの娘は……私の知ってるのに比べたら少しだけ子供っぽいけど……」
その姿を認めるとリンは複雑そうな、そして懐かしそうな表情を浮かべた。
ピンク色の見慣れた魔法少女の衣装に見を包みルビー片手に飛ぶ銀色の髪の少女。
紛れもなく私の知っているイリヤである。
リンの世界のイリヤの末路は私には分からない。しかしそれが幸せなものではなかったことを匂わせるにはそれだけで充分だった。
「懐かしがるのは良いが……これは穏やかではないぞ……!」
ひっ迫したロードの声で現実へと引き戻される。
よくよく見てみればイリヤの軌道は普通ではない。いや、これは最初からわかっていたはずのことなのだが失念していた。
イリヤは空中で細かくきりもみ回転を繰り返し不規則な動きを繰り返したと思うと急停止と共に魔術砲を繰り出す。
その姿はどう見ても戦闘のそれである。
「戦闘……! けどここからそこまではかなりの距離があるわ! このままじゃ」
「リン」
となればやることは一つしかあるまい。
剣を抜きリンに声をかける。全力を出せばいかに彼女達と言えどついてくることは出来ないだろう。
何があるかわからない状況で彼女らを置き単独行動を取るというのがあまり上手くない手段だと言うのは分かっている。
しかし選択肢はこれ以外にはない。
「分かったわ。お願いセイバー。なに、大丈夫よ。ここで止まって成功だったわ。こっち側は何も起こらないはずだから」
「必ずや」
「ああ、ちょっと待って……これを」
「――? これは一体?」
「宝石、1回きりの緊急用だから使わずに済むならそれがベストなんだけどそんなこと言ってられないわ。
空間転移の真似事よ。それを持っていれば私は貴女をここに呼び戻せる。
だから貴女はとにかく一瞬でいいからあの娘を確保すればいい」
「感謝します」
そうして数秒後にはリンとロードの気配は遥か後方へと消え去っていた。
周りの空気の壁を破らんとせん勢いで駆ける。
「恐らく――」
相手が私の追う相手ならばイリヤでは到底敵わない。
一刻の猶予も許されない状況が変わるわけではないのだがそれでも焦るものは焦る。
『イリヤちゃん頑張って! そろそろ助っ人もくるから!』
『助っ人って誰なのよ〜! 誰でも良いから早く来て!』
『ファイトです!』
『田中さんは本当に呑気でいいよね!?』
「……複数?」
切り裂かれた空気が風となってゴウンゴウンと音を立てるのに混ざって人の声が聞こえた。
それは一瞬だけだったが確かに聞き間違いではないだろう。
一人はイリヤ、もう一人はなぜここにいるのかという疑問こそあるものの恐らくギルだろう。
彼がいるというのは正直なところかなり心強い。
だがあと一人は……誰だ?
「それもすぐに分かることだ」
そう思い走ることに集中する。
この平行世界に飛ばされた以上可能性は無限大であり、その中から限定しようというのは難しい。
それよりも今はとにかく早く辿り着く事のほうが先決である。
「――近い! ……ん?」
近づいていることが一歩一歩進むごとに手に取るようにわかる。
そんな感覚を覚えるようになってから数秒後、違和感は突然現れた。
「何か飛んで――……!」
視界は未だ数十m強、その深くもやがかかった先から何かが打ち上げられる。
「間に合え――!」
反射的に切り返す。
何かは分からないがあれは"受け止めなくてはならない"ものだ。
直感を信じその落下地点へと走る。
その間にも刻々と宙に舞った何かは地面へと近づいていき……
「いてて……随分と派手にやってくれたもんだね……ありがとうセイバーさん。流石の僕でも宝具無しであの高さからの自由落下じゃ無傷ではいられない」
「ギ、ギル!?」
地面に直撃する寸前、半分スライディングするように滑り込み腕の中に収めたそれは鮮やかな金髪だった。
礼をいい立ち上がるギル。
しかしその姿は私の知っている彼とは違う。
「貴女ともあろう英霊がどうしたのですその傷は……いえ、それよりも――」
その怒れる神の如く燃える双眸はなんなのか。
思わず気圧される。
至る所から流れる血の痕も気にはなるが、それ以上にこんな表情を見せる少年は見たことが無い。
少年というくくりでなくともだ。悪魔に魂を売った復讐の鬼、狂気に身を任せた蛮族、強い信念を持つ反逆者、今まで見てきたどんな人物よりも深い怒りを携えた瞳。
「ちょっとばかり度が過ぎる雑種がいてね……ああ、認めよう。今の僕は怒っている。けどまあ――」
そこまで言うとギルは顔を背けて血混じりの唾を吐き、顔に手を当て一度髪をかきあげる。
そしてその後に再び見えた顔は元の美少年のそれに戻っていた。
「こいつをとりもどせただけで良しとしようか。他の中身はまだ1,2割程度だけど」
見慣れた金色の歪みが彼の後ろに出現する。
少し満足そうな笑みを零すとギルはその中を右腕で漁ると一本の鎖を取り出した。
「それは……?」
「うん? まあ……大切な縁の品ってやつかな。僕は全てを従える王だけど、その中でも特に特別扱いに値するものだってある」
どこか懐かしむように微笑むと、彼のイメージとはそこまで合致しないシンプルな、どちらかというと武骨な鎖を自らの周りに回らせる。
その姿にまるで友と戯れる普通の少年の姿が過ぎったのは私の気のせいだろうか。
「さてと――」
そんな錯覚を覚えたのは僅かな間。
真剣な表情でギルは霧の向こうをみる。
「セイバーさんが来てくれるならチャンスもあるかとさっきまでは思ってたけど……そう上手くはいかないか。セイバーさん、撤退する算段は出来てる?」
「ええ、リンに貰った宝石がありますからこの霧の外側まで直ぐにでも」
「リン……? ああ、あの度胸のある娘か。彼女と関わる世界線はそう多くなかった筈だけど、覚えがあるってことは見所があるのか――
まあ今はいいや。それは僥倖、ならさっさと逃げようか。今の戦力じゃ勝ち目はないし、幸いなことに相手のボスは去るもの追わず精神みたいだからね」
大人の彼とリンに接点があったとは思わないがどうやら色々とあるようである。
「逃げる……? 貴方があっさりとそんな判断を下すとは意外ですね」
それよりも気になったのはこちらの方だ。子供になって幾分か丸くなったとはいえ彼は英雄王に違いない。
そんな彼がここまで簡単に今は勝てない、退くという判断をしていることが疑問だった。
「戦略的撤退ってやつだよ。僕の財の恐ろしさは僕が一番良く知ってるし……たとえ貴女の力を借りてそこを乗り越えたとしてもその後はジリ貧だ。
勝ち目のない戦に飛び込んで全滅するほど王として恥じることはないんじゃないかな?」
「世界が1つであった頃の王の貴方に撤退戦の流儀があるとは思えないのですが……概ね同意です。
ですがイリヤは――」
「それなら心配ないよ。僕の鎖を嘗めないでほしいね」
鎖が二手に別れ飛んでいく。
見えなくなっても尚飛び続けたそれは突然止まると、同時に奥から少女の叫び声が聞こえた気がした。
「捕まえた――!」
それを確認すると一気に手繰り寄せる。
徐々にその捕まえた何かの影は大きくなり次第に形がはっきりし始めて……
「ひゃわあ!!」
「どっひゅーん!! です!!」
2人の少女が姿を現した。
勢いの尻餅をついて涙目になっているのはイリヤだ。そしてもう一人……勢いのままにぐるぐる回っているのは……
「はいはい。二人ともそこまでだよ。お迎えのお姉さんが来てくれたからね」
「お迎えって……セイバーさん!?」
「はっ!? 外人さんです!? 田中、はじめて見ました!!」
「た、田中……?」
この場に似つかわしくない体操服に身を包んだ自らを田中と呼ぶ少女が私を見ると目を輝かせて駆け寄り、手を取るとグイングイン上下に振る。
年としてはシロウと同じくらいなのでしょうが……それにしても力が強いですね
「ちょっと待って! あそこには美遊も、お兄ちゃんもまだ!」
その横ではイリヤがギルに食って掛かっている。
必死に訴える彼女だがギルは頑として首を縦には振らなかった。
「ダメだよ。どう足掻いても戦力が足らなすぎる。本当にあの娘、それにお兄さんを助けたいなら今は大人しく退くべきだ」
「それは――」
わかってはいるが納得はいかない。
そんな風にイリヤは唇を噛み締めくやしげに俯く。
「決まりだ、セイバーさん。色々と聞きたいことはあるだろうけど全部後にしよう。あんまりのんびりしてると――ほら」
『くそぉぉ!! どこ行きやがった!!』
『落ち着け。そう遠くへは行けないはずだ』
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
それは冬木での最後に私と対峙した者のそれに間違いなかった。
「エインズワース!」
「そういうこと。言いたいこと分かったでしょ? 今の僕らじゃ――それじゃあ行こうか。最後に捨てゼリフでも残して三下っぽさでも演出してね」
話は終わりだとイリヤを突き放しギルは私の方へと寄ってくる。
イリヤはそれでも踏ん切りがつかないようであったが……遂に覚悟を決めたのか俯いたままこちらへと歩み寄る。
「リン!」
私が呼ぶと同時に手に持つ青い宝石が輝く。
それと同時に周りの空間がぐにゃりと曲がりはじめる。
「美遊! お兄ちゃん! ……私、諦めないから! 絶対に助けるから!」
最後に彼女が叫んだ言葉は、届いたのかは分からない。
なんとかここから本格的にドライ編始動出来そう……
どうもです!
fgoによってモチベーションが瞬間強化されているfakerです。
ここからの展開が一番難しいんだろうなとなる今日この頃。
なんとかのんびりやろうかなと思います。
それではまた! 評価感想お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております。
ps最近オリ展に向かうのを意識して地の文増やすのにトライ中、漫画で脳内変換出来なくなることを懸念してですが実際これだと読みにくいとかありますかね?