「にしても良く似てるわねー。肌の色以外見分けつかないわよこれ」
「そんなことありませんよ。よく見てみれば全然違います」
2人並んでスヤスヤと寝息をたてるイリヤとクロを眺めながらそう言ったリンに少しムッとしながら返す。
なぜそんな風な感情を抱いたのかはよく分からない。
「双子以上に双子なんだから家族でもなきゃそう簡単に分からないわよ普通──ところでセイバー、あのバカステッキはどこいったのよ」
「……分かりません。今回の事は彼女自身責任を感じていたようですので」
「ふーん……ま、今回のルビーの判断は正しいと思うわよ私は。こういう考え方がどうかってのは分かってるけどね。……むしろあいつが気に病んでる方が驚きってもんよ──それだけこのイリヤとの時間が大きかったってことなんだろうけど」
そう語る彼女の目は魔術師のそれだった。
リンは立ち上がるとカーテンごと窓を開け外を眺める。差し込む柔らかい月明かりと、雪こそやんだものの未だ冷たく荒ぶ風。明るく照らされているはずの彼女の横顔は風に巻かれて靡く長髪に隠れて見ること出来ない。
これは錯覚だ。今そのことを考えているからそう見えているにすぎないのはわかっている。だがその光景は彼女の中に同居する優しい人間、遠坂凛としての面、そして魔術師トオサカリンとしてのそれ、相反する2つを表しているかのようにも見えた。
「────」
そんなリンから目を話しもう一度幼子二人を見る。
「これからの相手は今までとは全く違う。少なくとも彼女達にとっては」
──イリヤさんにクロさんは斬れないと判断しました。どのような処分も受ける覚悟はしています
あの後、イリヤの声を借りてルビーが言った言葉だ。
もちろん彼女が責られる道理などどこにもない。むしろ結果だけ見れば賞賛されるべき行為と言って問題ないくらいだ。
私達は手を出すことができず、イリヤ自身勝機を逸した。彼女の機転がなければ二人とも今生きていなかったかもしれない──だがそれは、結果だけを見ればの話だということも理解している。
もしも仮に乗っ取られたのが私だとしたら、何も言わずその判断に感謝するだけだろう。目的を達成したことに変わりはないのだから。
けれどもイリヤが同じかどうかはまた別の話である。人の本能としての倫理感、今まで積み上げてきた信頼、一時的とはいえ自らがなくなるという行動そのものに対する恐怖。
だからこそルビーは悔いた。そして私はこうして悩んでいる。
二人はこれからエインズワースという"人間"に対して本気で戦えるのかと。
クロはまだ何とかなるかも知れない。少なくともかつては本気でイリヤやキリツグを殺そうとしていたのだから。けれども、それはあくまで人の温かさを知らなかったからこそのことでもあり、今はどうかは分からない。
そして問題はイリヤの方だ。考えてみれば彼女に出来る道理のほうが無い。どちらかといえばここまでボロが出たのが一度だけ、そしてそこから立ち直ったことの方がおかしいとさえ思える。
「ゲーム、もしくは非現実的なものとして捉えていたからこそ」
サーヴァントという桁違いの存在。あまりにも大きすぎて理解が追いつかなかったからこそ戦えたとは皮肉でしかない。
結局のところこれからは彼女達の心次第としか言う他ないだろう。
「───あれ……ここは……」
各々答えの出ない問いに私もリンも黙り込む。
そうしてどれくらいたったのか、沈黙を破ったのは久しぶりに聞く彼女の声だった。
「クロ! 目が覚めたのですか!?」
いつの間にかうたた寝しかかっていたのか、そんなつもりはなかったのだがいつの間にかボヤケていた意識も視界もはっきりとする。
顔を上げてみれば今まで寝言1つなく静かに眠っていたはずのクロがベッドから上体だけ起き上がり不思議そうに回りをきょろきょろと見渡していた。
「おねーちゃん!?──そっか、じゃあイリヤが勝ったってことか……」
その瞳が私を捉えると同時に大きく開いた、と思えばなにか思うことがあるのか急に俯き何かぶつぶつと呟く。その内容は小さすぎて聞き取れない。
「あ、起きたのね。えーとそっちは……」
「クロ・フォン・アインツベルン。クロでいいわ。凛? にしてはだいぶ大人びてるわよね。貴女は──」
「凛でいいわ。ま、どちらも色々話すことはありそうだし──」
「リン、どちらへ?」
机に突っ伏していたはずのリンは一度大きく伸びをして軽く自分の名前だけ言うと立ち上がり部屋の出口へと歩いていく。
「お風呂よお風呂。二人も入りましょ、眠気ざましにはぴったりだろうし。それに……」
「それに?」
「そろそろ作業が終わるはずだから。あの成金の力、見せてもらおうじゃないの」
―――――
「一体これは──」
「世界最古の成金恐るべしってやつね……あー気持ちいい」
「ギルー、あんたやるじゃない! 見直したわよー!」
その恩恵を受けてからこんなことを疑問に思うのはそれはそれでどうなのか。
風呂に行くと言ってリンが私達を連れ出したのは屋上。そんなところに何があるのかと思えば、この古風な洋館には場違いにも程がある温泉が見事に出来上がっていた。
ちなみにお湯の温度、種類はもちろんのことシャワーやらサウナも全て完備という充実ぶりである。
装飾だけそこら中から突き出る剥き出しの竹やら、意味の分からない漢字の羅列に何故か上を舞うタコやらとどうも間違った日本文化全開なのだがそれくらいはご愛嬌と言っても何の問題もないと言えるくらいに。
『それはどうもー! これで今回の件は貸し借りなしってことでー!!』
一番大きな湯船の石縁に座り髪を纏め上げながら大声で壁の向こうにリンが呼びかけると、ちょうどあちらも入浴中なのか──入り口もしっかりと男湯と女湯と別れていた──ギルが返事を返してくる。
因みに貸し借りと言うのは先のアンジェリカとの戦闘でギルが想定外のピンチに陥り、その打破の為に使う予定のなかった宝石を使ったとかそんな話だ。
「なに言ってんの! あれ一応8桁はするんだからね! こんなんじゃまだまだよ!!」
『……鬼の借金取りですね。これならいっそのことあのまま食らったほうがましだったかも……』
『諦めろ。彼女に借りを作れば最低でも5倍返しが条件だ』
しかしギルの見立ては甘いとしか言いようがない。
それを象徴するかのように彼と共に入浴しているのであろうロードの今まで聞いたことのない諦めたような声が虚しく響く。
そうしてそれから男湯から聞こえてくるのは二人のため息と、よく聞き取れない愚痴だけが聞こえるだけであった。
「──流石ですね、リン……」
「ん、まあね。あれから色々と大変だったし無理やりでもたくましくなるわよ」
そう胸を張って答えるリンだがちょっとズレているような気がしないでもないのは触れないが吉か。
「それじゃあそろそろ真面目な話を……ってあの娘どうにかならないの? 邪魔にならない気がしないのだけど。と言うよりもそもそもいつの間に?」
「ああー……」
リンは目を細めてため息をついた。
その視線の先では──
「ちょ!? なにするのよあなたは!?!?」
「プロレスですー!!」
じゃれ合うというか一方的に絡む形で田中さんがクロに飛び付いていた。
「ああもう……! ちょっと田中さん! 少ししず──「乱入大歓迎です!!」──キャッ!」
トラブルメーカーはどうあってもトラブルメーカーらしい。
呆れながらも仲裁に向かったリンの顔面に田中さんはシャワーを噴射する、それも威力全開で。
それがあまりに突然のことだったこと、それまでに彼女が床に大量のシャンプーをぶちまけていたこと、そもそも床が滑りやすい大理石だったこと。様々な条件が重なり合った結果、ペタン、というなんとも可愛いらしい音と共にリンは尻餅をついた。
「へ〜……そういう態度とるんだ」
「──!!」
その時、空気が凍り付いた。
湯に浸かっているにも関わらず背筋に寒気が走る。そしてそんな感覚に襲われたのは私だけではない。
お尻を擦りながらバスタオルがはだけるのも関係なく立ち上がったリンにクロは思いっきり顔を引き攣らせ、田中さんはよく分からない姿勢のまま恐怖の表情を浮かべ全身固まっていた。
こちらからは見えないが、きっとリンの表情は素晴らしい笑顔に違いない。
「ダメよ〜二人ともお風呂で遊んじゃ。ちゃんとご両親に教わらなかったのかしら?」
「た、たなかはそういうの分からないです……」
「わ、私もまだ外に出てからまだ数ヶ月だし……」
「あらそうなの〜。それじゃあ私がちゃんと躾けてあげないと……ちょっと痛いかもしれないけどそれくらいは許容範囲よね、二人とも?」
「「ヒッ──」」
これはいよいよまずい。リンの右手がすっと上に上がったのを見て本能的に身体が動いた。
「ま、待ってくださいリン! 少し落ち着いて!」
「離しなさいセイバー!! こういうクソガキはしっかり躾とかないと後々後悔するんだから!!」
「それは躾ではなく制裁です! お願いですから──」
羽交い締めにするが思った以上に力が強い。ちょっと待ってください! そんなに暴れられると──
「ひゃっ!?」
リンから素っ頓狂な声が聞こえる。そう思えば突然今まで踏ん張っていた足から感覚が消え。私の目に見えている景色が突然満点の星空に変わった。
おかしいですね……なんでこんな……あ──
そして気付いたのは本当にその直前だった。
だがもう遅い。
「おねーちゃん大丈夫!?」
頭が……割れる……
「いたた……なるほど、風呂場の転倒とはかくも危険なものなのですね……一度タイガが悲鳴を上げていたのを聞いたことはありますがまさかここまでとは……」
「即効性の薬湯があって良かったね、おねーちゃん」
「ありがとう、クロ」
クロが後頭部を擦ってくれる。そこには大きなタンコブが出来ていた。
「凛さん大丈夫ですか……? もう田中悪い子しないです……」
「あーはいはい。分かったからそんなに気にしないで、ね? もう怒ってないから」
「ほんとですか!」
隣は隣で似たようなものである。もっともこちらはいつの間にか慰める側と慰められる側の立場が逆になっているのだが。
しゅんと小さくなっていたのから一転、パアッと明るい笑顔に変わる田中さんとその頭を苦笑しながら撫でるリン。
とりあえずはこれで一見落着と見て良いだろう。
「じゃ、遅くなっちゃったけどそろそろ本題に入りましょうか……クロ、だっけ? 貴女、一体何を知ってるの? さっき起きた時の言葉、セイバーは聞こえてたか分からないけど私はきっちり聞いてたわよ。イリヤが勝ったのかってね」
「──」
こういう時にもポーンと直球で放り込めるのが彼女の凄いところでもある。
突如として空気が張り詰め、心なしかリンとクロ、お互いの視線が鋭くなるのを感じた。
「──まあ全部話すつもりではいたけど……そうね、それじゃあおねーちゃんとはぐれてこの世界に飛ばされた所からでいいかしら?」
「私が目覚めたのはね、あいつらの本拠地の中だったの──細かいことはとりあえず置いておくとして、一番大事そうな所だけ話すわ。
あいつらの目的は世界そのものを"置き換えて"しまうこと。そしてその先にあるのは──"この"世界、"この"人類の救済よ」
―――――
「英雄王」
「ん? なんだい先生。質問なら遠慮しないほうが良い。今の僕は機嫌が良い。いつもなら答えないようなことも答えちゃうかもしれないよ?」
そう言ってギルは笑った。そんな彼を見てロードは重い口を開く覚悟を決めた。
「クラスカードのことだ。お前は一体何を知っている」
「……意外だなー。そっちか。てっきり僕は……」
「あの人の事だとでも思ったか──そこにはいずれ自力で辿り着いてみせるさ。それよりも今はこっちの方が重要だ」
「ふむふむ、その心意気やよし。けどその質問はあまりにも大雑把すぎて答えようがないかな。
僕だって万能じゃない。知っていることはもちろんあるけど、知らないこともある」
全く真意の読めない笑顔。だがそれはロードにとっては予想の範疇──むしろ本命の反応だった。
動じることなく次の質問へと移る。
「ならもう少し具体的にしようか。英雄王──お前は、誰だ。私が……いや、僕が知っているアーチャーか? それとも──」
「……体のいい疑問だね。この英雄王から一度で二つの答えを引き出そうだなんて」
「まて英雄王! どこへ」
「興が冷めた。僕はもうあがるよ──けど1つだけ。ライダー、征服王のマスター ウェイバー・ベルベット。仮に君の求める答えと僕の答えが違ったとして……それはそんなに重要なことなのかい?」
――――――
「おねーちゃん!!」
「どうしたというのです。騒々しい……そろそろイリヤも起こさないと」
「そのイリヤが! いないの!」
どうもです!
ネロ祭楽しすぎぃぃ!!!
オルタ様遂にゴスロリに進化したぁぁ!!礼装も3つドロップしたぁぁ!!
今後のゲームバランスが少し心配です(小声)
そして物語はようやく核心へ。
ここから一気に最終章へと突き進むのか、まだまだ先は長いのか。作者も知りません。
それではまた! 評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!!