「ちっ……やられた。まさかあんな悠然と帰っていったその日のうちに行動起こすなんて思わないわよ普通!?」
「ですが我々の虚をつく一手としては確実に有効ではありました……特にイリヤには普段からルビーがベッタリと張り付いている。そのガードを掻い潜らなければならないことを考えてみればここしかない絶妙なタイミングにも見える」
「まー……ね。ルビー、気持ちは分かるけどぐじぐじしてても仕方ないわ。とにかく早く動かないと」
「こうなってしまった以上それしかないだろう──どうしたクロ、何か気になることでもあるのか?」
「え……あーうん、あるにはあるんだけど」
外からは爽やかな朝日が差し込み、朝食に用意されたスープとスクランブルエッグにトーストはその温もりとともにいかにも美味しそうな匂いを漂わせる。
が、それに手を付ける者はいない。と言うよりもその存在自体忘れているようなものだ。
今から遡ること数分前に突然もたらされたイリヤ失踪の知らせ。その衝撃は計り知れない。
「クロ、何かあるのなら言ってほしい。正直私達はあまりにも事が進みすぎて何がどうなっているのか把握できない。もしも思い当たるものがあるのなら少しでもほしい」
「……それもそうよね。どこから話そうか……あいつらの目的については話したよね」
「ええ、細かい内容まで突き詰めなければ到底信じがたい話ですが」
昨日クロの言っていた内容を思い出す。
単独でこの世界に飛ばされたクロはそのままエインズワースに捕らえられ、彼らの魔術によって意識を人形かなにか──リンによると置換と呼ばれる魔術の可能性が高いという──に移し変えられ、戦闘中イリヤに一撃を加えられた際に意識そのものは身体に戻ったものの混濁し、主導権はにぎられたまま終結を迎え、ようやく完全に元に戻ったという。
その意識を移し替えられる前の時間でダリウスとも接触したのだと言うが──
「あいつはどちらかというと私達が来るのを待っているふしがあるわ。神話の創造には必要だ〜とかなんとかいって。私の身体をイリヤが倒した時点であの娘も自分の神話挑む者……いえ、作り手にカウントされてるはずなのよ」
「そういうタイプの魔術師もいないことはないわ。目的を達成するのが1番ってわけじゃなくて自分の美学やらを最も重視するタイプの……まあそういうやつほど大抵危ないやつで、強制執行の標的になるんだけど」
「その通りよリン。で、そのタイプのやつはハナから自分の欲一直線だからそうそう一度決めたことを撤回したりしないのよ。だってスタートからゴールまでの思考が他が介入する余地なく一本道だから。
狂信者ってやつはある意味最悪に一途だからわざわざ意図して返したはずのイリヤを攫ってくなんてブレブレなことするとは思えないんだけど……」
「──」
リンとクロの会話を聞きながら頷く。
そういった手合との経験がないわけではない。自らを神の写り身と信じて疑わない教祖やら、私が悪魔の子だという妄想に捕らわれ、それを全く疑わずに本人からすれば完全なる善意で暗殺しようとしてきた下手人など様々に。
そんな者達の目は決まって通常の人間よりもなんと言うか……覚悟の据わり方が違っていたのを今でも覚えている。
結局のところ振り切れた人間はその心、意志も振り切れて固まっているのだ。そしてそれが善なのか、悪なのかはその個人のものさしで全てが決まる。
「だがそんなことをする意味があるのはエインズワースだけだ。この荒廃しきった世界では犯罪組織すらまともな機能を保っていないだろうからな。なら答えは決まっているだろう」
「先生、それは私達も分かっています。ですがその動機が余りにも不明瞭だからこたちらも罠なのかなんなのかと困って」
「ふう……これだからエリートは──」
声のする方に顔を向けると、少し離れたソファーに私達に背を向ける形に座ってコーヒーを飲んでいたロードがいつもの仏頂面──そこにかつての面影はほとんどない──をこちらに向け立ち上がる。
「常に物事の本質を完璧に理解しようとする、安易に騙されないように裏を裏をと考える、大いに結構だ。そういった思慮深さは大成するのに必要不可欠なのは間違いないからな。
しかしだ、あまり全ての物事に意味を求めるのもまた愚策だ。時には意味のないものはない、またはそんなものどうでもいいと割り切る豪胆さも必ず必要になる。因みに今回は前者になるのだが──遠坂、お前は子供の無邪気な行動1つ1つに完全な動機付けが出来るか?」
「──? 一体なにを仰って……そんなこと出来るわけ──まさか」
首を傾げていたリンだが何かに気づいたのかパッと目を見開く。
それを見たロードは満足そうに手を一度叩く。
「そうだ。今回の事に意味などありはしない。それをした張本人になんの意図もありはしないのだからな。
エリカと言ったか? あの少女は我々が駆けつける前にイリヤスフィールと接触している。仮にだが……もしも彼女がそこでイリヤスフィールに何らかの執着をもったとしたら、タイミングを計ったり、我慢するなど出来まい。お気に入りのおもちゃを手に取るのと同じ欲望ですぐにでも取りに来るだろうな」
────
とある少女は言った。「あのお姉ちゃんがほしい」と
彼女の従順な侍女はこう言った。「仰せのままに」と
そして白銀の少女に全てがのしかかった。
「(ちょっとまってー!! これは一体なにー!?!?)」
困惑と明らかに違和感のある視点の低さと手足の感覚。
目が覚めたイリヤを支配していたのはこの2つだ。全く理解の及びつくものではない。
それは他の誰であろうとそうであろう。なにせ彼女の身体は、わずか数十cmの人形になっていたのだから
「(いやいやいや! まずは落ち着いて……そしたら絶対やるべきことがわかるはず! えっと……そうだ、寝てたら突然見えない手に掴まれて……)」
頭をフル回転させるが思考がごちゃごちゃにこんがらまった状態ではそう上手くいくはずもない。
結果としてほんの数時間前のことを思い出すのに要した時間は本来の倍近くかかっていた。
「(で、エリカちゃんとアンジェリカにここに連れてこられて、入り込まれそうになってなんとかそこだけは拒否してそこから──)」
そこで終わりだ。なんとか自分の中の鍵を閉じることに成功したはいいがその直後に意識が飛び、今に至る。
なにがどうなったのかという具体的な手掛かりはなし。
「(なんも状況好転しないよねこれ!? ってあれ……)」
不意に感じた違和感。そもそも現状違和感以外の何もイリヤにはありはいないのだがその中でも異彩を放つそれに気付き手を喉に伸ばす。そして──
「(声も出なくなってる──!!)」
ズーン、という効果音が一番似合うだろうか。
イリヤはそのまま床に崩れ落ちた。幸いな事に身体は動く。しかし声がでないとなれば、仮に誰かが自分の事を見つけてくれたとしてどうやって自分が自分だという事を伝えればいいのか、只のぬいぐるみAとなったイリヤの絶望は軽いものではない。
「(やばい! これは絶対絶命のピンチだよ!!)」
困った時には人間の本性が出る。
一時の混乱を抜けたイリヤが選択したのは例の如く逃げの一手。
もちろん具体的な解決策があるはずもなく、とりあえず現状が良くないという事実に従って走るだけなのだが。
外に出ようとしているのか、とにかくその場を離れようとしているのか。どちらなのかは彼女自身よく分からないままドアの隙間を抜け、先が見えないほど広い廊下を走る。
「(なんでこんなタイミングー!!??)」
「ん? なんでこんなとこに人形落ちてんだ?」
その決死の逃走劇。僅か10秒。
咄嗟の判断で倒れ込んだイリヤの頭上から声が響き、その身体があっさりと宙に持ち上げられる。
人形は汗をかかないという当たり前の事実に彼女は感謝した。
目の前には敵の顔がこれでもかとばかり広がっていたのだから。
「おっかしーなー、こんなん私持ってたっけ?」
「(痛い痛い痛い!! なんで痛みは感じ……腕は引っ張らないでー!!)」
不思議そうにあちらこちらを引っ張りながら呻るベアトリスにイリヤは声にならない叫びをあげる。
「いやー、こんなブッサイクなの私持ってねーわ」
「(うう……なんかよく分からないけど傷つくこの気持ちはなに……)」
思い当たるフシがなかったのかベアトリスの目が興味なさげなものに変わる。
「と言うわけで……」
「(え……ちょっとまって……)」
だけなら良かった、のだがその目は一転して好奇心に満ちた輝くものへとまた変化する。
そしてイリヤにはその目には覚えがあった。
自分がそんなふうな目をすることはあまりない、自宅では兄である士郎、そしてキビキビしたメイドであるセラもまずない。
しかし同じメイドでもぐうたらなリズはその目をする、小悪魔系ことクロもする、そして天然フリーダムママことアイリは……常にしている。
それはイリヤの苦手なもの
「(そのイタズラっぽい目はやばいやつ……!)」
「どこまでもとんでいけー!!」
「(やっぱりー!)」
綺麗なオーバースローからイリヤは空中に弾丸のように飛び出すとそのままあっという間に加速していく。
「(野球ボールの気持ちが分かった気がする……あれ……)」
そして目の前に迫ってくるのは通気口の、穴。
「(痛た……もう、いや……)」
数分前以来の気絶から目覚めたイリヤはもうやる気も何も失っていた。
状況はずっと最悪のままだ。と言うよりも何がどうなっているのかという把握すら出来ていない。
ここから先何をどうすれば良いのか分からないという事実が彼女に虚脱感を与えていた。
「(もうこのまま寝ちゃ──)」
「イリヤ様!?」
「(え──?)」
そこは牢獄なのか電気などなく、雑につまれた石で出来た壁と布団代わりなのか藁が敷き詰められているだけだった。
しかし藁すら心地よく、そこに寝転んだ瞬間聞こえるはずのない声がイリヤの
耳に響く。
そんなはずがないという驚きとともに顔を上げるイリヤ。すると横にはふよふよと浮かぶ見知った顔が……
「(サファイア!?)」
「やはりイリヤ様! なぜこんなお姿に……いえ、それよりもまずは」
なぜ、どうして、そんなことはどうでも良かった。今大事なことはとにかく味方となる存在がそばにいるということ。
その衝撃から身振り手振りで必死に意思を伝えようとするイリヤにパアっとサファイアから一本の光が注がれる。
その効果は直ぐに彼女に現れた。
「声が……でる! ありがとうサファイア!」
「これくらいは簡単です。しかし一体イリヤ様の身体は……」
「分かんない……けど気付いたらここにいて……けどサファイアこそなんでこんなところに」
「美遊様が隙を見て私を逃がしてくれました。残念ながら敷地外に出ることは叶わなかったのですが……しかしイリヤ様がいるのならもしかしたら」
「おーい、何してるんだサファイア?」
「お兄……ちゃん?」
悪いことが続けば逆に良いことも続く時は続く。
こんなところでサファイアに会えた、それはイリヤにとって最上級の幸運だったのは疑う余地もない。
しかしその時聞こえた声は更にそれ以上の幸運を告げていた。
「は……? その声は……まさか……」
「おに……」
愛しき声のする方向にばっと顔を向けたイリヤ。
そこにいたのは果たしてその人物そのものだった、のだが──
「お兄ちゃん……その左腕は、なに?」
彼女の知っている兄は、そんな腕をしてはいなかった。
─────
「あら……ギル、こんなとこにいたの」
「そう言えば食事の席には見えなかったですね」
「どうもです、リンさん……行くんですか?」
「当然」
遠坂家の門を出ると微笑みを浮かべたギルが振り返る。
確かに今朝は姿が見えないと思っていたがやる気があるということなのか。
「私としてはあんたがそんなにやる気な方がびっくりよ。どういう風の吹き回し?」
真っ赤なコートに身を包んだ凛がポケットに手を突っ込んで茶化すようにギルにそう言う。
それに対してギルはやれやれと手を振った。
「いやいや、むしろ逆です。貴女達は全く分かっていない……まあ何のエインズワースと言う名前が聞こえただけで飛び出していった彼女よりはマシですけど」
「彼女……?」
「はい……ああ、これじゃあ見えないのか、よいしょっと」
「なっ!?」
彼がパチンと手を鳴らすと今まで何もなかったはずの道のど真ん中に鎖でぐるぐる巻きになった田中さんが出現する。
しかもその身体は傷だらけである。
「ちょっと!? 何してんのよあんた! 田中さん大丈夫?」
「ズンガズンガするです……」
「だから落ち着いてくださいって、一人で乗り込んで死ぬよりはマシでしょう。むしろ感謝してほしいくらいなんだけどなあ」
リンがギルに詰め寄……ろうとして田中さんの救出に向かう。
ギルとしてもそれ以上手を出す気はなかったのかあっさりとその拘束を解いた。
「まあいいんですけど。とりあえず皆さんにはちゃんと確認しておかなきゃいけないことがあるんですよ」
「何がです」
この男がこういうことを言い出す時には何かしら深い意味がある。
そんな警戒の元問いかける。
「いえ、根本的に皆さんには理解しておいてもらわなきゃいけないことがあるので。皆さんは間違いなくイリヤちゃん、そして美遊ちゃんを救うことを正義だと思っているでしょう。
けどそれは違う。この世界からすればあっちが圧倒的正義でこちらが悪だ。
その悪を、背負う覚悟はありますか?」
どうもです! 前書きは……まあ置いておきましょう。
遂にヒロインの出番です。一体何話ぶりなのか作者も分からないのですが……
とりあえずFGO日記。
──教えてくれ運営、俺はあと何度狼を殺せばいい?
──やめてよね、僕が本気を出したら狼如きが敵うわけないだろ
──(団子を集めたいというこの気持ちは)決して……間違いなんかじゃないんだから!
はい、団子集め辛いです。現在ノーマル1529(1個礼装交換) 特選2207
まさかこのゲームをやっていて金箱が辛くなる日が来るなんて思いもしなかったよ!呼符は相変わらずクソだったよ畜生!!
あと2日でなんとか4000達成したいなあ……
そして新ログボ、有能。これでうちのエミヤさんがついに本気のUBW展開できる……(涙目)
400万DLおめでとう!けどこの小説も30万UA達成したからね!←なぜ張り合うのか
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