Fate/kaleid saber   作:faker00

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思ったより時間があかないことにビビる日々


第14話 第3の魔法少女

「近づけもしないだと……!」

 

「おねーちゃん!」

 

「っ……!?」

 

 クロの警告と同時に頭の奥を打ち鳴らす直感と言う名の警鐘。

 考えるよりも先に身体は空中へと待っていた。

 受け身を取りながらぐるぐると3回転、今しがた私がいた地面は一筋の雷によって削り取られていた。

 

「そらそらぁ! どうしたんだよ騎士王様ぁ!!」

 

「ちっ……!」

 

 間髪入れずに飛び掛かってくるベアトリスを片膝をついたまま受け止める。巨大な槌は雷を帯び、単純な筋力や重さ以上の圧力を感じさせる。

 目もくらむような閃光、明確な死を予感させるそれが弾けるより一瞬だけ速く薙ぎ払い、なんとか制動を取り戻す。

 しかしまだ終わらない。今度は視界の端に捉えたジュリアンの右手が上がり……

 

「無銘・槍」

 

 なんの意志も感じられることはない。無機質に、ただ黒い大量の槍が後ろへ大きく飛んだ私へ迫る。

 無論、どちらが速いかは言うまでもない。高速で迫る槍を引きつけたうえで一撃で叩き落とし

 

「もう一本……!」

 

 血の気が引くのを感じた。叩き落とした有象無象とは違う、何かしらの逸話を持つであろう魔力を帯びた黄槍。

 止められない。それでも致命傷は避けられるかもしれないが、この一撃を完全に弾くことは難しい。

 うちなる声は基本的には正しい。振り下ろした剣を戻すことは諦め、僅かな可能性の回避に切り替えて上体を捻る。

 

 間に合うか。

 

 ぎりぎりの刹那、今にも青銀の鎧と槍が触れ合おうとして

 

「偽・螺旋剣!!」

 

 眼前を上から下に何かが突き抜けた。

 

「クロ!」

 

 彼女がなぜ撃ち落とすだけのために普通の矢ではなく、敢えて宝具級のそれを使用したのか、その意図は明確である。

 瞬間の爆風に備えて体を丸め、同時に尋常ではない圧力が身体にかかるのを感じた。

 

「ぐう……!」

 

 この爆風には2つの意味がある。一つは完全に相手の視界を砂塵で塞ぎ、一瞬の躊躇を生み出すことでこれ以上の追撃を防ぐこと。

 そしてもう一つは、私をこの風に乗せて自らの脚力では生み出せないだけの距離を稼ぎ出すこと……!

 

「さすが!」

 

「貴女こそ良い判断です!」

 

 吹き飛ぶ私を受け止めたクロと互いの判断を称え合う。

 今の攻防は自分一人では間違いなく堪えきれずにどこかで死んでいたはずである。

その運命を回避できたのは、ぎりぎりの中で最良の選択を出来たからに他ならない。

 

「ですが……参りましたね。ベアトリスはまともに連携が出来るようなタイプではないと踏んでいたのですが」

 

「あいつはジュリアンを熱狂的に崇拝してるからね。それに仮に従う気がなかったとしてもそんなん関係ない。逆らったら死ぬだけよ」

 

「そのようだ。ここまで実力に差があれば力任せだとしても従うしかない」

 

 いくら実力者と言っても数的に不利となれば、余程の差がない限り行動を制限されるのが常だ。

 戦いにおいて1+1は2ではない。1人で出来ることと2人で出来ることには1と100ほどの違いがあるのだ。  

 だからこそ単独に走る傾向がありそうで尚かつ力で劣るベアトリスを早めに引き離し、倒しておきたかったのだが……現状は嫌な誤算としか言うしかない。

 

 

「……」

 

 かと言ってだ。私がジュリアンと、クロがベアトリスと、一体一を2つ作り、どちらかが先に敵を倒し、もう片方の助けに入ればどうにかなるのではないかと言えばそれはまた全くの別問題だ。

 例え私はどんな相手だろうとも必ずや正気を掴み打ち倒してみせる。しかしベアトリスが劣るだろうと言ってもそれはジュリアンに比べれば、という話でありクロが正面から打倒できるかと言われれば疑問符がつく。というよりも。かなり分の悪い賭けになるのは間違いない。

 

「もう一手……どう転ぼうにも何か1つは戦況を変える手立てがなければ……」

 

 厳密に言うならば何も手がないわけではない。身体も回復し、本来の召喚におけるパスというか魔力供給を司る中枢部と同じ役割を果たしているクラスカードが身体の中で自分自身の魔術回路と結びつく事でそれなりの自立を実現している今ならば、聖剣を解放してなお戦闘を続行することも不可能ではない。

 しかし、ここから先がまだあり加えてそれによる打開が100%といえる保証がない以上あまり現実的な手段とは言えないだろう。

 そうなれば、この結論は当然の帰結。

 

 

「それはその通りなんだけどそんな出し惜しみしてる余裕はなかったし都合よく現状を打破できるようなも「はーい! ここは私の出番ですねー!」 ……は?」

 

「待ってください。貴女……どこから?」

 

 荒唐無稽な願いも叶う時にはあっさりと叶うらしい。

 突如としてクロの後ろから飛び出す物体。その特徴的な形、何より声を間違えるはずがない。いつの間にか分からないが……確かにルビーはそこにいた。

 

「ねー……今確かに私の髪が揺れ」

 

「とりあえず詳しい話はあとにしまーす! はい、クロさん。うだうだ言わずにそのラブリーで繊細な右手で私を握ってくださーい!」

 

 不覚にも少しばかり空気が弛緩するのを感じた。

 どうにもだ、たとえ極限状況にあったとしてもこの人智を超えた類であるカレイドステッキには通用しないらしい。

 怪訝そうな顔を浮かべていたクロにしてもそれは同じなのか、勢いに押し切られルビーを手に取るまではそう時間はかからない。

 

「それではー……邪魔が入るのは面倒なので煙幕増量しまーす!!」

 

「……!?」

 

 大砲の乱れ打ち。

 イリヤがルビーを介して射出する魔弾がマシンガンならば、今も微妙な顔をしているクロのそれは大砲である。

 それも、見る限り回転数に変わりはない。結果として一撃の差の分だけ威力も向上し、今までにない破壊力を生み出していた。

 今や私達と敵を隔てる白煙爆煙は壁のごとく分厚いものへと変貌し、戦いの定石を少しでも心得ているている者ならまず迂闊には動けない。

 

 それを確認してから視線を移した。

 

「で、貴女はどこから出てきたというのです。いえ、今考えてみれば屋敷を出た頃から静かだったことのほうが不自然なのですが。

 イリヤを失ったショックと自責からしおらしくしていると踏んでいた私の読みが間違っていたということでしょうか?」

 

「そりゃー責任は感じてますよ? イリヤさんが攫われたのは私の落ち度です。しかしながらそうなってしまった事実を変えられない以上余計な感傷に縛られないのがルビーちゃんなのです!

 ……因みに私はずっとクロさんの髪の中にいましたよー、いやークロさんはイリヤさんに比べてアクロバティーックな戦闘なので付いていくのが大変でしたー」

 

「それに気づかないほど私は自分がにぶいと思ったことは無いんだけど……」

 

「ふっふっふ……そこはルビーちゃんの秘密機能その17、アサシン顔負け気配遮断の威力なのですよー。クロさんにバレなかったということはまだまだ実用性、ありそうです」

 

 クロがますます目を細める。

 あれはなんというか……不審物を捉えるそれと同じ類のものだ。

 まあ知らぬうちに密着され、しかもそれに気づかなかったとなれば無理はない。

 

「その辺りはこっちが頭痛くなってくるので置いておきましょう。ルビー、わざわざ出てきたということは何かしら意図があってのことだと思いますが」

 

「はい、出来ることなら最後まで温存……勝負を決める切り札ってやつですかね。どちらにも気づかれずジョーカーにでもなろうかと思っていたのですがそう上手くはいかないみたいです。セイバーさんが倒れてしまっては勝ち目なんてないので」

 

 要は現在の戦況が彼女の我慢の範疇を越えた、ということなのだろう。そしてその判断は決して間違ってはいない。

 

「それ自体は悪くない判断だ。しかし一体どうしようというのです? 

 カレイドステッキはほぼ無尽蔵に魔力を出せるタンクではあるが、その総量は結局蛇口をひねる使い手次第……相棒となる魔法少女の力量次第と言っていたのは貴女自身だと記憶していますが?

 私にも似たような経験があるからその理屈は理解できる。だからこそ、イリヤのいない今のルビーにできることがあるとは」

 

 思えない。

 それが私の見解だ。言ってしまえばルビーは、持ち主の限界を引き出すのに特化した礼装である。

 しかしその機能は基本的に持ち主と持ちつ持たれつの関係であり、比例するものだ。そして現在その持ち主はいない。

 となれば、0には何をかけても0なのである。

 

「同感、イリヤなしのルビーなんてただのニワトリと一緒よ」

 

 それはただうるさいだけと言うことなのか。

 クロは私の評価よりも幾分か辛辣なそれを直球で投げつける。

 

「もー! ナンセンスですよお二人共! それではまるで私がイリヤさん無しじゃ生きられない、いやらしい●奴隷みたいな言い草ではないですかー!」

 

「「いや、そこまでは言ってない(のですが)」」

 

 心外です!と怒りマークをそこかしこに浮かべたルビーが縦横無尽に飛び回り抗議の声を上げる。

 

 ですが正直……疲れました。

 

「で、どうしようと言うのです。このまま喚くだけ喚いて何も出来ないというのなら本当に……その、奴隷以下という評価を下さざるを得なくなりますが」

 

「ハウッ!? 今日のセイバーさんは些か手厳しすぎます!? 分かりました! 分かりましたからそんなに冷たい目で見ないでくださーい!」

 

 今回は真剣だということに気付いてくれたのか、思いの外ルビーはあっさりとひいた。そのまま再びクロの手の中に収まる。

 

「確かに魔法少女がいなければルビーちゃんの魅力、能力、共に大ダメージ! なのは認めざるをえません! しかしながらー、ここには既に魔法少女がいるではありませんかー!」

 

「「は……?」」

 

 あはー! なんて笑い声を上げるルビーの言葉に思わずクロと同時に辺りを見渡した。

 しかし当たり前のことながら、どこを見てもイリヤ、そして美遊の姿はありはしない……当たり前だ、もしも彼女達二人がここにいるのなら、わざわざこんな不利な戦いに赴く必要などないのだから。 

 

 

「おねーちゃん」

 

「はい、しっかり抑えていていてくださいね。大丈夫、騎士の誇りにかけて必ず一刀にて魂ごと両断して見せます」

 

「あだだだ!! 待って! タンマ! タンマです! もうまどろっこしい言い方しません! 本題に入ります! だからクロさんもしれっと握力を"強化"しないで……!」

 

 深く溜め息をついて、クロにルビーを握り潰すのをやめるように促す。

 クロは相当に不満げな様子を隠そうとせず、彼女に自由を与えることは許さなかったが、とりあえず万力のようにギリギリと締め上げていたルビーが軋む音が聞こえなくなっただけ良しとしよう。

 

「し、死ぬかと思いましたよほんとに……ですからねー、お2人のイメージがどうかは知らないですが、別に私はイリヤさん専用の礼装という言うわけではないのですよ? 魔法少女さえいれば良いのです」

 

「ええ、ですからその魔法少女は」

 

「シャラーップ! です! セイバーさんは頭が固すぎです! 良いですか? 魔法少女とは、世界中の夢見る少女全てにその資格があり、誰にでもなれるものなのです!」 

 

「――」

 

 ……何を言っているのかよく分からないのは私がおかしいのか否なのか

 

「ですから! 魔法少女はここにもいるのです! 今私を握っているその人が!」

 

「えっ! 私!?」

 

 やっぱり何を言っ……!?

 

「クロ、ですか!?」

 

「ふっふー、やーっと理解して頂けましたか! そう! 魔法少女になる資格があるのは15……正確には18説やら16説もありますが私は15でいきます! その年以下の少女! 要するにクロさんはバッチリオッケー素質十分なのです!」

 

「いや、そんなふざけたこ……とれない!? ちょっとルビー! 貴女一体!?」

 

「いやー、どうやって握ってもらおうか考えていたのですがまさか自ら私を手に取ってくれるとは嬉しい誤算です! こうなったらもうルビーちゃん、狙った獲物は逃しませんよー」

 

「い、いやよ! あんたと契約したらあのどっからどう見ても放送禁止コード踏み抜きにかかってるエッチなコスチューム着ることになるんでしょ!? プライバシーダダ漏れも目に見えてるし絶対いや!!」

 

 事態を把握し、サッと顔を青ざめるとブンブンと腕を手を開いた状態で振り回すクロだが、その手のひらのルビーはまるで空間ごと固定されているかのように動かない。

 

 確かに理には叶っている。私達の中ではルビー=イリヤ=魔法少女、の図式が完全に定着してしまっているが、よくよく考えてみればイリヤでなければならないというような話は聞いたことがない。

 と言うよりも、今まで忘れていたが一度凛もなっていたようななかったような……

 

「もう手遅れですよ〜、ほら、さっき散弾打ったところでもうクロさんの魔力は採取済み、ゲストマスター仮登録までは済んでるので結びつきも強いんです。ちょっとやそっとじゃ離れません!」

 

「どこの詐欺師よ!」

 

 ガーッ!と吠えるクロだが対照的にルビーはどこ吹く風、むしろ今にも鼻歌でも歌い始めそうなテンションである。

 正直もう勝負のオチは見えているような気がしないでもない。

 

「おねーちゃん!」

 

 最後に、縋るようにクロが私を見上げる。

 若干涙で潤んだ瞳でこちらを見るその姿は非常に愛らしく、出来ることなら味方になってあげたいと心から思わされる。

 しかしだ……

 

「クロ、諦めてください。本当に出来るというのなら、それが最善だ」

 

 状況が状況である以上、背に腹は変えられない。

 

「おね――」

 

「流石セイバーさん! 話のわかる人は好きですよー!」

 

 天国と地獄。

 絶望の面持ちで絶句するクロと、ある意味公認を得たことでがぜん勢いづくルビー

 

 ええ……この光景を作ったのは私が悪い、それは認めるしかない。

 罪悪感が胸を締め付ける。

 

「ほらー♪ 早くしてくださいよー、セイバーさんが認めた以上選択肢はないですよ? それにそろそろ弾幕も尽きちゃいますし〜」

 

「〜〜!! おねーちゃん!」

 

 しばらく俯いてブルブルと肩を震わせていたクロだが突然バッと顔を上げる。

 そして何故か、ルビーではなく私にむけて鋭い声をあげた。

 

「はいっ!?」

 

「終わったら覚えててよね!! 今日ばかりは逃さない! わがままざんまいしてやるんだから!!」

 

 あまりの剣幕にとっさに身構えるも、その口から発せられたのはとても可愛らしいお願いだったのだが。

  

「ええ、分かりました。何時間膝枕でも抱っこでも、寝る時一緒でも喜んで受け入れましょう」

 

 それくらいは安いものである。

 

「言ったわね!? 約束なんだから! ルビー……わけ分かんないコスにしたら承知しないからね」

 

「はーい! それではマスター登録開始しまーす! さ、クロさん!貴女の本名を甘ーい声で私の耳にお聞かせくださーい!……魔法少女っぽいオリジナルの決め台詞と一緒に」

 

「なにそ……〜〜!! ええい!! やればいいんでしょやれば!!

 クロ・フォン・アインツベルン! 言うこと聞かない悪いやつは……えーっと、お仕置きよ!」

 

「どことなく既視感ある上にぎこち無い決め台詞ですがまあいいでしょう!! カレイドステッキマジカルルビー、クロ・フォン・アインツベルンを仮初のマスターと認めます! じゃあ、いきますよー!」

 

「これは……!」

 

 言葉だけを見れば、ふざけているようにしか見えないだろう。

 しかし目の前でこの光景を見ているならば、それがとてつもない規模の契約の義だと言うことは簡単に理解できるだろう。

 

 彼女達を中心に巻き起こる紅い魔力の渦、竜巻の如く荒れるそれは近くにあるもの全てを吹き飛ばさん風となる。

 圧縮された魔力は今や私の鎧までも引きちぎらん勢いで加速し続ける……!

 

「ジュリアン様……!」

 

「ちっ……何したか分かんねーが様子見が仇になったか」

 

 

 敵も同様な感想を抱いたらしい。先程以上に鋭い目つきに変わったジュリアンが一歩前へで、合わせるようにベアトリスが後ろへと下がる。

 どちらも例外なく、驚きを浮かべていた。

 

 そして……

 

 

 

 

「カレイドライナー、プリズマクロちゃん、爆誕です!!」

 

「ちゃんってなによ! ちゃんって!……って何なのよこの布の少なさと頭にくっついてるこれはー!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

「何この爆風……!」

 

「この魔力は……姉さん!?」

 

「!? じゃあルビーがあそこに!」

 

「はい、急ぎましょうイリヤ様。もうすぐそこです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ubw一挙放送見てて更新が遅れたことをお詫び申し上げ……

どうもです!faker00です!
ええ、車の免許とは本当にめんどくさいものですね。はい、リアルな愚痴終了でございます。

やはりエミヤ対士郎は何度見ても素晴らしいものです。感動しかないね……ラストスターダストすぐにダウンロードしましたよ。
HFベースに書いてるやつが何言ってんだって話ですけど……笑

そして本題です。


原作が更新されるごとに軌道修正するの大変すぎるよ!!ただでさえとある設定捻じ曲げる気満々なのに、これ以上無視したらもはや別物になっちゃうから無視できないのもあるのに!!
そしてワカメご臨終さま!!←これが言いたかっただけ

ああ……早めに原作追い抜くとこまで言ったほうが良いのかもしれない……

いつも以上にしっちゃかめっかな後書きでしたがここまで読んでくれた人にほんと感謝です!あ、fgoついに500万ですね!セイバーさん私服装備待ったなしや!良くやった運営!

それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお願いします!


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