vsイリヤです。
夜空に超速を持って響く金属音と、ぶつかり合うたびに炸裂する火花というかもはや炎、圧力に耐えきれず鈍い音を立てて削られる大地、その剣を、槍を振るうたびに放たれる突風。
戦士、それも得物を持つ者同士の一騎打ちというものは大抵直ぐに決着がつく。映画や特撮ものにありがちな長い鍔迫り合いや、永遠に続くと思われるような打ち合いなんてものはほぼないと言って良いだろう。
それは何故かと問われれば、真剣、真槍といったものに代表される本物の得物は人にとって常に一撃必殺であるからだ。
心臓を貫かれればもちろんのことだが、片足でも失えば機動は不可能になり、片腕でも失えばそこから先は蹂躙されるのみ、均衡を保つということは難しく、またその間合いは人の反射限界を越えるもの、常に最大限に神経をすり減らし予測、誘導、その他いくつもの要素を持って先を読むことでようやく回避、反撃にいたることができ、また此方が攻め手ならば、必殺の決意を込めた一撃が外れればその瞬間命は確実に無防備なものとなる。
こんなことを繰り返し応酬すれば決着が早いのも必然というものだ。
しかし、世の中には例外というものが存在するのが常なのもまた事実。
お互いがその得物の威力を凌駕する守りを身に付けているか、もしくはその間合いですら制するだけの 速さ を持っているか、だ。
今繰り広げられているのはその例外の中の例外、それもめったにお目にかかれない後者だ。
前者は有り得ない、英霊と化した少女が持つのはアイルランド随一の英雄が持ったとされる伝説の魔槍、ゲイ・ボルク 一度でも当たれば確実に心臓を打ち抜く最強の槍、対応する剣の英霊が持っているのは何なのか判別できないが……一度の当たりではゲイ・ボルク以上の破壊力を生み出すそれもまた名だたる名剣なのだろう。
そんな2つを退けきる守りなど有り得ない。
故に2人を守りきっているのは戦士としての経験であり戦術であり、そして速さなのだ。
人が支配し、闊歩し、同族の命をとることを最大限嫌悪する今の時代では有り得ない、魔獣、竜族など人を遥かに上回る者が世界を牛耳り、人と人も命のやりとりを平然と行っていた神代でしか起こり得ない伝説の中の戦い。
「--うそ、なによ……これ」
唯一それを見ていた凛はあまりの壮絶さに絶句する。この戦いが始まって僅か2分程度だがお互いに出した手数は既に300を越えるだろう。そしてお互いがそれを紙一重ながら全て裁ききっている。こんな戦いは、有り得ない。
その中心にいる青銀の少女の願いを聞きとげた凛は彼女の言葉通りルヴィアと美遊を回収した。
かかった時間は10秒強、本来なら既に撤退が完了していてもおかしくない手際の良さだったが、その戦いから十数m離れた茂みの中に彼女はいた。
--援護くらいなら出来ると思ったけどそんなん無理よこんなもん!
彼女、セイバーの言葉の意味を理解したつもりで動いていたが実は全く理解できていなかった事に気付き己へ苛立つ。
動けない者がいるから足手まといなんじゃない、全開のコンディションであろうが、その戦闘に関わること自体が既に足手まといなのだ。
--せめてルビーがいれば
「お呼びですか~」
「うわあ!なに、貴女どっからでてきてるのよ!?」
「イリヤさんに弾かれちゃいましてね~、正確に言えばイリヤさんのなかにいる誰か、になるんでしょうが」
そんな声に呼応するように目の前の地面を突き破って本来ならイリヤの元にいなければならない筈のルビーがその泥だらけな姿を表す。
「まっ、今は言ってもしょうがないですけど。それで凛さん、やるんですか?やるなら今だけでもマスター契約戻しますよ」
そうしてその愉快礼装はまるで凛の心を読んだかのようにいつもの軽薄さは欠片もない真剣な声でそう問いかけてきた。
「……正直迷ってる。いくらなんでも、あれは」
「ええ、それが冷静な判断です。 凛さんは性格こそアレですがマスターとしての実力はかなり抜けていますし、それも近接戦闘となれば歴代でも指折りだと本気で思います。 ですけど、途中からあれに飛び込んで生き残れる可能性は良くて2:8ってところじゃないですかね。 まあ賢明だからと言ってそれが正解かはまた別ですけど」
「褒めるのか貶すのかどっちかにしなさいよ……けど見立ては間違ってないと思う。 最初からならもう少し違うんだろうけど、今からあそこに殴り込むなんて回転してる刃物を素手で掴みにいくようなものよ」
しかしその問いに対して簡単に首を縦に振ることはできない。
現状突っ込むことで生まれそうなのは成果ではなく自らの死体だけという事実は理解している。
--けどルビーの言う通りこのままじゃいけないのも確かなのよね
かと言って何もしない、現状維持が最良なのかもまた凛の中では割り切れずにいた。
なにせあまりのスピードに趨勢すら判定出来ないのだ。仮にセイバーが五分以上に戦っているならそれでいいのだがそうでないのならみすみす彼女を見殺しにすることになる……
「--ッ」
悔しさから歯噛みする。
本来自分がやらなければならない仕事を全く関係なかった人間がこなし、更にその始末も他の人間がこなす。
これが悔しくないわけがない。
「今回ばかりは仕方ありません。とにかくルヴィアさんと美遊さん、あとサファイアちゃんの回復を待ちましょう。皆揃えば流石にあの怪獣大決戦と言えどもなんとか出来るはずです」
「怪獣って……言い得て妙ね」
なんとなくしっくりくる表現に苦笑しながら再び戦況に目を移す。
普段の姿は怪獣とは似ても似つかない少女は変わらずに戦い続けている
--お願いね、セイバー
凛に出来るのは祈ることだけだった。
ーーーーー
もう幾度になるか分からない打ち合いに神経を研ぎ澄ます。
斬りつけ、弾かれ、突き出され、打ち落とす
言葉にすれば実に単純なものだが担い手の実力が上がり達人同士が合間見えると時折その言葉では緩いとしか言いようがない、遙か高みに達することがある。
「----!!」
「てやぁぁぁ!!」
それが今だ。
お互いに限界速に到達し、それをなお上回ることですら倒せない相手に出会った時にのみ到達できる極地。
思考は極限まで簡素化されなお鮮明。
そして身体はその思考すら置き去りにして最適手を導き出す。
「ふっ!」
最後に下から身体を裂かんと振り上げられた槍を受け流すとその勢いのまま後ろへと飛び間合いを離す。
僅か数秒の打ち合いで繰り出された剣戟は10を超える。
どれも相手の隙をつき、急所をつき、致命傷を与えるに値するものだったが結果としてはどちらも無傷
視界に捉える相手は未だ余裕を持っている。
--五分五分……いや、五分五分にしてしまっている?
剣を構えながら消えぬ違和感に首を傾げる。
今の時点で私は全開だ。既に思考は澄み切り、無駄なものは一つとしてない。
身体も同様に滑らかに思うがまま、直感もあいまって数瞬先の未来へ向けてその軌道を取る。
だというのに決めきれない。もちろん相手……イリヤスフィールの力量が高いのもある、それは間違いないのだが……
「キャスターと闘った際に感じたものは間違いではなかったということか……!」
いや、そんなことは初めから分かっていた。
ただ認めたくなかっただけ。そうでなければ凛に対してあんなことを言うはずがない。
否定できない最大出力の低下に心の中で舌打ちをする。
先の戦闘ではそこまでの枷にはならなかったが五分で闘える相手に出逢ったことでその狂いを一層痛感する。
直に打ち合った今だからこそ正確に分かるがイリヤスフィールは完全にクーフーリンの戦闘を再現している。しかしその速さ、強さ、圧力は全てオリジナルの彼の劣化版だ。
劣化と言ってもそこまで大きなものではないがギリギリの所で天秤の針を保つ戦闘のバランスを崩すには充分すぎるもの。
--だが体感する戦闘は彼とそれと全く同じ、それどころか若干上回っている。
その理由は、自らに他ならない
クーフーリン以上の難敵とあらば勝機を見出すの非常に困難な作業だろう。
--しかし
あと2つ、違和感を感じる。1つは直接関係するものではないがもう1つは確実にこの膠着状態を打開に導くもの。だが確証がない。それを得るためには少なくとももう一度命のやりとりを乗り越える必要がある。
「--!!!!」
そう思うと同じタイミングで声にならぬ叫びと共に五度野生の獣が跳ねる、上下左右、全ての方向からでたらめなほどのスピードで繰り出される連撃。
しかしその一撃一撃は緻密なまでに計算し尽くされたもの。
避ければその次に繰り出されるのはその体勢から一番かわしにくいもの、死角に入り込むもの、こちらの反撃を未然に防ぐもの。
その周到さ、闇に溶ける彼女はまるで夜に駆ける狼を想起させる。
--試してみるか
なんども見たその姿に腹を決める。
その悉くを直感に身をゆだね身体に迫る前に打ち落とす。
しかし今度はそれだけでない。敢えて直感ではなく自らの意志で防ぐ箇所を作る。もちろんそこを突かれた場合多少のリスクはあるがそれ以上に得るものが多いと賭にでる。
「あああ!!」
「--!?」
彼女がその敏捷性を駆使し強引に方向を変え張り詰めた直感が危機が消えたことを私に伝える。
全てを、防ぎ切った。
完全に打ち落とされたことに焦ったか今まで退くことを知らなかったイリヤスフィールが初めて自ら間合いをとる。それで確信した。
この相手を防ぎきることは可能だ、と。
「やはり……貴女は……」
彼女が放ったのはそのすべてが最適解だった。
それを放てるのは技量の高さ故だろう。あれだけのスピードでそれをやり遂げることが出来る時点で一流と言える。
--ですが、それだけでは足りない。
単純な実力だけでは測れない、高度な心理戦と経験則、今のイリヤスフィールにはそれが欠けている。
今敢えて直感を解いたタイミング、私は狙ってそれを行ったが彼女はそれを隙と判断したのだろう。そして狙い通り私は全てを防ぎ、彼女は驚き、困惑している。
「彼女は子供だ……イリヤスフィールではない。彼女を支配している何かが子供なのだ」
それでようやく理解できた。
最初私はイリヤスフィールの身体を乗っ取ったのは彼女の神経が不安定になった隙をつきクラスカードの呪縛から逃れたライダーだと思っていた。
クラスカードはその英霊が敗れ消え去った後も英霊の武装を具現化するシステムが残ると聞いた、英霊の武装とはその英霊の魂に他ならない、一心同体となる武器が残るならば何らかの方法で出てくることこそ抑えられているが本体も残っていてそれが出てきたのではないかと。
しかしその考えは彼女がライダーのみならずランサーへとその姿を変えたことで否定された。
もしも2人の英霊が1つの体を奪い合えばその宿主は耐えられず跡形もなく消し飛ぶはずだ。
そこで一度途絶えてしまったのだがここに来て一つの仮説が浮上していた。
それは--
--彼女は、イリヤスフィールがその内側に内包していたもう1人の自分なのではないか?
一般的に言われる二重人格かどうかは知らない。
だがもうそれ以外に説明が付かないのだ。外圧に対抗できずなんらかの原因で精神が壊れればそこに生まれるものは何もない、残るのは虚無だ。私は何度もその狭間へと踏み込んだ少年を知っている。そしてそうなった人間がどうなるのかも知っている。
あんな風について意志を持ち暴走することは出来ない。絶対にだ。
そして直接の原因であるクラスカードでも違うとなればもう一つしかない。
--それならどうする?
槍を真っ直ぐに見据える。
私の予想通り、その鋒は震えていた。
怯えている。きっかけはアサシンに殺されかかったことだろう。
力を持ち、全てを破壊し尽くすことでその身を守ろうとした彼女はそれだけではどうにもならない相手--私--に対峙することでどうしたらいいのか分からなくなって困っているのだ。
あの殺意は誰が相手か分からないから見るもの全てに振り撒いていたもの。
そして今までの戦闘で私の作った隙もなにも関係なく一般的な最適解にのみ撃ち込んできたのはそれしか知らなかったから。要は子供なのだ。
それならば、その怯えを取り除いてやればいい。
そうすればイリヤスフィールは帰ってくる。少なくとも彼女の暴走を止めることは出来るはずだ。
「やるしかないですか」
溜め息をつく。
なんと難易度の高い子守だろうか。私以外にこんなものを引き受けられる人はいないだろう。
--これだけ怖い思いをしたのですからそれくらい受けてあげましょう
ならば何としてでもあちらから攻めてもらわなければならない。
「どうしたのですか?こないなら此方から行きますよ?まあ……長い得物で私の剣を防ぎきれるとは到底思えませんが」
余りにも安易な挑発。
そんなものに乗る相手は普通いない。少なくともこれだけの手練れなら。
「--!!」
「さあ、きなさい!」
だが、相手は子供だ。
そこに移る恐怖をかき消すためだけに単純に向かってくる。
そして再度繰り出される連撃。
スピードは相も変わらず最速だ。しかしどこにくるか分かっているものを交わすなど造作もない。
「------!!!!!!」
だが今度は私も行動を変える。
一度として反撃はしない。そのすべてを避け続ける。
どれだけ苛烈さを増そうと、それによって隙が生まれようともそんなもの無視だ。
とにかくかわす。私からは手を出さない。
そうして粘り続け、その一撃を引き出す。
「ーー!!」
闇雲に追いかけていたイリヤスフィールが後退する。しかしそれはただ退いたわけではない。
特徴的な構え、赤い魔槍が尋常でない魔力を帯びる。
かの一撃は、周りの大気をも呑み込みその槍が届く空間全てを文字通り支配する。
心臓を握りつぶされるようなプレッシャーは5m先で輝く槍から放たれている。
「
真名が明かされる。
因果逆転の呪詛、心臓を貫くことを狙うのではなく、心臓を貫いたという結果を先に用意し槍がそれを追い掛け成就する。
そんな反則クラスの宝具を私は望んで発動させた。
「--!」
考えることをやめた。
いくら考えたところで絶対にかわせないのだ。そんなものは無駄。
それなら最後に信じられるものは直感だ。
「ウアッ--!!」
抉り取られる。
触れたのか触れる直前か、私の意識と全く別のところで身体が緊急回避を行い逆転した因果の結果を覆す。
しかしかわしきれるわけがない。心臓に当たるはずのものをほんのわずかにずらしただけ。その痛みは常軌を逸している。
「グッ--!」
それでもここで倒れるわけにはいかない。
目の前で勝ち誇る少女。その少女に手を伸ばし……抱きしめた。
「もう大丈夫ですからね」
「--!?!?」
腕の中で暴れる少女。
しかし離すことはできない。私を倒した所で彼女は恐怖から開放されはしない。
--ここで終わらせる
「大丈夫。もうあなたを怖がらせる相手はいませんから……安心してください」
「--」
どれだけ暴れようと優しく包み込む。何をしても大丈夫だと。
そうして次第に抵抗が緩くなる。身体の緊張がほどけて力が抜ける。
そしてそのまま抱き締めること数分……彼女の魔力が解けた
涙にまみれ顔を上げた少女の瞳は元に戻っている。
「……ヒックッ……怖かったよー……私が、私じゃなくなっちゃって……」
「お帰りなさい。イリヤスフィール」
--これで終わりだ。
そう思いこちらも力を抜く。すると押さえ込んでいた激痛が蘇る。
「--!」
「セイバーさん!?」
「大丈夫です……とにかく今は早く戻らないと」
額から脂汗が止まらない。
片膝を付いて必死にこらえる。
こんな顔を今のイリヤスフィールに見せるわけにはいかない。
そう思ったとき異変を感じた。
「そんな……馬鹿な」
「え!?」
イリヤスフィールも気付いたのか私の後ろに隠れる。
目の前には、先ほどまではいなかった黒い影が再び。
「アーチャー……なるほど、あなたならやりかねない」
赤い……いや、黒い外套の彼を揺れる視界に収める。
少なくとも、今の私に勝てる相手ではない。
「ーーッア!」
それでも立ち上がる。
今立てなければどうにもならない。こんな終わりを許容出来るほど私は諦めが良くないのだ。
「--え?」
誰かに、肩を支えられた。
「凛……なんで?」
「バカねー。あなたを見捨てて逃げる訳ないじゃない」
「ですよ~」
魔法少女姿の凛 そしてルビー
「ええ、貴女を認めなかった自分を恥ずかしく思いますわ」
心なしか表情の柔らかいルヴィアゼリッタ
「あとは……私達に任せてください」
強い決意を込めてそう言う美遊
「「「あいつは私達が責任を持って倒す(しますわ)」」」
その姿は、とても頼もしかった
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「ねえキリツグ」
「なんだいアイリ?」
「イリヤちゃんが大変なことになってる気がするの」
「ママの勘、かい?」
「ええ、あと士郎も」
「……心配なら戻るといい。あとは僕に任せて」
「うーん……それは良いんだけど」
「なんだい?」
「貴方も一緒に帰るわよ、キリツグ」
「いや、そんな余裕は……」
「--」
「……分かったよ。 君のその目にはどうやってもかなわない。」
「流石私の旦那様♪」
どうもです!
皆さんに伝えたい……アニメのエンディング、あれで泣いてるセイバー。あれ1話で叫ぶセイバーのイメージそのものです!!僕の脳内イメージアニメ化されとる!?ってびっくりするほど!……そんだけです(笑)
次回、いよいよエアブレイカーママ&ケリイ登場。お楽しみに!
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追記 紅茶戦は申し訳ないですがカットです。
凛の尻&絶対領域ガン見したあげく裏切った罰だ!!というのは嘘で都合上です。