今は亡き故郷のため俺は進む………   作:都海 胸広

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始まりの日

ウォールマリア内にある草原に二人の子供たちがいた。その子供たちの横には、薪が置いてある。

 

「もう帰るよ、ジェイド」

二つのお下げ髪が特徴的な女の子がそう言って立ち上がる。すると、座っていても身長の高さを感じさせる男の子はこう言った。

「まだ休もうよフローラ」

するとフローラはため息を吐いた。

「まったく、身長の割には体力がないんだから……」

「それとこれとは別だろ」

フローラは先程より大きなため息を吐く。

「その身長、私にも分けて欲しいよ…」

「そんなことは出来ない」

「なに真面目に答えてるのよ‼︎とにかく、早く帰らないとお母さん心配するよ!」

「分かった。分かったからその手をしまってくれないか?」

見ると、フローラは今にも殴りかかりそうな体勢になっている。

「なら早く立つ!」

「分かったよ、たくっ……」

 

しぶしぶジェイドは立ち上がる。

二人は薪を背負い、歩く。

フローラと並ぶと、より身長が際立って大きく見える。そんなことをジェイドは思ったが、そんなことを言ったら今度こそ殴られると思ったので、言わなかった。

 

「フローラと一緒にいると疲れる……」

「なんか言ったジェイド‼︎」

「い、いえ!なにも!」

(小声で言ったつもりだったのに……)

__________________

 

シガンシナ区の内門に着くと、門の前で二人の子供が歩いていた。誰かは、後ろ姿ですぐに分かった。

 

「ミカサー、エレーン」

「お、フローラ。ジェイドも一緒か」

二人も背中に薪を背負っている。

「二人も薪拾いしてたのか?」

「うん!お?今日は珍しく頑張ったんじゃない、エレン?」

エレンの背中には、いつもの倍近く薪が積んである。確かにいつものエレンの様子を見ると考えきれない量だ。

「あ、ああ、そうだろ…」

 

「……ほとんど私が手伝った…」

ボソッとミカサが付け加える。

 

「い、言うなよミカサ!」

「…怪しいと思ったらやっぱりね」

「と、とにかく行くぞ!」

__________________

 

門をくぐると、近くに駐屯兵団の人達がいる。今日もオシゴト頑張っているようだ。

 

「よう、お前ら」

「ハンネスさん。うっ…酒臭っ‼︎」

 

見るとハンネスさんの他、全員酒を飲んでいる。ふむ、オシゴトは順調なようだ。

 

「また飲んでる…仕事は?」

「おう!今日は門兵だ!」

威勢良くそう言うと、こう続ける。

「一日中ここにいる訳だから、やがて腹が減り喉も渇く。飲み物の中に、たまたま酒が混じっていたことは些細な問題に過ぎねぇ。」

 

確かに、…と思い始めた自分に心の中で突っ込みを入れていると、隣でエレンはどこか不満そうな様子でいる。

そしてエレンは苛立ちの声でこう言った。

 

「そんなんでイザッて時に戦えんの⁉︎」

「…イザッて時ってなんだ?」

ついにエレンは怒鳴る。

巨人(ヤツら)が壁を壊して‼︎街に入って来た時だよ‼︎」

 

まわりで会話をしていた人達も黙り始めた。辺りが静寂に包まれる。

 

「…おいエレン。急に大声出すんじゃねぇよ…」

ハンネスは頭を抱えている。

 

にしても、エレンは今何て言ったんだ?

巨人(ヤツら)が、壁を、壊す?

そんな事有り得るのか?

 

そう困惑しているとエレンの言葉に対して、一人の門兵が笑いながらこう言う。

「元気がいいな!医者のせがれ‼︎巨人(ヤツら)が壁を壊すことがあったら、そらしっかりやるさ」

そして真顔になる。

「しかし、そんなこと百年間で一度もないんだぜ」

エレンも負けずに答える。

「で…でも!そうやって安心してる時が一番危ないって、父さんが言ってたんだ‼︎」

エレンの言葉にハンネスは困惑の表情になる。

「まぁ…確かにそうかもな。油断していて、もし壁を壊されでもしたら、とても危険だ。でもなぁ………」

「なんだよ‼︎」

「壁の補強作業とかで壁の外をうろつく巨人(ヤツら)を見かける機会があるんだが…」

 

「…デカくて15mくらいの巨人(ヤツら)だ。この50mの大きな壁をどうこう出来るとは思えねぇんだ」

 

俺は壁を見る。

ハンネスさんの言う通り、確かに大きい。

普段の生活でも目にしているはずだが、改めて見ると、その50mの大きさに圧倒される。

 

ハンネスさんは、巨人は大きくても15mだと言った。

という事は、巨人の大きさははこの壁の3分の1にも満たないのか。

なぁーんだ。だったら壊せるはずは無いな。

 

「じゃあそもそも巨人(ヤツら)と戦う覚悟なんかねぇんだな⁉︎」

そうエレンが言うとハンネスさんは、

「ねぇな!」

と、実にあっさり答える。エレンも戸惑いを隠せない。

「なっ…なんだよ‼︎もう『駐屯兵団』なんて名乗るのやめて、『壁工事団』にしろよ‼︎」

「それも悪くねぇ!」

 

ハンネスさんも乗り気だ。

 

「しかしな、エレン…兵士が活躍するってことは、それこそ最悪の時だ…俺達が役立たずの『タダ飯食らい』ってバカにされてる時の方がみんなは平和に暮らせるんだぞ?」

「……‼︎」

 

確かにそうだろう。平和な世界なら、兵士なんてのは役に立たない。せいぜい街の護衛をするくらいしか仕事は無いだろう。しかし、攻めて来る敵もいなけりゃ、それこそ役立たずだ。

 

「ハンネスの言う通りだ。まったく…壁の外に出ようっていう『調査兵団』の連中の気が知れねぇ…」

「‼︎」

「勝手に戦争ごっこに興じてろってな‼︎」

「…‼︎」

エレンは駐屯兵団の言葉を聞き、吐き捨てる様にこう言って後を去る。

「一生壁の中から出られなくても…メシ食って寝てりゃ、生きていけるよ…でも…それじゃ…まるで家畜じゃないか…」

 

ミカサがエレンを追いかける。

 

(…もしかしてエレン、壁の外に出たいのか?)

 

「ま、待ってよ。エレン!」

フローラはそう言って追いかける。それに続いて俺も後を追う。

__________________

 

「大人の人にあんなこと言ったら駄目だよ、エレン。まぁ…ハンネスさんを大人に含めるかは別だけど」

フローラがそう言う。しかしエレンに反応はない。すねているのだろうか?

 

「…エレン。調査兵団はやめた方がいい…」

ミカサがそうつぶやく。

「‼︎」

「なんだよ……お前も調査兵団をバカにすんのか⁉︎」

「…バカにするとか、そういう問題じゃ…」

 

カンッ‼︎カンッ‼︎カンッ‼︎カンッ‼︎…

 

鐘の音が鳴り響く。

 

「…英雄の凱旋だ…‼︎」

おそらく調査兵団が帰って来たんだろう。

「行くぞ!お前ら!」

皆エレンに続く。

__________________

 

ガラガラガラガラ……

 

外門から調査兵団が中に入って来た。

「……あれ?20人もいないぞ。100人くらいで行ったはずなのに…」

その帰って来た人達も、ほとんどが負傷している。片腕の無い者、顔に包帯を巻いている者、ひどく衰弱して眠っている者。思わず目を伏せてしまう。無傷の者は片手で足りる程度だった。

 

「ブラウン⁉︎ブラウン⁉︎」

 

老いた一人の女性が調査兵団の前にやって来た。

 

「あの…」

 

「息子が…息子のブラウンが見当たらないんですが…」

 

「息子はどこでしょうか…?」

 

おそらく、ブラウンと言う者の母親なのだろう。調査兵団の団長に泣きながらそう訴える。

すると団長は真顔で部下に命ずる。

「ブラウンの母親だ。持って来い」

ブラウンの母親は強張った顔になる。

団長は部下から布で包まれた何かを受け取り、その女性に手渡す。

 

「…え?」

女性は布を開いた。そこには一つの腕がある。

「それだけしか、取り返せませんでした…」

女性は布を抱きしめる。

悲痛な、言葉にならない叫びが、彼女から溢れ出ている。

 

この女性は、自分とは全く関係の無い、赤の他人だが、何かが突き刺さったかの様に、深く心が痛む。

 

「で、でも、息子は役に立ったのですよね…

何か直接の手柄を立てた訳ではなくても‼︎

息子の死は‼︎人類の反撃の糧になったのですよね‼︎」

 

女性は泣き叫んだ。

女性の、息子を失った悲しみがひしひしと伝わってくる。

 

「もちろん___!」

団長は何かを言いかけたが、そこで喋るのをやめた。

 

「…イヤ」

 

「……今回の調査で」

 

「……我々は今回も…」

 

「なんの成果も‼︎ 得られませんでした!」

 

団長は途切れ途切れに言葉を発した

 

「私が無能なばかりに…!ただいたずらに兵士を死なせ…!巨人(ヤツら)の正体を…!

突きとめることができませんでした!」

 

周囲の人たちは騒いでいた。

女性の顔からは、哀愁が漂っている。

 

近くに二人の男がいた。

「ひでぇもんだな」

「ああ。壁の中にさえいれば安全に暮らせるのに…兵士なんて税の無駄遣いだ」

「まったくだ。これじゃあオレらの税でヤツらにエサをやって太らせてるようなもんだ

なぁ」

 

その時何を思ったのかエレンは、目の前の男を殴った。

 

鈍い音が響く。不意にパンチをくらい、男はとても痛そうだ。

 

すぐさまミカサがエレンを引っ張り逃げる。

このままでは疑われるので、俺も逃げる。

それを見てフローラも逃げて来た。

 

「何すんだクソガキ‼︎」

__________________

 

路地の奥の方に行った所で、走るのをやめた。みんなすっかり息が切れている。

「…はぁ…はぁ。なんであんなことしたんだ。エレン」

そうエレンに問う。

「だってよぉ、あんなこと言われて悔しくねぇか?」

「だとしてもだ。お前には我慢が出来ねぇのか⁉︎」

「で、でもよぉ…調査兵団があんな風に言われて黙ってる訳には…」

エレンの言葉をさえぎる様に、ミカサがつぶやく。

 

「…エレン。調査兵団に入りたいって気持ちは、変わった?」

 

その声は普段の何倍も怖かった。

 

「……………」

 

「と、とにかく、今日はいったんお家に帰ろう?ね?」

フローラがそう言ったので、帰ることになった。道中、誰も一言も発する事は無かった。

 

 

家の近くまでやって来た。

「じゃあ、これで。じゃあね、二人共」

エレンとミカサと別れた。

 

 

「………………」

「………………」

フローラと二人っきりだ。

て言っても、普段から一緒にいるので何も思わない。

家の前までやって来た。俺とフローラの家は隣どうしで、正面から見て右にフローラ、左に俺の家がある。

「じゃあね、ジェイド」

「じゃあな、フローラ」

__________________

 

「ただいま」

 

家には誰もいなかった。

集めた薪を木箱の中に入れ、テーブル横のイスに座る。するとテーブルの上に一枚の手紙が置いてあった。

 

『深愛なるジェイドへ

今日も遅くなります。夕飯は、鍋の中にあるシチューを煮込んで食べてね。母より』

 

そう書かれてある。いつものことだ。

 

俺には父親がいない。産まれる前からだ。

母に聞くと、病気で亡くなったそうだ。

こんな話をするとたまに同情する人がいるが俺自身は父親がいないことに関して気にしていない。生まれた時からいないので、自分にとってそれが普通になっているからだ。

 

母の手紙の通り、鍋には美味しそうなシチューが入っていた。

しかし今はまだお腹は空いていない。

 

そこで本棚に目を移す。

母は仕事で忙しくて、俺と遊ぶ時間を作れない代わりに、本を買ってくれた。

今ではすっかり本の魅力に取り憑かれている。小さい頃は、よくフローラの家に行って、おばさんに読めない文字や意味を聞きに行っていたな、懐かしい。

 

数ある本の中から、俺はこの本を選んだ。

巨人に立ち向かう、兵士の頑張りを描いた本だ。

他にも本があるが、今日、調査兵団を見たことによって、改めて読みたくなったのだ。

だいたいの内容を言うと、壁外での調査兵団の様子が描かれ、日記形式になっている。

 

『始めての壁外遠征。壁の外は、壁内とは違い、広大な土地と、豊かな自然が広がっていた。』

『巨人に遭遇。話には聞いていたが、やはりデカい。こんな相手に、我々人類は勝てるのだろうか?いや、俺が弱気になってどうする。調査兵団の兵士として、ここは命を懸け戦わなければ。』

『壁外で馬を失い、もうダメだと思った。しかし、奇跡的に仲間と遭遇し、何とか帰還した。本当に死ぬかと思った。』

『今日は雨が降って、とても視界が悪い。いつ巨人がやって来るか分からないので、皆に緊張感が漂っている。とにかく、………』

 

(あれ?)

 

俺は不思議に思う。

文章がここで止まっている。

次のページに続きが書いてあった様だが、隣のページは破られているので、なんと書いてあったのか分からない。

 

そういえばそうだったんだ。長らく読んでなくて忘れてた。

 

少し続きが気になる所だが、諦めて他の本を読む事にした。

 

…本を読み始めて30分くらい経ったあとだろうか?

 

 

ドゴォンッ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

大きく揺れた。地面が

 

(な、何だ⁉︎)

 

慌てて家を飛び出すと、フローラも含め、フローラの母親も外に出ていた。

 

「大丈夫かい?ジェイド?」

「だ、大丈夫です。おばさん、なんですか?今の?」

フローラのお母さんは少し悩んだあと、こう言った。

「地震じゃ、ないかねぇ?」

 

地震か。本で読んだことがある。確か上の地面と下の地面がこすれて、地面が揺れる現象だったはずだ。

でも、本で読んだ限りでは、揺れは、最初に小さい揺れが長く続き、間隔を空けて激しい揺れが来ると書いてあった。あの揺れは地震とは違う気がした。

 

向こうで人だかりが出来ている。

急いで向かった。

皆、同じ方を向いている。

そこは壁の前門だ。

 

「⁉︎」

 

そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 

あの、50mの壁を超える、人型の何かがこちらを覗いている。人の顔の皮膚を剥ぎ、口を裂けさせたそのさまは、まるで不敵な笑みを浮かべているようだった

 

(巨人だ…)

 

始めて見た巨人に対して、恐怖で足が動かない

 

 

その日人類は思い出した

ヤツらに支配されていた恐怖を

鳥籠の中に囚われていた屈辱を

 

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