あの日から、何ヶ月かほど経った。
現状の進歩は一切無い。
それどころか、むしろ悪化している。
ウォール・マリアが突破され、懸念された食料難は進む一方だ。備蓄されている食料にも限界があるのか、配給される食料が少なくなっている気がする。最近では、食料を巡って争いが絶えない。
そこで王政府は『ウォール・マリア奪還作戦』と銘打って、大量の人々が壁外に駆り出された。
ほとんどの人が立体起動の初心者で、生還出来た人は1割にも満たなかった。結局、犠牲者を増やしただけで、奪還作戦は失敗に終わる。
幸か不幸か、減った人間のおかげで食料難は多少ではあるが解消した。
しかし、いくら食べることが出来ても、人々の心を埋めることは出来ない。
家族を失った者。友人を亡くした者。恋人を失った者。目の前で巨人の恐怖を目の当たりにした者。
人々の悲しみはとても深く、癒えることが難しい物だった。
普段は落ち着きのあるアルミンも、だいぶ錯乱している。理由は聞かずとも分かる。
アルミンには両親がおらず、祖父母に育てられていた。その祖父母が、奪還作戦に派遣され、帰らぬ人となる。
これにはアルミンも、だいぶ堪えたようだ。
おそらく、精神的被害が少ないのは、俺と、フローラくらいだろう。しかし、友人のこんな姿を見ていると、こちらまで気分が沈みそうになる。
奪還作戦によって失った大量の労働者の人手不足を補うため、子供や老人までもが、労働に駆り出されていた。
労働の内容は、主に土地の開墾だ。
今日も俺たちは、土地の開墾をしていた。
すると急に雨が降って来た。
まぁ、雨が降って来たからと言って休める訳ではないが。
「チッ、雨かよ。作業やりにくいじゃねぇか。」
エレンはそう言いつつも作業を続けている。
俺は不意に寒気がした。雨は嫌いだ。
またあの夢を見てしまうのか…
雨がやみ、数時間ほど経って、作業は終了した。その後は、仮説住宅に戻る。
味のしないスープで固いパンを流し込み、みんなと談笑したあと、部屋に戻り眠りに着く。
そしてその日、俺は夢を見た。
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肌に刺さるような雨が降りしきる。
とても体がだるい。
風邪でも引いているかのようだ。
(ここはどこなんだ?)
そう思ったが、体がだるい影響でうまく頭が働かない。
雨の影響で、辺りは霧がかかっている。
(うるさいなぁ…)
止む事の無い雨音に苛立ちを覚える。
雨の影響で、視界と聴覚が遮られる。
「…?」
狭い視界の中、遠くの方で黒い影が見えた。
影はゆっくりとこちらに近ずいてくる。
その影はひとつだけでなく、複数ある。
その影に対して、恐怖心を抱く。
(来るな‼︎…来るな‼︎…)
「♪☆°$=*…○€%‼︎」
「#・☆$♪○$¥$€°%€$♪‼︎」
雨のせいなのか、何を言っているのか分からないが、何やら騒いでいる。
その影は俺に近づき、手を伸ばす。
思わず身を縮める。
(触るな‼︎…触るな‼︎)
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「やめろ‼︎」
「…ジェイド…起床時間はまだよ?」
寝ぼけたフローラが隣にいる。
見渡すと、そこはベットの上だった。
いつもと変わらない、ベットだった。
(またか…)
俺の着ている服はぐっしょりと濡れ、肌にまとわりついている。
自分以外の人間にはこの夢のことを言ったことがない。幼い頃、母さんに言ったことがあるが、夢の内容は伝えずに、怖い夢を見たとだけ言っていた。
なぜこんな夢を見てしまうのか。
そう思ったこともあるが、考えてもまったく分からない。
もう一度眠ろうとしたが、結局眠りにはつけなかった。
カーン‼︎カーン‼︎カーン‼︎…
けたたましく鐘が鳴り響く。
この鐘は、起床時間の合図だ。
どんなに眠くても、この鐘の音を聞けば
一発で眠気が覚める。
しかし今日はとても眠かった。
やはり、あまり睡眠をとれなかったことが原因なのだろう。
重いまぶたをこすり、ふらつきながら
水汲み場へ向かう。
道中、エレン達と合流した。
しばしの間、挨拶を交わすと、エレンがこう訪ねてきた。
「どうしたんだ?ジェイド。疲れてんのか?」
ふらつく俺の足元を見てそう言ってくる。
「…ん?ああ、ちょっと寝不足でな…」
「なんかあったのか?」
「…いや、とくにそういった理由はないんだが…」
「?」
「大丈夫よエレン、ジェイドだから。そんなに心配する必要は無いよ」
フローラが笑ってそう言った。
そういやぁ、フローラにはこの夢の事を言った覚えがあるな。
その時にはには心配されたけど、何回か話した後に、
「なんでこんな夢を見るんだ?」
とか言ったら、
「いちいちそんなこと気にする必要ないんじゃない?」
とか言われたっけ?
「ジェイドが大丈夫って言ってるんだから。きっと大丈夫なんでしょ?」
「そうなのか?ジェイド?」
「おうよ!エレン!心配すんな!それよりも俺はお前が心配だな」
わざと大きな声で言う。
「俺がお前に心配されるようなことなんてあったか?」
ワザと大きなため息を吐く。
「ミカサのことだよ。そろそろミカサの気持ちに気づいてあげないとかわいそうだぜ。なっミカサ」
「…わ、わたしと、…え、エレンは、…か、家族…」
急に言ったからか、ミカサは、頭から火をふいている。水をかけないと火事になる勢いだ。
当の本人はぽかーんとしている。
「ん?なんのことだ?ジェイド。ミカサの気持ちって?」
「いや?なんでもない」
身じたくが終わり、朝食を食べ、またいつものように作業をして、1日が終わった。
夕食後、俺はフローラに話しかける。
「朝はありがとな、フローラ」
一瞬考えたあと、すぐに納得の表情になる。
「ん?あ、ああ。朝のことね。ううん、大丈夫よジェイド。それより、もしかして、またあの夢見たの?」
心配した表情でこちらを見ている。
「…うん。なんかよぉ、夢だからあんまりはっきり覚えている訳じゃねぇけど、雨の中、変なやつらがなんか言いながら俺に近づいてくるんだよ」
「雨が降ると必ず見るんだよね?その夢」
「ああ。でも特に雨の日に何かあった訳じゃねぇけどなぁ?」
「ふーん。そうなんだ。まぁ、でも気にしなければいいんじゃない?」
俺は頭を抱える。
「お前なぁ…、出来たらとっくにそうしてるよ」
俺の言葉を無視して続ける。
「それに、こんな暗いジェイドはジェイドじゃないみたい。ま、元々は暗い性格だったのにね」
「昔のことを言うな。それに暗かったんじゃねぇ。おとなしかっただけだ!」
「何回目?そのセリフ。まったく…昔が懐かしいわね」
「確かにそうだな。お前も昔の方がおとなし…くはないな。俺に対する当たりの強さは昔から変わんねぇな。他の人には普通のくせによぉ。…もしかしてお前、俺のこと好きなのか?」
冗談交じりに笑いながらそう言う。
「ば、ばっかじゃないの!誰があんたのこと好きになるのよ‼︎嫌いよ嫌い!大っ嫌いなんだからね‼︎」
顔を真っ赤にしてそう言ってきた。
「おいおい、そう言うなって。素直になれよ」
すると、フローラは戦闘態勢に入る。
身の危険を感じた俺は、すぐさま逃げる。
「待ちなさい!」
フローラは追いかけて来るが、追いついていない。
…と思って安心していると、床の段差に足を取られた。
この後俺がどうなったかは言うまでもない。