超大型巨人が襲来したあの日から五年が経った。
俺は二年間開拓地に勤めたあと、兵士を目指すため訓練兵として三年間訓練を積んだ。
この三年間は決して楽な道のりではなかったが、必死に訓練をした。
何度も死にかけた。
何度も抜け出したいと思った。
何の為に、俺は何の為にこんな事をやらないといけないのかとさえも思った。
それでも、俺には仲間がいた。仲間がいたから俺は今、この場に立つ事が、出来ている。
強い風が吹き抜けた。
その風は、肌を突き刺す程強く、まるで俺たちの旅立ちを祝福…いや、拒んでいるかの様だった。
辺りはすっかり暗くなっているが、複数の松明の灯りで同僚の顔は確認出来た。
その同僚達は、緊張で顔が強張っている者がほとんどだが、中には談笑している者もいた。もっとも、その談笑で緊張を紛らわしているのだろう。
目の前には舞台が用意されている。
みながいっせいに口を閉じる。
舞台の上に、兵団の男が立った。
男は、軽く咳払いしたあと、喋り始めた。
人類の活動領域がウォール・ローゼに後退した、
あの五年前の悲劇について。
「今この瞬間にも、あの『超大型巨人』が
壁を破壊しに来たとしても不思議ではない」
「その時こそ諸君らは、その職務として生者に代わり自らの命を捧げて、巨人という脅威に立ち向かってゆくのだ!」
「心臓を捧げよ‼︎」
皆、敬礼をする。
「ハッ‼︎!」
握りしめた右拳を心臓に当て、左手は、背中へ、そえる。
「本日、諸君らは、『訓練兵』を卒業する。その中で、最も訓練成績が良かった上位10名を発表する。呼ばれた者は前へ」
…ついに発表か。
足からは震えが伝わる。どんなにその震えを止めようとしても、体が言う事を聞かない。
「首席、ミカサ・アッカーマン」
「2番、ライナー・ブラウン」
「3番、ベルトルト・フーバー」
「4番、アニ・レオンハート」
「5番、エレン・イェーガー」
「6番、ジャン・キルシュタイン」
「7番、マルコ・ボット」
「8番、ジェイド・カウフマン」
「9番、サシャ・ブラウス」
「10番、フローラ・シュナイダー」
…よしっ!なんとか10番以内に入ったぞ!
心の中で軽くガッツポーズをする。
フローラも10番以内か。まぁ、あいつの普段の動きを見るれば納得の成績だろう。
俺は平然を装いつつ、前へ出る。
上位成績者がみな揃うと、男はまたひと呼吸置いて、こう言った。
「君たち訓練兵には卒業後3つの兵団の内、どれか一つの兵団に配属してもらう」
「壁の強化に務め各街を守る、
『駐屯兵団』」
「犠牲を覚悟して、
壁外の巨人領域に挑む、
『調査兵団』」
「王の元で民を統制し、
壁内の秩序を守る、
『憲兵団』」
「もちろん分かっているとは思うが、訓練兵の中で、憲兵団に入団出来るのは、上位10名の卒業成績者のみだ。後日、配属先を問う。」
「それでは、解散‼︎」
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その日の夜、卒業を迎えた祝いとして、パーティーが開かれた。皆、酒を飲んだり、お喋りをしながら楽しんでいる。
俺も飲んでいたがそろそろ酔いがまわってきた。パーティーがひと段落してから、外に出て夜風に吹かれていた。
「ふぅ…」
身体の中にこもった体温が胸の辺りから抜けていく。少し酔いも抜けた気がする。
…そういやぁ、みんな、
配属先をどこにするか騒いでたなぁ。
今回、俺は10番以内で卒業出来た。この事は大きい。いち早く憲兵団に入団出来るからな。
俺は、卒業後の配属先を「憲兵団」にしようと思っている。
ウォール・マリア陥落時は、
「調査兵団へ入団して、絶対に故郷を取り戻す」
などと思っていた。
しかし、訓練兵としての三年間の中で、母さんと手紙を交わす機会があった。
その手紙の中で、次の様な事が書いてあった。
ウォール・マリア地域に住んでいた人達は
ウォール・マリア陥落後、ウォール・シーナ内に移り住むこととなった。
そうして移り住むことになった人々は肩身の狭い思いをしている。壁の中に住んでいた人達から
「外から来た者が…」
などと陰で文句を言われたり、何か事件があればすぐに疑われたりした。
働き口に関しても、移り住んできた人たちは安い賃金で働かせられている。住む所も、かなり荒れ果てた土地で、とても住める場所では無い。
この様に、身分も金も、何も持っていない、
…いや、持つ事が出来ないそうだ。
そんな母さんを、俺は助けたいと思った。
憲兵団に入れば、身分も金も、いっきに両方手に入る。なんたって、壁内の秩序と王を守る集団だ。その権威たるもの、右に出る者はいない。
最も、その権威を都合良く使う者が
ほとんどだが、それはまた別の話だ。
母さんには、女手一つで育てて貰った。まだその恩を返しきれていない。親孝行のひとつも、出来ていないだろう。
何かの本で読んだ事があるが、
「最大の親不孝は、親より早く死ぬ事」
だそうだ。
調査兵団はその性質上、入団者の死亡率がかなり高い。
なんたって、壁外に出て巨人と戦闘する訳だからな。
死ぬ者がいない方がおかしい。
調査兵団に入団して、わざわざ死にに行くなど、これほどの親不孝があるだろうか?
こんな理由から、俺は「憲兵団」に入団する。
…ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!
急に大きな足音が聞こえてくる。
その足音はこちらへ近づいてきた。
「独り寂しく座っているのは誰ですかね〜」
その足音の主がそう言ってくる。
顔を確認するまでも無い。声の主はフローラだ。俺はあえて無視する。
「あれあれ〜?聞こえて無いのかな〜?」
無視を続ける。
「まぁヒドイ!無視してるのね!」
にしてもこいつ、酔ってるな。そして酔うと性格変わるな。おそらく、10番以内で卒業出来たから、気分が良くなって飲み過ぎたのだろう。
普段のフローラなら、こんな口調で俺に話しかけない。それにこいつからかまってくるなんてまずあり得ない。
「ジェ〜イ〜〜ド〜〜〜!」
そろそろ可哀想になってきたので、反応することにした。
「なんだ?」
「呼んだだけ〜!」
ムカつく。ガキみてーな事言いやがって。
「…用が無いなら、あっち行ってろ」
あえて冷たくあしらう。
「は〜い!」
素直にそう言って、どこかへ行った。
…あれ?意外に素直だな?
もっとなんか言うと思ったが。
まぁ、俺にとってはこっちの方が都合が良いので、良しとしよう。
…そう思ったのも、つかの間、
「ドーン!」
そう言って、結構な勢いでぶつかって来た。
…にしても声デカい。身長は小さいのにな。
「な〜んて言うと思った?ざ〜んねーん!」
イライラする気持ちを抑え、問う。
「…用があるならあるでさっさと言え」
「なんでひとりで居るのよ〜?みんなで一緒に飲もうよ〜!」
「ちょっと夜風に当たろうと思ってな。そろそろ戻るつもりだったんだ」
「そうだったのね。じゃあ早く戻ろ!」
そう言って腕を掴んできた。
「おいおい、今日はやけに積極的だな。10番以内に入ったからって浮かれてんのか?」
笑いながらそう言った。
「そんなんじゃないよ〜!ただ、今日はジェイドと飲みたいなーって思っただけ!」
「そうか、なら戻ろうぜ」
今度は俺が腕を引っ張る形になる。
こんなところ誰かに見られたら、またからかわれるんだろうな。果たしてその時フローラが覚えているか見ものだな。
コホンッ!
わざとらしい咳の音が聞こえてくる。
そこには、アルミンがいた。
「何してるの?二人とも」
アルミンが苦笑いを浮かべながらそう言う。
「ん?あ、えーと、そろそろ戻ろうと思ってな」
「ふーん。そうなのか。手なんか繋いで、仲良しだね」
アルミンに言われて、ハッとする。フローラの方は、まんざらでもない様子だ。思わずフローラの手を振り払う。
「いや、アルミン!別にそんなつもりじゃないんだ!掴んできたのはこいつで…」
そう言いかけると、エレンとミカサがやってきた。いつもの様にミカサがエレンを担いでいる。
…って!なんで担がれているだよ!思わずそんな突っ込みをいれたくなる。またエレンが何かやったのか?
ドスンッ!
エレンが床に叩きつけられる。
うわぁ…痛そう…
「熱くなるとすぐ衝動的に行動する…」
何やらエレンは気まずそうだ。
後から話を聞いて分かったのだが、
エレンは、配属兵科についてジャンと口論になった。ジャンは憲兵団、エレンは調査兵団を希望しており、それぞれの言い分は平行線をたどった。そしてしまいには殴り合いに発展した。その殴り合いを、ミカサが半ば強引に仲裁に入り止めたそうだ。
そして今、ミカサとエレンはその配属先について話している。エレンは調査兵団に入るらしいが、ミカサはエレンが行く兵団に入るそうだ。
ミカサが言うには、エレンが心配だから一緒の兵団に入りたい、だそうだ。まぁ、なんと言うか、おせっかいというか、世話焼きというか。
「お前らは、配属先どこにするんだ?」
ふと、エレンがそう尋ねてきた。
「俺は、憲兵団に入る」
「憲兵団か…、何でよりによってあのジャンと一緒のとこ選ぶんだよ」
「理由は前にも言った通りだ」
「そうか…、アルミンはどうするんだ?」
「僕は調査兵団に入るよ」
あまりに唐突な発言に驚く。アルミンが調査兵団?あのアルミンが?
体を動かすことよりも、頭を動かすことの方が得意なアルミンだ。
てっきり、駐屯兵団へ進み、その頭のを活かすのかと思っていたが…
「本気で言ってんのかアルミン?」
「ああ、分かってるよ。僕は人より体力がない。卒業試験を合格出来たのも奇跡だ。…でも、死んでも足手まといにはならないよ」
「…そうか、頑張れよ」
「うん」
「フローラはどこにするんだ?」
俺はそう尋ねる。
するとフローラは恥ずかしがる様子も無くこう言った。
「ジェイドと一緒の兵団がいい!」
おいおい、ミカサの真似か?
「と言うと、憲兵団か?」
「ううん!ジェイドが入る兵団に入るの!」
え?これは冗談か?酔っているから冗談でも言っているのか?
「…おいおい、それは冗談だよな?もう一度聞く。配属先はどこにするんだ?」
「冗談じゃないもん!ジェイドと一緒の所がいいの!」
そう言ってフローラは急に俺に抱きついて来た。
「な、何すんだフローラ!」
急なフローラの行動に動揺が隠せない。
「フローラ!」
反応はない。フローラはただ黙っている。
「ふ、フローラ?」
すぅ…すぅ…すぅ…
耳元からそんな小さな寝息が聞こえてくる。
「…な、なんだよ、眠ってるじゃねーか」
周りを見るとアルミンが、温かい目でこちらを見つめている。
「ほんと仲良しだね」
「お、お前なぁ…」
…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ
向こうの方から誰かが歩いてくる。
そこには、駐屯兵団の制服を着たハンネスさんが居た。
今日は珍しく酔っていないようだ。
数名の、部下と思われる人たちと
何やら打ち合わせをしている。
なんだか、子供の頃に見てきたハンネスさんとはだいぶ様子が違うな。
とても兵士らしく、尊敬出来る。
そんな雰囲気を持っている。
エレン達もハンネスさんが居る事に気付いたのだろう。立ち上がり、敬礼をする。
俺もフローラを地面へと眠らせ立ち上がる。
そして敬礼をした。
すると、ハンネスさんもこちらに気付いて、敬礼を返してくれた。
「それでは今日はこれで解散!」
ハッ!
話し合いが終わったのか、部下の人達はその場を去っていった。
ハンネスさんがこちらに向かってくる。
「あー、直っていいぞ」
ハンネスさんは頭を掻く。
「規律は大事だが、お前らが相手だとどうも慣れねぇ…」
「ほんとに慣れないよ…飲んだくれでも
今や駐屯部隊長だからね」
エレンがしんみりと答える。
「あぁ。また大きくなったなぁ、お前らも。そうか、この街に来て、もう五年も経つのか…」
ハンネスさんは、何かを思い出したのか、
暗い表情になる。
「すまねぇな…お前らの親救えなくて…」
「そ、その話はもういいよ。仕方なかったんだから」
「そういやぁエレン、 お前のお父さんの行方だが、こっちは何も分からないままだ。頼りは最後に会ったお前の記憶なんだが、何か思い出したか?」
その言葉の後、エレンは急に地面に倒れだす。
「え、エレン⁉︎」
意識はあるようだが、頭を抑え、
とても苦しんでいる。
「そ、そうか…!すまねぇ…すっかり忘れていたぜ…」
「大丈夫かエレン⁉︎」
「だ…大丈夫だけど…」
「なぜかこうなっちまう…頭が…
破裂しそうだ…」
「何も…思い出せねぇのに…」
その言葉を最後にエレンは気を失った。
「エレン‼︎」
様子を見ると何やら、うなされている。
大丈夫、死んではいない。
「ミカサ、フローラは頼んだ」
ミカサのことだ。
きっと軽々しく運んでくれるだろう。
俺はエレンを担ぎながら、アルミンと一緒に宿舎に戻った。
翌日、エレンは無事目覚めた。
エレンに昨日の事を尋ねたが、
よく覚えていないとのことだった。
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今日は、トロスト区にて、駐屯兵団の活動の手伝いをした。
街のパトロール、武器などの荷物の運搬、
壁上の砲弾の整備、などなど、初めての仕事ではあったが、さほど難しいものではなかった。
俺は、荷物の運搬の後、街でのパトロールを担当する事になった。
パトロールは、二人一組で決められたエリアを担当する。
すると、偶然にもフローラと一緒だった。
街中をうろつく。
すると、最前線の街とは思えない程に賑わっていた。
「壁の一番外だってのに、この街も、だいぶ賑わってるなぁ」
「当たり前じゃないのジェイド。あれから五年も経ったのよ?流石にあの雰囲気のままな訳ないでしょ?」
「ま、それもそうだな。」
…かれこれ一時間近く歩いてるが、
これといった事件は何も起きない。
「……………」
「……………」
トロスト区は、今日も平和だ
…にしても、暇だなぁ。
気晴らしに、何か世間話でもするか。
「今日はいい天気だな、フローラ。」
「ん?…あ、ええ、そうね、ジェイド。」
「こんな日は、パトロールなんてしねぇで、ひなたぼっこでもして、気持ち良くお昼寝してぇなぁ」
「何言ってんの。」
フローラは呆れた顔でこちらを見る。
それでも、フローラ自身も退屈していたのか
こんな会話も、嫌そうではない。
「いや、庭で、椅子に座って読書をするのも捨てがたい」
「全く…、そんなに気が緩んでたら、いざ壁が破壊された時に対処できないんじゃない?」
「安心しろ、俺は憲兵に行くから、壁が破壊されたら内側で見守っといてやる」
「そういえば、そうだったわね」
「そういやぁ、昨日の事覚えてるか?フローラ」
「昨日の事?ううん。」
酔ってて記憶に残って無いのか。
これはからかい甲斐があるな。
「も、もしかして、何か変な事してた?」
「いや?俺と同じ兵団が良い、としか言って無かったが?」
「そ、そんな事言ってたの私⁉︎」
「あれって本気で言ってたのか?」
「そ、そんな訳無いじゃない!」
「そうか…本気じゃなかったのか…」
ワザと大きなため息を吐き、肩を落として落ち込んでいる演技をする。
すると、意外にもフローラは慌てていた。
…あれ?
いつものように、冷ややかな視線を送るかと思ったのだが。
まあ、こんなフローラ中々見れねーからな。
もう少しおちょくるか。
「…俺は…あの言葉を、俺はあの言葉を本気にして、昨日は一睡も出来なかったのに、よ…。みろ、目の下にはこんなにクマが」
そう言ってクマ1つない真っ白な目の下を見せる。
「バッカじゃないの…?」
なぜか顔を赤らめている。
「ま、まぁ、本気じゃなかった、って言えば嘘になるわ。」
「ん?それってつまり、どう言う事だ?」
ワザと、とぼけたフリをする。
「つ、つまり、あんたの事が………」
その時だった。
ドゴォンッ‼︎‼︎‼︎‼︎
急に、地面が大きく揺れる。
この揺れは、もしかして…
すぐに前門の方を確認する。
そこには、忘れかけていたあの恐怖がこちらを覗き込み、不敵な笑みを浮かべていた。