突如現れた超大型巨人は、怯えた民衆をじっと見つめている。蛇に睨まれた蛙とはよく言った物だ。誰ひとりとして動く様子が無い。
そして、俺もその蛙の中の一匹だ。
蛙は蛙らしく、大人しくしておこう。
…しばらく
あの長く大きな腕をまるでムチの様にしならせ振り回している。
蚊でも払っているのか?
よく見ると、誰かが戦っている。
誰なのか、までは遠くて見えないが、確かに誰かが立体機動をして戦っている。
誰だろう?
「おいっ!!何ぼーっとしているか新兵!超大型巨人出現時の作戦はもう始まっているぞ!今日からお前らは訓練兵を卒業して、一人前の兵士だ!しっかりしろ!!」
「ハッ!!」
兵士の方から喝を入れられてしまった。
しっかりしないと。
俺は住民の避難を手伝う事になった。
フローラも一緒にやる事になった。
だが、どうも様子がおかしい。
「フローラ、何ボーっとしてんだ?」
「さ、さっきのは忘れて!」
あ、あれ気にしてたのか。
「ん?さっきって、なんの事だ?」
「何でも無い!大丈夫だから!」
その言葉とは裏腹に、少し歩いたと思ったらコケていた。
…ホントに大丈夫か?
しばらくして、トロスト区にいる兵士全員集められ、トロスト区防衛作戦の旨が伝えられる。
その作戦はこうだった。
壊された前門の近くから順に、前衛、中衛、後衛と部隊を分ける。
前衛は、現役の駐屯兵団。
中衛は、新人の俺たち。
後衛は、精鋭の兵士達だ。
「敵前逃亡は、死罪に当たる。みな、心して命をかける様に。」
「心臓を捧げよ!!」
ハッ!!!!
班編成の結果俺は、マルコ、アニ、ライナー、ベルトルト、フローラと一緒の班になった。
「おぉー、卒業成績上位者が揃いましたねー。こりゃあ俺の生存は決まったもんだ」
「なーに気の抜けた事言ってんだジェイド、油断してたら足元すくわれるぞ」
ライナーがそう突っ込む。
「それもそうだな。内地に行く手前、巨人の飯になるなんて、そんなかっこ悪い事なんて無いぜ」
深く深呼吸をする。新鮮な空気が身体に染み渡る。そして戦場ならではの、ドロドロとした血なまぐさい匂いが微かに鼻につく。
どこかでもう誰かが死んだのか。俺はその中のひとりにならないようにしたいな。
「よし、せいぜい死なねーように頑張ろうぜ!」
「それはそれでどうかと思うがな」
場の雰囲気が和んだ所で、俺達は進軍した。
道中、計2体の巨人に遭遇した。
1匹目は4m級の、小型の巨人だった。
「ライナー!俺が引きつける!その間に刺せ!」
巨人の様子を確認する。
何を考えているか分からない無表情な顔はとても不気味なものである。
ぎょろりと目が動き、こちらを見た。
締まり切っていない口の隙間からヨダレを垂らしたその姿は実に間抜けであり、生まれて間もない赤子を見ているかのようだ。しかしその姿からは愛くるしさは感じられず、ひたすらに憎悪感がこみ上げてきた。
その巨人が俺に手を伸ばして来た。
多少恐怖感を覚えるが、仲間を信頼する事にする。
「おらァ!」
俺を食べる事で頭がいっぱいだったのか、背後のライナーの攻撃に反応出来ず、その巨人は削がれた。
「やったなライナー、お前の記念すべき討伐数一体目だ。記念として持ち帰るか?」
「ありがとな。ただこんなデカブツ持ち帰れる訳ねーだろ」
「はは!そうだな。まぁ、俺らが巨人にでもなれたら話は別だけどな」
目の前には蒸気に包まれた巨人の残骸が残されている。数分後にそれは消滅した。
続いて2匹目は18m級の、中型の巨人だった。1匹目同様、俺がおとりになる。
さきほどは地面に降りて引き付けたが、今度はさっきの巨人よりも大きい。立体機動を駆使して引き付ける事にした。
その巨人はひどく痩せており、あばら骨が浮き出て、小さくうめき声を上げながら遠くを見ている。
俺は立体機動のワイヤーを近くの建物に飛ばす。アンカーがしっかりと壁に刺さった事を確認し、巻き取る。
その瞬間、ワイヤーに違和感が生じる。
やばい、巨人にワイヤーを掴まれた。
俺の体は急降下し、地面に叩きつけられる。その衝撃でしばらく身動きが取れない。
痛みにもがき苦しんでいると、落としたパンの欠片を拾うように巨人が俺を掴んだ。
抵抗しているが、ただ自分の足を揺らすだけにしかなっていない。
ゆっくりと、そして確実に俺は巨人の口に運ばれる。
もうダメだ。そう思った瞬間、巨人の背後に誰かが回り込んだ。
そして次の瞬間、巨人の手から力が無くなった。宙を落下する形になった俺は、慌てて体制を立て直し、地面に着地する。
誰がやったんだ?
その答えはすぐに分かった。
「なにボーっとしてんのよ!そんなんで憲兵団入れると思ってるの!」
そう、フローラだった。
フローラに助けられたのは、何だか良い気はしないが、この際そんな細かい事を気にしてもしょうがないだろう。素直に礼を言うか。
「すまねぇフローラ。お前がやってなかったら俺は今頃巨人の胃袋の中だ。ありがとな」
「し、しっかりしてよね!」
一次撤退の合図の鐘が鳴った。
すぐに撤退しようと思ったが、立体機動装置のガスの残量が残りわずかとなっていたので、本部へ行き補給する事にした。
本部が見えてきた。
あと5分程で着くだろうか。
ん?なんでみんな集まってるんだ?
「おいジャン。どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇーよ。あれを見ろ」
ジャンが指したのは本部の方だ。
見るとそこには沢山の巨人が群がっていた。
「あれのせいでガスの補給はできやしねぇ。かといって壁を登れるほどガスは残っちゃいない。俺達はこのまま巨人に食べられておしまいよ」
どうしたものか。なにか明るい言葉や、起点を利かした作戦を言おうかとも思ったが、すぐには思いつかない。
そうだ。こんな時はアルミンに聞いてみよう。なにかいいアイデアが思いつくかもしれない。
辺りを見渡す。そして独りで座るアルミンを発見した。
「おお、アルミンここにいたか。なにかいい案は___ 」
「エレンが、死んだ…」
俺は耳を疑った。
エレンが、死んだ?