ひどく衰弱したアルミンから、エレンが死んだ事を告げられた。
話によると、アルミンをかばって死んだそうだ。
覚悟はしていたが、それでもやはり堪える。
俺の心情を写すかのように雨が降り出した。最初は数滴程度だったが徐々に大降りになる。まばらではあるが、地面には水たまりができている。
あの大馬鹿野郎。周りの同期からは「死に急ぎ野郎」などと揶揄されていたが、本当に死に急いでしまうとは。
もちろん、アルミンをその場面で見逃せと言う訳ではないが、それでもなんで死ぬんだよ。少しは残された人間の事を考えろ。
雨か汗か分からないが、目から滴り落ちる液体を拭う。
気分がダルい。このダルさは雨が降ると決まって起こるが、今日は普段よりもだいぶひどい。脳に鉛を詰め、足には砂袋が巻き付けられているかのようだ。
辺りを見渡す。
皆、下を向き、現状に対して絶望しているのか、誰ひとりとして顔を上げようとしない。
そんな中、ある1人の女性が立ち上がった。
ミカサだ。
何か叫んでいる。しかしうまく聞こえない。何と言ったんだろう。
ミカサは1人で先を行ってしまった。
「おいお前ら!俺達は仲間に1人で戦わせろと学んだか!?このままだとお前ら本当に腰抜けになるぞ!」
ジャンがそう叫び、進む。
皆が一斉に進み出した。
俺はその場に立ち尽くしていた。
歩くのでさえキツいこの状況で、まともに立体機動なんてできるはずがない。自殺行為だ。
歩いて進む事を考えたが、それこそ自殺行為だ。いつどこで巨人に遭遇するか分からないこの状況で、スピードの出ない立体機動以外の手段で移動するなど言語道断だ。
うむ、どうしたものか。
地面にあった水たまりは既に1m程の大きさになっていた。
もう既に皆移動し、この場にいるのは俺独りだ。そろそろ進まないとやばい。巨人がこちらに群がってくる恐れがある。
現に1体の巨人がこちらに向かって歩みを進めている。
その時、1人の少女の悲鳴が鳴り響いた。
すぐにその声の方へと向かう。
そこには、2体の巨人に囲まれたフローラがいた。
「フローラ!」
フローラと目が合う。ツンとつり上がった目はいつも通りだが、とても怯えた目だ。
「今助けに行くからな!」
「来ないで!!」
意外な返答が帰ってきた。
もっとも、本心ではなさそうだ。
「お前には助けてもらった恩があるんだよ!見捨てられるか!」
2体の巨人の距離を確認する。
2体ともフローラに接近し、こちらには気付いていない。
どうするか。
1体でもぎりぎりだと言うのに、2体ともなると、最悪全滅だろう。
それに今は本調子ではない。立体機動でさえ危うい。
それでも、俺に比べてフローラは動く事さえままならない様子だ。
何とか巨人を引きつけて、フローラが逃げる時間を稼がないとな。
その為にはやはり巨人の数が多過ぎる。
巨人を1体倒さなければならない。
出来るのか?
…いや、やらないと死ぬんだ。
やらなければ。
幸い、俺はまだ巨人の視界に入っていない。
1体だけなら倒す事が出来るだろう。
相手の隙を狙う訳だから、チャンスは一回。
前のような失敗は許されない。
緊張のせいか、足が震える。
その震えを止め、俺は覚悟を決めた。
1体の巨人に狙いを定め、勢いをつけて突っ込む。その勢いのままに2本のブレードを振り抜いた。
肉片が宙を舞う。
よし、1体倒した。残り1体。
その巨人はフローラをジッと見ている。
いくらかわいいからってフローラに見とれてんじゃねぇーよ。お前になんかフローラの相手は務まらないぜ。
「おい化け物!お前の相手はこの俺だ!」
残されたその巨人は標的を俺に変えた。
「フローラ!今の内に逃げろ!」
このまま鬼ごっこをして本部に突っ込もう。
そう考えた時、忘れていたあの事を思い出した。立体機動装置のガスの残量が少なくなっていたんだ。
気付いた時には手遅れだった。
本部を目前にして、ガスが完全に尽きた。
勢いのまま地面に落下した俺は、何をする事も出来ない。
引きつけた巨人が近づいてくる。
2度目の落下で俺の体はボロボロだった。
なすがまままに巨人に掴まれる。
今度は誰の助けも無かった。
俺は巨人の口の中へと放り込まれる。
強烈な痛みが全身を襲う。
巨大な岩に体が押しつぶされている。
俺の名前を呼ぶフローラの声がかすかに聞こえたあと、意識が途絶えた。