この世界には魔法がある。
そう教えてくれたのは父親で、その父親はその魔法を使える魔導師だった。
父親はたった1つの魔法しか上手く使えなかったが、僕はその姿に憧れていた。何故なら、僕にとって魔導師とは父親の事を指すからだ。他の魔導師の事はあまりよく知らない。
そんな父親に、お前も父さんみたいな魔導師になるかと聞かれたら、答えは1つしかなかった。
「いいのかい? 父さんが言うのも何だけど、たった1つの魔法しか上手く使えなくなるんだよ?」
「いいよ。その1つさえ上手く使えたら!」
「お前には他の魔法の才能があるかもしれない。それでもいいのかい?」
「あるかもしれないけど、ないかもしれないじゃないか。それよりも、僕は僕の知っている、父さんが使っている魔法を使いたいんだ」
「……分かった。なら、このデバイスを譲ろう」
そうして渡されたのは、栞の形をしたデバイス。そう、父親の相棒たるデバイスだった。
魔導師が魔法を使う時に補助をしてくれる杖、それがデバイスと言われる道具だ。ほとんどのデバイスは、普段は持ち歩きやすいようにカードやアクセサリーの形になっている。しかし、父親のデバイスは栞という少々珍しい形態をしているので、父親が使っているデバイスと他のデバイスとを間違えることはない。
けれど、これだと父親のデバイスが無くなってしまうと思って父親の顔を見上げると、笑いながらこちらを見ている父親がいた。笑い事ではないはず。
「心配しなくても大丈夫。そいつは確かに父さんの相棒だ。けれども、役割は補助輪であり、記録装置なんだ。もう、父さんはそいつがいなくても大丈夫さ」
「ほじょりん?」
この時はまだ自転車に自分で乗ったことがなく、補助輪と言われても何のことだか分からなかった。父親もそのことに気づいて、何と言ったら伝わるのかしばらく悩んでいた。
「そう、初心者用の教科書みたいな物だ。父さんの使う魔法はちょっと変わっていてね。その為に優しく教えてくれるデバイスが父さんの父さん、それよりもずっと昔のご先祖様から伝承されているんだ。だから、父さんはそいつがいなくなっても大丈夫。次はお前の番だ」
そう言って、父親はどこか淋しげな。しかし、何かを期待している顔でこちらを見てきた。
「さあ、覚悟が出来たならそのデバイスを起動するんだ。そいつの名前は航海の書。ベルカの時代から伝わる、使用者の数多の可能性を犠牲にして世界を旅する事のみに特化させるデバイス。今日からはお前の相棒だ」
「僕の、相棒……うん! 航海の書、起動!」
デバイスを起動した瞬間、胸の辺りが痛くなり、意識が薄くなっていった。
「これでお前もライム家の冒険者達の仲間入りだ。これからは力の使い方を覚えて、自由に跳び回るといい。目が覚めたら、今後の事について語り合おう」
父親が何かを言っているが、あまりの痛みに意識を保てるはずもなく、僕は気を失っていたのだった。
目が覚めると、そこに父親の姿は無かった。その代わりに父親の友人という男性と、空間に無数の数字が並んでいた。
「すまない。本当なら君のお父さんがいるはずだったのだが、急用が入ってしまってね。しばらくは私が君の世話を見ることになった」
「急用?」
「そうだ。妻、ああ、君のお母さんだ。連れ去られていたお母さんの行方が分かったみたいでね。君に航海の書を渡す事も出来たからか、居ても立っても居られずに出発してしまったよ」
「お母さん、いたの?」
すると、その男性は頭を抱えてため息をついた。何かまずい事を聞いてしまったのだろうか。
「あいつ、それすら伝えずに行ったのか。説明は誰がすると思っているんだ、まったく」
それから、この男性(ギル・グレアムという名前らしい)により、今の状況を教えてもらえた。父親と母親は相手方の反対を振りきって結婚したこと。そして、僕が生まれて数年後、その母親の親戚によって母親が連れ去られたということ。父親は今、母親を連れ戻しに旅立ったということ。
それから、これが一番重要なことだが、しばらくはこのグレアムさんの所で魔法について学ぶということ。
僕が使える魔法については航海の書が教えてくれるものの、その他の魔法や、その知識についてはグレアムさんが教えてくれるらしい。今の僕は一芸特化型の魔導師。そして、その相棒たる航海の書も一芸特化型のデバイスで、得意分野以外の事はあまり上手く説明できないということだ。
「そんなに変わってるんですか、このデバイス?」
「変わっているというべきか、極めているというべきか。君のお父さんから聞いた話だと……」
このデバイスは持ち主の資質を書き換えて、転移特化型の魔導師にしてしまうらしい。例えば、射撃魔法に資質があったとしたら、その才能を削りとって転移系の資質を伸ばすようになっているそうな。これは、魔法を使うにあたって必要とされるリンカーコアという器官を弄る必要があるのだが、今の技術では不可能な事だそうだ。
こうして、他の資質を削りとって人為的に転移特化型の魔導師を作り出す。これが航海の書の第一の機能。もしも、航海の書の使い手たる資質の持ち主がいなくても、自分で作り出せるようにして、技術の伝承を図っているらしい。
初めて航海の書を起動した際に感じた痛みは、航海の書がリンカーコアを弄って発生した痛みということなのだろう。
「ということは、僕はもう」
「ああ、転移魔法以外は人並み以上には使えないだろう。魔法の種類によっては、人並みにすら使えなくなっているかもしれない」
「それでも、僕が憧れた魔法が使えるなら、僕は満足です」
「そう、か。しかし、使えないとは言っても知識は必要だ。私の使い魔に伝えておくから、彼女達から色々と教えてもらいなさい」
そろそろ僕に航海の書を譲ることを決めていた父親は、元々グレアムさんの使い魔に面倒を見てもらおうとおもっていたらしい。予めグレアムさんにそのことを依頼していたという。まあ、さすがに一から十まで任せるのではなく、基本と転移魔法については自分で教えるつもりだったそうだが。
「そうそう、君には今、無数の数字が見えているかな?」
「はい、これって何ですか? さっきまでは見えなかったんですけど」
「それが君のレアスキルだ。私は説明が下手だから、それについても後で私の使い魔に教えてもらいなさい。早く制御できるようにならないと、気持ち悪いだろうからね」
「最優先で教えてもらいます。さっきから気持ち悪くって気持ち悪くって」
こうして、僕はグレアムさんの2匹の使い魔に弟子入りすることになった。兄弟子と初めて出会った時に、不憫な人を見るような、哀れむような目をしてこっちを見てきたが、その意見を知るのはまだ先の事。
「おーい、バリ君やーい。そろそろ現実見ようぜ」
「むしろ今まで走馬灯を見てた気がする」
「まだ模擬戦始まってすらいないのに気がはえーよ」
師匠達に面倒を見てもらい始めてから数年後、俺は兄弟子と同じように士官学校に入学していた。士官学校を卒業して時空管理局という幾多の世界を守る組織に入ることが、世界を旅する近道だと言われたからだ。個人で世界を旅しようとすると、手続きが複雑なんだそうだ。
そして、卒業まであと僅かとなったところで言い渡されたのが、この陸戦魔導師対空戦魔導師という、片方が蹂躙されるだけの結果も有り得る内容の模擬戦だった。今までにも何度か行われたこの模擬戦。俺たち空を飛べない陸戦魔導師の勝率は高くない。なんせ相手が飛ぶ前に潰さないと、俺達は近接戦という手段を失うからだ。そこから始まるのは、空からの一方的な射撃の雨に撃たれるという悲しい現実。もうやってられんよ、まったく。
教官曰く、現場に出て偶に起こる事だから今のうちに体験しとけとのこと。教官の言う事ももっともなので俺達も頭を捻ってどうにか相手を撃墜しようとしているのだが、速攻でバインド魔法で相手を縛り付けてタコ殴りにするか、結界魔法を使って高さ制限のある世界に閉じ込めて空を飛ばさないようにするぐらいしか方法がない。どちらも2回目以降は対策を取られてしまったけどさ。特に結界なんて高威力の射撃魔法ですぐに破られたからなあ。
「ああ、我らが同期ながら恐ろしい連中だよな」
「まったくだ。結界の同一点に複数の射撃を叩き込むなんて視界でもリンクしてんのかあいつら」
言い訳になるが、俺達は結界が破られないように複数人を結界維持にまわしていたのに、やっこさん達は同一点に射撃、というか砲撃魔法を叩きこんでこちらの予想以上の負荷を掛けて結界を破壊してくれた。一応何度もテストして、Aランク魔導師の砲撃にも耐えられるように作ってたんだけどな、あの結界。
「で、今回はどうするんだ? あいつらバインドの破壊も早くなってきたぞ」
「今回は試してみたい結界があるから、それの実験台になってもらおうかな、と。な、ティアラ」
「ええ、今回はそう簡単に壊れさせないわ」
「……お前ら特化型コンビは時々やりすぎるからほどほどにな」
「「まっかせなさい。今度こそ為す術なく地べた這いずり回らせるから!」」
「ああ、また反省文コースかよ!」
失礼なことを言ってるのがゼファー。我らが陸戦魔導師の有望株で、空を飛べない事を除けば殴ってよし、砲撃よしの万能型の魔導師だ。俺達同期の中では唯一のA+の魔導師ランクを取得出来るのではと言われている存在だ。もちろん、陸戦の面子の中では、だ。
そして、結界やバインド等の補助魔法に特化した魔導師のティアラ。
基本はゼファーが作戦を決めメンバーを率いて攻撃。俺やティアラみたいな補助魔法が得意な連中は事前に聞いていた作戦に合わせた魔法を使って補助をするという至ってシンプルな構造になっている。
それで、何故この3人が作戦を話しているかというと、同期の中で陸戦魔導師が少ないという事情がある。士官学校だけあって、空を飛べるのがほとんどなんだよ。で、飛べない連中の中で、補助特化型は俺とティアラのみ。他にも補助魔法を上手く使えるやつもいるけど、ただでさえ数が少ない陸戦魔導師。補助に回るよりも攻撃に加わってもらわないと火力が足りなくなる。なので、攻撃組のトップであるゼファーと、補助魔法特化型の俺達2人が作戦を決めている。で、必要に応じて人員を攻撃組から補助組に回して貰ってる訳だ。
「で、今回は何人そっち回せばいい?」
「そうね。私達の護衛に1人回してくれたらいいわ」
「それだけでいいのか? まあ、こっちは助かるけどよ」
こちらは8人、相手は16人。倍の数を相手にしないといけないから、攻撃に回れる人数は多ければ多いほうがいい。だが、今までは結界の維持や、初手で出来る限りバインドで捕獲しないといけなかったので最低でも2人は借りていたので、ゼファーが疑問に思うのも最もだ。
けれど、そんなゼファーを尻目に俺達は今回用意した魔法の術式の確認を行う。なんせ昨日完成させたばかりのこの魔法。本当なら今日にでも使えるかどうかゼファー達にテストしてもらい、問題点を洗い出すつもりだったんだ。なのに、今日の訓練の時間にいきなり模擬戦を告げられたもんだから、テストなしで模擬戦で使わざるをえなくなってしまった。なので、入念に術式をチェックしないと気が休まらない。発動しませんでしたとか洒落にならない。
「うっし。なら、教官に準備出来たと伝えてくるか」
「よろしく、リーダー。今回は勝つぞ」
「あたぼうよ!」
こうして模擬戦が始まった。そして――
「ああ、くそっ。また結界か。早く壊せ、空を飛べないぞ!」
「壊せって言っても、どこを狙えばいいんだよ!?」
「下手に撃つなよ、こっちに転送されてきやがる!」
空戦魔導師が空を飛べずに右往左往するという摩訶不思議な空間が出来上がっていた。空を飛ぼうとしたら地上に激突。いつものように射撃で結界を壊そうとしたら、その射撃が自分に返ってくる。そして混乱しているところに俺達陸戦魔導師が襲いかかっている。
今回使った結界の効果はとても簡単で、結界に触れたら人だろうが魔法だろうが俺が指定した場所に転送されるという物だ。その結界は高さ3m程度のところに展開しているので、空戦魔導師お得意の空戦は仕掛けられないし、魔法で壊そうにもその魔法も転送してしまっている。
航海の書と契約すると転送魔法特化型になる。その結果、転送魔法に必要な魔力は最低限で済むようになる。普通は距離や転送する物の質量によって消費する魔力は増減するのだが、俺の場合は全て等しくローコストで転送することが出来る。
そして、他の才能を犠牲にした代わりに、契約者にはあるレアスキルが発現する。目で見ただけで、その空間の座標が読み取れるというものだ。短距離ならともかく、遠距離や知らない場所ともなれば機材や魔法等によって座標を調べないと転移出来ないのだが、俺達契約者には、それを省く目が与えられ、見た座標は全て航海の書に記録される。なので、俺達は知らない場所でも機械の映像をディスプレイ越しに見ることさえ出来ればそこに転移することができるし、歴代の契約者が行ったことのある場所なら自分が訪れたことが無くても転移することができる。
今回の結界には転送魔法の術式が混ざっており、触れた相手は基本的には自動的に地面に向かって逆さまに転送される。本当は魔法も自動で転送されるようにしたかったのだが上手くいかず、結界に触れると一時他の場所に転送して、そのつど俺が指定した空間に再転送する形になっている。これの自動化に成功したら、俺も攻撃に加われるんだけど、今はまだ無理だ。
そして、この結界の維持だが、結界の維持はティアラが負担し、転送する度に消費される魔力は俺が負担している。いくら俺が最低限の魔力で転移魔法が使えるからと言っても限度がある。なので、この結界はあまり長時間は使えない。今は相手が混乱しているし、魔法が自分に返ってくることを恐れて射撃魔法を控えているけど、ヤケになって射撃魔法を乱発されると、それだけ俺の魔力が減って、結界が維持できなくなるのだから。
まあ、他にも欠点はあるんだけどな。
『ちょっと、結界を張るのにも限度があるんだから早く倒しなさいよ』
『こいつらいつもと違って空が飛べなくてもしぶといんだよ。今までならもう倒してたのに、既に2人やられた!』
ティアラが念話でゼファーに催促すると、意外な報告がされた。あいつらお得意の空戦を封じたのに、それでもこちらの戦力が2人削られている。結界を張ってまだ10分程度しか経っていないのに。ということは、あっちも陸戦の練習をしてたのか。これだから努力を怠らない連中は面倒くさいんだ。
『なら、最終手段を使うから、いつでもそいつらから距離を取れるようにしといてくれ』
『それと、バインドの用意もしといてちょうだい』
『何をするのかは知らないけど、了解した』
「そんじゃま、第2段階と行きますか!」
「さすがにこれをやったら反省文確実だから、やりたくは無かったわ」
ティアラが憂鬱な顔をするのも分かる。俺だってできたらやりたくは無かったよ。ただ、このままだと攻撃組が負けるかも知れないから、やるしかない。
「それじゃあやるぞ。航海の書、目標を上空に転送」
『――!』
転移魔法を使い、以前から目を付けていた旧校舎を遙か上空に転送して待機させる。さすがに何も言わずにこのまま落とすとマズイからなあ。廃校舎と言っても弁償しないとダメになるかもしれないし。それに、もしかしたら死者が出るかもしれないし。
「相変わらずバリオスの転移魔法って目茶苦茶よね。あんな質量のでかいやつを1人で転移させるなんて、普通はできないわよ。しかもまだまだ魔力も余裕ありそうだし」
「それに特化してるんだからこれぐらい出来るって。さて、降伏勧告しますか」
これで降伏してくれると校舎を落とさずに済むんだけど、あいつら諦め悪いから足掻くかも知れない。さて、その場合本当にこれを落とすかどうかも含めて、どうなるのやら。ドキドキするね?
『あーあー、聞こえるかな、空戦魔導師の諸君。君たちは一方向から包囲されている』
『こちら空戦リーダーのホーネットだ。どうしたバリオス、既にそちらの攻撃組を3人落としたが、降伏してくれるのか?』
『おいおい、一方向からってのにツッコミなしかよバカヤロー。まあいい、上を見てみるといい』
『上だと……はあ!?』
念話で話しているホーネット以外の面子も驚いて叫んでいる。そりゃ頭上に校舎が浮かんでたら驚くわな。この作戦を伝えていなかったフェザーは頭を抱えて叫んでいる。きっと今後の事を想像しているんだろう。ごめん、リーダー。今回も反省文だ。そして、撃墜されて待機場所に転送された仲間も顔を手で覆って嘆いている。いやいや、お前らがさくっと落とされたのが原因なんだからちっとは反省しろよ。
『驚いてくれて何より。ホーネットの驚く顔なんて滅多に見れないからなあ。さて、見ての通り、旧校舎を上空に待機させている。降伏しないなら、こいつらを君等に叩きつけようと思うんだ。降伏してくれるね? ちなみに、早く返事をしてくれないと、校舎をあの空間に固定してる魔法が維持できなくなるよ。だから、早めの返事を推奨しよう。おっとこんな事を言っている間にも時間が半分になったよどうする!?』
『お、俺達は――』
この後、教官が止めに入って俺達陸戦魔導師の勝利となった。反則負けと言われるかもと恐れていたが、一応は勝利判定を貰えるようだ。ただし、俺達陸戦魔導師は全員が反省文を書く事になったが。そして、全員に飯を奢ることにもなった。なぜか共犯のティアラにも。おかしくないか?
「いいからさっさと反省文を仕上げろよ。教官帰っちまうぞ」
「100枚なんて1日で書けるか!」
「でも、提出明日まででしょ。学校にいる間に書かないと、寮に帰ったら書けないわよ――空戦の連中に襲われるから」
「何でお前は共犯なのに20枚で済むんだよ!?」
こうして、俺達は士官学校始まって以来1番の問題児達と言われるようになる。俺達とは逆に1番の優等生達は3つ上の代、クロ先輩がいた代と言われており、学校を卒業してからクロ先輩と会った時にお説教を頂くことになる。
劇場版なのはを見て、執筆意欲が湧いて数ヶ月。ようやく形になりました。
どうも初めまして磨殊です。
もし興味を持って頂けたのなら今後もよろしくお願いします。
いないとは思いますが、他の小説を見たことのある方へ。ごめんなさいすみませんでも今後とも両作品をよろしくおねがいします。
第1話ですが、主人公の大雑把な説明回となっています。
なのはの2次創作なのに、出てきた原作組はギル・グレアム提督のみです。
リーゼ姉妹との修行シーンを書けばよかったのに、書かなかったから女っ気ゼロです。
誰が期待するんだこの話?
はやくギャグとコメディとほのぼのが書きたいです。
なので早く出てきてくださいはやてさん、貴重な関西弁枠!