シスターが先輩を探しに行ったのを見届けてから、改めてカリムさんと顔を見合わせて真剣な雰囲気を作り出す。さあ、これからが交渉だ。
「では、邪魔者が居なくなったところで」
「悪巧みと行きましょうか」
「え、ちょう待って。何かおかしい」
何一つ知らせてなかった八神があたふたしているが、残念ながらこれ、アドリブ入っているものの結果は予定通りなんだよね。
今回会うの相手は聖王教会でそれなりの地位にいる人。それは事前に分かっていたんだから、事前に協議は重ねてるって。こうやって相手と直接会うってのは、ある程度内容固まってからよ?
「やらせ?」
「惜しい!」
「正解は――八百長ですよ」
「はあっ!?」
念話と転送魔法って便利だよねえ。派手じゃないし、探知でもかまされない限りバレないし。
ということで、八神にネタばらしをする。と言っても、眼球の前に転送魔法を展開して、見たいとこの空間と繋いぐという手段でここではない場所を見てただけ。あとはその光景をカリムさんに伝えれば終了。簡単だろ?
カリムさんはカリムさんで、微笑みを崩さずに念話で会話するぐらいさらっと行えるし、今回は楽だったね。
「えーと、つまり?」
「先輩は膝抱えて拗ねている、という姿を現在進行形で覗き見してるのさ」
「シャッハからもらうおやつ、1つ分けさせてもらいますね」
「悪巧みってそれのことかいっ!」
八百長のネタばらしをすると、八神が立ち上がって吼えた。あれ、そんなに気に入らなかったの?
カリムさんと顔を見合わせて、こんなはずではと首をかしげる。おっかしいなあ、清濁併せ呑めるよう教育してきたはずなんだけど。
「いやいや、そうちゃいますから。もっとスケールのでかい話やと思ってたから肩すかしくらっただけです」
「あれ、じゃあ前フリ無しで八神の騎士認定と、その見返りについて再確認をしましょうか」
「当の本人がおっしゃってるならしょうがないですね。夜天の書にある魔法の提供及び、融合騎の作成と稼働データの提供ですね」
「ああ、ほらやっぱりスケールでかいのあるやないですか!」
そんな事ないだろうとカリムさんを見ると、あちらも不思議そうな顔をしている。そうだよね、そんなスケール大きくないよね。
スケール大きいってのは、ほら、アレだよアレ。管理局がどっかの研究課が違法行為しているのを、成果の逐次提出を条件に見逃してるとか、そういう部類だよ。
ねえ、カリムさん?
「そうですね。こちらだととある騎士が報告されていないレアスキルを使って、ロストロギアを集めているのを管理局と合同で見逃している、なんてどうでしょうか?」
「ああ、それと比べると確かにスケール小さいような気がしてきた……いや、あんま変わらんような?」
「気のせい気のせい」
「ええ、少なくとも八神さんを旨味が無くなったからって逮捕するようなことはありませんから、安心してくださいね」
「……たしかにスケール小さかった」
怖いとこに関わってしもたと八神が呟いているけど、これ、簡単には捨てられないようにする為の交渉だからな?
管理局だけだと、こちらが関われないような上の意思1つで捨て石にされそうだからなあ。ここの上層部、結構えげつないんだよね。
だからこそ、他にも保護者作って簡単には切り捨てられないようにしないとね、という事で選んだのが聖王教会。聖王教会は古代ベルカの王を信奉しているし、古代ベルカ式の使い手の保護にも積極的という事なので、おそらく管理局よりは安全だろうと課長やグレアムさんと結論付けた。自治領と独自の戦力も持っているから、いざという時の逃亡先にも使えるから更に安心できる。
「こちらとしましても、夜天の書に蓄えられた魔法には興味があるのでお互いに得をする取引なんですよ」
「それやと、なんやうちらの方が得してそうなんですが」
「私は、八神さんに騎士の称号を与える。つまり、聖王教会と貴重な古代ベルカ式の使い手及びその守護騎士との間にコネを作ることに成功する事で自分の立場を強化することができます」
「こっちとしても、ある程度の立場が約束されていてもまだそこまで立場が固まってないカリムさんなら、そこまで無茶な要求をされないから、あまり身を切らなくてもいいよね」
立場が上過ぎたら呑まされる要求が多くなるし、下過ぎるとその人との交渉が上手く行っても組織に受け入れられない。カリムさんは、そのレアスキルから一定の立場が保証されているけど、まだ若くてそこまで立場が盤石じゃない。なので、カリムさんはうってつけの交渉相手だったと言える。
「はあ、なるほどなあ。そしたら、融合騎を作るのは何でです? うちらに頼まんでも聖王教会が自分でやったらええと思うんですが」
「過去の稼働データはあっても、作る余裕がないんです。インテリジェントデバイス以上の費用がかかりますし、作っても適合する使い手がいるか分かりませんし」
「その点、八神だったら夜天の書を参考にすれば成功率高い」
「そんなんせんでも、最初っからリインフォースを復活させたら」
「まだアレにはブラックボックスが多くてなあ。それを埋めるデータを取る為の、融合騎作成だね」
「聖王教会は、その稼働データを見返りに、参考になりそうな過去のデータの提供をさせてもらいます」
資金提供は管理局から。貴重な戦力になる八神をこのままにするのはもったいないので、融合騎を制作する資金くれと申請したら通ってしまった。それも一度も却下されずに。却下されるとばかり思ってたんだけどね。そもそも、デバイスなんて3課で開発するような代物じゃないしね。
なので、どうもこれはちょいとばかしきな臭いなという事で、課長と相談して今回の外部提携が決まったという訳ですよ。管理局がこんな費用高いデバイス、しかもほぼ特定の人物しか扱えない物を作る予算をあっさりと認める訳ないもの。というか、そっち認めるなら3課の増員認めてくれてもいいんじゃないかな。
「その御蔭でこちらは八神さんとの繋がりが持てたのですから、時空管理局には感謝しないといけませんね。では八神さん、こちらの契約書にサインを」
「一応中身読んでおいて。まあ、騎士としての振る舞いを心がけるなら騎士として認めるって内容だから」
「はいはい、と」
八神がサインをしたのを確認し、写しを交換して今回の協定は締結された。
「という事で八神、これからはデバイスマスターの資格取れるよう勉強しておくように」
「ちょう待って。もしかして融合騎私が作るんですか?」
「そのまさか、だよ八神」
八神が信じられない物を見るような目をしているが、管理局にも聖王教会にも融合騎を作った人はいないんだから、誰が作っても一緒だ一緒。だから、今後の事も考えてデバイスマスターの資格を取って、自分で修理も作成も出来るようになっておこう。な?
「こちらで融合騎の作成をした事がある人を確保出来れば良かったのですが」
「まあ、そんな人いないですよね。いたら多少の無茶してでも夜天の書の修復に協力してもらってますよ」
「えーと、せめて他のデバイスマスターに作成依頼するってのはあかんのですか?」
アリサちゃんやすずかちゃんのデバイス作ってた人らとか、と八神が言うけども、残念ながらそれはまあ、無理だろう。提案したら、本人達は乗り気でやってくれるだろうけど。なんせあそこは次期制式採用機の試作が任されるようなエリート集団だからなあ。課長を始め、性格は残念な人しかいないけど。
「あそこから人材を引っこ抜いたら、次世代機の制作スケジュール確実に遅れるから」
「あっ」
そんな事になったら、それこそ次世代機を待っている現場連中や士官学校の連中から恨まれるって。あと、試作機を試験的に使用している教導隊もかな。まあ、時期が悪かった。頼めば目を輝かせて協力してくれそうな人ばっかしなんだけどね。
自分とカリムさんに無理と言われて、マジで自分でやらんとあかんのかと頭を抱えている八神を慰めていると、部屋の外から先輩とシスターが話している声が聞こえてきた。
おっと、2人が戻ってきたか。
「では、内緒話はここまでですね」
「ええ。実のある話が出来て幸いでした。八神さん、騎士認定が終わればいつでも気軽に訪れてくれたらいいですからね?」
「ほな、仕事に追い詰められたら隠れに来させてもらいます」
それはそれでどうなんだ八神。カリムさんが困った顔で笑ってるじゃないか。
そうこうしてると、ドアが開き、少し怒っているようでもあり呆れているようでもある表情をしているシスターと、先輩がそのシスターに耳を引っ張られて部屋に入ってきた。
あれだ、先輩。すごくカッコ悪い。これが、あの泣く子も黙る査察官の姿だと思うと涙が。この人、これでも査察官の中では腕が良い方らしいから、世界は不思議で溢れているよね。
不思議なんだけど、この人の監査厳しいんだよなあ。
「尻に敷かれている先輩、カッコ悪い」
「顔は美形なんで、余計に残念度が跳ね上がってる気がするのは私だけですか?」
「そういうところも含めて、可愛い義弟でしょう?」
「カリム、さすがにそれは身内びいきが過ぎると思いますよ」
このちょっと残念なところが可愛いのにとカリムさんが言うが、賛同者は誰もいなかった。そりゃいないよ。そんなのが可愛いのは子供の頃だけだよ。ああ、いや、自分達もまだ大人と呼べる年齢じゃないんだけど、少なくとも先輩みたいに背の高くてキザったらしな雰囲気してる人が残念だと可愛くないです。それはただの残念な人だ。
「ダメだ、どこにも味方がいない!」
「査察官を味方と思うとか、職員としてダメだと思います先輩!」
「あの、本当にこれでええんか時空管理局」
人手不足で働いても働いても減らない仕事があったり、人気部署に人集まりすぎてバランスおかしいのに放置してたりするから、けっこうダメなんじゃない?
思っている事を正直に伝えると、八神と先輩が揃って額に手をあて溜息をついた。それもそのはずで、八神は自分と同じ部署で働いているし、先輩の所も特殊な部署だから常に人手不足だと言われている。共にどれだけ時空管理局が末期なのかはよく理解していると思う。
「管理局も中々大変みたいですね。話も終わったみたいですし、デザートを持ってくるので少々お待ちを」
「シャッハ、あなたのデザートは」
「はあ。ヴェロッサが膝を抱えて泣いていたので、カリムに進呈します」
泣いてない、泣いてないからと騒ぐ先輩を無視して、シスターはデザートを取りに部屋から去っていった。そして、膝から崩れ落ち、涙を浮かべながらこちらを見つめてくる先輩。
なんというか、先輩。ほんっと扱い雑ですね!
「本当に泣いてないから!」
「泣いてたな、これ」
「泣いてたんですね」
「ほら、可愛いですよね?」
まだそれ言いますかっ。とりあえずそれはおかしいと2人で否定しておいた。これは情けないと言うべきなのでは。
なお、先輩は可愛いと情けないだったらどっちがまだマシかと悩み始め、八神はそれを見ながら面白い人を発見したと目が輝いている。いや、あの、確かに弄りがいあるし、今回情けない姿ばかり見せてるけど、本当はキザったらしな雰囲気通り、超有能な人だからね? 本当のことだから、そんな疑わしげな目で見るのやめてあげよう。ほら、先輩傷ついてるから。
「あー、うん、とりあえず僕の分のデザートを、八神さんにあげよう」
「え、いいんですか!?」
「いいよいよ。自分で作ったやつだから、食べたくなればまた作ればいいんだ」
「ライムさん、この人めっちゃいい人や!」
おい、あっさりと買収されてるぞ。
どうやら先輩は、出合い頭から下がっている八神の好感度を、自作のデザートで挽回するようだ。たしかに先輩のデザートは美味しい。エイミィ先輩にも好評だったから、おそらく八神にも受けはいいだろう。
この先輩、その料理の腕前といいルックスといい、クロ先輩とは別ベクトルで女性からの人気高そうなんだよなあ。残念な人というのが今回分かったけど。
「ライムさんライムさん。ライムさんの分のデザートもくれてもいいんですよ?」
「まだ食べた事ないから嫌だ」
「即答!?」
「もし気に入ってくれたのなら、八神さんがまたここに来た時に作ってくるから。はい、これが僕の連絡先」
なるほど、こうやって自然に連絡先を交換するんだ。勉強になります。ところで先輩。後ろでシスターが冷たい目で見てますが。
「あの、何でそんな目で見られているのかな」
「いえ、特に何もありませんが。さあ、デザートを持ってきましたので休憩にしましょう。八神さんにはヴェロッサの分のデザートもあげますね」
「ちょっとシャッハ、何で機嫌悪いのかな!?」
うん、この3人も3課の面子に負けず劣らず個性強い。
この後、先輩お手製の、噂に違わず美味しかったデザートを食べつつ先輩を弄り倒し、教会を後にした。あのシスターさんもやり手だし、それなりの地位にいるカリムさんや、有能な査察官の先輩もいる。ここならいざという時、八神が逃げてきても助けてくれるだろう。まあ、そんな事態にならないようにするのが、課長や自分たち3課のメンバーのお仕事なんだけども。
スクライア一族の仕事が忙しかったり、試験が続いていたりと絶賛修羅場継続中なので、投稿が遅くなってしまいました。
そして、ヅヴァイ誕生させる為の準備回を書いているので、書きたい事が中々書けないのがツライ。
このままだと、他のSSと大差無くなりそうなので、サクッとヅヴァイ誕生させて軌道修正しようと思います。
次回の投稿は、今回と同じで試験と仕事次第になります。