物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第11話

 よく晴れた天気が続いていたある日の事。

 その出来事は、当の本人以外はまったく予想しないタイミングで発生した。

 

「融合騎ができたでー!」

「はあ!?」

「あ、主はやて、流石に早すぎませんか?」

「はやてちゃん、エイプリルフールはもう過ぎましたよ?」

「はやてー、先週まで上手くいかないって叫んでたじゃん。夢の中で完成させてもダメだよ?」

「私の先輩と守護騎士達が厳しすぎる件について」

 

 八神がなにやら絶望しているけど、そう言われても仕方ない。なんせ昨日も遅くに帰ってきて、これでいけるはずなのに何でだと頭抱えてたからなあ。それが次の日に完成したと言われても、ねえ?

 守護騎士たちは、早く八神を寝かせようとシグナムさんが八神の後ろに回り、同時にシャマルさんが風呂の用意に走り、ヴィータさんが夕食を温めに行った。

 

「いやいやいや、あの、ほんまに完成したんやけど!」

「ライム、明日、主に有給を頂けないだろうか」

「そだね、今申請するよ。明日は家から出さないように見張っててねザッフィー」

「ザッフィーと呼ぶな、噛むぞ」

 

 ザッフィーが牙を剥いて唸るので、両手を挙げて降参の意を示した。このワンコ、怒りやすい。

 

「噛むぞ」

「犬用のガムあるけど――食べる?」

「なぜ持っているんだ」

「……何でだろうなあ。何で俺、こんなの持ってるんだろうなあ」

「……もらおう」

 

 仕事をこなしていたら、総務のオバ……じゃなかった、お姉さんになぜかもらった犬用のガムをザフィーラに渡す。犬飼ってないのに渡されてもなあ。というか、なんで持ち歩いているのさ。

 ザフィーラは狼モードになると、渡されたガムを咥えて噛んでいる。本人曰く、これは高級品だ、とのこと。君、犬用のガムのソムリエ出来るの?

 

「あかん、うちの家族が誰も言う事聞いてくれへん」

「お風呂の準備出来ましたよー。シグナム、はやてちゃんをお風呂に入れてきてちょうだい」

「主はやて、行きましょうか。そして、今日は早めに寝ましょう」

「……はーい」

 

 

 

 

 

「だから、ほんとに出来たんですって。信じてください」

「おい、このちび狸寝ぼけてるぞ」

「はやてちゃん、エイプリルフールはもう過ぎましたよ?」

「その流れは昨日やったわ! て、誰がちび狸や!?」

 

 はやてが机に手をつきながら立ち上がり、勢い良く叫んだ。こいつ、自分の足で立てるようになってから、ツッコミがダイナミックになってきたなあ。

 やっぱり、車椅子だと動きが限られるから、思うようにツッコミ出来なかったのか。前より楽しそうで何よりですよホント。

 

「え、何でそこで生暖かい目で見られてるんです」

「いや、元気になったなあ、と」

 

 シャマルさんも同じ意見なのか、嬉しそうに頷いている。しかし、シグナムさんは若干寂しそうにしている。

 あれか、はやてを抱えて移動する事が無くなったのが寂しいのか。それとも儚げな印象が綺麗さっぱりなくなって、元気というかコメディアンっぽくなったのが哀しいのか。

 

「前と変わらん気がするんですけど」

「そう思っているのははやて、お前さんだけだ」

「そうそう、おかげで前よりつまみ食いし出来なくなったんだよ」

 

 それは関係あるのか、ヴィータさん。というか、騎士で俺より長生きしてるのにつまみ食い……

 そんな事を考えていたら、ヴィータさんに睨まれた。いや、でも、戦闘中と家の中とでギャップが激しいと言いますか、ねえ?

 ほら、シグナムさんも溜息ついてるし。

 

「はやての作る飯がギガうまなんだからしょうがないんだって」

「そう言ってくれるんは嬉しいけど……て、話がそれてません?」

「主はやて。本当に完成したのですか? つい先日までどうしたらいいのかと悩んでおられた気がするのですが」

「ホンマホンマ。悩んでたらな、夢の中でリインフォースからお告げがあってん」

 

 そのお告げを信じてやってみたら完成してもうたと嬉しそうに語るはやてを見て、俺たちは顔を見合わせる。

 これ、大丈夫なの?

 見れば、はやて信者のシグナムさんですらなんとも言い難い表情をしている。

 

「あの、主はやて。少し時間を頂いてもよろしいでしょうか」

「へ? ええけど、何するん?」

「少し、家族会議を」

「私抜きで?」

「はい」

「家族会議やのに私が省かれて何で先輩が!?」

 

 はやての驚く声に対し、守護騎士達と顔を見合わせ互いに何かおかしな事を言ったかと首をかしげている。

 特におかしいところはないと思うけど。おかしいのははやて。

 

「バリオスは主はやての婿になるのでおかしい事は何もないと思うのですが」

「はい?」

 

 何言ってんのこいつ? 誰が、誰の婿だ。守護騎士もボケるの?

 真面目なシグナムさんが突然ボケたことを言い出したので、まともに返す言葉が出てこなかった。

 

「シグナム、それは違いますよ」

「そ、そうそう、ライムさんが私の婿になる訳ないやん」

「はやてちゃんがお嫁さんになるに決まってるじゃない」

「んなあ!?」

 

 お、はやてが奇声あげて真っ赤になりやがった。これ、はやて仕込みのお笑い劇場じゃないのか。

 ……おい、ちょっと待って。

 

「シャマル、はやてが嫁になっちゃったらあたし達も八神じゃなくバリオスになるのか?」

「そういえば、便宜的に八神姓を使わせてもらってるわね」

「法律に照らし合わせると、主が嫁に行っても、私達はそのまま八神姓なるのではないか?」

「あなたもそっち側かザッフィィィィィ!?」

「ザッフィーと呼ぶな。噛むぞ」

 

 あなただけはまともだと信じてたのにひどい!

 というか君らはやて信者じゃなかったの?

 何でそんなにノリ気なんですか。もっとこう、はやてに彼氏出来たら反対するというか、俺を倒していけみたいな感じで立ちふさがると思ってたのに全然違うじゃないか。

 

「うーん、それはヤダ。私達だけ違うのはなんか寂しいじゃん」

「では、やはりバリオスが婿だな」

「婿ですね」

「ああ」

「異議なーし」

「ちょ、ちょう待って。ほんと待って。お願いやから止まって」

「いや、え、なにこの展開。え、えぇ?」

 

 どうしてはやての頭を心配する流れからこうなったのか、俺にはまったく分からない!

 はやての方も「それはもっと外堀埋めてから言うつもりやったのに」とか「こんなんでバレて玉砕したら、うちもう立ち直れへん」とか言って自爆している。

 ……自爆?

 これ冗談じゃなく真剣なやつか!?

 

「いえ、主の気持ちも分かります」

「でもですね、はやてちゃん。外堀を埋めるのもいいんですが、ちょっと慎重になりすぎかなと思うんです」

「見ていてじれったいんだよな」

「そんなこと言うたかて、勝手に言うなんてあんまりちゃうかな!」

「なのはに、早くあの2人をくっつけろって、会う度に言われるんだよ」

「私は同じようなことをテスタロッサに」

「アルフに言われております」

「あかん、周りが全部敵やった!」

 

 あれ、もしかしてこれ、俺だけ気づいてないパターン?

 そう思ったのが表情に出たのか、守護騎士全員に顔を縦に振られた。むしろ何で今まで気づかなかったのかと不思議そうな顔をなさってる。

 そっかー、俺ってば鈍感野郎だったのかー。そんなやつこの世にいるのかと思っていたけど、まさか自分がそっち側だったとは。

 気にするなと言わんばかりにヴィータさんが足を叩いてくる。身長のせいで肩叩けないからなんだろうけど、それを除いても仕草がかっこいいなあ、この人。

 

「はやてを泣かせたら叩き潰す」

「こわっ」

 

 ダメだこの人、慰めるつもりじゃなくて殺しにきてる。おそらく他の守護騎士たちも、口では認めてると言いつつも隙あらば排除するつもりだ!

 気づけば俺とはやてを中心にして、守護騎士たちに包囲される形となっていた。こいつら、無駄に技術使って、こちらに気づかせることなく距離詰めて陣形整えるとか大人げない。日常でそんな技術使わなくていいから。

 

「なに、誠実な対応をすれば私たちは怒りはしない」

「できればはやてちゃんが幸せになる答えが良いんですけど、そこは人の気持ちですから」

「はやての飯で餌付けされてるんだから、諦めて素直になっとけば?」

「私としては、男が増えるのは助かる。男一人というのは辛いこともあるのでな」

 

 そして、さらに包囲網は狭まった。

 お願い、ちょっと待ってください。いきなりのことで頭混乱してますから。処理追いついてないですから。

 いきなり本人以外から好意暴露されてすぐに回答できるほど人生経験豊かじゃないですって。

 

「いやいやいや、あのあのあの。みんなちょう落ち着こ、な?」

「はやてが落ち着くべきだと思うよ?」

「そんなこと言ったかて、こんな形で私の初恋砕け散るなんて嫌やー!」

「あの、はやてちゃん? 砕け散るの前提なのはどうなのかしら」

 

 慌てふためき、嫌だ嫌だと叫ぶはても十分に混乱していた。

 まあ、さもあらん。俺も逆の立場だったら同じこと言いそうだし。

 さて、とりあえず一緒に逃げるためにはやての肩に手を置いて、と。

 

「な、なんですライムさん!?」

「うん、とりあえずな、はやて」

「ま、まさかちび狸だから嫌とか言いませんよね? こんなんにしたのはライムさんなんですから責任取るべきちゃうかなあ!?」

「よーし、お前さんも少し落ち着け」

 

 思っている以上に混乱しているはやての言葉に驚かされるが、とりあえず転移先を指定。

 シャマルさんがようやく気づいて妨害しようとするが、もう遅い。

 

「こんなカオスな場所にいられるか! 俺は逃げさせてもらう」

「シャマル!」

「間に合いません!」

 

 そりゃこちとら転移に特化した魔術師ですから。支援魔法が得意とはいえ、そうそう負けられませんって。

 

 

 

 

 

「それで、わざわざ逃げた先が職場ですか」

「職場と自宅と八神家が転移した回数多いから、咄嗟に転移しやすいんだって」

「ライムさんの自宅でも良かったんですよ?」

「あの雰囲気の後で?」

「……職場最高ですね!」

 

 そうだろう、そうだろう。あんな会話した後で俺の部屋に行ったら気まずくってしょうがないだろ。

 はやてもそう思ったのか赤くなった頬を指でかきながらタハハと笑っている。

 まったく、あの守護騎士たちは何を考えてこんなタイミングではっちゃけたのやら。最近あいつら、エクストリーム入りすぎじゃないかなあ。

 

「まあ、なんか有耶無耶になってしまいましたけど、せっかく職場に来たんですし、ユニゾンデバイス見に行きません?」

「え、本当に完成したの?」

「だから、最初からそう言ってたじゃないですか」

 

 はやてがため息をつきながらうなだれた。

 何度も言うけど、この前までどうにもならないと困っていたのに、数日後に完成するとは思わないから。それに、俺も課長も聖王教会も数カ年計画で考えていたから、そうそう信じられる話じゃないって。

 ブツブツ文句を言うはやてを宥めて、ユニゾンデバイスを確認しに行くことになった。

 

「さっきの騒ぎに対する答えは、その後ということで」

「へ、ちゃんと答えてくれるんです?」

 

 はやてがポカンとした顔で聞いてくる。

 いや、そりゃあ、大切な事だからちゃんと答えは出しますって。

 というか、何で驚いてるのさはやてさん。

 

「冗談じゃなさそうだったし。たしかにあんな状況で好意伝えられるとは思わなかったけど、真面目に答えるから」

「え、えーと。あかん、なんか緊張してきた。ライムさん、ユニゾンデバイス見に行くの後にしません?」

 

 戯言をぬかすはやての手を引いて、作成室に向かうことにした。

 こいつ、今みたいに急にヘタレたり、守護騎士の言う通り外堀を慎重に埋めてたとしたら、けっこう臆病者というか、慎重派なのか?

 こう、最初の出会いが強く印象に残っているから、はやてには勇敢とか、勇ましいというイメージしかなかったんだけれども。

 

「ちょ、先輩離して。手ぇ、離して!」

「離したら他のところに行きそうだから却下」

「行きません、行きませんから離して先輩。先輩気づいてないかもしれませんけどこれけっこう恥ずかしいし課長がニヤニヤしながら見てますって!」

「そう言われて離すのも、それはそれで恥ずかしい気がしてきたので却下」

 

 先輩のあほー、とはやてに叫ばれるが、たしかにいつも通り首根っこ捕まえて引きずって行けば良かったなと後悔してるところだから。

 でも、首根っこ掴んで引っ張るには、こいつ成長してきたからそろそろしんどい重さなんだよなあ。

 にしても、女の子の手は柔らかいなあ。シグナムさんの手は剣を握ってるから硬いけど、はやてのは柔らかい。杖握ったり、足使えない分手を多く使ってたからはやても硬いと思ってたけど、これは予想外。

 うん、いいなあ、この感触。

 

「先輩、顔がだらしない」

「おっと失礼」

 

 

 

 

 そして、便宜上作成室と呼んでいる部屋に着くと、そこにはちっこい妖精がいた。

 

「マイスターはやて、そちらの方は誰ですか?」

「どうやライムさん、ちゃんと起動成功して安定期入ってるんや!」

「マジですかよ」

 

 はやては本当にユニゾンデバイスを完成させていた。

 しかし、そのドヤ顔は腹立つなあ!

 あれ、ということは夢のリインフォースのお告げも本物?

 

「だからそう言うたのに。この子はリインフォースの姉妹機、リインフォース・ツヴァイ。きっとライムさんの事も気に入ってくれるはずや」

「自信満々だねえ」

「仲良くなれるかはこれから次第ですが、そのお兄さんからもマイスターはやてに似た匂いがするので、リインは及第点を上げるちゃいます!」

 

 なんだろう、この子、リインフォースの姉妹機なのに天然っぽい。姿は姉妹機というだけあって似てるのに、あのリインフォースからは想像できない明るさが。

 

「そうかそうか。なら、これからよろしくリインフォース・ツヴァイ」

「はい、よろしくお願いします! あと、お兄さんのお名前は何ていうのでしょうか?」

「ライム・バリオス。はやての上司だから、これから会うことも多々あると思う。仲良くやっていこう」

「マイスターはやての上司さんでしたか!」

「上司さんだったのさ! あと、これからもう1つ関係付け加えるから、魔法使って録画しておくように」

「え、ちょ、ライムさんまさか!?」

「はやて、俺はーー」




久々の更新です。
初めての方は初めまして、久しぶりの方はごめんなさい。
まあ、色々と事情がありまして。
そこらへんは活動報告にでも。

そして誰だこんなラブコメっぽいの書いたのは!?
こんな風になるなんで、1話書いた時は全然思ってませんでした。
いやホントに。
気づけばはやてさんが勝手に出番増やしてたんです私は悪くない。

はやてが地味に距離詰めて、外堀埋めてる事は匂わせていたのですが気づいてもらえたでしょうか。
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