物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第2話

 時空管理局の地上本部には、他の会社と同じようにいくつもの部署がある。その中に、物資や人の輸送を専門とする部署がある。

 輸送しやすいように都市の道路を設計する輸送1課。こいつは今では都市計画課と名前を変えている。次に、輸送車両やヘリを開発する輸送2課。こいつは技術部に吸収された。そして、俺が所属している、魔法を使って転送することが仕事の輸送3課。こいつだけは他と合流する宛も無かったので、そのまま存続している。1課と2課が無くなったので、3課を1課と改名しようという案もあったらしいが、そうすると案内板の名前を変えたり諸連絡を回す必要が出てきたりと面倒だったので、ずっと3課の名前が残っている。

 

「バリオス君、ボケーッとしてないで仕事してちょうだいよ」

「ヒゲ課長、ボケーッとしてるんじゃなくて疲れて意識が飛びかけてるんです。というか、課長も右目が閉じてますよ」

「だって仕方ないじゃないの。私らそろそろ36時間勤務やってんだから」

 

 部下を労るどころか仕事しろと急かしてくるのが我らが課長、パシフィック・コースト。通称ヒゲ課長。課長になってるからには優秀なはずなのに、とにかくずぼらな人だ。そのずぼらさを象徴する無精髭がトレードマークになっている。

 

「あー、誰か新人入ってくれないかねえ」

「俺の時みたいに強引に獲ってきてくださいよ。そしたらみんな幸せになれますから」

「君がいるおかげで業務は捗るようになったんだけど、その分新人を入れてもらえなくなったのはちと予想外だったよ」

 

 俺は士官学校卒業後、海の次元航空部隊を希望していた。ところがどっこい、卒業間近にやった旧校舎落とし事件を聞いた地上本部のお偉いさんによってその希望は握り潰された。そして、万年人手不足の地上本部の輸送3課に配属されたという訳だ。

 幾多の世界を任務の舞台とする海の連中とは違い、管理局の管理下にある地上を守る陸の仕事は、総じて人気が少ないので人手が足りていない。優秀な人材は、より危険度の高い任務が多い海が持っていくってのも人手が少ない理由になるだろう。

 そして、この輸送3課は陸の仕事の中でもトップを争うほど人気が無い。なんせ要求されるのが転移魔法の適正の高さだ。転移魔法が得意な人は、大抵は他の補助魔法も得意なので別方面を希望することが多い。なので、毎年新人がやってくる他の部署とは違い、数年に一度新人が現れるか否かという事態に陥っている。人手不足を解消する為に残業・休日出勤は当たり前、家にいても転移魔法を使って転送しないといけない、残業したまま家に帰らずそのまま仕事をし続ける、というのが当たり前になっている。そりゃ誰も入りたがらないって。

 

「ああもう、他の3人は休みをしっかり楽しんでるのに、何で俺は休日出勤してるんでしょうね!?」

「うちの転送システムが故障しちゃったから仕方ないでしょう。他の3人は転移魔法が得意だからうちに来たんじゃなくて、オペレーターとして有能だから来てもらったんだよ? 機械が壊れたら休むしかないっしょ」

「輸送3課と名前ついてるのに、1日に何十回も長距離転送しても平気なのが俺と課長だけってがおかしいんですよ」

「私らも1日ぐらいなら平気だけど、流石に2日ぶっ通しってのはしんどいんだけどね。まあ、ぼやいても仕方ないし、諦めて仕事しましょ、仕事」

「はいはい、そうですね。はあ、機械の修理に3日掛かるってどういうことなんでしょうね、まったく」

 

 輸送3課が出来たのは、地上部隊には空を飛べる魔導師が少ないからだ。もちろん全くいないという訳ではないが、それでも貴重な存在だ。そして、そもそも地上では安全を考慮して勝手に飛行魔法は使ってはいけないことになっている。非常時はそんなことはないのだが、普段は申請手続きが必要となっている。これでは事件が起こっても現場に着くのが遅くなるので、転移魔法による輸送専門部隊が開設された。

 ただ、やはり問題は多い。その1つが、長距離転送を1日何回も使って平気な魔導師がそんなにいない事。いくら時空管理局のお膝元ミッドチルダと言えど、1日に事件は何度も起こる。病人の搬送を依頼されることもある。さらに、輸送3課が存在している首都以外からの要請にも答えないといけない。酷い時には次元航空艦への物資転送を依頼される事だってある。長距離転送を使わずに済む日は無い。

 この問題を解決すべく、うちには最優先で最新型の転送システムが導入される事になっている。これにより、転移魔法が使えない人でも、機械さえ使いこなせれば輸送3課で働く事が出来るようになったのだ。もちろん、転送システムを使いこなせる人、つまり、他所の部署で扱いに慣れている人という条件が付くが。だって、初心者がここに来ても、慣れる前にあまりにも仕事が多くてみんな辞めていったらしいし。

 そんな欠陥があっても役に立つ転送システムだが、課長が言っていたようにその機械が壊れてしまい、転移魔法の得意な俺と課長だけが出勤となったのだ。ちなみに俺は休日出勤で、他の3人は転送魔法が得という訳でもない人たちなので臨時の休日だ。どういうことだよ、士官学校は卒業したけど、子供にやらせる仕事量じゃないってここ。今月の休日、まともに休めたのたったの3日ですよ?

 

「その分、来年度の有給増やすよう上に申請しとくからさ」

「来年度じゃなくて来月だと嬉しいんですけどね! 今すぐでもかまいませんよ!?」

「そんなことをしたら私が過労で倒れちゃうじゃないの。そんでもって、私が倒れたら地上部隊が大変だよ?」

「あー、そういえば地上部隊の緊急出動って、3割がうちの転送による出動でしたっけ」

「ついでに言うと、海の物資輸送の1割もうちがやってるよ?」

「5人で回せる量じゃないですって、やっぱり」

 

 課長も俺も会話しながらどんどん転送依頼をこなしているのに、一向に待機状態の依頼が減っていくようには見えないのはどういうことですかよこれ。

 

 

 

 

 

 結局、転送システムは3日経っても直らず、俺と課長は寝ずの4日目の昼間に倒れたのであった。原因は睡眠不足と魔力枯渇。食事しながらも転送魔法は使えるが、寝ながらは使えない。そして、いくら俺がレアスキルで最低限の魔力で転送魔法が使えるとしても、課長がそのバカ魔力で転送魔法を多く使っても疲れないとしても、さすがに3日ぶっ通しで使い続けていれば魔力の回復が追いつかなかったのだ。今は首都にある病院に担ぎ込まれ、点滴を刺されながら入院している。魔力枯渇が酷いので絶対安静だそうだ。

 

「なのにどうしてせっせと転送してるんでしょうね、俺達は」

「補助魔法は地味だからねえ。使ってもバレにくいんだよね。魔法陣なんてあってないようなものだし」

 

 転送魔法に必要なのは、出発地点と到着地点の座標を把握しておくこと、ただそれだけだ。それさえ出来ればいいので、射撃魔法みたいに派手じゃないし、バインド系みたいに縛る紐が現れることもない。なので、相手から転送したい物の大きさと座標が書かれた指示書さえ届けば、病院でも仕事が出来てしまう。あー、やだやだ。

 

「バリオス君はまだ良い方だよ? 私なんて、ほら。決済が必要な案件がこんなに」

「ヒゲ課長は課長なんだから仕方ないでしょうに。それに、その分こっちに多く仕事回してますよね?」

「あっはっは。そんなことはしてないよー?」

「してようとしてまいと、魔力が回復しきっていないのに魔法を使うとはどういうことですかっ!」

「「げぇ!?」」

 

 病室のドアが勢い良く開かれると、そこには怒れる看護師さんがいた。流石は時空管理局局員がよく担ぎ込まれる病院のベテランさん。ほんのちょっとの魔法行使すら見逃さないとは。それだけ、この病院に担ぎ込まれた管理局員が、こっそりと魔法を使おうとしていたという事が良く分かる。慣れって怖いね。

 

「次にやったら、魔力に反応して爆発を起こすバインドで腕を縛ると言いましたよね?」

「恐ろしいことする病院ですね!? というか、そんなバインド使えるんですか?」

「うちの新人が考案した術式です。たしか、ライムさんの同期と言ってましたよ」

「……課長、本当に危険な術式と思われるので大人しくしておきましょう。やつが作った術式なら洒落になりません」

「君がそこまで顔を青くして言うならそうなんだろうねえ。よし、大人しくしておこうか」

「出来るのなら最初からしてください。では、宣告通りにバインドを掛けますね」

「あ、やっぱりするんですね」

「こりゃまたえらい所に担ぎ込まれたもんだ」

 

 士官学校の時にあいつが使ってたバインド魔法がそのまま使われているとしたら、その爆発はバリアジャケットを吹き飛ばせる程の威力があったはず。そんな魔法を患者に使うこの病院怖いよ。

 そんな風に怖れている俺とは違い、ヒゲ課長は即座に寝た。それはもうぐっすりと、まるで今まで寝れなかった分を取り戻すかのように眠っている。これが大人の余裕というやつか? なんか違うよな、うん。

 

「とりあえず、課長を見習って俺もさっさと寝ますか」

「ぜひそうしてください。魔力が回復するまでは、ホント大人しくしといてくださいね」

「魔力を譲渡してもらうというのは」

「やったら爆発しますよ?」

 

 そんな怖い事を笑顔で言わないでください。この病院はこんな感じでいいのか、大丈夫なのか? 患者から苦情こないのか?

 

「最初から大人しい患者さんには、こんなことしません」

「上から仕事の依頼がこなかったら、俺だって好き好んで仕事なんてやりませんよ!?」

「輸送課はキツイからやめとけという話はよく聞いてましたけど、本当だったんですね」

 

 ああ、その哀れむ目が心に突き刺さりますよ看護師さん。普通は病院関係者の方が激務なはずなのにおかしいよ。もういいや、さっさと寝てしまおう。

 

 この日、転送システムは壊れたままで、課長と俺も倒れたことにより輸送課の機能は停止した。その結果、陸は緊急出動に遅れが生じたり、海の方では補給物資が届かなくなるなどの問題が発生したらしい。技術部には大量の苦情が入って、徹夜で転送システムを直したそうな。そして、入院しているにもかかわらずうちに仕事を依頼した連中には厳重注意がされ、僅かとは言え減俸されたそうだ。これは、入院していた病院の先生が、管理局に怒鳴り込んだ為と聞いた。これを「輸送課の悲劇」と呼び、特定の部署を酷使するのは止めようという教訓になった……とはとてもじゃないが言えない。相変わらずうちはこき使われているし、無限書庫というところも日々酷使されていると聞く。そんな簡単に組織は変わらないってことだろう。

 しかし、この事件を反省して、次年度には転送魔法を使える新人がやってくる事になった。全体としての仕事量を減らせられないのなら、人員を増やして一人あたりの仕事量を減らそうということなんだろうけど、そういう事が出来るんだったらもっと早くやって欲しかった。

 

 

 

 

 

 数年後――

 

「バリオス君、君出張ね」

「出張? いつでもこの部屋に缶詰なここにしては珍しいですね」

「相手が海のお偉いさんでね。ここらで1つ貸しを作るのも悪くないかなと、私は思うんだ。行ってくれる?」

「そりゃ仕事だったら行きますけど、どこまで行くんですか?」

「第97管理外世界。依頼相手はギル・グレアム提督。いくら人員が増えたからと言っても、うちのエースをそんなところまで貸し出すんだ。この貸しはでかいよ?」

 

 この日をきっかけに、俺は平凡な日常から一歩足を踏み外した。




これにて解説回という名の主人公のことを掘り下げるのは終了。
次回から原作に突入します。

課長は後藤喜一をモデルにしたらこうなりました。
なんか違うのが混ざった気がする。
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