物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第3話

 グレアムさんから依頼された仕事の内容はリーゼ姉妹、つまり師匠たちの転送を手伝うことだった。本来なら師匠たちが自力で転移する予定だったそうだが、魔力の温存を考えて俺に依頼することになったそうだ。

 師匠たちはグレアムさんの使い魔だが、その実力はそんじょそこらの魔導師とは比べ物にならないほど高い。そんな師匠たちが魔力を温存しないといけない相手というのは――

 

 

 

 

 

「闇の書、ですか」

「ああ。闇の書の主がこの世界にいるのは確認している。もう悲劇を繰り返さない為にも、主を封印する。協力してくれないだろうか」

「俺は後方支援しか出来ませんよ?」

 

 なんせ俺は転移魔法、それだけに特化した魔導師だから。

 

「私達は、その後方支援が欲しい」

 

 その割にはこっちを見る目が厳しいよグレアムさん。やっぱ気づかれてるんじゃないかな、これは。

 

「輸送3課の仕事は忙しいんですよ。そんな中で俺を借りるなんてでかい貸しになりますよ?」

 

 今頃ヒゲ課長と後輩君は悲鳴をあげて仕事してるに違いない。

 

「あの悲劇を防げるのなら、後でしっかりと借りは返そう」

 

 なにやら覚悟を決めた顔をしているグレアムさん。魔法を教えてくれた恩人にここまでして依頼されるとなると、応えないわけにもいかないよな、うん。受けた恩をこれしきの事で返せるんだ。喜んで協力させてもらいましょうともさ。

 それと輸送3課に対する貸し借りは別だけどさ。

 

「グレアムさんにそこまで言われたら、協力しない訳にもいかないじゃないですか」

「そうか、助かるよ」

「と言っても、俺が出来るのは転送だけですよ。封印作業に役立つとは思えないのですが」

「やってもらいたい事は――」

 

 

 

 

 

 こうして師匠達の転送を行うことになったのだが、俺が現場に着いて行くことは厳禁とされた。やはり俺と闇の書の主が接触することを阻止したいみたいだ。

 闇の書とは、古代ベルカのでロストロギアに指定されている。永遠に魔力の蒐集をする旅を続ける魔導書。その書は魔力を集めると、書の主に絶大な力を与えるとも、世界を滅ぼすとも言われている。

 それに対して俺の持っている航海の書も古代ベルカの魔導書だ。魔力ではなく世界の座標を蒐集することを目的とした魔導書。主のリンカーコアを改造することからこちらもロストロギアに指定されている。危険性は皆無だから所持禁止とまではならないが、それでも闇の書との関係性を疑う人も多いだろう。

 きっとグレアムさんもそれを疑っていて、俺を闇の書の主と接触させないようにしているんだと思う。闇の書の主の情報は教えてもらえてないし、師匠達を転送する時も座標の指定が送られてくるだけだ。おまけに俺の行動は逐一監視魔法(サーチャー)で見張られている。

 

 いやー、味方に疑われるってのはツライなあ。まあ、どうにか接触するつもりだけど。もし、闇の書がアレの行方を知っていたとしたら、バリオス家の悲願は達成される。その為にも師匠達を転送した先に行きたいんだけど、このサーチャーが邪魔で仕方が――あれ、サーチャーが無くなってる?

 もしかして俺を泳がして闇の書の主と接触させて、俺ごと逮捕しようとしてるのか? でも、グレアムさんらの計画からすると俺という不確定要素と接触させる必要はないよな。あくまでグレアムさん達の計画は、闇の書の主を凍結封印するのが目的で、そこに俺という闇の書と関係があるかも知れない存在は近づけたくないはずだ。ということは、これはグレアムさんに何かあったのか?

 断定は出来ないけど、これはチャンスだ。グレアムさんに何かあったとしても、英雄として有名な人がそう簡単にどうこうなるとは思えないし、いざとなったら師匠達が駆けつけるはず。そうしたらすぐにサーチャーが復活するだろう。今のうちに最近師匠達を送った先、日本の海鳴市に行こう。それに、ここイギリスの観光も飽きたしね。

 

「座標指定完了。開け、航海の――『ライム、悪いけど今すぐに本局にある父様の部屋に来てちょうだい』――はい?」

 

 

 

 

 

 

「現場が心配なので、すみません。一旦失礼します」

「クロノ」

「はい?」

 

 まだ何かあるのだろうか? 提督には悪いけど、そろそろ現場に戻らないとフェイト達が心配だ。フェイトもなのはも優秀な魔導師で、きっと僕を追い越していくだろう。でも、それは今じゃない。彼女達はまだルーキーなんだ。

 

「アリア、デュランダルを彼に。そして、あの子に連絡を取ってくれないか」

「父様!?」

「私達にもうチャンスはないよ。なら、私は彼に託そうと思う」

「……はい」

 

 そうしてグレアム提督から渡されたのは1つのデバイス。恐らく、提督が考えていた永久凍結に必要なデバイスだ。

 

「どう使うかは君に任せる。氷結の杖、デュランダルだ。そして――」

「転移完了、と。あれ、何でクロ先輩もいるんですか?」

「――君の弟弟子であり輸送課のエース、ライム・バリオス君だ。きっと力になってくれる」

 

 唐突にほとんどの魔法を上手く使えない弟弟子が現れた。そうか、ライムが手伝っていたから、エイミィ達がアリア達の転移先を探れなかったのか。

 

 

 

 

 

「転移完了、と。あれ、何でクロ先輩もいるんですか?」

 

 師匠に言われた座標に転移すると、グレアムさんと師匠達、それと目を丸くして驚く兄弟子であるクロ先輩がいた。もしかして、クロ先輩も仲間に引き込んだのか?

 

「――君の弟弟子であり輸送課のエース、ライム・バリオス君だ。きっと力になってくれる」

「なるほど、ライムの転送魔法はたしかに便利です。ただ、この現場では活躍させる場所がない」

「クロノ、ライムを侮ったらダメだ。士官学校に入ってかめまぐるしく成長したんだぞ、主に外道方面に」

「何かどうなってんのかよく分からないんで誰か説明してくれません? それと、ロッテ師匠。悪く言われているのは分かったので、後で毛虫を背中に転送しておきますね」

「ほら!」

「2人とも、じゃれあうのはそこまでにしておきなさい。現状を説明してあげるから、ね?」

「「じゃれあってない!」」

 

 アリア師匠の説明によると、この前師匠達を転送した後、闇の書を暴走させて主ごと封印しようとしたら、闇の書事件を担当しているクロ先輩に捕縛され、グレアムさん諸共ここに監禁されたらしい。そして、永久凍結による封印も諦めた、と。

 

「それで、いいんですか?」

「ああ。君は直接ここに転移してきたから分からないと思うが、外には見張りも居てね。もう、チャンスはないだろう」

「俺がいれば、そんな存在無視して転移できますよ」

「ライム!」

「それでも、だ。クロノに言われてしまったよ。私の方法には欠点がある、と」

 

 だからもういいんだ、と告げたグレアムさんは、背負っていた重いものが無くなって安心しているような顔をしていた。

 ああ、本当に諦めたんだな、この人は。監視つけられてるのは不満だったけど、ようやく恩返しが出来ると思ってたんだけどなあ。

 

「グレアムさんが納得してるなら、まあ、俺はいいんですけど」

「忙しいなか協力してくれたのにすまない」

「ああ、いや、その、グレアムさんにはでっかい恩があるんで、そんな謝ることじゃないですって。輸送3課としては文句あるでしょうけど、個人としては恩返し出来るチャンスだったんですから」

「そうか。なら、すまないが恩返しと思ってもう少し付き合ってくれないか」

「クロ先輩を現場まで届ければいいんですよね? 場所を教えてください」

「だから待って下さい! 補助魔法と言っても転送魔法に特化したライムだと、身の安全が保証出来ません。それに、場所は海上。空を飛べないライムでは……」

「空を飛べない事ぐらいどうにかする方法があるから大丈夫です。それに、闇の書の主には聞きたいことがあるんで、ダメと言われても着いていきますよ? もしかしたら夜天の書の行方が分かるかも知れないんですから」

「その闇の書の正式名が、夜天の書なんだが」

「……え?」

「いや、たしかに無限書庫を調べないと分からない事だけど、ちゃんと文献に載っていたんだ」

 

 無限書庫とは、その名の通り古今東西のあらゆる書物を所蔵する施設だ。問題は、あまりにも膨大な収蔵量に対して、それを整理する人が足りないという事だろうか。過去に司書がさぼったのかは知らないが、どこにどの書物があるのか記録がされていないという異常事態が発生している。そして今でも日々増え続ける書物。結果、無数の書物があるのに目当ての書物は探せないという、司書も整理してはいるけどそれを上回る勢いで書物が増えるという欠陥書庫が完成した。

 そんな書庫から知りたい情報を手に入れたクロ先輩って、どれだけ有能なんだろう。あそこで働いている司書ですら、目的の書物を探すのに苦労してるのに。

 

「僕じゃなくて、民間の協力者が探してくれたんだ」

「管理局は今すぐその人を雇いましょう。採用試験とか一切なしで、出来る限りの好待遇で」

「既に人事部に打診しておいた」

「この後私がどうなるか分からないが、私からも推薦しておこう」

 

 管理局は万年人手不足。これは海陸共通の見解だ。優秀な人材は、ぜひとも欲しいのよ。

 その人を輸送3課に誘えば良かったと後悔するのは、数年後の話。

 

 

 

 

 

「それではクロ先輩、転移しますけど準備は大丈夫ですか?」

「こっちは大丈夫だが、ライムこそ大丈夫なのか? なのは相手に開いた通信画面見ただけだぞ」

「画面越しでも座標は見えるので大丈夫ですよ」

 

 航海の書によってもたらされたレアスキルによって、この眼は肉眼だろうと眼鏡越しだろうと画面越しだろうと、見えている範囲すべての時空座標が分かるようになっている。最初は視界全てに広がる数字に気が狂いかけたけど、今ではちゃんと見たい座標だけ見れるようになっている。制御できるようになるまで付き合ってくれた師匠達には頭が上がらないよ、まったく。

 

「転移したらいきなり戦闘に巻き込まれるかもしれないんで、魔法の準備だけはしといて下さいよ」

「ライムこそ、転移していきなり海に落ちるないようにな」

「転移した直後にシールド張って、それを空間に固定して足場にするんで心配しないで下さいって。それに、いざとなったら俺はすぐに転移で移動できるんで」

「転移魔法以外も使えたのか!?」

「一応、かろうじて、というレベルですけどね。使えないよりはマシってとこです。それでもシールド系やバインド系はなんとか実用に耐えられます」

 

 我が家系は旅先で出会った様々な人と結ばれてきたから、その血に宿る可能性は底が知れない。なので、航海の書はその可能性、他の家系から取り込んだレアスキルや異能をも削りとって転移魔法特化の魔導師へと改造する。十分に特化させることさえ出来れば、何かしらの魔法を1つか2つぐらい使う才能は残る。

 そして、航海の書と契約せずに、その身に発現した異能やレアスキルを取った先祖だって、実際にいる。どの異能が発現するかは分からないが、転移魔法なんていう地味な魔法しか使えなくなるのが嫌な人だっていて当然だ。

 しかし、航海の書は人のリンカーコアを改造するデバイスだから、使わない人が現れても問題がない。無限に旅をして数多の世界の座標を記録するのが航海の書の役目だから、持ち主の才能の左右されないことが求められたが故のリンカーコア改造機能。そのおかげで使用者が一度途絶えようとも、いずれ誰か使う人がいれば問題ないように出来ている。

 

「それならいいけど、危なくなったらちゃんと逃げるんだ。頼むぞ」

「分かってますって。それじゃあ、繋げますよ!」

 

 転移先の座標を認識し、こちらとあちらの座標を接続する。転移魔法は魔法で特殊な空間を移動しているけど、そんなの距離に応じて移動時間が増えるから不便で仕方がないと思うのだが。旅の扉や召喚魔法を応用すればこれぐらい簡単に出来るんだけど、どうしてみんなやらないのかねえ?

 

「旅の扉なんていう特殊な魔法を使うのは、守護騎士しか確認されていないんだ」

「使えますよ? だからこんな風に空間を直接繋げてるんですから」

「なら、今度管理局にその術式を登録しておいてくれ。行くぞっ」

「あ、ちょっと待ってクロ先輩!?」

 

 あの先輩、こっちの静止も聞かずに行ってしまった。空間を直接繋いだんだから、ゲートをくぐった瞬間に魔法で狙い撃ちされるかもしれないって注意しようとしたのに。

 それに、そっちと違って自由落下するしかないんだから、途中までは運ぶか護衛するかして欲しかったんだけど。

 

「クロノも焦ってるんだ。そら、ライムも男ならグダグダしてないでさっさと行ってこーい!」

「うわっ。ちょ、だから俺は自由落下しか出来な……ロッテ師匠のバカヤロー! 次会ったらその耳と尻尾を心ゆくまで弄くり回しますからね!」

「うんうん、そんだけ叫べたら上出来だ。クロノを頼むよ、ライム」

 

 

 

 

 

 ロッテ師匠に投げ飛ばされて、無理矢理ゲートをくぐらされてただいま自由落下中! こっちに近接戦闘の才能もないからっていっつも好き勝手に投げ飛ばしてくれてからにもう!

 とりあえず頭から海に向かって落ちてるのを、逆になるように転移して、と。次に

クロ先輩の魔力反応は、と。……ああ、いたいた。

 

 そしてクロ先輩のところまで転移すると、先輩が黒い翼の生えた女性をバインドで縛り、俺よりも小さい少女がとてつもないバカ魔力のこもった砲撃を、その女性に零距離からぶちかましているところだった。それがどれほど異常な光景かと言うとだ。

 

「才能って怖いなあ。これ、ゼファーの砲撃よりも威力高いぞ、オイ……あっ」

 

 その姿に見入って、足場にするシールドを張るのを忘れてしまうぐらいだ。クロ先輩や、同期のゼファーやホーネットも優秀だと言われていたけど、この少女はそれ以上の逸材だ。この光景をゼファー達が見ていたら泣くぞ。

 

「クロ先輩、クロ先輩。正直に言って、手助け必要なのか激しく疑問を感じるんですが」

「あの砲撃を見たらそう思うのも仕方ないけど、まだ闇の書は倒れていない。それに」

「あ、ホントだ。あんな砲撃喰らったのにそんなにダメージ受けてないですね。いったいどうしろと。それに?」

「民間の、それも年下の女の子に任せっぱなしにしていたらダメだろう。母さんに怒られる」

「最後が無かったらカッコ良かったのに。まあ、そんなわけで、えーと、名前が分かんないからとりあえず少女A、しばらくの間手伝うんでよろしく」

「あ、はい。えと、私の名前は高町なのはです。よろしくお願いします!」

「おー、礼儀正しいし元気だねえ。――先輩、純粋すぎて眩しいんですけど」

「黙れ汚れ担当」

「酷いなこの先輩!?」

「あの、そろそろ闇の書さんが動き出しそうなんですが」

 

確かに、さっきまで身動き1つしてなかったのに、何か様子がおかしいな。動こうとして、それを止めようとしている?

 

『外の方……ええと、管理局の方!』

「「念話?」」

『そこにいる子の保護者、八神はやてです』

「はやてちゃん!?」

「闇の書の主の意識が――」

「――目覚めている?」

 

 これなら、何とかなるかもしれない。




えー、駆け足ぎみですが、第3話完成しました。
本当ならこの3話でA's編終わらせるつもりだったのですが、予定以上に文量が増えたので途中で切りました。
なので、どちらかと言えばこれは第3話前編と言うべきでしょうか?
それはともかく、次の第4話でA's編にケリをつけたいです。
伸びても5話までにしたいと思っていますが、はたしてどうなることやら。
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