物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第4話

 暴走しているはずの闇の書から、融合している主の声が聞こえる。何があったのかは知らないが主が目覚め、目の前の自動防衛プログラムをどうにかすれば主の元に管理者権限が戻るらしい。これなら上手くやれば闇の書と主を分離させることが出来るはず。

 

「クロ先輩はあんなのに魔力ダメージ与えられるような魔法使えましたっけ?」

「出来るけど、この場には僕より適任がいる。なのは、闇の書に――」

『どんな方法でもいい。目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばして! 全力全開、手加減なしで!』

「――まあ、そういうことだ。頼んだよ、なのは」

「先輩先輩、顔に出さなくても不機嫌オーラ撒き散らしてるから。高町さんがちょっと怖がってるから」

 

 クロ先輩が高町さんに方法を説明しようとしたら、タイミング良くというか悪くというか、他の人が念話で説明してしまった。愛想がそこまでよくない先輩だけど、分からない人に分かるまで付き合って教えるぐら面倒見が良い。そんな先輩だから、説明を奪われてちょっと苛立っているものの、高町さんの目の前だから表情には出さないようにしている。が、表情には出ていないけど雰囲気が一気に重くなったから台無しだ。

 

「ごめん高町さん。この人は気にせずやっちゃってくれるかな。残念なことに、こちとら転移魔法以外は苦手でね」

「えーと、分かりました。全力全開でやらせてもらいます!」

「おい、僕は冷静だ!」

「はいはい、先輩はもしもに備えてくださいね」

「僕にはなのはほどのバカ出力はないんだけど」

 

 そんなことを言いながらも術式を用意するから、実は面倒見がいいとか人が良いとか言われるているんだけど、本人はその事に気がついていないんだよなあ。

 そんな事を考えていると高町さんがデバイスを構え、その先端部に魔力がチャージされ……チャージ……いやはや、さっきの砲撃見て分かっちゃいたけど、こんなにバカ魔力を上手く制御できる魔導師って怖いなオイ。

 闇の書は自身の主に妨害されているのか動きが鈍く、それを補うかのようにワームのような物を召喚してきた。

 

「少しは手伝え、後輩」

「なら、あのワームっぽいのをどうにかします」

 

 ワームの進行方向にゲートを展開。行き先は虚数空間手前に設定。それでは行ってらっしゃい!

 

「いやー、流石にあれぐらいの魔法生物だと、転送魔法に抵抗できないんで楽ですね」

「魔導師と違って、バリアジャケットが自動で抵抗しないからね。ちなみに聞くけど、あの先はどこに繋がっているんだ? 人の迷惑になる所じゃないだろうな」

「虚数空間手前に繋がってるんで、今頃何も出来ないままあの空間を漂ってるんじゃないでしょうか」

 

 虚数空間ではあらゆる魔法が使用出来ないから、ああいう魔法生物とか魔導師を叩きこむにはちょうどいいので重宝している。そういえば、調子に乗ってた空戦魔導師にロープを括りつけて虚数空間に叩き込んだら、本気で命乞いしてたっけ。30過ぎたベテラン魔導師も怖がる虚数空間、便利だよね。

 

「何て恐ろしいことを。しかし、このままにしていたら、根本の方から引き戻すんじゃないか?」

「なのでこうします」

 

 開いていたゲートを閉じる。そうする事によって、ゲートにより繋がっていた空間は元通り、別の空間となり――

 

「切れた、な」

「これが転移魔法流切断術」

「なんて物騒な!」

 

 クロ先輩は恐ろしい光景を見たと驚いているけど、バリアジャケット着てる人にはそもそも通用しないから、言うほど物騒じゃないですって。これ、旅先で野生生物に襲われた時用の非常手段としてご先祖様が思いついた手法ですし。それに、ほら。

 

「エクセリオンバスター、フォースバースト……ブレイク・シュート!」

 

 高町さんの掛け声と共に、先ほど見た魔力砲よりもでかいピンク色の魔力砲が放たれた。込められていた魔力で威力は想像していたものの、これは予想を上回っているんじゃないかな。隣で見ているクロ先輩も呆然としてその光景を見ている。 

 

「どう考えてもこっちの方が物騒な光景だと思いますよ?」

「なのはには今度、手加減を教えておくよ」

 

 分かってはいるだろうけど、念の為教えておかないと相手が可哀相だと、クロ先輩は渋い呟く。今回は相手が闇の書という規格外だけど、普通の相手にアレは過剰攻撃ですからね。バリア系が得意な魔導師でも、アレを耐え切るのは苦労しそうだ。

 そして、高町さんはそんな砲撃を相手の四肢を魔法で縛ったうえで撃ち放った。確実に一撃を与える為に、徹底的に相手の行動を封じてるなあ。普通そういうのは、士官学校や訓練校で習うんだけど、高町さんの場合はこの世界にそんな学校無いはずだし。自分でそこまで考えた?

 

「おー、防御魔法も使えないみたいなんで、高町さんの砲撃が直撃してますね」

「主に妨害されているから、防御魔法を展開する余裕すらないんだろう。もしかしたら、なのはのバインドすらいらなかったかもしれない」

 

 クロ先輩がそう言うほど、見事に直撃していた。士官学校の新入生と教官の模擬戦ですら、あんな見事に砲撃が決まる事はないんじゃないかな。

 そして、砲撃が止むといつの間にか頭上に金髪の女の子が。クロ先輩や高町さんがその子を見て安堵しているから知り合いか?

 

「無事に開放されたようだな」

「やっぱ先輩の知り合いですか」

「ああ、彼女は――」

『みんな、気をつけて。闇の書の反応、まだ消えてないよ!』

「「ダメだったか」」

 

 クロ先輩の所属している戦艦から、油断するなと通信が届いた。あれでもダメですか。防御させずに魔力砲直撃してもダメですか。いったいどうしろと。

 目の前の闇の書がいた場所には謎の黒い力場が発生して、先ほど切断したワームやイカの足のような物が出現しだした。どうやらあの力場が、闇の書の暴走が始まる場所らしい。そして、眩い光とともに、新たに4人の人影が現れた。4人の中心にはまだ光が残っている。

 

「ヴィータちゃん!」

「シグナム」

 

 高町さん達が呼んでるなら、あれも知り合いか?

 

「彼女達が守護騎士だ。アリア達によって、リンカーコアを闇の書に吸収させられていたはずだが」

「ということは、主が管理者権限とやらを奪取出来たんですね」

 

 やがて守護騎士の中央の光の中から、夜天の書を携えた人が現れた。あれが主、か。声で分かっちゃいたが、俺より幼い女の子じゃないか。

 

「はやてちゃん!」

「おいおい先輩、何で揃いも揃って知り合いなんですか」

「僕に聞くな」

 

 クロ先輩は目を逸らして溜息をついている。

 

「クロ先輩には、この暴走をどうにかする算段がありますか?」

「ああ。彼女達が協力してくれるなら、なんとか」

「なら、それまで時間稼ぎしてくるんで作戦会議しといてください」

「出来るのか?」

 

 先輩が心配そうな顔をして聞いてくる。そりゃそうだよな。高町さんのあの砲撃を凌ぐような相手に1人で時間稼ぎするんだから。まあ、幸いにも転送魔法が得意なんで、逃げに徹したらなんとかなるんじゃないかな。

 

「なんせ攻撃手段が俺にはないですから。転送魔法を駆使して、時間稼ぎぐらいはしときますって」

「君が転送魔法に優れた魔導師だというのは知っているけど、やはりそれは……」

「まあ、見ていてくださいって」

 

 先輩の制止を聞き流して、航海の書を起動する。航海の書は補助輪。こいつを起動していなくても転送魔法は十分使えるけど、それでもこいつが転送魔法の計算を手伝ってくれると心強い。

 

「量産型夜天の書3号機、航海の書――セットアップ!」

「なにっ!?」

 

 栞の形をしていた航海の書が起動状態になり、夜天の書と瓜二つの書物形態となる。これが、航海の書が夜天の書の量産型である証。量産型なので夜天の書ほど豪勢な機能はないが、その分一芸特化型にして使いやすく、制作費も安くなっている。それでも莫大な費用が掛かる為、量産型も5機作られただけで終了したらしいけど。

 

「バリオス、それは……」

「向こうもロストロギアですけど、こっちだってロストロギアです。どうですか、時間稼ぎぐらいどうにかなりそうな気になりませんか?」

「……どうせなら、そのまま暴走も押さえてくれるぐらいやって欲しいところだけど」

 

 聞きたい事もあるだろに、先輩はそれを聞かずに苦笑して、夜天の書の暴走を止めろと冗談まで言ってきた。おい先輩、冗談ですよね。期待しているよって肩叩くのも励ましてくれてるだけですよね?

 

「さあ、行ってこい優秀な後輩!」

「うっわあ、すごくイイ笑顔」

 

 怖いけどやるしかないよなあ、時間稼ぎ。いつあの黒い淀みから暴走した防衛プログラムが出てくるか分からないし。本体は出てきてないけど、あのワームというか触手は出現しているからそのうち本体も出てくるだろう。攻撃力は無いけど、転送魔法に特化した自分が一番生存率が高いから囮には最適なんだよなあ。

 

『……』

「いやいや、お前と契約した事に後悔はないって」

 

 航海の書が、それが嫌なら自分と契約しなければ良かったのにと抗議してきた。攻撃手段が乏しいことに不満はあるけど、後悔した事なんてないって。ホントホント。だから機嫌悪くするなって。

 ほら、先輩が高町さん達のとこに向かって作戦会議し始めたからちゃんと足止めしないと。

 

『……!』

「そうそう。夜天の書の主と守護騎士が感動の再会しているんだから、水を差させないようにきっちり仕事しよう、相棒!」

 

 まずはあの触手を切断して虚数空間に叩き落とそう。

 

 

 

 

 切っても切っても再生する触手に嫌気が差していると、先輩から念話で質問がきた。

 

『頑張っている後輩。そいつを宇宙空間に強制転送することはできないか?』

『切っても切っても再生するんで誰か焼却処分してくれませんかねえ!? 無理』

『そうか、君でもそのまま強制転送することは出来ないのか』

 

 最初の頃なら出来たかも知れないけど、こいつだんだん慣れてきたのか転送魔法に対するジャミング速度が早くなってきてるんですよ。おかげで触手1本切断するのに、ゲートを多重に開いてジャミングに対抗しないといけなくなってきた。ゲート1つだとキャンセルされてしまう。なので無理。

 

『分かった。もう少し時間を稼いでくれ』

『まかせてくださいな』

 

 とは言ったものの。触手の数が増えてきて、おまけに最初は1種類だけだった触手に違う種類の触手が混ざってきたんですが。これ、防衛プログラムの暴走が近いんじゃないかな。いったい何処まで1人で抑えられるのやら。

 それでも気にせず次から次へと切断していく。触手1本につき1つ展開していたゲートが2つ3つと増え、とうとう5つにまで増えた。さらに最悪な事に、1回転送した座標が通用しなくなってきた。初めて使う座標だと解析に時間が掛かるのか上手く転送して切断まで出来るのに、既に転送したことのある座標だと解析が前回で終わったのかすぐにキャンセルされてしまう。主と分離させられているのに学習能力は高いなんて予想外だ。それでも、他に有効な攻撃手段がないから切断するしか無いんだけれども。幸い、少しでも座標がズレていたらもう一度解析を始めるみたいだからもうしばらくは切断出来ると思う。ただ、そんなに虚数空間に通じる座標なんて無いぞ。ストックが切れないことを祈る。

 そう思っていたら黒い淀みが弾け、中から先ほどの闇の書の面影を残す女性の上半身が怪獣にくっついた化物が現れた。

 

『先輩先輩、なんか怪獣が現れたんですが!?』

『ちょうど何とかする算段がついたから、後は任せて休んでいてくれ。ただ――』

 

 後ろに下がる前にあの触手を破壊出来るだけ破壊してくれ、と先輩が言ってきた。あの、切っても切ってもすぐ再生するし、本体出現してからレジストされる速度が更に上がってきたんですが。

 そう文句を言おうとしたら、近くにやってきた先輩がニヤリと笑って犬の耳が生えている女性達に向かって何か話かけた。

 

「アルフ。あれは彼がなんとかしてくれるから、君たちは最後の転送に向けて力を温存しておいてくれ」

「おいおいおいおい、ちょっと待て」

 

 まだ出来るって言ってないんですが。ほら、今も切断したそばから再生しているじゃないですか。だから無理なんでそんな期待の目で見ないでアルフさんとやら。あと、そっちの金髪の女の子。そんなすごいですねと尊敬の目で見られても困る。さすがに転送魔法特化型の魔導師にそれは厳しいですよ?

 

「無理にやれとは言わないけど、出来る事なら削って欲しいんだ」

「あの、うちのザフィーラ達もいるんで無茶はせんといて下さい」

 

 先輩と違って、夜天の書の主である女の子が心配そうに声をかけてくれる。なんかこう、自分より歳下の女の子に心配されると見栄を張りたくなるなあ。

 こちらの心情を察したのか、先輩が呆れた目で見てくるが気にしないことにする。まずは相棒に頼んで、暇してそうな砲撃が得意な知り合いに片っ端から連絡してもらって、と。ふむ、38人か。

 

「そこまで言われたらしょうがない。切り札をお見せしましょうか!」

「ちょっと間が開いたのが気になるわ」

「そこは触れないのがお約束だぞ、夜天の主」

 

 そういえば夜天の主の名前を知らないな。用があるから後で名前聞いとかないと。

 そんでは気合入れてゲートを開きましょうか。知り合いにタイミング合わせるように連絡して、と。でもってこれから行うのは儀式魔法だから詠唱を唱えないと。

 

「鍵を授かりし一族の末裔がここに請い願う。全ての時空が等しく繋がることを。航海の書、ゲート1番から38番並列展開、多重転送開始!」

「おい、儀式魔法が使えるなんて聞いてないぞ。いつの間に使えるようになったんだ!?」

『おー、師匠の私達にも内緒にしてただなんて、やるじゃない』

 

 先輩も師匠も驚いているけど、そらいつか師匠達にぶちかますつもりの切り札でしたからね。バラす訳ないじゃないですか。もうバレたけど、さ。

 詠唱を唱え終えると同時にベルカ式の魔法陣を防衛プログラムを囲むように展開。その魔法陣1つ1つからデバイスの先端が現れる。これぞ攻撃力皆無な俺の切り札、コンセプトは他力本願。自分で砲撃魔法使えないなら、使える人の魔法を転送してしまえばいいよねという、ただそれだけなんだけどね?

 

「これは、なのはと同等の魔力砲!?」

「お兄さん、すごい魔導師なんやなあ」

「俺じゃなくて、知り合いがすごいのさ」

 

 なんせうちの部署、仕事柄海も陸も関係なくコネだけは多くなるから、知り合った時にいざとなったら助けてくれとお願いしている。転送を依頼してくるのは陸も海も関係ないし、階級も関係ないからなあ。デバイスには現場で働いている人から将官まで幅広い連絡先が保存されている。そして、今回手伝う暇があった人が38人。いずれも現役で働いているエースだ。

 

「さて、現役エースの砲撃38発。耐えられるものなら耐えてみればいいよ? では、撃てー!」

 

 掛け声と共に38人の砲撃が放たれた。それらは抵抗を許すこと無く触手を撃ちぬいていく。こんなに威力ある砲撃魔法使える人達とは思ってなかったけど、これは絶景かな。自分では再現できない光景だ。この儀式魔法、実戦で使ったのは始めてだけど十分切り札として使えそうだ。

 

「管理局の人って、なのはちゃん含めてこんな飛び抜けた人ばっかなんやな」

「あの、はやてちゃん? そんな人ばかりだったら私達はもっと早い段階で捕まってますからね」

「そうだよはやて。いくら管理局でも、こんなぶっ飛んだやつばっかりじゃないって」

 

 夜天の主の勘違いを守護騎士が正しているけど、たしかにその通りだ。ただまあ、困った事にぶっ飛んだ人もそれなりに居るんだよなあ。ほら、クロ先輩も目線逸らして気まずい顔をしている。

 さて、と。依頼通り薙ぎ払ったから後ろに下がりますか。いくらレアスキルの恩恵で消費魔力が少なくて済むといっても、これだけ連続で転送魔法使ったからリンカーコアが痛む。

 

「じゃあ先輩、触手は片付けたんで向こうの陸地、民間人がいるところに避難しときますね」

「ああ、助かったよ。魔法を使い過ぎたと思うから休んでいてくれ」

 

 ほんと使い過ぎましたよ。なんか航海の書も警告発してるから危ない状態なんだろう、きっと。陸地に飛んで、足場にしているシールド魔法も解除してしばらく休もう。でもまあ、流れ弾が飛んできた時の事を考えて、航海の書は展開しておかないと。咄嗟に民間人を守れなかったらマズイ。

 

「では申し訳ないですけど、一時離脱します」

「後は僕達でキッチリ片を付けておくから、安心しておいてくれ」

 

 先輩達に後を託し、俺は陸地へ転移した。そして、その先にいた民間人は、紫の髪をした女の子と茶金髪の女の子の2人だけだった。あれ、2人だけ? てっきりもっと多数の人が巻き込まれていると思ってたんだけど。

 

「んな、ななななな、人が突然現れたわよすずか!?」

「お、落ち着いてアリサちゃん。なのはちゃん達も空を飛んでたんだから、有り得なくはない……のかな?」

「あー、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」

 

 そうだよな、魔法がない世界だったら突然人が現れたら驚くよな。非常時という事で許して欲しい。

 

「ところで、なのはちゃんってのは、茶髪でツインテールな高町なのはという女の子の事かな?」

「そ、そうよ。なのはの事を知っているの?」

「一応同僚って事になるのかな? 時空管理局所属のバリオス・ライム。聞きたい事があるなら、答えられる事ならいくらでも答えるよ?」

 

 なんせ先輩達が防衛プログラムを倒すその時まで、しばらく時間があるのだから。




ようやく更新できました。
こんなに時間掛かったのに、出来がイマイチです。
なんというか、クドイのかな。
いつか書き直したいです。

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