物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第7話

「なんでこんなとこにおるんやろう」

「それが仕事だから、ね。さあ、張り切って殲滅しちゃおうか」

「デートという名の買い出しって言っとったのに!」

「真面目に言ったら逃げるでしょ。俺なら逃げる」

 

 八神さんが輸送3課に来て2ヶ月。無茶な依頼の中になんとか出来そうな仕事があったので、八神さんを連れて出張となった。

 八神さんにとっては、ミッドチルダを離れるのは初めてらしい。

 まあ、少しでも楽しんで貰えたらいいんだけど、厳しいよなあ。

 

「あれを見て、ほんまに楽しめるとでも?」

「好きな人はとても楽しめるらしいよ?」

 

 八神さんが信じられないとこちらを見つめてくるが、残念ながら本当でなあ。

 自分たちが立っている先にいるのは、暴走して移動している樹林。ただの樹林ではなく、これでも立派は魔法生命体らしい。

 普段は大人しく地面から栄養を吸収しているが、増えすぎてその土地の栄養が少なくなると足りない栄養を求めて生命体を無差別で襲うそうだ。別名、吸血樹林帯。一個一個の個体ではなく群れで認識されている。

 ついでに高さ20m以上あるうえに、その太い根を足のように使い移動する。踏み潰されると死ぬんじゃないかな。

 それを聞いた八神さんは、青ざめた顔をしながら車いすで後ずさりした。若干、まだ上手く動かないはずの足が震えているような。

 あれ、課長本当に説明してないの?

 

「そんなんをウチらみたいな未成年2人だけに始末させようだなんて、管理局頭おかしいんちゃうか」

「アッハッハ――何を今更」

「ちょい待ち」

 

 頭を抱えて管理局入ったのは失敗だったかと嘆きだした八神さんを憐れみながら、あの樹林を切断するための魔法を構築していく。

 斬ったのどこに捨てようか?

 

「魔力Sランクの魔導師なんだからそんな怯えなくても大丈夫だって」

「そ、そうやんな。それにクロノ君も信頼しているライムさんも一緒やし」

「俺Bランクなんで。まともに使えるのは転送魔法だけだから」

「あかんやん!」

 

 とうとう取り乱して叫んだ八神さん。

 彼女を落ち着かせるため肩に手を置き、言葉をかける。

 

「大丈夫大丈夫。俺が斬って、八神さんはいざとなった時に広域殲滅魔法ぶっ放してくれたらいいから」

「ホンマに?」

「ホンマホンマ。近づく必要すらないから。先輩嘘つかない」

 

 そんな涙ぐんだ目で見つめられるとこれ以上弄るのを躊躇ってしまう。こいつ、何気に美少女だから、あんまし見つめられると照れるんですが。

 

「ほな、ええんやけ――」

「それに、俺は転送魔法しか使えないから、いざという時の盾は大事にしないと」

「外道や、外道がおる!」

「全然外道じゃないからな!?」

 

 Sランクのまともな魔導師がいるんだから、一芸特化型としては護ってもらうしかないじゃないか。

 俺の全力のバリア魔法より、八神さんが手を抜いたバリア魔法の方が丈夫だよ?

 そういう事なので、残念な物を見る目でこちらを見てくる八神さんを自分の前に配置する。

 

「こんなに上司が情けないと思ったのは初めてや」

「無茶言うな無茶を」

 

 自分1人だけなら攻撃されてもそれをどこかに転送するか、自分が転移して良ければいいんだけどねえ。

 さすがに八神さんもとなると、航海の書のサポートがないとツライ。

 

「それなら自分1人でやったら良かったやないですか」

 

 おい、そんなジト目で見ないでほしいんですが。これにも一応訳があってだな。

 

「あれが切断して終わりならいいんだけど、切断しても動くようなら俺にはどうしようもないんだって」

「せやから私ですか?」

「そうそう。いざとなったら広域魔法で殲滅よろしくねー」

 

 本当の理由は、八神さんを保護する為なんだけどね。この依頼、最初は八神さん指名で来てたんだよね。

 いくらSランクの魔導師とはいえ、管理局入って2ヶ月目の研修生にさせる仕事じゃないって。この魔法生命体、普段は大人しいし、地元の人からも神聖視されてるから殲滅されてないだけで危険度は高い。AランクからSランクの魔導師複数で臨むのが相応しい相手だ。

 幸い、栄養が足りる程度の個体数まで殲滅するか、栄養価の高い大地まで移動すれば落としくなるそうだ。

 なので、とりあえず樹林帯の半数を対象にして、上半分で切断してみた。切断した上半分は近くの恒星に転送しておいたので、勝手に燃え尽きてくれるだろう。

 で、だ。

 

「止まらないね」

「せやね。気にせず動いてるなあ」

「「……」」

 

 切断された樹林帯は、それがどうしたと言わんばかりに移動を続けている。若干移動速度が落ちた?

 その姿を八神さんと呆然と眺めつつ次はどうしようかと考える。こんなのやっぱし、輸送3課がする仕事じゃないって絶対。

 

「えーと、どないしましょう?」

「んーと、とりあえずミストルティンでも叩き込んで固めようか」

「あれ、射程短いんやけど」

「そこは気にしないでいいよ。目の前の空間と、あっちの空間を繋げばいいだけだから距離なんて関係ない」

「頼りになるのかならないのか分からん上司やなあ」

 

 呆れながらも八神さんは詠唱を始めた。

 いやあ、やっぱまともな魔導師はカッコいいなあ!

 

 この後、樹林帯は八神さんによって大部分を石化させられ、砕かれ、恒星に叩きこまれて大人しくなった。

 これ、八神さんとその一家でも片付いたんじゃ?

 

 

 

 

 

「なんでここにおるんやろう」

「仕事終わったからな。買い物って言ったよね?」

「それはそうやけど、なんで地球におるん?」

 

 そう、現在管理外世界で八神さんの生まれ故郷でもある地球に来ていたりする。風景はミッドチルダとそんなに変わらないかな。

 いやー、転送魔法ってこういう時便利だよね。わざわざ艦に乗って次元越えなくても、魔法1つでいいんだから。

 

「許可なく転送魔法使ったらあかんかったような……」

「自分たちの職場の場合、一々許可貰ってたら仕事にならないからね」

 

 これはうちの職場における特権だ。分単位で転移魔法使うのに、一々許可取ってたら仕事が進まない。

 なので、輸送3課の職員は許可なく転移魔法を使う事が許されている。特に俺と課長は

転送魔法しか取柄がないので、許可制になると身を守ることすら出来なくなる。

 

「おぉ、特権やね!」

「その代わりに交通費も出ないし、定時とか関係ない職場になったけどね!」

「で、なんで地球におるん?」

「急に最初の話題に戻りおったなこやつ。本日の仕事は終了いたしました――以上」

「ええんか、それ」

 

 今日は元から樹林帯駆除の仕事しから入れてなかったから、本当に大丈夫だからそんな心配そうな顔しなくてもいいってば。

 あんな化け物相手にして、その後に仕事やってられるかバカヤロー!

 こちとらただの後方支援係だっての。攻撃魔法なんて使えないんだから本当の戦場に連れ出す仕事依頼するとか本気で頭お花畑じゃないのだろうか、あの部隊。

 

「そっか。ならええんか」

「ええのええの。てことで、買い物を楽しんできなって」

「はーい。でも何で地球なんですか。クラナガンでもええんちゃいます?」

「何でって……ミッドチルダだとサボりバレるじゃないか」

「今サボりって言った!?」

 

 おおっと間違えた。つい本音が。

 ミッドチルダでやってるとね、次々と仕事渡してくる上司と同僚がいるからね。

 だからあいつらの目の届かない地球に来た訳ですよ。

 

「ほら、課長なんてそこ分かってるから、通信で俺にだけ仕事寄こしてきやがる」

「何でライムさんだけ? うちはええの?」

 

 八神さんは不思議がっているけど、特に魔法陣浮かべることもなく作業できるの俺だけだからね。

 まだまだ転送の座標設定に時間かかってるから、座標だけ渡されて仕事できるレベルには遠いかな。

 

「ならええんやけど。好きなとこ行ってもええんですか?」

「おう、どこでもいいよ。ここに何があるかよく分からないからね」

 

 この前地球にいた時も、ほぼ監禁されてたもんなあ。どんな場所に行けるのか楽しみだよね。

 

「ほな、本屋か図書館行こか。先輩、地図とか好きそうや」

「おう、その通り。案内頼む後輩」

「ところで何で地球の中でも海鳴なん?」

「他の座標知らんし」

「おかしい、私よりライムさんの方が楽しんでる気がする」

 

 なんか八神さん、「解せぬ」とか言いそうだね。まあ、俺の方が楽しんでいるのは否定はしない。

 いやあ、異文化って楽しいよね。最近仕事が忙しくて違う世界に旅行してなかったから、今日が楽しみで楽しみで。

 

「ここからだと図書館の方が近いんで、そっちから行きましょか」

「近くまで転移しようか?」

「ここには魔法文化なんてないんで、素直に歩いてください」

 

 八神さんにため息をつかれてダメ出しをされた。

 いかんいかん、つい癖で転移しようとしてしまったけど、ここは魔法文化のない世界だった。そんな世界だと、いくら地味な転移魔法といえどもいきなり人が現れたら驚くよね。ミッドチルダだと「ああ、あいつらか」と納得してもらえるけど。

 

「どんだけ転移魔法で移動するのが日常になってるんですか。もっと歩かないと」

「歩く時間がもったいないんだよ。ささっと転移して寝る時間確保しないと」

「その歳でワーカーホリックですか?」

「それは無い」

 

 仕事がもっと少なかったらこんな生活してないって。

 疑わしげな目線をよこしてくる八神さんに、自分はワーカーホリックじゃないと説明しながら図書館を目指して歩いていく。自分の足で歩いて移動するのって、けっこう久しぶりだなあ。

 

「次のあの大きな交差点を右に曲がって、しばらくずーっと真っ直ぐです」

「了解。しっかし軽いなこの車いす」

「言外に私が重いって言ってます?」

「言ってない言ってない。歩けなかったのに、足に贅肉そんなついてないなと関心してるって」

 

 それなら良いと言って、八神さんはこちらを睨むのを止めた。でも、車いすを動かす手を止め、彼女は自分のお腹を摘んで太ったかなと呟いている。いやはや、女の子は大変だね。こちらは太っているように見えなくても気になるんだから。

 

「まだまだダイエットとかするような歳じゃないでしょうが」

「それでも気になるものは気になります。歩けるようになったら贅肉が重力に負けてたとかイヤや」

「むしろ八神さんは食べる物食べて筋肉つけないとダメなんじゃ?」

 

 そこらへんはちゃんと考えて料理作っていると、八神さんは胸を張って自慢した。何この子、この歳にして既に主婦としての貫禄が。俺とは大違いだ。

 彼女とは違い食事のほとんどを外食に頼ってるので、なんというか情けないぞ自分。

 

「おや、その顔はほとんど外食ですか?」

「作ってる時間が、ね。幸い技術職だから給料は高いから、外食頼りでもなんとかなるのさ」

 

 自分で作っていると、時間が無くなる。寝る時間を確保しようと思ったら、外食した方がいいという。時間を金で買っていると思えばそこはかとない優越感があるね?

 

「夕食は無理やけど、お弁当作ってきましょか?」

 

 八神さんから非常に魅力的な提案がされた。八神さんの弁当は何度か見ているけれど、どれも美味しそうだった。すごく魅力的な提案だよね。

 

「いや、さすがにそれは申し訳ない」

「目の前で毎回栄養食ばっか食べられるんもツライんやけど」

「売ってる弁当は制覇して飽きたからなあ」

 

 どうせ飽きたなら、栄養食の方が食べるの早くて済むから便利だと思ってます、はい。でもって栄養はちゃんと取れるしね。ちなみに、課長は奥さんの愛妻弁当が毎日あるので羨ましい。

 そんなことを言っていると八神さんに呆れた目をむけられて、この上司早死しそうと言われた。

 

「みんなの分も作るついでやから、ホンマに作りますよ?」

「……余裕ある時だけでいいからお願いします。材料費出すので、ええ」

 

 はい、陥落しました。なんだかんだ言っても、栄養食が味気無いのは否定できないから。おまけに以前お裾分けしてもらった八神さんの弁当、美味しかったし。こう、人の食べる物ってこういうのだよね、と思い出させてくれた。

 そんな味を知ってしまったから、作ってもいいよと言われたら断れないんだよ!

 

「そしたら今度から作らせてもらいます。その日は仕事、手伝ってくれてもええんですよ?」

「……お前さん、わずか2ヶ月で3課の芸風に馴染みやがったな」

 

 ニヤリと笑いながら、八神さんはそんな提案を持ちかけてきた。いつの間にこんな腹黒い事を考えるようになったのやら。俺、こんな風になるようには教育してないよ?

 彼女はこちらが悩んでいるのを下から見上げながら、さあどうしますと言ってくる。だからこちらの出す答えを見透かしたようにニタニタしながら言うのやめなさいって。

 

「あーもう、少しだけ、少しだけだからな」

「ツンデレですか?」

「違う! 手に負えそうにないのをちょっとだけ手伝うだけだよ」

「優しいなあ、うちの上司は。あ、そこの角曲がったらもうすぐですよー」

「へいへい」

 

 はてさて、どれくらい手伝おうかと考えながら八神さんの指示通りに車椅子を押しつつ歩いていく。

 まあ、まともなご飯が食べられるんだから、それぐらいのサービスはしても問題はないかな。課長にどうやって言い訳するかが問題だけど。

 辿り着いた図書館で、まさかの再会を果たすが、それはまた別の話。




東方書くつもりが何故かこちらを書いていました。
全部可愛いはやての絵のせいだ。
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