物を転送するだけの仕事だったのに   作:磨殊

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第9話

 この世界の魔法には2つの系統がある。かつて栄えていたベルカ式と、現代で栄えているミッドチルダ式だ。

 ベルカ式は近接戦を主とし、ミッドチルダ式は遠距離戦を主とする系統だ。もちろんそれぞれ例外はある。八神のとこのシグナムさんやヴィータ嬢はベルカ式だけど遠距離攻撃もこなすし、フェイトさんはミッドチルダ式でも近距離戦もこなせる。

 そして、自分や八神が使うのはベルカ式となる。

 

「ここまではいいかな?」

「もちろんや」

 

 では、自分達が所属しているベルカ式。こいつは過去の動乱で人が死ぬは国が衰えるはでかなり勢力が縮小してな?

 そんなもんだから技術もかなり失われて、ベルカ式の使い手も少なくなっているのが現状だ。そこへ来てミッドチルダ式の登場ですよ。正直に言うと、こっちの方が使い勝手が良い。なんせ近づいて殴り合わなくても、遠くから集団で弾幕張れば下手なやつでもそれなりの成果が上がる。

 で、そっちに人が流れて使い手が減っているベルカ式。こいつらが多く所属しているのが件の聖王教会だ。

 

「何でそんなとこが私に会いたがってるんですか。私、聖王様、でしたっけ。その人がどんな人か知らへんし、信仰もしてないですよ?」

「あそこの教会ってのは一面にすぎないからなあ」

 

 教会と言うからややこしいが、あそこはベルカ自治領の運営母体だ。故に、政治もするし、貴重な古代ベルカのデバイスや使い手の保護もやっている。

 それと、聖王ってのは昔の動乱を終わらせた王様の事だ。個人的にはあの王様を神と崇めるのはどうかとも思うけど。まあ、ベルカ自治領にいる人の大多数は聖王を崇めていると思ってくれたらいい。

 

「それは分かりましたけど、何でそんなとこが?」

「お前、古代ベルカのデバイス持ってる。しかも融合騎」

「あっ。でも、その情報って隠蔽してるって言うてませんでした?」

「してたはずなんだけどなあ」

 

 はてさて、どこで漏れたのか。それとも、デバイスではなく、古代ベルカ式に適正のある八神自身が欲しいのか。

 

「という訳で、行くぞー」

「結局行くんか!?」

「味方につければ喧しい連中黙らせる事が出来るからね。あんまし関わりたくなかったんだけど」

 

 ベルカの連中、色々とぶっ飛んでるのが多いから関わりたくなかったんだけどね。近接戦主体だからか暑苦しいのが多いし、脳筋多いし、戦闘狂多いし、古くから続く家柄の連中はレアスキル持ち多かったり過去の記憶受け継いでいたり。

 

「色々とヤバイ人が多いのはよう分かりました」

「何かあってもベルカだからの一言で済むからなあ、あそこ」

 

 あと、お前も古代ベルカの適正あるからあっち側な。

 

「ちょ、それ酷ないですか!?」

 

 

 

 

 

 八神と共に呼ばれたベルカ自治領の教会に着くと、シスターが1人、扉の前で待ち受けていた。

 

「あれ、僕の事は無視かい?」

「あ、居たんだ犬先輩」

「相変わらず酷いね後輩!」

 

 何故かシスターの隣に立っている緑のロン毛なイケメンはクロ先輩の同期。姉が聖王教会のお偉いさんなのに、自分は時空管理局の査察部で働いている変わった人だ。良い人なんだけど、輸送3課に来て初めての年の査察で、特別厳しくしてくれた事をぼかぁ忘れない。いい勉強にはなったけど。

 

「何で査察部の犬がここにいるんですか」

「いや、ここ僕の義姉さんがいる教会だからね?」

「……ああ、なるほど。八神、この人と喋るなよ。あと、握手は厳禁な。思考読まれるから」

「あれ、僕、すごく警戒されてる?」

 

 そりゃバレるとマズイ秘密がいくつかあるからね。ヴェロッサ先輩相手だと警戒しすぎるぐらいでちょうど良い。

 先輩が傷ついて肩を落としてるけど、知ったことじゃないね。おのれイケメン、人誑し。仕事サボってナンパするのはどうなのさ。

 

「ライムさん、この人誰なん?」

「キザでイケメンな人誑し」

「ちょっと待ってくれないかな後輩」

「なるほど」

「いや、納得しないで欲しいんだけどね?」

 

 納得した八神に、この人はレアスキルで人の思考を読めると説明しておく。その結果、八神が自分の後ろに隠れてしまい、先輩が泣きそうな顔になったのは些細な事なので気にしないでおく。

 

「補助系の魔導師って、えげつない人ばっかしや」

「戦闘系と比べると地味だけど、目立たないだけで危ない人はいっぱいいるからな。あまり敵に回さないように」

「はーい。ライムさん含めて恐ろしい人が多いなあ」

 

 そうは言うけど、お前さんとこのシャマルさんもリンカーコアぶち抜くとかいう荒業するからな?

 そう伝えると、八神は顔を逸らして口笛を吹きだした。忘れてたなこいつ。シャマルさん、普段は天然ぎみの癒し系お姉さんだけど、ある意味一番えげつない事するよね。リンカーコアぶち抜くとか、あまりの痛みに抜かれた歴戦の魔導師が泣いてたぞ。

 

「地味だけど、使い方を工夫すれば活躍できるのが補助系だからね」

「その中でも、戦闘系の魔導師じゃないのに査察部で活躍してるこの先輩ほんと怖い」

「いやいや、管理局の物流を担ってあらゆる部署の弱み握ってる後輩君程ではないよ?」

 

 先輩が目が笑っていない笑顔でこちらを見ている。おそらく自分も同じような表情をしているに違いない。

 査察部の人間よりえげつないとか笑えない冗談言ってくれるじゃないですかこの犬先輩!

 このまま拳で語り合う展開になろうとした瞬間、八神に大人げないでと言われて袖を引かれたので、渋々拳を下ろすことにした。あちらは先輩の隣にいたシスターが、拳で沈めていた。頭を叩くとかそういうレベルではなく、文字通り地面に沈んでいた。

 さすがベルカの教会に務めるシスター、拳強い。

 

「え、いや、それでええんか聖王教会」

「そっちの世界でもいたっしょ。僧兵とかいうのが」

 

 たしか日本にも坊さんが兵隊やってた時代があったはず。それと同じだと伝えると、八神は乾いた笑みを浮かべ冷や汗をかいている。これがベルカの芸風かあ、と。

 シスターは顔が固まって、やってしまったと呟いている。ああ、つい癖でやられてしまうぐらい先輩殴られてるんだ。

 

「そっかあ。ベルカってみんなシグナムみたいな感じなんやな」

「少なくとも現場の人間は脳筋だと思えばいいよ」

「そ、そんな事はないですよ」

「いや、脳筋でしょ」

「ヴェロッサ!」

 

 シスターが再び拳を震わせて怒り、先輩は殴られたら堪らないと逃げ出した。そして、シスターは先輩を追いかけて走りだした。

 いや、あの、案内は? 自分たちの案内人としてシスターがいたはずなんだけど、これどうすればいいだろう。勝手に教会に入るとマズイよなあ。

 八神と2人で呆然とその様子を眺めていると、先に我に返った八神に袖を引かれた。

 

「ライムさん、ライムさん」

「……ん? どした?」

「立ってるの疲れてきてしもた」

 

 最近、八神は自分の足で立って歩けるようになっていた。と言っても、一日中立ったままってのはまだ厳しいらしいけど。

 で、せっかく歩けるようになったのだから、今回は歩いて行きたいと八神が言い出した。3課にいる全員で反対したけれど、本人がどうしてもと言うので課長が許可してしまった。最悪、八神を転送して帰すか、車椅子をこっちに転送すればいいよね、という事で。

 まあ、自分の足で歩けるのが嬉しくて仕方ないんだろうけど。こっちとしては転けないかハラハラしっぱなしですよ後輩君。

 

「だから車椅子使えって言ったのに」

「すぐに座れる思うてたんや」

「で、どうして欲しいのさ後輩」

「おんぶ」

「おい」

 

 後輩が真顔で変なことを言い出した。いかん、とうとうこいつも3課に汚染され始めたかもしれない。

 さようなら、昨日までの純粋だった八神。こんにちは、今日からの汚れた八神。

 ようし、これからは容赦なく弄るぞー!

 

「抱っこは恥ずかしいやろ?」

「どっちもどっちじゃないかなあ!」

 

 素直に車椅子に乗れ、車椅子に。

 というか、おんぶの方が恥ずかしくないのか?

 え、もしかして恥ずかしがってるの俺だけ?

 八神を見ると、何も恥ずかしがらずに、むしろはやくおんぶしろと迫ってくる。だってお姫様抱っこの方が恥ずかしいやんとか言ってるけど、誰がお姫様抱っこをすると言ったよ、誰が。

 

「え、ちゃうんか!?」

「違いますー。あんなの腕が疲れるだけだから」

 

 夢がない、乙女心が分かってないと騒ぐ八神。そうは言うけど、俺男だし。あと、好きでもない人にされても嬉しくないだろ。

 まあ、それを言い出したら抱っこもおんぶも、親しい人以外にされたくはないだろうけど。

 

「てことで、車椅子呼ぶか」

「せやから背負って行って欲しいな、て」

「……」

「……」

 

 そのままお互い睨み合う。いや、もう車椅子使ってもいいって。あとはこの教会の中入るだけだから険しい道とかないし。

 

「背負って、欲しいなあ」

「よし、車椅子を転送するか」

「おかず一品増やすで」

「……へいへい、背負わせてもらいますよー、と」

「うわー。この上司、うちよりおかずの魅力にやられおった」

 

 信じられんわとか言われても、美味い飯で餌付けした八神が悪い。俺は悪くない。

 普段レトルトや手軽な栄養食でやってきた人間に、手間暇掛けて作られた飯なんぞ出されたら、その飯を餌にされたら条件反射で釣られるようになるって。気恥ずかしさより、美味い飯が優先されるのさ。しょうがないよね。

 そして、八神を背負ってみたけど、こいつ軽いなあ。あと、平たいなあ。どうせ背負うならシグナムさんとかクイントさんあたりの方が、男の子としては嬉しかった!

 邪な思いがバレたらそのまま首折られそうで怖いなあ。うん、やっぱ無しで。

 

「なんかイラッと来ること考えてないですか?」

「考えてないよー」

「シグナム直伝の首の折り方は、と」

「申し訳ありませんでした!」

 

 

 

 

 

 教会の中にいた別のシスターさんに連れられて入った部屋には、金髪の女性が微笑んで座っていた。そうだよね。あの先輩が居たんだから当然この人だよね。

 いや、分かってたんだけど、できれば違う人が良かった。こんなややこしい人の相手なんて嫌だって。八神だけ置いていって帰ろうかな。

 

「そしたら、先輩にシグナム達をけしかけるからな」

「過剰戦力の投入やめれ」

「あらあら、仲が良いですね」

「そうだよね。あのボッチだった後輩君に、じゃれ合えるような仲の良い子が出来て僕は――」

 

 人の案内を放置して逃げまわってた先輩が部屋に入ってきて余計な事を喋りだしたので、転送魔法で教会の外に放り出す。

 

「碌なことしないな、あの先輩!」

「いや、せやかていきなり転送するのはやりすぎちゃいます?」

「義弟とも仲が良さそうで良かったわ」

「これ見てもそう見えるんか!?」

 

 八神が驚いてツッコミ入れてるけど、これは自分も同意見。どうやったらこれで仲良く見えるんですかよ。

 怒られると思ってたんだけど、いつの間にか部屋に入ってきていたシスターさんも苦情を言わないことから先輩の扱いがみえてくる。これは、圧倒的下僕ポジ!

 

「シャッハ、迎えに行ってもらってもいいですか。きっと拗ねて建物の影で体育座りしてますから」

「ええ、分かりました。しかし、カリム。いくらヴェロッサでも、この歳になって体育座りで拗ねることはしないと思いますよ?」

「でも、ヴェロッサですよ? 今日のおやつを1品」

「では、私は拗ねていない方に2品、としておきましょう」

 

 雑な扱いどころか賭の対象にされている先輩。思わず八神と顔を見合わせる。

 これ下僕というか玩具じゃね? あの人、管理局だと泣く子も黙る査察官なんだけどなあ。

 

「なんや、この扱い見てたら涙が」

「もうちょい優しくしてあげてもいいのかもしれないなあ、これ」

 

 他人に厳しく身内に甘くが基本方針の3課に所属する自分たちにそう思わせるほど、先輩の立場は低かった。

 うん、次からは飲み物ぐら出してあげよう。それぐらいしてあげても許されるわ、きっと。




さらっとカリムさんと腹黒い話させて終わろうとしたら、どんどん長くなって交渉するとこまで入りませんでした!
とりあえずキリのいいとこで分割です。
さて、終わクロ読んで、交渉について勉強しないと。
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