勇ハブ ~TS転生したけどチーレム勇者のハーレム要員からハブられて悔しいです~   作:りじゅ

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13 危機一髪

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 また例のステーキハウスに来ています。

 オレもすっかり常連だなー。ここへ来るのは今日で七回目ですよ。牛肉大好きなオレからしてみればここはパラダイスだったりします。だって牛肉だよ。牛肉。これを一センチの厚さで縦七センチ、横十五センチくらいの形状にして大型のフライパンで焼くんだよ? こんなステーキを出されたら『うめえ!、こりゃあうめえ!』って口に出して言ってしまいそうです。

 え? そんな大きいのを食べてお腹一杯にならないのかって? なりませーん! 牛肉は別腹なのです。

 美味しいから仕方ないね。

 

 相変わらず昼時は繁盛しています。一番最初に来た時はお昼時から少しずれていましたから客はオレだけだったけど、いつものお昼は大繁盛で座る席を確保するのも一苦労だったりします。

 

 で、こんなに繁盛してるのにこの店のマスターはひとりで全て切り盛りしています。

 注文から調理、お届け、皿洗いに会計と全てひとりで。毎日これじゃあ、死んでしまうんじゃないのか? しかも今日のマスターはどこか疲れているのか動きに精細が欠けている。

 見てると咳も酷いようだし風邪でも引いてるみたいだ。 

 

 せっせと注文を聞きつつ料理を運び、調理を再開するマスター。

 たいへんそうだなー。お腹も膨れたし、一丁お手伝いでもしようか。そう思うと調理をしているマスターの前まで足を運んでいた。

 

「大将!」

 

「あっ、ごほっごほっ。お、お嬢ちゃんいくら常連だからってさすがに厨房の中は困るぞ」

 

「大将! 風邪引いてるんでしょ?」

 

「ん? ああ、朝からちょっと体調悪くてな」

 

「あのですねー大将? 頑張りすぎて貴方が寝込んだら、私もお客さんも困るんだよ?」

 

 牛肉的に困るんです。ハイ。

 

「お、おう。だとしても仕方ないだろ。俺しか居ないんだからよ」

 

 マスターはそんな風に答える。

 

「ですからー。今日は私が手伝っちゃいますよ! 給仕や注文は私が取りますから大将は調理に専念してください! 風邪でダウンしたら私が困りますから!」

 

「う……むー。わ、判った……。でも出来るのかお嬢ちゃんに?」

 

「任せておいて下さい。 私はこう言うの得意ですから」

 

 そう言って月光のジャケットを脱ぐと、上はお気に入りの白いキャミだけになってマスターに笑顔で力こぶを作って見せた。まあ、パワーは全然ないんですけどね。

 

 

 

 白いキャミと白のフレアスカートの美少女(オレ)がウェイトレスをやってるのは傍から見ると凄く絵になってるんじゃないかな? 大通りからも見えるだろうからね。

 だからなのか、昼時をもうとっくに過ぎたと言うのに未だ客足が途切れる事が無い。マスターも引っ切り無しに牛肉をフライパンの上で表と裏をひっくり返したり、味付けしたりと忙しそう。忙しくない様にとお手伝いを買って出たけど、これはもしかしたら逆効果だったか!?

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃん! 牛肉ステーキ三丁あがり! サラダもあがりだ!」

 

 マスターからカウンター越しに料理がどかりと置かれる。それに伴いレシートみたいな紙も同時に置かれる。これはどの席にお届けするのかが書いてある紙で、これが無いと初心者のオレなんかは大混乱してしまうだろう代物です。 

 

「はっ! はい! えーっと、ああ、あそこの席ですね」

 

 そしてオレはその紙に書いてある通り、注文をお届けするのだった。

 間違えていません様に……。

 

 

 

 マスターの負担を少しでも減らして調理に専念させる為、エールくらいはオレが運ぼうと思ってエールの入った樽の蛇口を捻る。

 とたんにじゃばじゃばとエールが勢いよく飛び出してきた。

 ちょ、ま、これ出過ぎ! 出過ぎーー! 

 

「バカ! エールはもっと蛇口を絞って出さなきゃダメだ! それと、ほらソーセージあがったぞ!」

 

 あうあう、マスターに叱られたー。

 不幸中の幸いは白系の服には一切かからなかった事だけ。あーあ、もっと上手く入れなきゃなー。

 

「ごめんなさい! 只今おとどけしまーす!」

 

 

 

「お待たせいたしましたー。エールふたつと牛筋煮込みふたつですー」

 

「待ちかねたぜ! それはそうとウェイトレスさんよぉ、今度デートしないか?」

 

 へらへらして、乱雑に着崩している変なファッションの若者ふたり組からそんな事を言われる。うわー、この手の若者って元の男の頃から大嫌いだったんだよなー。なんて言うか芯が通ってないって言うか、意味も無くケンカをしたがる奴って言うか……。こう言う手合いはお断りだわ。

 

「あははは。それではごゆっくりー」

 

 笑顔でこんな風に言って、この場を誤魔化す。

 本当に、初対面同士で何を言っているんだこの客は! もう氏ね!

 

 お盆を持って戻っている途中で後ろから『あーあ、逃げられちゃったー』なんて声が聞こえてきたけど、超・超・超無視! 無視に決まってます。

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 はあ、やっと終わったー。最後のお客さんがたった今無事に帰ったところです。

 かき入れ時の飲食店のすさまじさをこの身を持って体験したわー。これは死ねる。本当に死ねる。

 魔王討伐の時に比べればアレだけど、まあこれを毎日繰り返すのは一回で終わった魔王戦よりもしんどく感じるかもしれない。

 

「よぉ、お嬢ちゃん。よく頑張ったなー。」 

 

「あはははは。もうダメだったりしますよ」

 

 マスターの言葉に力無く答えるオレ。いやー、甘く見過ぎていたわ。

 

「手伝いなんて言ったが、これは今日の分だ。受け取ってくれ」

 

「あはっ、ありがとうございます。これは給金を貰わないとちょっとやり切れないなって思ってたところでしたよー」

 

 頭を掻きながら照れた様に言う。そしてお金の入った袋を受け取った。

 だって、しょうがないだろ。ここまでたいへんだとは思わなかったんだから。って言うかさ、こんなのをマスターひとりで毎日こなしていたなんて思うと、その凄さが判ろう物。

 

「大将は毎日これをひとりでやっているんですよね。正直に言うと給仕と注文聞きだけでへとへとなんですよ。よくまあ、ひとりで出来るもんですね?」

 

「何を言ってやがる。しんどいに決まってるだろ……」

 

 ああ、やっぱりしんどいんだ。

 それでもひとりで切り盛りしてるなんてやっぱ、凄いよなー。

 

「でさ、お嬢ちゃん。お前さんさえ良ければ明日からも昼時はここで働いちゃあくれないか?」

 

「えっと、そりゃあ、私も仕事を探していたので働き口が出来るのは嬉しいのですけど、本当にいいんですか? 」

 

「ああ、いいとも。お嬢ちゃんの動きを見てれば判るさ。初日でこれだけ動けりゃ、慣れてくれば楽になるだろうよ」

 

「そうですかー。じゃあ、雇って頂きますね!」

 

「よし! そうこなくちゃな!」

 

 立っているのが億劫になって来たので。カウンターの椅子に座る。そしてマスターから無言で手渡されたエールを一杯呑んだ。

 んぐっんぐっんぐっんぐっ! ぷはぁーー! 美味い!! エール最高だわー。

 

「では……、給料形態と労働時間について詰めていきましょうか」

 

「え? お、おう。判ってらぁ」

 

 

 

 

 

 

 帰り道。

 城門を抜けたオレはローレンスさんの家に至る一本道をてくてくと歩いていた。さっきマスターから貰った給金は白銅貨五枚。まあ、日本円にすると五千円くらい。十二時から夕方までで白銅貨五枚なら中々いい線じゃないかなー。

 で、明日からは十一時から夕方って勤務になります。約五時間の勤務です。

 先程のマスターとの交渉の結果、賄い込みの一日白銅貨七枚と銅貨五枚で手を打ちました。サービス業なので日曜日は休めませんが、月曜日は完全休日を貰いましたし、週休二日なのでそれ以外でもう一日休める事になりました。

 平成的でごめんねマスター。でも週休二日は譲れない線だったんだよ。

 

 

 

「よぉよぉ、お嬢ちゃんよぉ。さっきはフられちゃったけどさぁ、今なら大丈夫だろう? どうだいあの水車小屋の中で遊ぶってのは?」

 

 ん? ああ、さっきの若者ふたり組かー。どうしたんだこんな夕方も更けてだいぶ薄暗くなってる時間に。

 

「ああ、先程のお客さんですか。ごめんなさい。私は家に帰るところなので遊びには付き合えないんです」

 

「なーに、お嬢ちゃんの返答になんか期待はしてないからな。こっちはよぉ」

 

 若者がそんな事を言うとあぜ道から十人くらいの似た様な格好の男達が現れた。

 うわあ、面倒だなー。これだけ大人数だと『恐怖』の精霊魔法も効き辛いしなー。正統派な戦い方で対処すれば簡単だけど死人が出そうだし……。

 ああー、面倒だ。

 そう思うととりあえず小声で呪文を唱えて、風邪の精霊の力で体の回りに空気の壁を作る。

 

「そんなに嫌な顔をするなよ。ただ、みんなでお嬢ちゃんと裸で遊びたいだけなんだからさぁ」

 

「えーっと、ちょっと遠慮しておきますね」

 

「とにかくな? その水車小屋までな? 大人しく着いて来れば痛い思いはしなくて済むんだ。ああ、貫かれたらその時はすっごく痛いらしいけど、それは女になる儀式だから仕方ないんだぜ」

 

 こ、こいつ最低だなー。って言うか、なんでこいつはオレが生娘だって知ってるんだよ!?

  

「ははは、お嬢ちゃん? 怖くて声も出せなくなったか? でもな怖いのは一瞬だぜ。そのあとはとても気持ちいいからさ大人しく……」

 

 若者がオレの手を引っ張ろうとしたんだけど、目の前の空気の壁にぶつかり跳ね返されて何メートルか吹っ飛んだ。

 はっはー、ざまーみろ。お前なんかの手がオレに届く事は一生無いんだよー。

 

「てめえ、魔法使いか?」

 

 跳ね返された若者は腰を押さえながらオレに対して憎らしげな表情で言ってくる。

 

「はい。精霊の魔法を少々使いますよ。それでも掛かってきますか?」

 

 それに対してオレは涼しい顔で得意げに言ってあげると、ますます相手は嫌な顔をした。

 ああ、いいわー。その顔いいわー。

 勝ち誇ってもいいかな? かな?

 

 

 

 その時、突然知ってる人の声が聞こえた。

 

「君達、何やってるんだー! ん? ああ、ミコちゃん!」

 

 え? この声は……ローレンスさん?

 薄暗くなりつつあるこの時間。あまりにも帰りが遅かったから心配して見に来てくれたのか?

 

「ローレンスさん……」

 

 やばいぞ。ローレンスさんを人質に取られるとやばい。

 オレの表情で感づいたのか、それともオレの考えが見透かされたのかそれは判らないけど、とっさに若者は手下に言い放った。

 

「おい、そのおやじを捕まえろ!!」

 

 

 

「な、なんだ君達! 何をするんだ!」

 

 すぐに捕まるローレンスさん。あちゃあ、まあ、ローレンスさんなら捕まるよね普通に。

 ローレンスさんを捕まえた事で上位に立ったと思ったのか若者はニヤニヤしながらこちらへとやってくる。

 

「お嬢ちゃん。判るよな? お嬢ちゃんが悪さをするとこのおっさんが酷い目に遭う事になるんだぜ」

 

「…………」

 

 くそ! この状況! どうすればいい?

 

 何も答えずに若者を睨む。

 人質なんて取りやがってこの卑怯者め。碌な死に方をしないぞ!

 

「まずはその変な防御魔法を解いてもらおうか? 嫌ならいいんだぜ?」

 

 そう言うと若者はローレンスさんの方を見る。ローレンスさんは口を何かで縛られて声も出せない状態みたいだ。

 

「判った……言う通りにしますからローレンスさんには酷い事をしないでください」

 

「それはお嬢ちゃんの心掛け次第だなー? なあ」

 

 くそ、足元見やがって! 悪口を考えながら魔法を解除する。

 うう、これでオレは本当に普通のか弱い女子になってしまったよ。と、とっても怖いんですけど……。上目遣いに目の前に居る若者を恐る恐る見る。

 

「そんなに怖がるなって。何も痛めつけようってんじゃないんだ。ただ、お嬢ちゃんの体に男として挨拶がしたいだけなんだからさ」

 

 言うが早いか、若者は後ろへと回るとオレの丸い双丘を両手で押さえ、そのままキャミの上から揉みはじめた。

 こ、こいつ! オレの胸を……。こ、この野郎……!

 涙が出てくる。

 なんでこんなやつにオレの大事な胸を揉まれなきゃならないんだ。くそっ!

 

 チャラ男はしばらくけっして大きくないオレの双丘を揉んでいたんだけど、揉むのに飽きたのか片手をオレのあごに持ってきて強引に顔を上げさせる。そして後ろからやつの顔が迫ってきて……。

 

「えっ!?」 

 

 咄嗟に頭を捻って回避して若者を突き飛ばした。

 おおう、間一髪だ! キスされるところだったよ。あぶねーあぶねー。 

 

「痛てて、お嬢ちゃんよぉ、こんな事をして判ってるんだろうな?」

 

 ぐっ、そうか。オレが何かするとローレンスさんが酷い目に遭うんだった。でも、オレのファーストキスだぞ。こんなチャラ男に奪われるのか!?

 それはすっごく嫌なんだけど。

 でも……。

 

「は……はい。突き飛ばしたりしてすみませんでした」

 

 悔しい! こんなやつらに……オレの初物が奪われる事になるなんて……! 悔しい!!

 

「じゃあ、まずはオレとチューしようぜ。な? な?」

 

 

 

 チャラ男のその言葉に、ローレンスさんが声にならない声を上げて、周りの男達を振り払ったのは、もう一度このチャラ男にあごを掴まれて強引に顔を上げさせられた時だった。

 そして怒れる形相でこちらへと突っ込んできた!

 

 おおぉ! ローレンスさんやっぱあんたは男だぜ! そう思うとチャラ男の隙をついて小声で風と水の精霊に働きかけ、指定した人間全員に雷を落とした。

 一瞬後、稲光とともにチャラ男やその仲間達はみんなドリフみたいな髪の毛になって、頭から煙を立ちのぼらせるとそのままバッタバッタと倒れていった。

 へっへー、精霊魔法使いでも攻撃魔法くらいはあるんだぜ!

 

 

 

 やっとの事で危機を脱したオレは半ば上を向いてボケーっとしてしまっていた。

 だってさ、怖かったんだからね。身を守れないってのは本当に怖い。だから目の前でどうしていいのか判らないかの様なローレンスさんに抱きついたんだ。

 

「大丈夫かいミコちゃん」

 

「もう、ローレンスさん……心配させないで下さい。私がどんなに怖かったか……」

 

「ごめんな。俺が変なところに出しゃばって来てしまって」

 

 ふくよかなお腹のローレンスさんに手を回して抱きついてるんだけどさ、じつは背中まで手が回らないんだよね。だから抱きついているって言うか、へばり付いている感じなオレ。

 一方ローレンスさんは左手はオレの腰、右手はオレの頭をなでなでしながらホッとしている表情です。

 

「そんな事気にしないで下さい」

 

 オレひとりの方がこいつらに対処しやすかったのは確か。でも、帰りの遅いオレを心配で見に来てくれたローレンスさんに無慈悲な事は言えないし、言うつもりもないのです。

 こんな事なら最初からこいつらに雷を食らわせておけばよかったよ。最初はもっと穏便に済ませようとか思っちゃったからなー。 

 

「それはそうとこいつらはどうするんだ?」

 

「しばらくは起き上がれないでしょうから、警備兵に突き出しましょう」

 

「判った。まずは家まで行こうか」

 

「はい!」

 

 あんな目に遭ったんだから空元気なんだけど、元気よく頷く。そうするとローレンスさんもにっこりと笑ってくれた。

 

 

 

 夕方から夜になりかけのこの時間、並んであぜ道を歩いて帰る。

 

 オレのこの魔法の事とか一切聞かずにオレを優先してくれるローレンスさん。

 ローレンスさん、あんたすげーよ。ああ、ローレンスさんが勇者ならよかったのになー。

 

 

 

 

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