廃人トレーナーとポケモンワールド   作:白い人

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【今の話】ヒビキの挑戦

「最強のトレーナー……ですか?」

「うん、ヒビキ君は誰だと思う?」

「えっと……」

 

 そんな事を言われても非常に困る、というのが現在のカントー・ジョウト地方のポケモンリーグ・チャンピオンであるヒビキの率直な思いであった。

 ここはポケモンリーグ会場のある喫茶店。

 ヒビキはカントーのバッチを八つ集める事に成功した報告に来ていたのだが、ふと出会ったワタルに呼びかけられこうしてお茶をしていたのだ。

 カントーでの旅について話していたのだが、ワタルがところで、と切り出し先程の台詞に繋がったのであった。

 

「そんな事を言われても困るって顔をしてるよ、チャンピオン」

「それはそうですよ。確かに僕はチャンピオンになりましたし、ジムも制覇してきました。でも僕が最強なんて言えませんし、誰かって言われても思いつきませんよ……」

 

 そこまで言いよどむヒビキ。

 勝負は水物。確かに目の前にいるワタルに勝ちチャンピオンになったものの、もう一度勝負すれば今度はどうなるか分からないのが率直な思いだ。

 いや、むしろ今度は対策を取られるので負ける可能性は非常に高い。

 ヒビキが勝てたのは彼が有名であるゆえに取れた対策などのおかげ、と考えている。同じ条件になれば、ポケモントレーナーとしての時間が長いワタルに分があると思うのは至極当然であった。

 そんな事を思っているとワタルは苦笑ともなんとも言えない表情を見せて

 

「いるんだよ、最強のトレーナーがさ」

「えっ……?」

 

 そんな事を言い出した。

 それを聞いてヒビキの表情は驚愕で一色になる。まさかワタルからそんな言葉を聞くとは思わなかったヒビキである。

 ワタル本人が最強と言う事はないだろう。すると自分の知らない「誰か」になる訳だが、一体それは……?

 他の地方のチャンピオンだろうか? なるほど。他の地方のチャンピオンならワタルも面識はあるだろうし、最強と言えるだけの実力があってもなんら可笑しくはない。

 しかしそんなヒビキの考えを否定するかのようにワタルは首を横に振った。

 

「違うよ。他の地方のチャンピオンじゃない」

「……じゃあ誰ですか?」

 

 まさか全部ワタルの妄想とかではないだろうな、とヒビキは思ったが真剣な表情をしたワタルの様子を見ればそれはないだろうと思う。

 と、すると本当に誰がワタルが言う「最強のトレーナー」なのだろうか?

 バトルフロンティアにいるフロンティアブレーンだろうか?もしくは海外に出来るというサブウェイという場所にいるトレーナーだろうか?

 

「いや、わりと近い場所にいるよ」

「へ?」

「うん、ヒビキ君はシロガネ山は知ってるよね」

「はい。立ち入り禁止地域ですよね」

 

 シロガネ山。ジョウトの東に聳え立つ山は立ち入りが一切禁止されている場所だ。

 ジョウトでもっとも強い野生ポケモン達がいるという場所。

 並のトレーナーでは行っても大怪我するだけという事で立ち入りが禁止されている。

 そこまで考えて、ヒビキはすぐに察しがついた。

 このタイミングでわざわざ言うという事はヒビキの想像通りに違いない。

 ワタルもまたそれを見てしっかりと頷いた。

 

「そう、最強のトレーナーはシロガネ山にいるんだ」

「立ち入り禁止じゃなかったんですか?」

「ポケモン協会に認められたトレーナーなら出入り可能さ。現に僕も何度も入ってるしね」

 

 ヨーギラスはあそこで捕まえたんだ、と話すワタル。

 なるほど、とヒビキは思う。

 ワタル程のトレーナーなら入っても大丈夫なのだろう。

 

「後は四天王のみんなとかジムリーダーとかも入れるよ。ヒビキ君。君も今なら許可は下りるだろうね」

「へぇ……」

 

 まだ一度も入った事がないシロガネ山。どんなポケモンがいるのだろうか、とわくわくしてきたヒビキ。

 それを見ているワタルは嬉しそうに笑うと、話の続きを始めた。

 

「で、その頂上に最強のトレーナーがいるんだ」

「ずっと疑問に思ってたんですけど、本当に【最強】なんですか?」

「うん、これは僕だけじゃなくて他の――四天王やジムリーダー達も同じ考え。間違いなく最強のトレーナーさ」

 

 むむむ、と思う。ワタルだけではなく四天王、ジムリーダー達も同じ考えならそうなのだろう。

 しかし一体どんなトレーナーなのだろうか……?

 

「それでね、ヒビキ君。挑戦してこないかい?」

「へ?」

「彼等は毎日じゃないけど、シロガネ山の頂上で挑戦者を待ってるんだ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。僕も昨日挑戦してきたよ。ボコボコにされて負けたけどね」

 

 ワタルがあっさりと言う。

 ボコボコにされるとまで言うとはどんな負け方をしたのだろうかと思ったヒビキ。

 ドラゴン使いとしては間違いなく最上位と言っていいワタルがボコボコにされるなど、想像のしようがない。

 

「どうだろう。今の君なら挑戦権はある。ここで一度、最強の壁にぶつかってきた方がいいんじゃないかと思ってね」

「……それって僕が負けるって事ですか?」

 

 ワタルの言葉を聞いてむっ、となるヒビキ。

 確かにワタルの事は尊敬しているが、自分が負けると戦う前から断言されるとさすがに嫌な気分になる。

 そんな表情が出たのだろう、ワタルはすまないとすぐに頭を下げてきた。

 

「だけどどうしてかな。君が相手でも彼等が負けるビジョンがまったく見えなくってね」

 

 もし勝てたら君が名実ともに最強のポケモントレーナーだな、と話す。

 そこまで言われればヒビキはやる気が俄然と出てきた。それ程の強敵なら是非とも戦ってみたい。

 目の前にあるオレンジジュースを一気に飲み干すと椅子から立ち上がる。

 

「行くのかい?」

「はい!」

「ならシロガネ山に行けるに手配しておくよ。チャンピオンロード前のゲートに行けば職員が案内してくれる筈だ」

「ありがとうごいます!」

 

 ジュース代だけ置いて、ヒビキは走って喫茶店から飛び出して行った。

 それを見たワタルは、冷めてしまったコーヒーを飲むとさて、と立ち上がる。

 協会に連絡してヒビキのシロガネ山への立ち入り許可を取らなければならないからだ。

 しかし、と思う。

 『彼等』とヒビキ、どっちが勝つかと言われると申し訳ないが、やはりヒビキが勝てるビジョンが見出せない。

 ワタルと同じ、もしくはそれ以上のヒビキであってもだ。

 

「僕程度にてこずるんじゃ、勝てないだろうなぁ」

 

 まだ一度も六対六の勝負で、相手の手持ちを3匹以上見た事がないワタルの率直な感想であった。

 

 

 ●

 

 

「ここが……」

 

 ワタルと別れてからすぐに、ムクホークのそらをとぶでチャンピオンロードのゲート前に到着。

 そこの職員にシロガネ山への道を紹介してもらったヒビキは半日程でシロガネ山へと到着していた。

 

「しかし寒いなぁ……」

「がう!」

「ありがとうバクフーン」

 

 シロガネ山と近づくたびに、気温は下がっていき雪まで降り始める始末。

 しまったなぁ、とヒビキは思う。勢いに乗ってシロガネ山へと道を急いでしまったため、防寒着の用意をすっかり忘れてしまったのだ。

 運がよかったのは旅立ちからずっと一緒にいるバクフーンが暖房代わりになってくれた事だろうか。

 こんな事に力を使わせてもらって申し訳ないと思いつつも、戻って防寒着を用意する手間が省けたのはありがたかった。

 

「でもさすがにこれは無理かな……」

 

 シロガネ山の麓に到着したものの、既に周りは真っ暗。もう夜だ。

 さすがに雪が降る山へ、こんな夜に登るのは危険すぎる。

 となると、野宿をして一晩明かすのが妥当な所ではあるが、やはり寒い。

 旅をすれば、野宿は基本になっていたがここまで寒いとさすがにヒビキとしてもやりたくはない。

 どうしたものかと、周りを見渡すとかすかに灯りがある事に気づいた。

 

「……あっ!」

 

 灯りの方へと道を進めれば、そこには見慣れた建物。ポケモンセンターだ。

 なんでこんな山奥に、と思わなくもないが今はそれがありがたい話だ。

 バクフーンと共にポケモンセンターに駆け込むと、中は暖房がしっかりと聞いており冷え切っていた身体がじんわりとあったかくなっているのを感じ取れる。

 ふぅ、と一息つくと

 

「こんなに時間にお客さんですか?」

「あっ、はい!」

「あら、貴方は……ヒビキ君かしら?」

「そうですけど……なんで?」

 

 ポケモンセンターの職員らしき女性に声をかけられるのはいいが、まさか名前を知られているとは思わなかった。

 チャンピオンになった時に全国放送され、そこそこ名前が知られるようになったものの、有名とは言いがたいヒビキである。

 事実、街中を歩いていても声一つかけられた経験はまだない。

 

「ふふ、ゲートの職員さんから連絡があってね。来るだろうって言われてたからすぐにね」

「ああ、なるほど」

「それにここは決まった人達しか使わないからすぐに分かるわ」

「へぇ……」

「疲れたでしょ?ポケモン達も休ませて、貴方も休みなさいな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ポケモン達が入ったボールを預けると、慣れた様子でヒビキはポケモンセンターの奥へと足を進めた。

 全国にあるポケモンセンターは地域によって違う点はあるが、内装はほぼ一緒である。ジョウトとカントーのセンターには既に行きなれたものだ。

 食堂や宿泊用の部屋の場所もしっかりと頭の中に入っている。

 宿泊用の部屋を一室取ると、食事をする為に食堂へと道を進める事にした。

 まぁ、誰もいないんだろうけど。とヒビキは思う。ここに来るまで実際、少ない職員さんにしか出会っていないから当然だ。

 だから。

 

「あら、ヒビキさんではありませんか」

「へ? ってエリカさん!」

 

 食堂に入ると、着物に身を包んだ少女――自分より年上だが――でありタマムシシティ、ジムリーダーであるエリカがいるとは思わなかった。

 よく見れば彼女も食事中らしく、エリカの前のテーブルには食事が並んでいる。

 エリカが一緒にどうですか?と言うものだから、ヒビキは頷いて定食を頼み、受け取るとすぐにエリカの目の前の席に座った。

 何せエリカは美少女なのだ、一緒に食事と聞かれれば断る理由などなかった。

 

「エリカさんはどうしてここに?」

「ヒビキ君と同じ理由ですわ。私はもう終わり、帰る途中なのですが」

「ああ、なるほど」

 

 エリカもまた「最強のトレーナー」に挑戦しにきたのだろう。

 しかし結果はどうだったのだろうか……?

 

「私の負けですわ。やはり強かったです」

「……」

 

 負けた、といってもエリカの表情は実に晴れやかであった。

 ある意味、予想通りではあったがやはり「最強のトレーナー」は名だけのものではないらしい。

 やる気を更に燃やしながらヒビキはふと気になった事があってので、聞いてみる事にする。

 

「あの、ワタルさんもなんですけエリカさんも【彼等】って言ってましたよね。【最強のトレーナー】は一人じゃないんですか?」

「はい。【最強のトレーナー】はある三人の事を言います」

 

 なんと。

 まさか三人とは思わなかった。

 ならば三人で【最強のトレーナー】なのだろうか?

 

「いいえ違います。彼等一人一人が【最強のトレーナー】なのです」

「一人一人がですか……?」

「はい。彼等は敗北という文字を知りません。私が知る限り、彼等が負けるのはお互いが戦った時ぐらいでしょう」

「……」

「ヒビキ君、貴方が挑もうとするのはそれぐらい強大な相手です、臆したならここで引き返すのをお勧めいたしますわ」

「いいえ、それを聞いてもっとやる気が出ました!」

「ふふ、いい返事ですわ」

 

 闘志が萎える所か、更に燃え始めたヒビキを見て嬉しそうに微笑むエリカ。

 

「ならまずは頂上を目指してください。そこにいけば三人のうち誰かがいる筈ですから」

 

 彼等一人にでも勝てば最強の一員だと言う。

 

「分かりました!」

「頑張ってくださいね、ヒビキ君」

 

 

 ●

 

 

「……ふぅ、ここが頂上か」

 

 次の日、朝早くにエリカはタマムシシティに帰っていき、ヒビキは防寒着を整えてシロガネ山へと登っていた。

 噂に聞いた通り、ここにいるポケモン達は強く中々手ごわかったが、事前に用意していた薬などもあってポケモン達は元気そのものだ。

 そしてお昼をすぎた頃に頂上らしき場所に到着したのであった。

 

「凄い……」

 

 ヒビキが頂上に到着した時には既に雪も止んでいた所か、雲一つない晴天だ。

 ここからならジョウト地方がよく見える。

 五分程、絶景を眺めた後、改めて回りを見渡す。

 しかし、目的である「最強のトレーナー」の姿はない。ワタルも言っていたが、毎日いる訳ではない為だろう。

 

「……いないかな」

「いや、いるよ」

 

 残念だがいつもいる訳ではないというワタルの言葉を考えて、今日は諦めて帰ろうかと思った矢先に、突然声をかけられた。

 ハッ、と慌てて空を見るとそこにポケモンの姿見える――火竜といわれているリザードンだ。

 リザードンは少し旋回した後、頂上へと足を降ろすと同時に背中から一人の人間が降り立つのが見えた。

 赤い帽子に赤いジャケットを身にまとった少年だ。

 まさか……。

 

「貴方が【最強のトレーナー】?」

「自分でそう名乗る気はないけど、そんな感じで呼ばれてるよ」

「……」

 

 まさか自分と同い年ぐらいの人物とは思わなかった。いや、待て。

 ヒビキは記憶の中にある、ある事を思い出していた。それは……

 

「3年前、ロケット団を倒したと言われている伝説のトレーナー達の中に赤い帽子をかぶった少年がいたって聞きます。……貴方が?」

「ああ、うん。俺一人で倒した訳じゃないんだけどね」

「じゃあ、貴方が……あのレッドさんですか」

「うん。よろしく」

 

 【最強のトレーナー】があの【伝説のトレーナー】と同一人物とは思わなかった。

 いや、だからなのかもしれない。しかし3年前にぱったり噂を聞かなくなったと思ったらまさかこんな所にいるとは思わなかった。

 

「よく言われるよ。さて君は挑戦者って事でいいのかな?」

「はい!」

「それじゃあやろうか。ルールはポケモンリーグと同じ。手持ちは六体でいいかな?」

「はい!」

「いい返事だ。じゃあやろうか!頼むよリザードン!」

「いけ!ギャラドス!」

 

 レッドは後ろにいたリザードンを。

 ヒビキは相性がいいギャラドスを。

 勝つ!とヒビキは気合を入れなおすと、ギャラドスに指示を出し始めた。

 

 

 ●

 

 

「ギャラドス!なみのりだ!」

「リザードン!りゅうのまい!」

 

 リザードンが空中に飛んで、舞い始める。ドラゴン達が己の力を高める為の舞だ。この技は自分の力と素早さを強化する技の一つだ。

 だが、とヒビキは思う。ギャラドスから放たれる水の波は的確にリザードンに襲い掛かっている。

 ほのおポケモンの弱点であるみず技だ。

 運が良ければ一撃で倒せるだろうし、一撃で倒せなくてもかなりのダメージを与えられるだろう。

 事実、ギャラドスから放たれた水の波はリザードンを飲み込み、かなり怯ませた様子だ。

 ここでヒビキならリザードンを戻し入れ替えるだろう。

 そもそもほのおポケモンでみずポケモンと勝負する事が間違いなのだから。

 しかし。

 

「入れ替えないんですか?」

「うん。今の一発はそれなりだけど……俺のリザードンを倒すには程遠いかな」

 

 レッドの言葉にあわせてリザードンがその尻尾の炎が強く燃え盛る。

 その言葉を肯定しているかのようだ。

 

「それに」

「それに?」

 

 レッドが顔隠すように帽子の鍔を指で掴む。

 

「今の君が相手ならごり押しでも十分行けると思ったからね」

「なっ!?」

 

 なんという侮辱的な言葉。

 新人とは言え現チャンピオンであるヒビキに対してこれである。

 これには温厚であるヒビキにも怒りの火がついた。

 絶対に倒すと決意を固める。

 ヒビキの意志を感じ取ったのかギャラドスもまた自分がたいした脅威じゃないと判断された事を理解したのだろう。

 上空に佇むリザードンに怒りの咆哮を上げる。

 だがリザードンは指を立てて挑発してくる始末だ。

 

「行くぞギャラドス!はかいこうせんだ!」

 

 上空に上がったリザードンの意志は理解していた。

 ギャラドスの使ったなみのりは巨大な水波を起こす技だ。

 どうしても攻撃範囲は地面付近に限定されてしまい、空の上の敵に対してはそれ程、有効ではない。

 己の弱点である水技を封じる為に空を飛んだのだと判断したのだ。

 しかしギャラドスはその代名詞とも言うべき技がある。

 はかいこうせん。

 かつて街一つを焼き尽くしたと言われる攻撃技だ。

 これの直撃を受ければみず技ではないとは言え、リザードンを倒せる筈だ。

 そうヒビキもギャラドス自身も判断したのだ。

 が。

 

「え?」

 

 ヒビキが見たのはギャラドスがリザードンに殴り倒される所であった。

 ギャラドスはヒビキの指示通りに上空に佇むリザードンめがけてはかいこうせんを放とうとした。

 だが次の瞬間、ギャラドスの視界からリザードンが消えたのだ。

 そして次の瞬間にはギャラドスの腹にリザードンの拳が突き刺さっていたのだ。

 しかもただの拳ではない。

 その拳には雷が纏われていたのだ。

 かみなりパンチ。

 電気を拳に発生させて、そのまま殴って攻撃する技だ。

 しかし基本的にでんきポケモンが使ってくる技であり、まさかほのおポケモンであるリザードンが使うとは思ってもいなかったのだ。

 そしてそれ以上に驚いたのはその速さだ。

 確かにリザードンが最初に使ったりゅうのまいはその力と速さを強化する変化技。

 しかしそれを加味したとしても速すぎた。

 

(一体、どれだけ速いんだ……!?)

 

 そして合点が言った。

 みずとひこうの複合タイプであるギャラドスはでんき技に対して圧倒的に弱い。

 だからその弱点をつけるかみなりパンチを覚えている事とあの速さが先程の自信に繋がっていたのだ。

 

「ギャラドス、ごめん」

 

 ヒビキは倒れ敗北したギャラドスをボールへと戻すと、その視線をレッドとリザードンへと向ける。

 ワタルが言っていた通り、彼が【最強のトレーナー】かは分からない。

 だがその実力は本物だ。

 油断や慢心など出来る筈もなかった。

 

(だけど次は何を出す?)

 

 先程の速さを見た感じでは速さであのリザードンに勝てるポケモンは一匹いる。

 だがそのポケモンであのリザードンを一撃で倒せるかどうかは分からない。

 そしてリザードンは攻撃力も上昇させている。

 倒せなかった場合、防御力が低いあいつでは返り討ちにある可能性が高い。

 ならば……。

 

「……行くよ!デンリュウ!」

 

 ヒビキが選択したのは受ける事であった。

 デンリュウはでんきポケモンであるが、ピカチュウやマルマイン達とは違い足は決して速くない。

 だがその分、耐久力に優れたポケモンでもある。

 

(これならかみなりパンチの威力は半減するし、かえんほうしゃやエアスラッシュぐらいなら耐えられる!)

 

 かみなりパンチの威力には驚いたが、しかしあれはあくまでダメージが4倍になるギャラドスだからこその威力。

 そしてワタルのリザードンも使っていた技もデンリュウならば耐えられると判断したヒビキ。

 速さで負けたとしても一撃さえ耐えれば攻撃した隙を狙って10まんボルトを叩き込めば勝てる。

 そう確信したのだ。

 

「デンリュウ!10まんボルト!」

「リザードン、じしんだ!!」

「なっ!?」

 

 だけどその想いも一瞬で粉砕される。

 急降下したリザードンが地面にその両足を叩きつけると同時に地震がデンリュウに襲い掛かったのだ。

 じめん技であるじしんが来るとは予想していなかったヒビキとデンリュウは少しでも逃れようとするも、圧倒的速さと力で放たれたじしんは逃げる暇すら与えない。

 直撃した一撃はデンリュウの高い耐久力すら上回る程であった。

 

「で、デンリュウ……!?」

 

 倒れ伏すデンリュウ。

 それを見下ろすリザードン。

 全てにおいてヒビキの予想を上回っていった。

 無言のままデンリュウをボールへと戻す。

 だがヒビキの闘志はまだ折れていない。

 ヒビキの思考はいかにしてあのリザードンを倒すかどうかを考えていた。

 リザードンが今まで使ってきたのは、りゅうのまい、じしん、かみなりパンチ。

 所謂、物理攻撃技に分類されるものだ。

 ならば、それに対抗出来るのは。

 

「ネール!行くぞ!」

 

 ヒビキが繰り出したのは超大型、てつへびポケモン、ハガネールだ。

 このハガネールはかつて、アサギシティのジムリーダー、ミカンと交換したポケモンである。

 確かにハガネールはがねタイプでありほのお技に弱い。

 だが物理攻撃に対しては無類の防御力を持っているのだ。

 デンリュウが倒された今、あの速さと攻撃力に対抗出来るのはこのハガネールしかいない。

 

「……リザードン!」

「ネール!」

 

 レッドはこれでもポケモンを入れ替えない。

 最初に言った通り、入れ替えをする気はないようだ。

 ならば小細工不要真っ向勝負だ。

 

「リザードン、フレアドライブ!」

「ネール!すてみタックル!」

 

 炎を纏ったリザードン。

 その巨体に似合わぬ速度で突撃するハガネール。

 両者がぶつかりあった瞬間、世界が弾け飛んだ。

 衝撃で雪や石が吹き飛んでいく。

 全ての衝撃が収まり、2人の視線が明けるとそこに残っていたのは……。

 

「ネール!」

 

 ヒビキのハガネールであった。

 逆にレッドのリザードンは力尽きたように倒れ伏している。

 

「よくやったリザードン」

 

 レッドがリザードンを手持ちに戻す傍ら、ヒビキもまたハガネールをボールに戻そうとしていた。

 勝つには勝った。

 だがその代償は大きすぎた。

 弱点であるほのお技を受けただけではなく、リスクが高いすてみタックルを放ったのだ。

 もうハガネールに戦闘を続けられるだけの力はなかった。

 

「ありがとう、ネール」

 

 大事にハガネールが戻ったボールを握り締めると、再びレッドへと向き直る。

 【最強のトレーナー】と言われる人物のポケモンを1体倒した。

 だが逆にヒビキは3体のポケモンを失っていた。

 ここまでくればヒビキとて理解している。

 自分と相手の圧倒的な力の差。

 だが諦めたりはしない。

 最後の最後まで喰らい尽く。

 ヒビキの目からはまだ光は失われてなどいなかった。

 

「……行きます!ヘラクロス!」

「カビゴン!」

 

 同時に出されたポケモンを見て、思わずガッツポーズをとるヒビキ。

 ノーマルタイプであるカビゴンに対して、ヒビキの出したヘラクロスは幾つか有利な技を所有している。

 まともに当てる事さえ出来れば勝つ事は可能だ。

 そしてカビゴンは超重量型。そのスピードは遅い。

 

「行け、ヘラクロス!インファイトだ!」

「カビゴン!」

 

 ヒビキの指示でヘラクロスが一気にカビゴンの懐へと飛び込んで行く。

 超至近距離はお互いにダメージを与えやすい。

 インファイトは文字通り諸刃の剣なのだ。

 だがヒビキの目論見どおり、カビゴンの腕を掻い潜り懐へと飛び込むとヘラクロスは拳によるラッシュをかけた。

 かくとうわざであるインファイトはノーマルタイプであるカビゴンにはよく効く一撃だ。

 耐久力が高いカビゴンと言えどこの至近距離から放たれたインファイトを受ければただではすまない。

 だが相手のカビゴンはヒビキの想定以上の耐久力を持っていたらしい。

 ヘラクロスの攻撃が止んだ、ほんの一瞬をついて反撃してきたのだ。

 

「ヘラクロス!!」

 

 カビゴンの右ストレートを直撃してしまったヘラクロスが一気に吹き飛ばされる。

 インファイトを使えば、その後のダメージが増加してしまう為、今の一撃は相当痛いに違いない。

 だがヘラクロスは起き上がると、大丈夫とヒビキに視線を送る。

 そんなヘラクロスの様子を見ながら、ピンピンした様子のカビゴンを見て冷や汗を流してしまうヒビキ。

 分かっていた事だが、全てが想定を上回る。

 弱点を突いたというのにあのカビゴンの耐久力は一体どれ程、あるというのだ。

 

「だけど効いていない訳じゃない!行くぞヘラクロス!もう一回インファイトだ!!」

 

 格上を倒すなら前に進むしかない。

 ヒビキの意識とヘラクロスの意識が一体化となり、再びその虫羽を羽ばたかせ再びカビゴンへと飛び込んで、再びその拳をカビゴンへと叩きつける。

 だがその様子を見てヒビキが思わず目を見開いてしまう。

 

「へ、ヘラクロス!?」

 

 確かに再びヘラクロスの一撃はカビゴンに直撃した。

 だがその拳の勢いは先程とは違いあまりにも弱弱しい。

 一体何が、と思った瞬間、再びカビゴンの拳がヘラクロスを直撃。今度こそ戦闘不能へと落ちてしまった。

 ボールへと戻そうとヘラクロスに近づいて、ようやくヒビキはその真相を理解した。

 

「や、やけど……!そうか、だから!」

 

 やけどをしたポケモンは物理攻撃能力が低下してしまう。

 2回目の攻撃があまりにも弱かったのはそれが原因という事か。

 そしてやけどを負った原因は一つしかない。

 

「ほのおのパンチ……ですか?」

「ああ」

 

 カビゴンの拳から炎が燃え上がっているの見てなるほど、と頷く。

 確かにむしタイプであるヘラクロスにほのお技は天敵だ。

 そして不幸な事に最初の一発でやけどを負ってしまい、二度目の攻撃に失敗してしまったという事か。

 これでヒビキの手持ちは残り二体。

 

「行くぞ……ムクホーク!!」

 

 ボールから飛び出す様子に最高速度で大空を飛翔する。

 スピードはヒビキの手持ちの中でも最速。

 そのスピードは確実にカビゴンを翻弄している。

 だがカビゴンが慌てる事なく、じっと構えを取る姿を見て攻め手が減ってしまった事に気づく。

 ムクホークの技の大半は相手の懐に飛び込む攻撃が大半。どうしても攻撃するにはカビゴンに近づくしかない。

 だが先程のインファイトと同じく懐に飛び込めば、攻撃される可能性が高くなる。

 ああやってじっと構えているのはこちらが飛び込んでくるのを待っている為だろう。

 しかしヒビキはムクホークに視線を向けると同時に、ムクホークのスピードが跳ね上がる。

 

「こうそくいどうか!」

 

 己の速さを上げる変化技。

 先程のリザードン以上のスピードを出しながら、カビゴンの視線を翻弄していく。

 だがカビゴンは動じない。

 不動とばかりにどっしりと構えを取っている。

 

(これぐらいじゃ翻弄されないか……!)

 

 少しでも隙が出来ればいいと思っていたのだが、やはりこれぐらいでは動じてくれないらしい。

 だが、速さが上がった今なら先程とは違った行動がとれる。

 

「ムクホーク!ふきとばしだ!」

「チッ!」

 

 強大な風がカビゴンに襲い掛かる。

 崩れないのならば崩せばいい。

 事実、先程まで不動の体勢を取っていた筈のカビゴンは風にあおられ、わずかだがその構えに隙が出来ていた。

 

「でんこうせっかだ!」

「迎撃しろ!」

 

 こうそくいどうにあわせて超速攻の技、ムクホークでんこうせっかが放たれる。

 その一撃は迎撃しようとするカビゴンの腕を掻い潜り、その腹へと嘴が突き刺さる。

 だがこの程度で落ちる相手ではない。

 直撃した次の瞬間には、ムクホークはその場から離脱をしていた。

 

「ダメージは少ないけど……!」

 

 ムクホークが何度もカビゴンの攻撃を避け、次々にでんこうせっかを直撃させていく。

 どうやらカビゴンには遠距離攻撃などは保有していないようだ。

 これを繰り返せば倒せる、そうヒビキが判断した次の瞬間。

 

「受け止められたっ!?」

 

 先程までいいようにやられていたカビゴンが遂にムクホークを捕らえたのだ。

 防御体勢でしっかりとムクホークの体を掴み取っていた。

 

「しまった!まもるか!」

 

 防御技、まもる。

 相手の攻撃を受け止める事に特化したこの技でムクホークのでんこうせっかを防いだのだ。

 そしてその予想外の展開にヒビキもムクホークも一瞬の隙が生まれてしまう。

 

「カビゴン、おんがえしだ!」

 

 力の限り、捕まえたムクホークを地面にたたきつけるとその巨体を生かしてのしかかるように攻撃するカビゴン。

 カビゴンがどいた先には倒れ伏すムクホークのみ。

 たった一瞬の隙で逆転されてしまった。

 

「ありがとう」

「さて、君の手持ちは残り一体かな」

 

 そうだ。残り一体しか残っていない。

 これにすべてがかかっている。

 だけどこの最後の手持ちがヒビキの最大の相棒だ。

 

「行くよ!バクフーン!」

 

 かざんポケモン、バクフーン。

 ヒビキがかつて、旅立った時に受け取ったヒノアラシが進化した姿だ。もっとも付き合いが長く、もっとも信頼している自分の相棒。

 そしてもう後先など考える必要はない。

 放つのはバクフーンが使える最大にして最強の必殺技だ。

 

「行きます!バクフーン!!ブラストバーン!!!」

「迎え撃て!カビゴン!おんがえし!!」

 

 灼熱の閃光。

 そして轟音。

 決着がついたのだ。

 

 

 ●

 

 

「……」

 

 バクフーンもまた最後の一撃で倒されていた。唯一の慰め所は、ほぼ相打ちにはもっていってカビゴンは倒せた事ぐらいだろうか。

 しかしこちらは六体全てが戦闘不能。あちらは二体しか倒せず、三体目は目にかかる事すら出来なかった。

 だけど。

 楽しかった。そして目標が出来た。

 こんなにも厚い壁はそうはない。

 傷ついたポケモン達をボールに戻すと、ヒビキは力強くレッドの姿を見つめた。

 この人が「最強のポケモントレーナー」と言われる事がよく分かった気がした。ワタルやエリカもまたこの強さにぶつかって、負けたのだろう。

 ならば超えたい。超えてやりたい。勝ちたい!そんな事ばかりがヒビキの脳内を占めていた。

 

「また来ます!」

「……」

「何度でも来ます。そしていつか越えてみせます!」

「……待ってる。追いついてこい!」

「はい!」

 

 それだけ言うとヒビキは下山すべく駆け下りていった。

 まずはそうだ。あいつとコトネに連絡をしよう。そして一緒にポケモン達を一から鍛えなおすのだ。

 あっちも三人いるらしいのだ。こっちも三人で対抗したって問題ない。

 ヒビキはそんな事を思いながら、全力で走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

「今日、ゴールド……じゃなくてヒビキが来たよ」

『おっ、金銀もといHGSSの主人公が来たのか」

『あー、そっか。もうそんな時期か』

「だからお前等も一度戻って来いよ。っていうか二人とも今何処?」

『俺様はホウエン地方だ。ブルーは?』

『ふふーん、私はなんとイッシュ地方に来ております!』

「なん……だと……」

『なん……だと……』

『いいでしょー!』

「とりあえずメラルバとモノズは頼んだ」

『同意』

『OK、把握したわ』

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