注意。
お酒についてもっともらしい事書いてますけど、俺は酒に弱い上に知識もありません。
間違っていることを書いていたとしても、指摘をせずに鼻で笑っておいてください。
お願いします。
では、どうぞ!
こいしとお燐が走り去った後、うちはいつ地霊殿のみんなが来てもいいようにテーブルの用意を始めた。この屋台が大きいと言っても、さすがに大人数が来てしまったら収まり切らない。数人が立ち飲み状態になってしまう。でも、こんな時のためにうちが何の準備もしていないと思ったら大間違いなのよ、ちゃんと準備してあるんだから。ベンチを取り出した時と同じように、リングに妖力を込めて輝かせ、その中に腕を突っ込んだ。そして引き出したものは大きなテーブル、そして2つのベンチ。これで大人数が来ても安心だ。
「にしてもその輪っかすごいよな。一体どんな仕組みなんだ?」
「えへへ、企業秘密ですよ」
そう笑顔でお茶を濁した。だって、あいつからこっそりと盗んだなんて口が裂けても言えないからね。テーブルを拭きながら食器や箸を用意し、酒も温める。油の温度もバッチリだし、食材の準備も万端だし、そして何より気合十分!どんな団体さんが来ても絶対に大丈…
「おーい心音、私にもチーズカツを作ってくれ。それと鬼負かしをロックで」
「あ、え、あいよー」
もう、人がかっこよく決めようとしているときに注文を挟まないでよね。不満げに頬をぷくーっと膨らませながら調理に取り掛かる。こいしに作った時と同じようにチーズを大葉と共に薄く切った豚バラ肉で包みこんでいく。勇儀姉さんにはサービスで2枚多めにしておこう。
「それにしても鬼負かしをロックで行くなんて、姉さんは粋だねぇ」
「まあな。この酒はこうやって飲むのが一番美味いんだよ!」
そう言って勇儀姉さんは上機嫌に、そして豪快にガハハハと笑った。やっぱり勇儀姉さんはこうじゃなくっちゃ。この豪快でさわやかで前向きで姉御肌な所に惚れ込み、姉さんと慕うようになった。姉さんもまた、うちの事を妹分として常に見守り、支えてくれた。だからなのか、勇儀姉さんの豪快で明るい笑い顔を見ていると自分まで幸せや楽しさ、そして安らぎを感じる事が出来る。
「なんか、うちも飲みたくなってきちゃった」
グラスをもう一つ用意し、拳で砕き割った氷を詰め、そこにうちの大好きなお酒「鬼負かし」を注ぎ入れる。このお酒はかなり辛口で度数も高い。人間の間では、このお酒をコップ一杯飲み干す事が出来れば鬼を超える酒豪だと言われ、もてはやされてきた。そこから鬼を超える、つまり鬼を負かすお酒と言う理由で「鬼負かし」という名前が付けられた。トクトクと言う心地いい音を響かせながら注がれる澄んだ一筋の流れはほのかな光を受けてキラキラと輝いている。
「はい、お待ちどーさま。じゃあ乾杯」
「おう、乾杯だ」
グラス同士を突き合わせると、カチンという音が響く。グラスの縁に唇をつけ、そっと傾けてお酒を口に含んだ。口の中に流れ込んできた冷たい流れを舌で受け止め、ピリリとした辛さを堪能したのちゴクンと飲み込んだ。息を止め、お腹の中から全身に行き渡る温もりとアルコールの余韻を堪能した後ふぅーっと長めに息を吐いた。
「あぁ~美味い!」
「お、心音もなかなかの飲みっぷりじゃないか」
「そう?ありがとう」
グラスを置き、料理を再開する。小麦粉と卵、パン粉をまぶして油に投入した。黄金色に輝く油の中で歌うようにはじける泡の音を肴に、再びグラスに唇を近づける。
「ところで店主であるお前が酒を飲んでもいいのか?」
「うちだって酒を飲みたいんだよ。もちろんうちが飲んだ分のお酒の料金はもらわないから安心して」
「なるほど、そういうことね」
「うん、しかもうちは鬼だよ。目の前で美味しそうにお酒を飲むお客さんをじっと見ているだけなんて拷問に近いよ」
「違いないな」
そして再び勇儀姉さんと笑いあう。そうして話し合っていると、カツの方も揚がって来たみたいだ。油の中から引き揚げ、皿に盛りつけてソースと共に差し出した。
「来た来た!これ、こいしが美味しそうに食べていたから気になっていたんだ」
そう嬉々とした表情で言うと、待ってましたと言わんばかりに箸でつまみあげてソースをべっとりと付けた。
「熱いから気を付けてよ」
そう注意したが、注意するよりも早くチーズカツにがぶりとかぶりつく。その途端顔面からほとばしる妙に女の子っぽい笑顔。目尻が下がり、口角が上がる。そして「ん~!」と言う唸り声。そして数回
「あー美味いぞこれ!噛むたびに肉汁がぶわあっと溢れ出してくるし、しかも肉厚でジューシー!胡椒のピリッとした辛みもちょうどいいし、しかもこの酸味のあるソースがこれまた酒にものすごく合うな!」
勇儀姉さんから飛び出した食レポに、うちは少し驚いてしまった。勇儀姉さんは何にしても豪快で前向きな性格をしており、食事に関しては味よりも食感とか歯応えとかに拘っている感じだった。でも今の食レポは味についても触れてくれた。それがなんだか嬉しくて少しこそばゆかった。
「お姉さーん!来たよー!」
その声と共に暖簾の隙間からこいしがひょこっと顔をのぞかせた。お、ついに地霊殿のみんながやって来たのか。さあ、いったいどれほどの大所帯なのか…な…あれ?目の前にいるのは…
「ねーねー!いっぱい食べようよ!」
こいしと…
「うふふ、そうね」
ピンク色をした髪の女の子と…
「うにゅ?ものすごく良い匂いがします!」
背中に翼が生えた背の高い女の子と…
「じゃあ女将さん!よろしくね!」
お燐の4人…以上。勇儀姉さんが大豪邸とか言っていたからもっと大勢のお客が来るのかと予想していたのに、拍子抜けしちゃったな。でもまあ、逆に少ないほうがゆったりとお酒を飲みながら料理ができるからそれもありか。
「地霊殿の皆さん、今日はありがとうな!うちがこの屋台栗々亭の女将、栗夢心音さ。よろしく!」
「あら、居酒屋の女将が鬼って面白い組み合わせね。私は地霊殿の主、古明地さとりよ」
ピンク色の髪をした少女、さとりはくすくすと笑った後自己紹介を返してくれた。この女の子があの豪邸の主なんて意外だな。さとりはじっとうちの顔を見つめた後、「あら」と言う言葉を漏らす。
「そのあだ名はちょっと恥ずかしいので呼ばないでください」
「さとっちはダメなのか!?」
「だから呼ばないでください!」
うちが提示したあだ名を速攻で拒否された。でも、言う前にあだ名を考えていたことを見抜くなんて、心を読む事が出来るというのも嘘じゃないんだな。
「さとっち可愛い!じゃあ私今からお姉ちゃんのことさとっちって呼ぶね!みんなにも教えちゃおうかな?」
「こ、こらこいし!恥ずかしいからやめなさい!」
さとっちと言うあだ名を広めようとはしゃぐこいしと、顔を赤く染めながら必死にそれを制すさとり。2人のやり取りは見ていて本当に微笑ましい光景だ。
「そして、あんたはなんていう名前かな?」
「うにゅ?私は霊烏路空よ。私のあだ名は何になるの?」
背の高い少女、空は笑顔で聞いてきた。自分からあだ名を聞いてくるなんて言うのはあまり無いから張り切っちゃうな。えーと、こういう時に限って面白いあだ名が出てこないんだよなー。うん。
「えーっと…うっちーなんてのは…どうかな?」
そうおずおずと聞いてみると、途端に笑顔になる。その表情を見るに、どうやら気に入ったみたいでよかった。空改めうっちーは嬉々とした表情を浮かべながら、未だに微笑ましい言い争いを続けている古明地姉妹の方に向かっていった。
「どうだい?裏表のない良い子だろう?」
若干呆れ顔で言うお燐の言葉に、うちは苦笑いを浮かべて頷くことしかできなかった。
「あいよ、喜んで!じゃあそれまでお酒でも飲んで待っててね!」
あだ名について巻き起こった騒動もなんとか収まった様で、みんなをテーブルに座らせて注文を受け取った。かなりの量を注文されたが、その分腕が鳴るというもの。4人にグラスとお酒を渡し、調理のために屋台の方に向かった。しかし、4人で座るにはこのテーブルとベンチはかなり大きすぎる気がする。
「さて早速はじめよう!」
氷が半分以上溶けた状態のグラスを持ち上げ、溶けた水で薄まったお酒をグイッと飲み干して気合を入れ、料理に取り掛かった。うちの屋台では肉や魚などを揚げる油と、野菜などを揚げる油の2種類の鍋に分かれている。だから一度に取り掛かる事が出来る料理は多い。今回みたいにたくさんの注文が来ても大丈夫さ!
少し太めに千切りにしたニンジンとくし切りにした玉ネギ、みつばを衣に入れてざっくりと混ぜ合わせ、天辺に小さなエビを乗せる。そしてお玉を使って形が崩れないように注意しながら油の中に投入。それを3つ作ればさとりオーダーの野菜のかき揚げの準備完了。背ワタを取って小麦粉をまぶした海老を衣にくぐらせ、油の中で泳がせればお燐オーダーの海老天もこれで良しっと。うっちーは唐揚げ、こいしはチーズカツを注文したのでその2つはちゃちゃっと作っちゃおう。その他にも注文された料理があるしな。
「なかなかの手際だねぇ」
「どうも!」
勇儀姉さんから送られる称賛の声に元気で返し、お酒を飲みながら料理の手を休ませなかった。輪切りにした茄子と手ごろな大きさに切ったかぼちゃに普通の衣をまとわせ、半分に切ったちくわには青海苔を塗した衣で磯部揚げに、輪切りにした玉ネギにはコンソメと塩で味を付けた衣でオニオンリングを作った。これは2回揚げることでサクッとした食感を生み出している。そうこうしている間にかき揚げと海老が揚がってきたようだ。うち自慢の天つゆと共にさとりとお燐に差し出した。
「ありがとう、頂くわね」
「いただきます!」
「どうぞ!あ、お燐。熱いから十分冷まして食べろよ」
そう言うと、お燐は不満そうな表情を浮かべた。
「もー、猫はみんな猫舌だなんて、そういう迷信を信じちゃ駄目」
迷信だったのか…。
さとりとお燐は天つゆにつけた後口元に運んだ。サクッ。噛みしめた瞬間聞こえる軽快な音、そして2人の笑顔。これだけあれば、感想なんか聞かなくても十分気持ちが伝わるよ。
「さすがね。天ぷらの味もそうだけど、邪魔することなく引き立たせ、しかも調和しているこの天つゆも美味しいわ。ぜひ作り方を教えてほしいわね」
「はい!それに海老もプリプリで歯ごたえも申し分ないです!」
「いやあ照れるじゃないか!さあ、まだまだ酒はあるんだし遠慮なく食べておくれ!」
「お姉さん、私のはまだ?」
「私のも!」
「待ってね、もうすぐ揚がるから」
それからと言うもの、お酒を飲む暇もなく次々とくる注文に応えて料理を作り続けた。みんなの方はというと勇儀姉さんを含めて宴会のように騒いでいる。たった5人しかいないのにこれほどまで盛大な宴会に発展するなんてやっぱりお酒の力はものすごいな。こんなに楽しく料理をしたのはいつ以来だろう。気付いたら料理の手を止めてお酒を飲みながらみんなとはしゃいでいる自分がいることに少し驚いたけど、ものすごく楽しいからいいや。
あれからどれくらい経っただろう。地霊殿のみんなはお酒に酔い、顔が赤く染まっている。こいしは赤く染まってはいるがまだまだ飲めそうな感じだ。唐揚げを食べながらお燐たちとはしゃいでいる。それに比べて、さとりは気が付いた時にはいつの間にかダウンしていた。テーブルに突っ伏してすやすやと寝息を立てており、未だに起きる気配は無い。意外と酒に弱い体質だったのかな。
「あー美味しかった!お酒も十分堪能したし、そろそろ帰ろうかね」
「うにゅ、そうですねー。さとり様を見てると私もなんだか眠くなってきたよ」
「そうだね!じゃあお姉さん、ごちそう様!」
「そうかい。今日はありがとうね。…じゃなくて!」
帰ろうとする3人を慌てて引き止める。まだ大切なことが一つ残っていた。
「宴もたけなわな所で申し訳ないが、帰るならお代を頂きたいね」
そう、お代。つまりお金を支払ってもらわないといけない。準備の段階でうちの全財産を使い果たしてしまったので財布にはお金が少しも入っていない。ここでお代をもらわないと今後新たな食材やお酒を手に入れる事が出来なくなってしまう。だからお金が必要だった。
お燐はそのことを聞いて、はっと何かを思い出したかのように手を叩いた。
「そっか、そうだよね。ここは居酒屋だもんね。で、いくらだい?」
「えっと、姉さんの分も含まれるので合計…」
「ちょっと待って!」
「ん、なんだい?」
「どうして勇儀さんの分まであたいたちが払わないといけないの?」
「今日お金を持ってきてないってさ」
そう言いながら勇儀姉さんの方に視線を向けると、申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた。
「すまん、後で金は返す。だから今日は私の分も払ってくれないか?極上のお酒も一緒に渡すからさ。な?」
手を合わせたまま何度もお願いする勇儀姉さんに押され、お燐は渋々頷いた。
「ああわかったよ。今日だけだよ」
「ありがとう!さすがお燐だ。必ず返すからな」
「はいはい。ところで、誰が払う?こいし様はお金を持ってますか?」
「ううん、持って来てないよー」
「お空は?…持ってなさそうだね」
「うにゅ?」
「寝ているさとり様の財布からお金を出すことはできないし…。あたいが払うしかないのかねぇ」
それぞれの顔を見渡し、お金を払える人が自分しかいないことが分かると大きくため息を吐き、懐から唐草模様のがまぐち財布を取り出した。
「ありがとう!こちらが伝票になります!」
「どれどれ…にゃ?」
手渡された伝票に描かれた金額を見て、どんどん顔から血の気が引いて行く。うちの屋台の料理は多くの人に親しんでもらえるように少し安めの値段設定にしている。でも、4人でお酒を飲みながらたくさん食べていたらこうなっても仕方ないだろう。しかも途中から勇儀姉さんが高価なお酒を飲みまくっていたからな。3分の1が勇儀さんの分だと言っても過言ではないだろう。
「にゃああああああああああああ!?」
そしてとうとう断末魔に似た悲鳴を上げ、財布と伝票を投げ出してその場に崩れ落ちてしまった。相当お代の高額さがショックだったようだな。あ、最終的にお代はこいしが払ってくれました。お燐の財布から。
「ごちそうさま!また来るからねー!」
「お姉さんありがとう!」
眠ったままのさとりと涙を流しながらショックを受けているお燐を猫車に乗せ、うっちーが押して帰るようだ。
「ああ、またおいでよ!待ってるからね!」
お互いに手を振り、2人は地霊殿への帰路についた。
「あれ、うっちー。地霊殿はそっちじゃないよ」
「うにゅ?そうだっけ?こいし様は分かりますか?」
「うん、こっちだよ!」
「そっちでもないよ!…ったく、しょうがねえな。私が地霊殿まで送っていくよ」
そう言って勇儀姉さんは腰を上げる。
「じゃあな、心音。お前の料理を食べる事が出来て最高に幸せな時間だったよ。またその料理を食べさせてくれ!」
「もちろんだよ姉さん!またね!」
お互いに熱い抱擁を交わし、手を振ってこいしたちと一緒に街道の奥に消えていった。初めてのお客を迎えて大変だったけど、うちの料理を食べて笑顔になってくれたのは本当にうれしかった。今度はどんな笑顔に会えるのだろう、それが非常に楽しみでならない。
それよりも勇儀姉さんたち無事に地霊殿に辿り着けるのかな。地霊殿への帰り道はそっちでもないんだけど…。
俺の中でのお燐さんのイメージはかなりの苦労人と言った感じです。
ドンマイとしか言いようがない。
次のお客は一体誰になるのやら。
物語の続きをお楽しみください。