お待たせいたしました。
物語の続きをぜひお楽しみください。
勇儀姉さんたちと別れ、ただ1人街道を歩く。懐に感じるお金の重みに頬を緩ませ、若干スキップをしながらひたすら前に進む。まさかお客様第一号が勇儀姉さんだったなんて。一番会いたかった人にこんなところで会えるなんて思わなかったけど、昔と変わらずうちを受け入れてくれて本当に嬉しかった。今度は一体誰に会うのか、それが本当に楽しみだ。上機嫌に鼻歌を歌いながら、屋台を引き街道を歩く。いつの間にか建ち並ぶ家がまばらになり、少し寂しい雰囲気が辺りに漂っている。
「なんか寂しい雰囲気になったなー」
そう呟いてみても、その言葉に答えてくれるものは誰もいない。吹きすさぶ風の音がやけに大きく聞こえてしまう。ここでお客の1人か2人現れてほしいものだが、今はそれよりも会いたい人がいる。勇儀姉さんから聞いたのだが、四天王の一人である萃香が地上にいるらしい。勇儀姉さんと同じくうちを支え、友達として向き合ってくれた恩人の一人であり、何も知らせないまま奈落に行ったことで悲しませてしまった人だ。うちは萃香に会って謝らないといけない。今回うちが地上を目指した理由の一つがそれだ。
早く萃香に会いたいと
「ん…あれか?」
まっすぐ歩いていると、目の前にうっすらと灯りが灯っているのが見える。ほのかに燃える灯で照らされているのは、赤い欄干を持つ大きな橋だ。あれが、勇儀姉さんが言っていた橋なのかな。ここに来たのは初めてだから確証は無い。ふと橋を見ると、欄干にもたれ掛るようにして一人の女性がじっと佇んでいる。この女性に聞けば何かが分かるかもしれない。歩みのスピードを速め、その橋に近づいた。
「おーい、そこの人ー!」
橋の麓へ近づく屋台の音に気付いたようで、その女性は項垂れていた頭を起こしこちらを向いた。肩まで伸びた金色の髪と、とんがった形の耳を持つ女性は笑顔を浮かべることなく、それでいて怒ってもいないような、それでいて悲しみや哀愁を感じてしまうような、何とも言えない表情を浮かべていた。そしてかがり火から影になっているにもかかわらず異様に輝いているように見える緑色の目が少し不気味に感じてしまう。
「ん?おや…」
しかし、その女性に近づくたび不思議な雰囲気を漂わせているのを感じた。うちら妖怪と同じような雰囲気…と言うか妖気を漂わせているあの人物は人間じゃない。何かしらの妖怪だな。
「あら、珍しい。鬼が屋台をやっているなんてね」
「ああ、うちはこの屋台栗々亭の女将をやっている栗夢心音さ。そう言うあんたは一体誰なんだ?人間じゃないみたいだが…」
「ふふっ、人間は
「確かにな。あっはっは」
当たり前のことを言われ、恥ずかしさを紛らわせるために頭の後ろをわしわしと掻きながら笑い声をあげた。その人物、パルスィが言うように、良く考えてみればこんな地底に人間なんか住んじゃいない…いや住む事が出来ないのは当然のことだった。うちら鬼や地底に封印された妖怪たちに襲われて気が付きゃ皿の上。自ら命を危険にさらしてまで妖怪が
それにしても、ここで橋姫に会う事が出来て良かった。橋姫は地上と地下を行き来する者を見守る守護神的存在。この人に聞けば、地上へ出るまでの縦穴の場所を教えてくれるかもしれない。早速聞いてみよう。
「なあパルスィ。うちは地上へ出たいんやけど、ここから一番近い竪穴までどうやって行けばいいんだ?」
「地上へ?太陽の元へ飛び出すというの?目をキラキラと輝かせて、妬ましいわね」
「いやあどうも!そう言うパルスィも目がギラギラと輝いているな」
「言ってくれるわね。地上へ続く縦穴はこの橋を渡ってまっすぐ行ったところにあるわ。ただ気を付けて。その縦穴は今ちょっと騒がしいから」
「そうか、ありがとうな!」
パルスィにお礼を述べ、屋台を引いて橋を渡った。この屋台は縦穴を登るときに邪魔になってしまうから一旦しまっておこう。懐からリングを取り出して妖力を込め、屋台の方へ放り投げた。するとクルクルと回転しながら大きく広がり、屋台を飲み込んでしまうほど大きくなると、上から覆いかぶさるように落下し、屋台を別の場所へ移動させた。そのリングが地面に落ちた時、屋台の姿は跡形もなく消え去り、元の大きさに戻ったリングだけがポツンと残されていた。それを拾い上げて懐にしまい込むとパルスィに教えてもらった縦穴を目指して歩き出した。それにしても、最後に言っていた「騒がしい」と言うのは何があるんだろう。引っかかるが、まあ行ってみれば分かるでしょ。
「なんだ、何も無いじゃないか」
拍子抜けしたように、ぼそりとつぶやいた。パルスィが騒がしいとか言っていたから、てっきり多くの妖怪がいて商売時だと思っていたのだが、縦穴はその名の通り縦に伸びているだけで、ゴツゴツの岩があらわになった草1つ生えていない殺風景な岩肌と闇に包まれた空洞が続くのみで、それ以外は全く見えなかった。幸い炎を掌に浮かべることで自分の周りだけは照らされているため目視できる。
「ん?」
何かの気配を感じて上を向いた。でも気のせいだったようだ、目の前には相変わらず真っ暗な闇が広がっているだけ。それ以外特に変わった様子は見られない。気のせいだと分かり、ふうと息を吐いたその直後、青く光る弾幕が何も見えない闇の中から飛び出して迫ってきた。
「よっと」
その弾幕は密度が濃い訳では無かったので少し身を翻しただけで避ける事が出来た。しかし、今度は赤い弾幕がうちを狙って飛んできた。青い弾幕で相手の注意をそらし、追尾性能を持った赤い弾幕で被弾を狙うタイプか、面白い。迫ってくる赤い弾幕の間に開く僅かな隙間を見つけ、その隙間目がけ空気を蹴って飛び出した。
「どうした、こんなもんか?」
上から弾幕が降ってくると言う事は、この弾幕を放った何者かがいるという事だ。宣戦布告もなくいきなり弾幕を放ってくるとはなんという好戦的なやつ。その何者かに興味が湧き、わざと挑発するような口調で何も見えない暗闇に向かって言葉を発した。
「あんたもなかなかやるみたいね」
すると、うちの言葉に反応するかのように女性の声が響き、暗闇の中から一人の女の子が姿を現した。金色の髪を後ろでまとめ、茶色の大きなリボンで結んだ容姿の女の子はうちを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべる。こいつもまた、パルスィに似た妖気を醸し出している。この感じ、土蜘蛛か?
「さっきの弾幕は序の口よ。次は避ける事が出来るかしら?」
そう言って左手を掲げると、青い弾幕が大量に放たれた。そのうちの半分くらいは減速したかと思うと赤く変色し、うちを狙って迫ってきた。なるほど、そう言う仕組みだったのか。それにしても、こうやって挑んでくる相手に会うのは久方ぶりだな。楽しもうじゃないか。騒がしいってこういう事だったのか。
「良いだろう、相手になってやるよ。300年間鍛えた鬼の弾幕ってものを見せてやるよ」
「鬼っ!?」
妖力を高め、自身の周りに火球を漂わせる。辺りが一気に明るくなり、相手の土蜘蛛の姿もはっきりと見えるようになった。しかし、なぜ驚いたような表情を浮かべているのだろうか。まあいいや、弾幕ごっことやら楽しませてもらうぞ。
「くらいな!」
周りに漂わせた火球を操り、一斉に土蜘蛛目がけて放つ。一直線に突き進むもの、一度広がってから急に向きを変えて襲い掛かるもの、ゆらゆらとうごめきながら迫りくるもの、軌道は様々に襲い掛かる火球に驚きながらも何とか身を翻して躱していく土蜘蛛。その動きを見てると何度か弾幕ごっこを経験しているような感じだ。果たしてどれほどの実力なんだろうな。
「うわわっ!火なんて危ないじゃない!このーっ、罠符「キャプチャーウェブ」!」
土蜘蛛が何かしらの紙切れを掲げるとそいつを中心に蜘蛛の糸のようなものが放射状に展開された。その数6本。それらは土蜘蛛を中心に集まる形で収束すると小さな弾幕となって一斉にばらまかれた。これがスペルカードと言う物か。ふふっ、面白くなってきたな、これくらい避け切ってやるよ。
「ほっ!よっと!」
襲い掛かってくる弾幕の隙間を見つけ、軽々と体を翻す。一見すると弾幕の数が多くびっしりと襲いかかってくるように見えるが、案外隙間はあるもんだな。
「くっ!これならどうだー!」
土蜘蛛が叫ぶと、今度は糸の数が8本に増え、迫ってくる弾幕の数も一気に増えた。8本の糸がすべてばらまかれると今度は12本に増え、さらに16本と打ち出される弾幕の数が一気に多くなった。これは隙間を見つけづらいな。土蜘蛛も、本気で挑んできたと言う事か。
「その心意気天晴れだ、うちもスペルカードを見せようか」
そう叫び、懐からスペルカードを取り出した。手始めにはこれがピッタリかな。
「中火「
身体から火炎を噴出し、それらをまとめて大きな鳥を作り出す。現れた怪鳥は大きな雄叫びを上げると迫りくる弾幕の中に飛び込んだ。その身に纏いし灼熱の炎は弾幕を焼き払いながら一直線に土蜘蛛に襲いかかった。
「きゃあああっ!」
土蜘蛛の悲鳴が縦穴に響く。しかしギリギリで裂けたようだ。しかしこれで終わりじゃない。うちの火炎は自身の内にある妖力から生み出したもの。離れているとはいえ自由自在に操る事が出来る。今度は避け切れるかな?
放った怪鳥に掌を向け、妖力で動きを制御する。土蜘蛛はその怪鳥に驚き距離をとるが、幅が限られているこの縦穴の中ではその距離は無意味に等しい。再び雄叫びを上げ大きく羽ばたきながら土蜘蛛に襲い掛かる。
「きゃあっ!もう、頭に来た!こうなったら…細綱「カンダタロープ」!」
何とかして怪鳥の突撃を避けた土蜘蛛は縦穴の岩肌へ糸を伸ばす。
「何をする気だ?…っ!?」
放たれた糸を思いっきり引っ張ると、糸がくっついたところの岩が引き抜かれた。土蜘蛛もなかなかやるじゃないか。
「それーっ!」
その岩を操り、うちの作りだした怪鳥を2つの岩で挟み込んだ。2つの岩がぶつかり合いガラガラと言う大きな音が響き渡る。その一撃によって怪鳥も掻き消されてしまったようだ。
「まだまだぁ!」
土蜘蛛は同じように岩壁に糸を伸ばすと大量の岩を引き抜き、投げつけてきた。うちに向かって降り注いでくる大量の岩は大きさも形も様々だが、このままでは直撃は免れないだろう。
「ふっ、やるじゃないか。こうなりゃ本気で相手になってやるよ、鬼の力でもってな!」
2枚目のスペルカードを取り出し、発動させた。自分の身を火炎で包み込み、メラメラと燃え上らせる。右手に力を込め、きっと大きな岩を睨む。
「猛火「
火炎を纏った拳を突き出し、岩に叩き込んだ。鬼の力をもってすればこんな岩を砕くのは朝飯前だ。その状態のまま落ちてくる岩をすべて砕ききると、勢いに任せ土蜘蛛へ殴りかかる。一方の土蜘蛛はと言うと悲鳴を上げながら繰り出す拳をギリギリでかわしていく。そしてなぜか目に涙をためて泣きそうになっている。
「きゃっ!止めて!もっ、もうしないからっ!」
「何を言い出すんだい。鬼を相手に勝負を挑んだのなら命尽きるまで全力でぶつかるのが流儀ってもんだ。それくらいの覚悟を持って勝負を挑んだんじゃないのか?」
「でも、でもっ!ひゃうっ!」
「泣くんじゃねぇよ!それにうちはもっと楽しみたいんだ。ほら、まだまだ行くぞ!」
「ひゃあ!!」
灼熱の炎をたぎらせた拳をぎゅっと固く握りしめ、空気を蹴りだして一気に距離を詰める。貰った!そう思った次の瞬間…
「ヤマメちゃん!!」
「うわっ!」
頭上から何者かが猛スピードで落ちてきた。赤く光るクナイ型の弾幕を大量にばらまきながら落ちてきたそいつは大きな桶のように見えるが、この桶からも妖気を感じるし、さっきの声からして土蜘蛛の友達だな。この妖怪は釣瓶落としだ。
「お、助っ人登場か」
「キスメちゃん!」
「ヤマメちゃん、一緒に行くよ!」
「うん!」
お互いの会話から土蜘蛛の名前はヤマメ、釣瓶落としの名前はキスメだと言う事が分かった。その2人は同時にスペルカードを掲げる。そうそう、そう来なくっちゃ。友達同士で協力し本気でかかってくるのであれば、その心意気に応えるのみ。
「瘴気「原因不明の熱病」!」
「怪奇「釣瓶落としの怪」!」
ヤマメが左腕を掲げると結晶型の小さな弾幕を渦状に設置され、その左右後方にも同じく小さな渦状の弾幕が出現し、一気に拡散した。一方のキスメはレーザーを3本同時に放つ。一斉に迫ってくる2人の弾幕は隙が見当たらない。どうやらお互いの弾幕の軌道を熟知しているから、隙間が開いている部分を補い合っているのだろう。
迫ってくる大量の弾幕を前に、うちは無意識の内に笑顔を浮かべていた。うちを相手に友達2人が協力して全力で挑んできた心意気が嬉しかった。それに応え、うちの自慢の一撃を打ち込んでやろう。
「業火「灼熱紅蓮」!」
両手を合わせ、間に灼熱の火炎を浮かべる。全身の妖力をたぎらせ、その火炎へと注ぎ込むと、火炎はどんどん大きくなる。そしてはち切れんばかりに溜まると迫りくる弾幕、そしてその奥にいるヤマメとキスメ目がけて解き放った。
「えっ!?」
「嘘っ!!」
ごおおっと言う轟音をとどろかせ、縦穴いっぱいまで広がった火炎はあっという間に2人の妖怪を飲み込んだ。縦穴の中を煌々と照らす火炎はやがて収縮し、そして消えた。
掌に残る炎をふうっっと吹き消し、真っ暗になった縦穴の中で上を見上げ腕を組む。
「火加減は、どうだったかな?」
心音ちゃんのスペルカードはいかがでしたでしょうか。
どれも自慢の火炎を使いこなす文字通り火力抜群の攻撃でしたが…。
炎に巻き込まれたヤマメとキスメはどうなったのでしょうか。
それは次回明らかになります。
では次回もよろしくお願いいたします。
と、その前に次はコラボを執筆するのでそれまでお待ちくださいね。