深夜。吹雪は自室で眠っていた。鎮守府司令長官代理一日目ということもあり、慣れないことをしていたのである。かなり疲労は溜まっていた。
彼女の部屋は三人部屋だった。吹雪、白雪、初雪が同室で、この日は三人そろって眠っていた。
夜の駆逐艦寮は静かなもので、夜間訓練や夜間哨戒のないものは基本的にすぐに寝てしまうからである。外見は十代前半というのにおそらく要因があるのだろう。
けたたましいサイレンが鳴った。耳をつんざくこの警報音は非常事態を知らせるものであり、同時に鎮守府内の全艦娘に速やかに戦闘態勢を取ることを要求するものであった。
「何事!?」
初雪は飛び起き素早い手つきで寝まきを脱ぎ出した。吹雪と白雪は取るものもとりあえず、寝巻のまま部屋を出る。吹雪はその際、制帽だけ手に取った。
吹雪は鎮守府司令長官代理、白雪は秘書艦代理である。鎮守府の中枢である司令室に一刻も早く到着することを要求された。
鎮守府開設の頃には主に敵空母機動部隊による空襲を知らせるものであったから、中には空襲警報と呼ぶ者もいるこの警報は鎮守府司令長官ないしそれに準ずる者しか発令できない。この時間帯に発令できるのは宿直の事務部員のみである。
全速力で駆逐艦寮を出て、鎮守府第一棟に入った。そのまま廊下を走ってゆき、司令室に飛び込んだ。
「吹雪さん、緊急事態です」
彼女たちが入ると、中で敬礼しながら言ったのは事務部員の金剛型巡洋戦艦四番艦、霧島である。
「複数の海軍拠点が中部海域から突破を敢行している敵部隊を報じています。本土接近までおよそあと三時間です」
「夜間哨戒の部隊では対応できませんか」
「無理です。夜間偵察部隊の報告では敵は正規空母を含む大規模部隊のようです。とうてい哨戒任務にあたっている軽巡、駆逐艦ではかき集めたところで戦力差が…」
「夜間発着艦が可能な敵艦隊ですか…」
吹雪は壁にかかっている表を見た。それは、鎮守府待機・訓練・出撃・哨戒・遠征・外出の六つの表に分かれており、それぞれ艦種ごとに艦名を書いた木札がかかっていた。
対応を考えるのは吹雪の役目である。司令長官代理という職責は、特に非常時には重い。
「迎撃の艦隊と予備の警戒艦隊を編成します。臨編第一航空艦隊を迎撃に、臨編第二航空艦隊を警戒に回します」
「所属の艦は?」
白雪は既にメモを用意していた。吹雪は赤城と書かれた木札を手に取った。
「臨編第一航空艦隊、旗艦赤城。編成は航空母艦赤城、加賀、蒼龍、飛龍。戦艦長門、陸奥。航空戦艦伊勢、日向。航空巡洋艦最上、三隈。重巡洋艦妙高、那智、足柄、羽黒。軽巡洋艦川内、神通、阿賀野、能代。駆逐艦陽炎、不知火、黒潮、初風、雪風、天津風、時津風、野分、舞風、秋雲、夕雲、巻雲、長波、早霜、清霜、島風。戦闘序列は述べた順通りとする。また、臨編第一から第四水雷戦隊を編成。第一水雷戦隊は川内、陽炎、不知火、黒潮、初風。第二水雷戦隊は神通、雪風、天津風、時津風、島風。第三水雷戦隊は阿賀野、野分、舞風、秋雲、夕雲。第四水雷戦隊は能代、巻雲、長波、早霜、清霜」
「了解」
「臨編第二航空艦隊、旗艦大鳳。編成は航空母艦大鳳、翔鶴、瑞鶴。巡洋戦艦金剛、比叡、榛名。航空巡洋艦鈴谷、熊野。重巡洋艦青葉、衣笠。軽巡洋艦天龍、龍田。駆逐艦睦月、如月、文月、菊月、時雨、夕立、朝潮、荒潮。戦闘序列は述べたとおり。また、臨編第五から第六水雷戦隊を編成、第五水雷戦隊天竜、睦月、如月、文月、菊月。第六水雷戦隊は龍田、時雨、夕立、朝潮、荒潮」
「了解。発令します」
白雪は鎮守府内放送の受話器を手に取った。
「こちら鎮守府司令部です。以下に呼ぶ艦娘は夜間戦闘準備を整え桟橋に集合すること。臨編第一航空艦隊、航空母艦赤城、加賀、蒼龍、飛龍。戦艦長門、陸奥。航空戦艦伊勢、日向。航空巡洋艦最上、三隈。重巡洋艦妙高、那智、足柄、羽黒。軽巡洋艦川内、神通、阿賀野、能代。駆逐艦陽炎、不知火、黒潮、初風、雪風、天津風、時津風、野分、舞風、秋雲、夕雲、巻雲、長波、早霜、清霜、島風。以上の艦娘は臨編第一航空艦隊を編成します。旗艦赤城は司令室に速やかに出頭すること。続いて、臨編第二航空艦隊です。航空母艦大鳳、翔鶴、瑞鶴。巡洋戦艦金剛、比叡、榛名。航空巡洋艦鈴谷、熊野。重巡洋艦青葉、衣笠。軽巡洋艦天龍、龍田。駆逐艦睦月、如月、文月、菊月、時雨、夕立、朝潮、荒潮。以上の艦娘は臨編第二航空艦隊を編成します。旗艦大鳳は速やかに司令室に出頭すること。繰り返します…」
白雪が放送を行っている間に、吹雪は霧島から詳しい情報を聞いていた。
霧島は執務机に広げられた地図の一点を指差す。
「おそらく敵の針路はこのポイントより西へほぼ直線となっています。そのため、出撃後は第一航空艦隊はこのルートを辿るのが良いと思います」
霧島の言葉にふむふむと頷く吹雪。
「しかし、夜間の戦闘ですよ?私の計算によれば、空母はあまり使えないかと思いますが」
一通り説明を終えた霧島が疑問を挟む。艦載機は夜間の発着艦を苦手とする。夜間攻撃のために訓練された部隊もいるが、そのような精鋭は数少ない。
「接敵して戦闘が始まるころには東の空が白み始める可能性があります」
「あと日の出まであと四時間です。こちらも出撃するとして、接敵は遅くても二時間後、戦闘中に明るくなるかもしれませんが、しかし接敵後すぐというわけではないでしょう」
「しかし、敵艦隊は空母を用意しています。夜間発着艦可能な精鋭航空部隊を危険な突破戦とおそらくその後の本土強襲に使用するでしょうか」
「…」
「我が国の人口は海沿いに集中しています。戦艦の艦砲射撃でもかなり被害をこうむるはず。少なくとも、夜間攻撃ができる部隊を使用して制海権を失った海域で空襲を挑む馬鹿はいません」
「…つまり?」
「罠の可能性があります」
吹雪の断言に霧島は目を丸くする。
「特に第一航空艦隊に過剰とも言える戦力を用意したのはそのためです。第二航空艦隊もそれなりに戦力の充実を図ったのは現在発見している部隊が囮部隊である可能性を考慮しています」
「…なるほど」
「そして、それにも関らず特型Ⅲ型を艦隊に組み入れなかったのは…」
吹雪の言葉は中断された。赤城と大鳳が艤装をつけた状態でそろって入ってきたのである。
「航空母艦赤城参りました」
「大鳳です」
二人は敬礼した。吹雪は答礼しながら白雪に目配せをする。白雪は先ほどのメモを艦隊ごとに分けて二人に渡す。
「各艦隊の戦力はそのメモの通りです。第一航空艦隊には迎撃を、第二航空艦隊には警戒を頼みます。こちらの地図を見てください」
執務机に広げられた地図を指差しながら、吹雪は霧島に受けた説明を繰り返した。
「つまり、第一航空艦隊はこのルートを辿り迎撃を、第二航空艦隊はこの海域を哨戒し、敵別働隊の有無を確認し、発見した場合は撃滅してください」
「はいっ」
赤城と大鳳はそろって敬礼する。
「あと、これはいつも井上司令官がおっしゃっていることですが、一人たりとも沈めぬよう慎重かつ大胆な艦隊運用を求めます」
「赤城了解」
「大鳳了解」
「それでは…武運を」
吹雪が頷くと、二人はそろって退出した。
「霧島さん」
「はい、なんでしょう」
「大淀さんを呼んできてくれませんか?私たち四人で司令部を構成します」
「了解」
霧島は敬礼すると、大淀がいるであろう事務室へと向かった。
「白雪ちゃん、浦風ちゃんに電話して磯風ちゃんの自室謹慎措置を解いてくれない?」
吹雪は臨編第一・第二航空艦隊に所属する艦娘の木札を全て出撃のところに差し替えながら言う。
「分かった」
白雪は受話器を取りながら艦娘の連絡先一覧を引っ張り出す。
磯風は駆逐艦の中でも最高レベルの能力を誇る。何があるか分からないこの状況で自室謹慎のままにしておくのはもったいない。
「…磯風ちゃん、既に勝手に謹慎解いて武装してるってさ」
白雪が困ったように笑っていた。
「じゃあ、謹慎分の罪と今回の罪は戦功をもって贖ってもらおう」
「…これから戦功をたてる場面があるの?」
「あるよ。本土近海で敵艦隊と遭遇する可能性がある」
「…へっ?」
白雪は珍しく素っ頓狂な声をあげた。
「航空母艦がいる敵艦隊は陽動だよ。夜間に空母をこれ見よがしに出撃させる馬鹿がいるわけがないよ。そうすると、あれはこちらの空襲への恐怖を煽るための陽動の可能性がある」
「じゃあ、敵の真意は?」
「一つ考えたのが戦艦の部隊による本土への艦砲射撃。でもこれはあまり現実的ではないかな。照準を合わせるのに時間がかかるから、その間に迎撃できてしまう」
吹雪は一言一言考えながら口にしていた。とっさの判断で、敵部隊が陽動である可能性を見抜いたが、そうすると敵の真の目標は何であろうか。
「もう一つは…やっぱりここの強襲かなぁ」
深海棲艦との戦いのほとんどすべてをこの鎮守府が担っていると言っても過言ではない。そうすると、この鎮守府の破壊は、敵にとって大きな価値を持つ。人類側の戦力の減少にもつながるしそうでなくても再建するまでの間、艦娘たちの行動はかなり制約を受けざるを得ない。例えば艦娘の入渠施設があるのはここだけである。
「鎮守府、強襲」
白雪は生唾を飲んだ。鎮守府開設以来、受けたことのないものである。
「その可能性もあるから大和型と特型Ⅲ型を残したんだよ」
大和型戦艦の大和、武蔵は言うに及ばず最大火力の戦艦である。最強の戦艦を残したのは敵の本命が鎮守府である可能性を考慮してのことであった。一方、軽空母は残したものの、正規空母のほぼすべてを出撃させたのは基地航空隊の存在が大きい。
「特Ⅲ型…暁ちゃんたちか」
白雪は納得したように頷く。
特Ⅲ型駆逐艦。第六駆逐隊と呼称されたりもする彼女たちは鎮守府の中でも特別な駆逐艦であった。初代秘書艦の四番艦、電を初め、彼女たちは鎮守府最古参である。
最古参にして最精鋭。時にそう評価される艦娘たちであった。
大淀と霧島も司令室にそろい、臨時司令部が成立した。普通の大規模作戦の司令部であれば前線からの情報をもとに作戦の修正を行ったり、あるいは撤退を指示したりするものだが、今回はおそらくその必要はないだろう。
「…ですけど、今述べたように鎮守府強襲に備える必要があります」
吹雪は白雪に説明したとおりに大淀と霧島に説明した。
「…吹雪さんの推測が当たっていたとしたら、敵もなかなか知能戦ができるようになってきた、ということですね」
大淀はかつて艦だった時分に連合艦隊旗艦も務めたことがある艦娘である。本来連合艦隊司令長官というのは率先垂範を求められており、ゆえに耐久力に優れた戦艦に司令部があることが常であったが、軽巡洋艦である彼女が選ばれたというのは時代が変化してきたあらわれであった。そののちには陸上に海軍の司令部は移っている。
「鎮守府強襲になるとしたら夜戦でしょう。夜戦でなくても軽空母と基地航空隊がありますから制空権の奪取はたやすいと思います」
吹雪は鎮守府近海の海図を取り出した。
「既に基地航空隊から夜間偵察機を飛ばしてもらい、近郊の警戒に当たってもらってます」
白雪が補足した。
現在、鎮守府は厳戒態勢の中にあり、入渠や疲労などの問題でどうしても武装できない者を除いた全ての艦娘が臨戦態勢で待機している。敵艦隊を発見した場合、それを急行させるのは容易であった。
「敵主力級部隊を発見したら、誰を派遣させますか?」
霧島が尋ねる。
「大和型、特Ⅲ型は決定です」
吹雪は海図を眺めながら言う。
「他は、大淀さんは誰が良いか、などの意見はありますか?」
「そうですね…重巡の高雄型、軽巡の長良型、あとは雷巡の北上と大井でしょうかね」
吹雪の質問に、大淀は答える。
「吹雪ちゃん、夜間哨戒中の綾波ちゃんから入電!」
「言って」
「我敵艦隊ト遭遇スルモ敵本隊を鎮守府方面ニ逃ス」
「場所は」
「鎮守府から南東50kmあたりのポイント!」
思わず四人は顔を見合わせた。早ければ30分ほどで鎮守府をその射程に収める距離である。
「白雪ちゃん、戦艦大和、武蔵、重巡洋艦高雄、愛宕、摩耶、鳥海、軽巡洋艦長良、五十鈴、名取、由良、駆逐艦暁、響、雷、電、浦風、磯風、浜風、谷風に動員を下して!臨編第一艦隊、旗艦大和!司令室に寄らせず直接鎮守府近海南東方面への出撃をっ!」
「了解!」
白雪は鎮守府内放送の受話器を手に取り命令を下していく。
「霧島さんは基地航空隊と連絡、夜間偵察を南東方面に重点的に、目標を発見し次第、臨編第一艦隊に連絡をさせて」
「了解です」
霧島は内戦の受話器を取り、基地航空隊司令部に連絡を取る。
ちなみに、基地航空隊長は妖精と呼ばれる、艦娘とも人間とも異なった存在だが、司令部は正規空母、あるいは軽空母の者が構成する。現在の司令部当直は軽空母鳳翔である。
「吹雪ちゃん、大和さんから入電、『臨編第一艦隊編成完了、出撃ス』だって」
「ありがとう、で、白雪ちゃん、悪いのだけど航空戦艦扶桑と山城を臨編第一戦隊に編成、鎮守府真正面の警戒にあたらせて。あと伊号潜水艦の伊58と伊19に同海域の対潜警戒を」
「了解」
矢継ぎ早に司令を下す吹雪に、大淀は感心したようにうなずいていた。たまたま秘書艦だったときにたまたま鎮守府司令長官代理に任命されて、たまたまこのような事態に巻き込まれたわりにしては決断が早く、指示も的確である。
「吹雪ちゃん、哨戒していた駆逐艦大潮、満潮が緊急帰港してきたみたい!」
「二人にはそのままごーやといくと協力して対潜警戒にあたらせて!」
「了解!」
無線に乗せて、中部海域から進撃してきた部隊の存在は遠征・哨戒中の全艦娘に伝えてあるのである。その後の指示は飛ばしていないが、本人たちの判断で帰港をしても許される状況にあった。
「臨編第一航空艦隊より入電!『予定海域ニ敵艦隊確認デキズ、引キ返シテイル模様、追撃ニ移ル』」
「臨編第一航空艦隊に返電!『夜明けに反転攻撃する可能性有り、注意せよ』」
「了解」
白雪は吹雪の言ったことをそのまま赤城へ無線に乗せた。赤城からは了解、という電信が届く。
「何故夜明けに反転攻撃の可能性があるのですか?」
大淀の問いに、吹雪は時計をちらっと見てから答える。
「夜明けまであとおおよそ二時間です。二時間の間集中力を切らさないのは難しい。そして、日が昇れば艦載機の発着艦もしやすくなります。同時に、日の出は気を緩めさせます」
「…つまり、虚を突くだろうと」
「はい。少なくとも、私が彼らの司令官ならそう指示します」
吹雪は、この考えに関してはかなり自信があった。陽動作戦を実行している段階で、敵の深海棲艦はかなり組織的な行動をしていると考えるべきである。そうすると、単一の指揮系統と作戦に従って動いていると見た方が良い。そうであれば、敵艦隊の撤退にも何らかの意味があるはずである。少なくとも、こちらの艦隊の規模を見て撤退したという風には吹雪は考えていなかった。
それでは、吹雪は何故追撃を禁止しなかったか。追撃を禁止した場合、敵艦隊が反転してちょっかいを出した後、また撤退に移る可能性がある。つまり、追撃を誘うのだ。これが何度も行われた場合、臨時編成の艦隊に追撃禁止が守れるとは吹雪は考えていなかった。それであれば指揮統制がとれている現在の状況で、しかし要所を気をつけさせるのが良いと考えたのである。
「臨編第一艦隊より入電!『我敵艦隊ト交戦ス』」
ほぉ、と四人とも胸をなでおろした。少なくとも、綾波の発見した敵部隊の侵攻は食い止められそうである。
「どうにかなりそう」
吹雪は海図を眺めながら言う。鎮守府近海で第一艦隊が交戦し、第一航空艦隊は敵囮艦隊を追撃、第二航空艦隊は警戒中である。鎮守府真正面では最後の砦として扶桑姉妹が臨戦態勢にある。
「一時はどうなるかと思いましたけど…」
霧島は眼鏡をはずして拭いていた。
それから一時間、戦闘中の臨編第一艦隊を除いた各艦隊から定期的に連絡を受けること以外は特に新しい情報もなく、最悪の事態、すなわちすぐに戦闘できる艦娘がいないまま敵艦隊の奇襲を受ける、ということは脱したかと思われた。
「臨編第一艦隊旗艦代理…暁!?」
白雪が突然素っ頓狂な声をあげた。
「駆逐艦暁より入電!『吾艦隊ノ戦艦、重巡、軽巡、雷巡ハ全テ中大破シ戦線離脱、目下駆逐艦暁、響、雷、電、磯風、浜風ガ交戦中』」
吹雪の顔がみるみる蒼くなっていった。最強の戦艦たる大和と武蔵が中大破する事態など想定していなかったし、そうでなくてもこの艦隊が半壊状態に陥るなどと思っていなかった。
「続報!『我戦艦レ級
「は!?戦艦レ級旗艦級!?」
大声をあげたのは大淀だった。
「そんな化け物を敵は飼ってたの!?」
戦艦レ級と艦娘たちが呼称する深海棲艦は主に南方海域に棲息するとされている。現在確認ができたのは
戦艦レ級は戦艦と称されているが、艦載機発着の機能と魚雷発射機能を持つ。また、火力や装甲も大きい。精鋭級の者でさえかなりてこずる相手であった。
「夜明けまでは!?」
吹雪が白雪に尋ねる。
「あと一四十五分かしら」
「四十五分…」
吹雪が考えたのは、基地航空隊を発進させ戦艦レ級を襲わせる、ということであった。これであれば、たとえ敵を逃したとしても当座の侵攻を防ぐことができる。
「白雪ちゃん、基地航空隊司令部に命令。戦闘機、攻撃機、爆撃機の精鋭を鎮守府南東に派遣し敵艦隊を迎撃させて」
「待ってください」
異議を唱えたのは大淀だった。
「夜間の離陸は危険です。その上、派遣したところでこの暗さでは敵艦隊を発見できませんし、発見したところで誤爆の可能性があります!」
吹雪は首を横に振る。
「現在交戦中の艦娘に暁ちゃんがいます。暁ちゃんは探照灯を照射しているはずです。少なくとも敵味方の峻別はつく。これ以上の異議は認めません、白雪ちゃん、お願い」
「了解」
白雪は吹雪の命令に従って、基地航空隊司令部に連絡を入れる。ほどなくして、飛行機が飛び立つ爆音が司令室にも聞こえた。
「…吹雪さん、もしこれもうまくいかず、レ級の突破を許したら、次はどのような策があるのですか?」
霧島がおずおずと尋ねる。
「その時は残っている艦娘を総動員します」
鎮守府には、特に巡洋艦を中心に戦力を温存している。だが、戦艦は司令部に詰めている霧島と、鎮守府の真正面の防衛を任されている扶桑姉妹以外に残有戦力はない。正規空母も比較的最近実戦投入された雲龍型のみで、心もとないだろう。
「総動員してなおだめなら、その時はこの鎮守府が壊滅する時です。総員退去の司令を下します」
吹雪以外の三人はそれぞれ緊張した面持ちで、この司令長官代理を見つめていた。