間桐 雁夜にとって幸運だったのは触媒なしで英霊を召喚したことだった。
爺もとい臓硯は最初、触媒を使おうとしたが、今回の聖杯の歪みでは触媒なしでの召喚はどのようなことになるか知りたかったらしく、触媒なしで行われた。
雁夜の英霊召喚は雁夜を苦しめるためバーサーカーとして召喚が条件だった。
わずかな可能性でもいい、桜ちゃんを救えるのなら、この程度の苦しみなど……。
そして、召喚した。
長身痩躯、赤銅色の髪と瞳を持っている青年の英霊。
「……あー……あんたが俺のマスター?」
彼は面倒臭そうに言った。
兵士の格好をしていた。
丈の長い、薄汚れた鉄錆色の軍服。
サーベルと長銃を装備していた。
近代の英雄か? 顔からして外人。世界大戦頃の英雄に見える。
「聞いてる?」
「あ、聞いてる聞いてる……ところでお前、バーサーカーか?」
喋った時点で疑問に思った。狂化したはずなのに喋っている。臓硯も怪訝な様子で見ている。
「バーサーカーだよ。狂化が低いから喋れんの」
「……そうか」
喜ぶべきか、落ち込むべきか。
召喚したところ魔力を多く減っている訳じゃない。狂化が低いおかげだろう。しかし、狂化が低いということはステータスの上昇の恩恵が少ないということだ。
「お前、名前は? どこの英霊だ?」
彼は少し悩んでから言った。
「エイフラム」
エイフラムは口数が少なく、ぶっきらぼうな男だった。
名前は言ってくれたが、どこの英雄かは教えてくれない。
臓硯は一度聞き出そうとしたが、ステータスの低さを知って興味をなくしたらしく。雁夜は放任状態になった。雁夜も彼の出自にさほど興味あるわけじゃない。大切なのは聖杯戦争に勝つことだ。
「エイフラム。これを見てくれ」
雁夜は昨日の映像を見せた。
遠坂時臣が籠城している居にアサシンが襲撃した映像だ。
黄金の甲冑を着た英霊。
その英霊は多くの武器を空中で投擲した。
一瞬でアサシンは殺された。
「アサシンは死んだから、少しは安心できる。それよりも黄金のサーヴァントが誰かわかるか?」
知るかよ、と短く言ってから、少し考えるそぶりをして、
「アサシンは本当にアサシンなのか?」
「……どういう意味だ?」
「普通、アサシンが序盤に死ぬことはないだろう。何が何でも最後まで生き延びるようにする。いくら相手が隙だらけで勝機があったとしても一番最初に動くのは不自然だ」
「ということは」
「アサシンは死んでいないか……黄金の奴とグルか、のどっちかだろうな」
「……グル…か」
雁夜は気落ちした。
「雁夜、お前は家から一歩も出るな。聖杯戦争は俺だけで動く。それが一番良い」
「……そうだな」
「その気持ち悪い蟲でも操って、情報収集でしてろ」
気持ち悪い蟲。だよなぁ。
バーサーカーは敵を、マスターと戦うため、外に出ようとする。
「エイフラム。お外に行くの?」
いつのまにか桜がいた。
無表情の桜であるが、エイフラムが召喚されてからは少しずつ喋るようになった。特にエイフラムが何かをしているわけではない、いつも寝ているか、ぼけーとしているかだ。
桜と相対してする反応は雁夜は憐みで、兄の鶴野は忌避で、臓硯は喜悦だった。
エイフラムは違った。桜が側にいても無視ではないが、反応もしない。話しかけられれば答えるが特に感情を向けることはない。
だからだろうか、桜はエイフラムに話しかけるようになった。関心がなく無反応で、余計な同情をしないエイフラムの側にいるのが心地よく感じた。
「あぁ」
エイフラムはぶっきらぼうに答えて、霊体化した。
電撃文庫
原作:キーリ
作者:壁井ユカコ
アニメ化して欲しいぜ!