日に日に亮二の暴力は酷くなっていった。
毎日のように殴られる俺たち兄弟と頭を下げることしかできない母親。
もう耐えられなかった。
今までなら俺が捌け口となって姉は可愛がられていた。
たが今は違う。
収入源としての娘で無くなった一姫は俺同然に父の暴力に付き合うはめになった。
父にとって子どもは結局彼の道具であり自分の所有物であるとでも考えているのだろう。
今までは俺が我慢しさえすれば家庭はまだ秩序が保たれた。
日頃のちょっとした父の苛立ちを俺が引き受ける。それでギリギリではあったがなんとか家庭が続いていた。
俺が殴られるのは全然構わない。だが、一姫が暴力を振るわれるのは許せなかった。
かといって俺は何もすることができない。声を上げたところで父が逆上して余計に事態が悪化する。
何度か
「やめてくれよ、代わりに俺を殴ってくれ。姉ちゃんは悪くない!」
と言ったことがあるが、そういうときはいつも
「お前は黙ってコーヒーでも淹れてろ」
と余計に眉間のしわの数が増え、一姫への暴行はいつもの倍以上になった。
「……ごめん、姉ちゃん。俺のせいで……」
「いいのよ。私が描けなくなったのが悪いんだから……」
一姫は天を仰ぐ。俺は一姫の右手が強く握りしめられているのを見た。
(違う。姉ちゃんは描けないんじゃない。描きたくないんだ)
かつて一姫が言っていたことがある。
「なんでもできる子だと思われても、鬱陶しいじゃない?たまには、苦手な物もあるってところを見せてあげないと、流石に気持ち悪がられるもの……」
つまり手を抜くことを覚えたのだ。
描けるけど描かないことで得られる物の方が大きいと判断したのだろう。
一姫にとっては天才という名声より普通であることの方がよかったのだろう。
きっと今の一姫は本能的にリミッターを掛けているのだろう。
だけど今そのことを言うわけにもいかなかった。
一姫にこれ以上の悩みの種を植えつけることになると思ったのだ。
素直にこれ以上一姫には困ってほしくない。
どうすればよいのか。何が出来るのか。何が一姫にとって一番か。
いつの間にか忌み嫌うこともあった姉のことばかり考えている自分に驚いた。
今まで姉にはさんざん虐げられてきた。
彼女は人を支配することが多い。
クラスメートですら手駒のように扱うことがある。
そして何より怖いのが操られている側にその自覚が無いことだ。
露骨に利用するのではなく、そう仕向ける、誘導する。
一姫にとって世界はもはや手のひらの上にあるのかもしれない。
だが俺は小さいときから大人の顔色をうかがって生きてきたため、人間観察力に優れている。
その人が言わんとしている事を表情から読み取ることが出来るし、
その人が言ったことが何を暗示しているかも分かる。
というより分かってしまう。
俺から見れば大人より子供の方がまだ相手に思いやって会話できている。
大人なんて笑顔で言っている事の8割は世辞か皮肉に過ぎない。
一姫が人を「使う」ために発する言葉にはどこかサディスティックな部分が見える。
でも俺に命令する時は回りくどい言い方はしてこない。
「~しなさい」「~してはダメ」
弟であるからなのか反抗しないからなのか分からないが直接言ってくる。
色々教えてくれる時はいいのだが
「もしどうしても女の子の友達が欲しいのなら、私に許可をもらうこと!私の許可した
女の子意外と仲良くなることを禁じます!いい?」
「…………」
「……わかったよ……姉ちゃん……」
これは一姫に人脈の大切さを説かれた後、
俺が公園で作った友達が女の子だったときに言われたことだ。
俺が有無を言わずに首肯すると一姫は決まって謝ってくる。
どうやら俺に反対というか抵抗してほしかったようだ。
何でも「YES」としか答えない俺は弟というより下僕に感じただろう。
それが一姫にとって良いのか悪いのかは聞いたことが無いから分からないが。
こんな風に尻に敷かれっぱなしだったけれど今は姉ちゃんを守ってあげたい、
常に無感情に従ってきた俺だったが、今は心から姉ちゃんの支えになりたい、
そう思った。
昔の一姫が聞いたら何て言うだろうか。
きっとこう言うのだろう。
「自分の身ぐらい自分で守れるわ。雄二は自分のことだけ考えていればいいの。
でも雄二が困った時には私がいつでも助けてあげる。遠慮しなくていいのよ」
どうもRoteroseです。私がサb……時間確保が出来なかったので、一話ずつの投稿ではなく三話を一度に投稿します(/ω\)Rosalbaも雄二編の構想は大体決まったようなので、星霜も含めて二人で完結まで頑張っていきます!それでは第三話でお会いしましょう~(●^o^●)