亮二から逃げて家出して以来、前と比べて随分穏やかな生活が出来るようになった。
一人で3人分の生活費を稼いでくれている母の辛さを考えると生活水準自体は下がったが、
母を含めて笑顔で過ごせる毎日だった。
学校で級友と仲良くして、家では一姫が待っていてくれる。
貧しいながらも俺はとても幸せだったんだ。
でも残念ながらその日がやってきたのはたった1年後だった。
亮二が俺たちの家を見つけ出したのだ。
顔は痩せこけて服はぼろぼろ。
近付かなくてもお酒の匂いがぷんぷんする。
「やっと見つけた、もう逃がさないからな」
「こんな所に住んでいたとはな、おかげで探すのに苦労したんだ。」
「あなた……」
「今更来てどうするんだ!母さんも、姉ちゃんも辛かったんだ。もう出て行ってくれ!」
「ガキは黙ってろ!」
酔っているからなのかそれとも体が弱っているのかいつものあの強い亮二ではなかった。
「ガキがいると話にならん、雄二、一姫、酒を買って来い。強い奴だ。」
俺は絶対にこの場を離れるものかと踏みとどまったが、
一姫に連れられ一緒に外に出た。
一姫がすることに間違いはない。
一姫が行くと言えば行くのだ。
本能的に一姫に従った。
だが、後ろでガラスの割れる音と母の悲鳴が聞こえてきた。
「……母さん……?」
(いかなきゃ。俺が守らなきゃ。)
一姫の手を振り払って急いで家に戻った。
後ろで誰かに呼ばれた気がしたがそんなものはいい。
(今はこの家庭が続きさえすれば……)
家に飛びこむと同時に父の嫌な声が聞こえてきた。
「へ……へへへ……オマエは金の卵を産むガチョウだ……
もう一度……もう一度天才を生ませてやる!
そうすりゃ……俺はまた……へへへ……」
そこには父の狂気に満ちた赤黒い肉棒に凌辱される母がいた。
「……母……さん……」
「父さん。何やってるの?今すぐ辞め……」
一姫が混乱しながら後ろから言葉を投げかける。
一姫はいつもの、そしてかつての一姫でもなかった。
怯えている。震えている。
まるでかつて見た似たような光景をフラッシュバックしているかのように。
「あなたたち!ダメ!こっちに来てはダメよ!見ないで!」
「ガキ共はちゃんと酒は買ってきたのか?」
「……まだ……」
自分の声が喉を通らずに抜けていった。
「買ってこいと言っただろ!とっとと買ってきやがれ!」
俺はもう覚悟は決まっていた。
(こんな男……死んでしまえばいいんだ……)
俺はキッチンに駆け込み包丁を取り出した。
勿論することなんて決まっている。
(……殺してやる……)
(俺がみんなを守るんだ)
立ち向かえ。
逃げてばかりじゃ、何も変わらない。
自分で変えなければ、何も変わらない。
どんなに辛い現実でも立ち向かうしかないのだ。
(殺せ……殺せ……殺せ……殺せ)
頭の中に響いてくる。
もう逃げない。
力強く握りしめた安物の包丁がぎらぎらと嫌な光を反射している。
父は気付いていない。
父の背後に回り込む。
そして……
「……ぐおっ!?」
俺は勢いよく背中から心臓を狙って突き刺した。
だが何かに引っかかって奥までいかない。
先端が刺さった包丁を上下に揺らしながら捩じり込み最後に勢いよく手のひらで押し込んだ。
「……う……うぅ~ン……ウグ……うぅ……う…………ぅ……」
父はそれから口を開かなかった。
どこで知ったのかは覚えていないがここで包丁を引きぬかなきゃと思った。
心停止していただろうが俺は倒れ込んだ父の背中から包丁を引きぬく。
グリグリと捩じりながら引き抜いた。
血が吹き出してきて床に血が流れて行く。
(これでいいんだよね)
そこから俺は精根尽きて意識が朦朧とした。
何があったのか分からない。
気がつくと一姫と2人で家の外にいる。
「戻らないと……母さんが……母さんが……」
引きとめる姉ちゃんに少しばかりの罪悪感を宿して
家へと引き返した。
家の前には救急車とパトカーが止まっており人集りが出来ていた。
人垣を掻き分けるようにして玄関にたどりついた。
玄関の扉をくぐろうとすると居合わせた救急隊員に止められた。
「あ、こら……入っちゃダメだ!」
中からはさっきまでの酒の匂いに加えて血の匂いがする。
確信した。
(やっぱり父さんは死んだんだ……俺が殺したんだ……)
俺は極めて落ち着いていた。
目の前の父の死体に多少の衝撃はあったものの、
悲しみも哀れみも感じない。
何も感じない。
人の死、ましてや自分が殺したという現実が処理しきれない感情の渦となって
俺の感情を無にする。
ギーギーと木がこすれ合うような音が聞こえてくる。
何の音だろう。
今まで気付かなかった。
上から音がしている。
下にいる父ばかり見ていた。
そこには天井の梁から垂らした紐で首をつる母がいた。
「そんな……そんな……ああああああああ……」
ただただ恐怖だった。
(こんなことになるなら戻ってこなければよかった)
(こんなことになるなんて思ってもいなかった)
(こんなことになるなら……)
「俺は生まれなければよかった……」
父のいない世界で3人で過ごしていけると思った。
母の笑顔を、姉の笑顔を守れると思った。
俺が全部つぶしたんだ……
頭がぐらぐら揺れる。
脳を直接揺らされているかのようだ。
目が回る。気分が悪い。
俺はその場で、気を失った。
どうもRoteroseです。Rosalbaの表現は、私と違った感覚のところが多くあるので、一読者として楽しませてもらっていますw本編の第四話ですが、今後にも繋がる重要なところなので少し時間が掛かると思います(2日くらい)それでは、第五話でお会いしましょう!感想、指摘待ってます(^^♪byRosalba