【更新停止中】飲んだくれが異世界に転移したようです 作:雷月皆無
長々と書くのもアレなので一言だけ。
『飲んだくれが異世界に転移したようです』
はじまります!
草木の一本も生えぬ不毛の大地、そこに佇むは鋼鉄の巨人。もとい人型の戦闘用機械である。よほど厳しい戦いをくぐりうけてきたのだろう。その身に傷のないところはなく、その中で最も顕著なのは左腕。人間でいうところの上腕、その半ばから先が失われていた。そんな満身創痍ともいえる機体ではあるが現在胸部ハッチは開け放たれており、一人の人物があまり広いとは言い難いコックピットの中で何かを探していた。調子外れな鼻歌を口ずさみ、機体のパイロットはある物を探す。口ずさんでいるのは古き良き日本の歌、通称スキヤキソングである。だがそれも、勢いがないためかそれとも元々の曲調のせいか非常にもの悲しく聞こえる。そんなことをしているのは何故か。それは数十分程前に遡る。
ふと目を覚ますとそこは自らのよく知るコックピットの内部。おそらく気絶でもしていたのだろう。確か自身は作戦行動の途中だったはず。ならばこのまま何も行動を起こさないのは拙い。そう思い正面モニターを見、そして即座に後悔した。枯れ果てた大地、まるで世界の終りのような光景ではないか。核でも落ちたのか、と考えるもそんなことはないと即座に否定する。そんなものが落ちたのなら今自分が生きているのはおかしい。生きていたとしても放射性物質で非常に宜しくない事態になっているに違いない。自分で考えていても埒が明かない、と通信機で連絡を取ろうとするも、通信機は雑音を吐き出すばかり。思わず通信機を殴りつける、自らの手が痛いだけの結果に終わった。
痛む手を抑えながらパイロットは考える。気絶する直前に何かあったのは確実であると。だが、何が起こったのか思い出せない。ならば今やるべきは過去を振り返ることではなく、今をどうするかを考えたほうが建設的だろう。まずやるべきは、機体の状態の確認。なにせこの枯れた大地がどこまで続くか分からないのだ。足があるに越したことはないだろう。肉体にかかる負荷も減り、必要カロリーも少なくなるはずである。後は必須ともいえる食料と水。不測の事態に備え、コックピット内にはサバイバルキットが常備されているはずである。これがあれば三日分の食料くらいにはなるはず。そこで思考を止める。これ以上は必要ないと判断したためだ。
パイロットは胸部ハッチを開き、外へ出る。乾いた空気が鼻をくすぐる。機体は見たところ傷だらけではあるが、致命的なものは左腕がないという一点のみ。だがそれも、元々そういうものだったとして扱えばさして問題はないと判断する。そして立ち止まり考える。関節部の摩耗も、ただ歩行させる分には特に問題のないレベルだ。だが、戦闘機動を行なうことを想定するならば全力で二回。それが限界だろう。補給など見込めないため、摩耗具合によっては歩行それ自体にも支障をきたす可能性がある。ならば戦闘を行なう場合にしても関節部に気を使う必要がある。つまり射撃兵装を用いて行動不能に持っていくのが望ましいが、今の機体にまともな射撃兵装はない。となれば残る手段は近接戦闘による一撃必殺。と、そこまで考えてふと我に返る。何故敵性存在と戦うことが前提になっているのかと。通常では有り得ない状況に対し、ナーバスになっているのだろう。そうでなければこんなことを考えたりはしない。
自嘲の笑みを浮かべ、パイロットは機体のチェックを再開する。
機体各部のチェックを終えたパイロットはコックピットに戻ろうとハッチに足をかけ、機体の頭部を見上げる。そこには
コックピット内で、先ほどのことを忘れるかのように鼻歌を歌いながらサバイバルキット探しを始めたパイロットであったが一向に見つからず今に至る、という訳である。
これだけ探して見つからないのなら、サバイバルキットを積んでいないのではないのかと絶望的な気分になる。最後にもう一度だけ探しそれで見つからなければ最悪、土を食おう。
そう覚悟を決め、シートの下を覗き見る。至極あっさりと、それらしきものを発見し拍子抜けする。探し物が目の前にあるのになかなか見つからないのは稀によくあることだろう。そうとでも思わないと非常にやるせない気持ちになるも、必要なものも見つかったことでもあるし移動することにする。機体を
数時間は経過しただろうか、それでも見える景色に変化はない。この時間にサバイバルキットの中身を確認したが、装弾数九発の極々一般的な拳銃も入っていた。射撃は得意ではないが、零距離ならば外すことはない。だがそれは最終手段だろう。そのような目的で使用しないことを祈るしかない。しかし、この救命糧食に同封されている紙片はなんなのだろうか。『がんばれ!元気を出せ! 救助は必ずやってくる!』か。雑音しか吐き出さない通信機に、他に食うものが土くらいしかないこの状況では何の慰めにもならない。もっともこんな状況は想像の埒外だろうが。そんなことを思いながら五食入っているうちから一食分を取り出す。個別包装を破ると中から出てくるのはビスケット状の物体。一口齧る。モソモソとした食感に口の中の水分が失われてゆく感覚。高カロリー食品なため、このような場では重宝だろうが余り食べたいとは思わないものでもある。
そんなことを考えつつ、ビスケット状の物体を食しながらパイロットはなんとなしに救命糧食のパッケージを手に取る。ひっくり返すなどして様々な角度から見ているうちにある表記を見つける。否、見つけてしまった。
そして一言呟く。
「あ、これ賞味期限切れてる」
切りの良いところで切ったので短いのはご容赦ください。