【更新停止中】飲んだくれが異世界に転移したようです 作:雷月皆無
少女は木々の生い茂る森の中を駆けていた。息を切らし、何かに急き立てられるかのように。後ろから木のへし折れる音を耳にした途端、確認もせずに横へと跳ぶ。その一瞬後、少女のいた場所を鋭い牙の生えた顎が噛み砕いた。飛び散る土に木片、それらは少女にその威力を感じさせるに十分なものであり、身に纏うワンピースのような服は切り裂かれ、その身の肌色を晒しいくつもの傷をつくっていた。そんなことを何度も繰り返してきただろう少女は喚き散らしたくなる、どうしてこんなことになったのかと。だがそんなことはできない。そんなことをすれば襲撃者に自らの居場所を教えるばかりか、残り少ない体力を自ら削ることになる。
どうしてこうなったのか、この森にあんな奴がいるなんて聞いていない。ごく最近、この森に来た?それなら納得がいく。ここは比較的温厚な生物が多かったはず、そうでなければ森の中に集落を作ろうとは思わないだろう。そして自分が見つけたのは、元は集落だったのであろう残骸と食い散らかされたナニカ。ここまで情報が出揃っているのならあの集落をやったのはアイツで間違いない。ならアイツが森から出ないうちに、これ以上被害が広まる前に。このヒトとは相容れない生物を……。
そして少女は襲い掛かる襲撃者に向き直る。その目に決死の想いを秘めて。息を大きく吸い、そして吐き出す。こちらへと突撃してくるそれに対し回避行動も取らず、小さく何かを呟く。瞬間、襲撃者はその顎を閉じた。その時襲撃者は、肉を千切り骨を砕く感触を覚えなかった。知恵ある者ならば、少女が回避行動を取らず、何か呟いたことに対し違和感を抱くだろう。だが襲撃者は知恵なく野生に生きる者である、目標の気配を察し上を見る。その目に映るのは木々の枝葉ではなく太陽と、それを背後にした影。そこで襲撃者は永遠に意識を失った。
短い息を何度も繰り返しながら少女は、襲撃者の亡骸を目にする。頭部が弾け、ピンク色のナニカが飛び出し無残な姿となったソレを見た途端吐き気がこみ上げる。本当に自分がこれをやったのか?どこか現実味がない。だが、血に染まった手がそれを現実だと自分に嫌でも認識させる。何時まで経っても自身の手で他の命を絶つことに抵抗がある。いい加減になんとかしなくてはいけないと考えながら、手で十字を切りその場を後にする。今すぐ最寄りの街へ行き、このことを報告しなければならない。だがこの身体は疲労困憊。身体が重い、1歩足を進めるごとに体力が根こそぎ失われるような感覚。一度どこかで身体を休めなければ、動くこともままならなくなる。ふらつきながらも歩みを進める少女であったが、背後で何か音がしたために亡骸へと振り向く。そこには亡骸を貪る複数の襲撃者の姿があった。なけなしの体力を振り絞り逃げ出す少女と、食事を中断しそれを追いかける複数の襲撃者。
逃げる少女とそれを追う襲撃者達。その命がけの鬼ごっこは数時間が経過してもまだ続いていた。少女が逃げるのが巧みなのではない。襲撃者たちは遊んでいるのだ、甚振っているのだ。その爪を、牙を、わざと外し、掠らせ、恐怖に怯え竦む様を愉しんでいるのだ。同朋をこの矮小な者に殺されたからではない。ただのちょっとした食前の運動である。ただしそれを表現する言葉は、狩り。傷つき弱った少女は襲撃者たちにとっては、ただの獲物でしかないのだ。
襲撃者の爪が少女の足を切り裂く。血が溢れ出て、そこで限界に達したのか少女は倒れ伏してしまう。だが、それでも腕を使い足を引きずりながらも這うように逃げる。それは最早ただの意地。自分が喰われることは確定的。ならば少しでも生きる時間を引き伸ばし、血の跡などからこの存在を発見してもらう。それが少女の選択。どれだけ可能性が低くとも実行することに意味があると云わんばかりの決死の行動。
だがそれも、へし折れた木が足を潰し移動ができなくなったことで潰えてしまう。
「あ、がぁあああ!!」
余りの痛みに悲鳴を上げる。それで襲撃者達が止まる訳もなく、ゆっくりと少女ににじり寄る。ここまでかと、少女は目を閉じる。
その時、一条の光が奔った。
けたましく鳴き声をあげる襲撃者達。それで目を開ける少女だったが、襲撃者など目にも入らない。そそれよりも遥かに重要なものが目の前にあったからだ。
紺色をした巨躯、傷だらけで左腕もないが右腕一本で長大な銃らしきものを構えるその姿は力強さを感じさせる。スマートではあるのだが、膝から下の脚部が異常に肥大化したようなソレは少女にとって見覚えはない。だがソレらには見覚えがある、幼い頃よりよく見知ったソレらの名は。
「
◇
パイロットは森の中で草むしり…もとい食料を採っていた。
当初の予定通り三日で救命糧食を消費した約一日後、遥か遠くに森を発見し入るまではよかった。だが、それからは不運の連続だった。小動物の一匹も見つからない、見たことのない植物、そしてなによりも生命線たる水源が発見できていないという三重苦。森に入り三日経つがそれでも見つからない。食料は見知らぬ植物故に口にするにも気を使う。毒があるか見るために一口分を含み、数時間待つ。それで体に異常を感じられなかったらその草を食う。更には真面に睡眠もとれていないという精神的にどうにかなりそうな生活を送っていた。機体に乗っているため肉体疲労が少ないのが不幸中の幸いだろう。最も、精神疲労は留まるところを知らないのだが。
そんな時である、木々のへし折れる音と悲鳴らしき声を耳にしたのは。ふらつきながらもコックピットへと入り、機体操作を
たどり着いたその場には、倒れた木に足を挟まれ身動きの取れない少女。服は半ば用を成さずただの黒い布きれと化しており、その身には数えきれないほどの傷に流れ出る血。そして少女を囲むのは。
「前脚が翼になった…巨大
思わず声を漏らしてしまう。パイロットが考えるのはこの生物が一体なにものなのか。こんな生物は有り得ない、ならばこれは。どこかの研究所が作り出した新種、それが逃げ出して野生化したと考えるのが妥当。そう、パイロットは結論付ける。寧ろそれ以外思いつかない。
一歩進み、機体の腰後部にマウントされた銃を抜き放ち、発射。内部で超高温となった金属粒子が空を焼く。反動で跳ね上がる腕に銃から吹き出す白いガス。
これに驚いたのは翼蜥蜴――無論仮称――だ。
けたましい鳴き声をあげていたが、自身達の食事を邪魔した突然の乱入者が一向に何のアクションも起こさないことを見るや、自身達よりも巨大なモノに対し飛び上がり襲い掛かった。
驚いたのはパイロットも同じだ。まさか空を飛ぶとは思わなかったのだ。だがそこは腐っても本職。すぐさま手近な一匹に照準を合わせ、撃つ。左翼が根元から焼失。次いで別の翼蜥蜴に照準し放つ。下半身が消し炭となる。撃たれた二匹は悲痛な叫び声をあげながら落下、大地に叩き付けられた。ラストの三匹目はすでに機体の目前にまで迫っていた。焦らず冷静に、かつ高速で照準を合わせ光の矢を撃ち放つ。頭部から尾先までを貫通、翼の一部を残しこの世から消え去った。
二匹が生き残っているのを確認したパイロットは銃を再び腰後部にマウント、左翼のない翼蜥蜴の頭を踏み潰す。飛ぼうともがいている下半身のない翼蜥蜴は、取り出したナイフを投擲し背中から串刺しにする。それが止めとなったのか動かなくなる。
一息ついたパイロットは機体から飛び降り、少女のもとへと駆け寄る。
「ぅ…あ……」
「喋るな」
安心させようとヘルメットのバイザーを上げるパイロット。顔を見ると、安心したのか少女は気を失った。
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以下、次回予告になります。
気絶した少女に応急処置を施すパイロット。
目覚めた少女から告げられる事実。
そして少女は街までの案内を申し出る。
『飲んだくれが異世界に転移したようです』
『第03話 ゴーマイウェイ』
お楽しみに。