【更新停止中】飲んだくれが異世界に転移したようです 作:雷月皆無
人型兵器で森の中を彷徨っていたパイロットであったが、突如として森に悲鳴が響く。駆けつけるとそこでは、一人の少女が有翼の蜥蜴っぽい生物に襲われていたのだった。襲っていた三匹を鎧袖一触し、機体から飛び降り少女のもとへと駆け寄る。顔を見せると少女は気を失うのであった。
機体に乗り、少女の足に覆い被さる木を動かす。機体のマニピュレーターを用い慎重に持ち上げ、脇へと降ろす。息つく暇もなくサバイバルキットを手にして、機体から飛び降りる。
自分は医療の専門家ではない。だが心得くらいはある。傷の具合が分からない以上は、早急に応急処置を行なう必要がある。こうしている間にも血は失われ、命の灯火までもが消えてしまうかもしれないのだから。
ここがどこなのか分からない以上は、この少女を助けて話を聞かなければならない。酷く利己的な考えに反吐が出そうになる。自分はどこまで生に執着するのだろうか。死にたくないという感情は当然のようにあるが、今まで自分は数え切れないほどに人を殺してきた。軍という巨大組織の一部となって、まるで作業でもするかのように殺した、殺した、殺した。敵人型兵器を蜂の巣にした。戦車を踏み潰した。人間をミンチにも変えた。
無論多少の後悔はある、だがそれは自分で選んだ生き方だ。人を助けたいと思いと軍に入り、同じ人を殺す。なんと矛盾したことであろうか。自分は死後、両親と同じ場所へは間違いなく行けないだろう。だがそれでいい、自分は消し切れない罪を背負った咎人。なればこそ、生きて生きて生きて罪を償おう。自分が死するその時まで。例え偽善と言われようとも行なうこと、それこそに意味があるのだ。
だからまずは、目の前の命を救おう。それだけで、少なくとも自分は救われるのだから。
サバイバルキットから医薬品を取り出す。そして応急処置をしようとし気付く。背中に広がった長髪が邪魔であると。仕方なしに包帯を用い、少女の髪をうなじ辺りで結う。少々不恰好だがこれで邪魔になることはないだろう。服を切り裂き肌を露わにする。予想通りというべきか、やはり切り傷が多い。だがそこまで深い傷がないことに安堵、適切な処置を行なえばまず命を落とすことはないだろう。だが気を抜くことはできない。血まみれだったということは、つまりそれだけの血が流れたということなのだから。
大きな傷から順繰りに、傷口を圧迫しながら包帯を巻いていく。一度手を止め少女の身体を仰向けにした後、応急処置を再開する。
どれだけ時間が経過したのだろうか、何度同じ動作を繰り返したのだろうか。目に見える傷にはすべて処置を施し、足には副木として木片を当て固定する。
応急処置を一通り終わらせたところで、少女の目が覚めるまで自身も休息をとることにしたパイロット。枝などを辺りから拾い集め、サバイバルキットからマッチを取り出し火を起こす。ついでとばかりに上半身だけが残された翼蜥蜴から肉をやや大振りに切り取り、皮を剥いだ木の枝に突き刺し火の傍に突き立て焼く。
やることがなくなったため、とりあえず休息をとる。倒木に腰掛けて少女の目が覚めるのを待つ。
ほのかに揺らめく暖かな炎を只々見つめる。火の燃える音のみが響くそこに別の音が混じる。パイロットが聞き取ったのは小さな衣擦れの音。音のほうへ目をやると、少女は脂汗を流し身じろぎをしながら小さく声を漏らしているようだった。
近寄り顔を覗き込むと、青く透き通った瞳と視線がぶつかった。
突如首の裏に不快感を覚えたパイロットは直感に従い身を仰け反らせる。次の刹那、右の拳が顎を掠める。あの瞬間に動いていなければ少女の拳が顔面を直撃していただろう。間髪をいれず襲い掛かってくる左の拳を右腕で捌き、胸部へと掌底打ちを放つ。一瞬心停止を起こし息を詰まらせる少女。
この一連の行動は決してパイロットが意図して行なったものではない。これはただの条件反射。命の危機だと感じ取った体がその場においての最適な行動を瞬時に組み立てたもの。
止めとばかりにパイロットは腰のホルダーからナイフを抜き放つ。
それは意思を介さない。故に止められない。
少女の柔らかな首筋へとその凶刃を突き出した。
◇
目の前には焚き火、そして焼けた肉。木の枝を串替わりにしているのだろうそれを地面から引き抜く。肉は表面が薄らと焦げ、香ばしい匂いを放っている。思わず生唾を飲み込む。若干焼きすぎた感は否めないが、食べられなくはないだろう。
そこまで思考を巡らせると、もう辛抱たまらんとばかりに目の前の肉に喰らいつく。噛み切れなかったために一度口を離し、手で肉を鷲掴みにする。熱い、だがそれは生きているという何よりの証明。知らず、笑みが零れる。犬歯を使い、肉を無理矢理に噛み千切る。咀嚼、噛むほどに純粋な肉の旨味が溢れ出る。この硬い肉はただひたすらに旨味のみを凝縮しているかのようですらある。気付くと視界がぼやけていた。何故だろうかと考えるも答えは出ず、頬を伝うものに構わずひたすらに肉を食んだ。
泣き笑いを浮かべながら肉を貪るストロベリーブロンドの髪を持つ少女。見る見るうちになくなっていく肉を目にしながら微妙な表情を浮かべているのはパイロット。少女の首に新たに巻かれた包帯を見ながらなんと声をかけるべきか悩んでいた。先ほど、この少女を殺しかけてしまったのだ。自身でナイフの軌道を咄嗟に変え、この少女が避けるために首を傾けたためになんとか軽傷で済んだのだ。どちらかの行動がなければ、凶刃は頸動脈を切り裂きその小さな命を奪っていただろう。
少女が焼かれている最後の肉を手に取ろうとしていたため、横から奪い去るように取り上げる。これは自分のものだと言わんばかりに。
「あ……」
名残惜しそうに肉を見つめる少女。罪悪感が掻き立てられるも、話しかけるタイミングが掴めなかったのだ。それに久方ぶりのまともな食事だ。あれだけ食べて何の異変もないことから、毒のある可能性も低いだろう。本来なら食べ始める前に話しかけるべきだったのだろうが、その時はまだ踏ん切りがつかなかったのだ。
「この肉おいしいです。……だけど、何の肉ですか?これ」
「蜥蜴」
「…え?」
「翼の生えた蜥蜴の肉だ」
パイロットは命名・翼蜥蜴を指差し補足をする。
「えぇ、と……その。ひじょーに言いにくいですが、あれ…蜥蜴じゃないです」
指差した体勢のまま硬直するパイロット。ならアレは何なのだ。蜥蜴をベースにした新生物ではないのか。それとも、この辺りでは別の名前で呼ばれているのか。
パイロットの困惑など知る由もなく、少女は無慈悲に言の葉を紡ぐ。
「あれは
困惑していたパイロットであったが、ふとある可能性に思い至り自身と少女の額を密着させた。
「…熱はない、か。」
ならば頭でも打ったか、と考えるのも無理はない。よりにもよってワイバーンだなんてファンタジーの代名詞とも言える言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
だが、自身の乗る人型機動兵器であるHFもかつてはアニメーションなど創作作品の中だけの存在だったのだ。それがこうして普及している、つまりこのワイバーンとかいう生物も研究所から逃げ出した蜥蜴ベースの新生物が自然繁殖したものだと考えれば辻褄が合う。ただ頭が残念な人という可能性もあるのだが、それはおいておく。
ひとしきり納得したところで額を離す。
「ん、悪かった。少し様子が気になっただけだ」
それだけを言い、パイロットは押し黙る。気まずい空気が流れる。それに耐え切れなくなった少女が沈黙を破る。
「そうです!名前。名前教えてほしいです」
「ああ。自分は日本国防軍…いや地球連邦軍少尉、ユウキ――」
「あ、質問いいです?『にほんこくぼうぐん』や『ちきゅうれんぽうぐんしょうい』って…なんです?それにしてもあまり聞いたことのないですがいい名前だと思うです。そうそう、次はわたしですか。わたしはアリアーヌ。長いのでアリアと呼んでほしいです」
「お、おう」
一息に捲し立てた少女アリアーヌに対し、パイロット否ユウキはなんとも言い難い目を向けていた。自己紹介を途中で遮られたことに対して思うところがないではない。だがそれよりも重要なことがある。日本国防軍はともかく地球連邦軍を知らないというのは有り得ない事態だ。だがしかし、ここはワイバーンとかいう新生物が生息する魔境である。つまり情報が行き届くのが数十年単位で遅れていたとしても不思議ではない。それに軍に代わる治安維持組織があるからこそ、先ほどの台詞が出てくるのだろう。
「日本国防軍と地球連邦軍は治安維持組織だ。それと少尉というのは組織の中での階級のことだ」
懇切丁寧に説明する自分は一体なんだろうかと思う。しかし、こうして地元民を拾えたのは幸いだ。この辺りの地理にも明るいだろうから、とりあえず森から出ることは可能。そのことを話すと、地元民ではないが森への進入経路は覚えているとのこと。ならば森から出るまでは彼女の言葉に従うべきだろう。
とりあえず肉を一口頬張る。硬くて水気がない、しかも筋張っている。物欲しそうな目で肉を見つめていたため、無言で肉を渡す。
アリアが肉を食べている間に出発する準備を整える。手早く荷物をまとめ、焚き火には土をかけ消す。ワイバーンをどうするか考える。とりあえず食料にはなるため機体で引きずっていけばいい。持っていけるのは一匹のみ、サイズからいってコックピットには入るわけもない。残していくのは当然ながら上半身のみの個体になる。
「森から出るのはいいですが、置いてきた荷物を回収したいです。あ、道のりは同じなので安心していいです」
「分かった。機体に移るが、自力で歩けるか?」
足に体重をかけるアリアだったが、激痛が走るのか顔を顰めさせる。
「これは…無理みたいです」
「その表情を見れば分かる」
仕方ない、と口の中で呟きながら横抱き――又の名をお姫様抱っこ――にする。
「重ッ…!?どんな体してるんだ……!」
「自分からやっておいてそれは失礼すぎるですよ!それにその細腕じゃ無理じゃないですか」
「運んで…やってるんだ…!感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いは…ない!」
当然だ、全体重が両腕にかかるのだ。重くないはずがない。だが怪我の箇所にかかる負担を考えるとこれがベターな選択なはず。
軽く言い争いをしながら、文字通り重い足取りで機体へと歩みを進める。
荒い息をつき機体のもとへと辿り着く。短距離とはいえ無謀だっただろうかと自問する。
一旦アリアを地面に降ろし、機体のコックピットへと入る。機体を操作、マニピュレーターを地面に接地。そして機体から降りアリアを乗せ再び機体に戻り操作を行なう。今度はコックピットの手前までリフトの要領で動かす。最後にコックピットの中まで引きずり込む。
ワイバーンを機体のマニピュレーターに握らせ、森から出るため移動を開始する。アリアに道のりを聞くも返ってきた答えは、ワイバーンがへし折ってきた木を辿ればいい。というなんとも先行き不安になるものだった。
辿り着いた場所は酷い有様であった。元は家だったのだろう木材は散らばり所々赤黒く染まる。その近辺には食い散らかされたかのような肉と骨の欠片に、赤い布きれ。何があったのかなど一目瞭然、襲われたのだ。ただ食事をするには飽き足らず遊んでいたのだろう。様々なモノが飛び散るそこは凄惨に過ぎた。
戦場で似たようなものを何度も見ているユウキも思わず絶句した。
一度この光景を見ているのだろうアリアも悲しげな顔を浮かべ言葉を発する。
「……ここです、翼亜竜に襲われて……荷物を置いて逃げ出したのは」
「そうか、どんな荷物だ」
「大きな背負い鞄です。……足がこんなにならなければ、私が取りに行ったですのに」
「気にするな。こちらにはお前が必要で。お前はこちらを必要としている。そういうことだ」
「その……ありがとう、です」
俯き加減に消え入るような声で告げられる感謝の言葉。
礼を言われるのに慣れていないのか、僅かに頬を赤く染めるユウキ。見られないよう顔を背け、急ぎ機体から飛び降りる。熱くなった顔を冷ましながら鞄を探し始める。
だが、探し物はすぐに見つかった。なにせ胴体ほどの大きさがあったのだ。
ついでとばかりに、近くに落ちていた麻の服とズボンを失敬する。このような火事場泥棒染みた真似はすべきではないのだろう。だが、いつまでも耐Gスーツのままでいるわけにもいかない。着続けているために臭いがきつくなってきているのだ。そも、耐Gスーツなんてものは常日頃着るようなものではない。
着ていた服を脱ぎ、着替える。余ってしまった袖と裾は折り、長さを調節する。掛け声とともに鞄を背負い込み、上部に耐Gスーツを引っ掛けておく。
機体に戻ると、物珍しそうな顔をしたアリアがコックピット内を見ていた。こちらに気が付いていないのか、内部の機器に手を伸ばそうとしていたため声をかける。
「あんまり触るなよ?」
「あ、ごめんなさいです。
「それより、背負い鞄というのはこれか?」
横を向き、指で背中を指し示す。
「これです。着替え出してもらってもいいですか?包帯だけじゃ流石に肌寒くて……」
鞄を漁り、中から黒のワンピースを取り出し手渡す。受け取り、そそくさと頭から被るアリア。
「ところでその服はどうしたですか?ぶかぶかでサイズも合ってないみたいですが」
「鞄を探すついでに拾った」
「そうですか……。さっきまで着てた緑色の変な服よりは似合ってるですよ」
他にも何か言いたげに口を動かしていたアリアであったが、納得したように一つ頷くと自身の着ている服の胸元を摘む。
「今度着るものがなくなったら替えの服貸すですよ?まだ入ってるですし」
「それは断固として断る」
◇
その翌日、ユウキとアリアは森からの脱出に成功する。脱出したとは言っても、アリアの辿った道のりをただ進んだだけなのだが。
見渡す限り緑の平原。こんな景色は中々見ることは敵わないだろう。開けっ広げにしたままのコックピットからそれを見る。知らず感嘆の声を上げていた。更に辺りを見渡し、その光景を目に焼き付けんとする。そして遠くに見えるのは群れを成して走る馬。否、馬の首から下の全身と人間の上半身を持つ異形達。
自身の見たものを信じることができず思わず二度見する。だが現実は非常、目にしたのは緑の平原に馬の首から下の全身と人間の上半身を持つ異形達。何も変わらないそれらを再び見た瞬間に硬直し思考停止するユウキ。
数秒で我に返りアリアに声をかけようとするも、喉が仕事を放棄していたためにできず。仕方なく、あの群れに指を差すことでアレは一体なんなのかと問う。
「おぉ!あれはケンタウロスです。わたしも見るのははじめてなので驚いても仕方ないです。別名は、自由と平原の民。特定の場所に留まらずに絶えず旅を続ける少数民族です。それにしても目がいいですね。ほら、今のうちの目に焼き付けておくですよ。滅多に見ることができないですから」
ひどく興奮した様子のアリア。その証拠に身を乗り出して食い入るようにケンタウロスの群れを見つめていた。
対するユウキはそれどころではなく、絶賛混乱中であった。
なんだアレは?有り得ない、非科学的過ぎて変な笑いすら出てきそうである。そう、あんなものが存在していいはずがない。ならばアレはなんだ?
等と、悪足掻きもとい取り留めのない思考を続けるユウキ。やがて諦めたように息を吐き出す。そして問う、ここはどこかと。どこの国なのかと。
「ここは確か……そう、ルクレール王国です」
白目をむいた。ここに来てから今まで手を付けていなかった金属水筒から蒸留酒を呷る。喉が焼け胃の辺りが熱くなる感覚が、嫌でもこれが夢ではなく現実だと思い知らされる。
もしやと思い、様々な質問をした。誰でも知っているような大国を知らないと答えられた時点で色々と諦めた。そして悟る。ここは地球ではない、と。
今更ながらあることに気付く。民間人をコックピットに入れてしまっている今の状況は非常に拙いのではないだろうかと。処罰ものであるのは確実だろう。だがそれも、地球に戻ることができたらの話であるため即座にそのことを頭から放棄する。
アリアに、街はどちらかと聞く。左を指差したため、そちらを見る。こちらへ向かってくる一台の馬車――牽いているのが普通の馬だったため安心する――があった。
道を聞くために機体から降りる。馬車からも二人の人間が出てきたため、敵意がないことを示すため両腕を上げて近づく。
聞くところによると、二人は商人でありこれから別の街に行くらしい。近いのかと聞けば、今から行く街は近いという。ならば、とそれまでの同行を願い出る。すると向こうのほうから是非に、と言われてしまった。何故かと聞けば護衛を雇っていない、とのこと。
機体に戻り、先ほどの事を話す。謝られてしまったが気にはしていない。本格的にこれからどうするかを考えていた。
地球の人型起動兵器HFと馬車という異色の組み合わせは、それから特に話すこともなく進み続けて数時間が経過。地平線の向こうから、石を組み上げられて造られた壁らしきものが見えた。
「見えたです。あれが城郭都市ルーソンヌルクです」
お読みいただきありがとうございました。
感想・評価などお待ちしております。
以下、次回予告になります。
【次回予告】
人生とはままならぬもの。
良い人もいれば悪い人もいる。
日々のちょっと出来事に喜び、怒り、哀しみ、楽しみを抱く。
食事をし、眠り、そして子を為す。
これらは人として至極当然のこと。
今まで生きてきて学んだ極々当たり前のこと。
つまり生きていることは素晴らしいことなのです。
さぁ皆さん、神に感謝の祈りを捧げましょう。
……失礼、少し興奮してたみたいです。
とにかく。温かい食事をおなかいっぱい食べて、ベッドでぐっすり眠る。
ただそれだけのことで幸せを感じるわたしは幸福な人間なのでしょう。
それが親しい人と一緒なら、更に言うことはないです。
『飲んだくれが異世界に転移したようです』
『第04話 ウィズユー』
さて、次回から飲んだくれていくですよ。