9月の第2日曜日に、清蘭中の運動会が開かれた。
チーム分けは1学期の終わりにされたが、期待とは裏腹に、私は翔くんと別のチームになってしまった。
「一緒のチームがよかったな・・・・・・」
それでも本番では、応援をしながら翔くんの活躍が見られたので、競技で仲間にはなれなかったけど、楽しかった。
毎年、チーム対抗の競技が終わると、フォークダンスをすることになっている。
今年の運動会でも、男女がそれぞれ1列ずつに並び、入場。そして、音楽がかかる。
清蘭中では、同じ曲を2回かけ、いろいろな人と踊ることになっていた。
練習のときは1曲ずつしか踊らなかったので、翔くんとは会えなかった。
でも今日は長く踊れる。
(今日こそは、一緒におどれるかな・・・・・・)
淡い期待を抱き、隣のクラスの男子から順に回っていく。
1曲目が終わった。少し周りを見回してみるが、翔くんがいるかどうかはよく分からない。
2回目の音楽が始まる。
(お願い、来て・・・・・・)
でも、彼の姿はなかなか見えない。
曲は終盤に入っていく。
(今年はだめか・・・・・・)
私は半ば諦めていた。
「あっ、凛だ」
思わずどきっとした。
下に向けていた顔を上げると、目の前に翔くんがいた。
「あっ・・・・・・!」
最後の最後で、一緒に踊れる。
このちょっとした偶然も、そのときの私には、奇跡に思えた。
翔くんの手が、優しく私の手を包む。
彼の手の温もりと、自分の鼓動の高まりを感じながら、ステップを踏む。
そこでちょうど、2曲目が終わった。
ゆっくりと翔くんの手が離れていく。
もう少し、もう少しだけ、手を握っていたかった。
少しだけ寂しさを感じる。
最後に成績発表が行われた。
翔くんがいるチームが優勝、私たちは準優勝だった。
翔くんは仲間とともに大喜び。
私もそれを遠目に見ながら、うれしくなった。
10月に入り、暑さがだいぶおさまってきた。
文化祭の準備が始まる時期。
清蘭中の文化祭でも、合唱コンクールをする。
私はその伴奏者に選ばれた。
校内の装飾や劇、有志による発表の練習はもうそろそろ始まるが、合唱は早くから準備をしていた。
文化祭まであと1週間。
どのクラスも気合いが入っている。
私たちのクラスも、先生が熱心な人で、朝や放課後に合唱練習をすることに決まった。
今日も朝から音楽室での練習がある。
「静かにしてー! まずは1回通してみよー」
全員がそろい、指揮者の松本さんが呼び掛ける。
クラスのほとんどが声を出すのを止めたが、一部の男子はまだ騒いでいる。
「ちょっと男子、静かにして」
松本さんがまた注意する。
「えー」
何人かは黙ったが、3人の男子はまた文句を言った。
この藤田くん、渡部くん、坂本くんは大抵3人でつるんでいる。休み時間などに教室でふざけているのをよく見かける。
「朝から練習とか面倒じゃね? 別にそこまでしなくてもいいじゃん」
3人組の中の坂本くんは、真面目ではないところはあるが、クラスの中では人気がある方だ。
ここで、松本さんの味方の真面目な女子と、坂本くん派の少数の男子が言い合いを始めた。中間にいる私たちはどうしたらいいか分からない。
そのとき、この中間の生徒の中から声が上がった。
「お前ら、いい加減静かにしろよー」
声がした方を振り向く。
男子たちに注意をしたのは・・・・・・、翔くんだ。
「中学生になって最初の合唱コンクールだぜー。男子だって、俺も含めて声出てないじゃん。もうちょっと真面目にしようぜ」
翔くんの説得は上手い。確か、小学校の高学年になったときも、けんかしていた下の学年の子たちに仲直りをさせたことがあった。
翔くんは、自分のこともまだまだだと言い、騒がしい男子たちを見事に納得させている。
「・・・・・・分かったよ。ちゃんとやる」
坂本くんが少しうつむき、素直に言った。
「翔太くんすごい。あの坂本くんたちに真面目に練習させるなんて」
ピアノの近くにいた女子がこそこそと話している。
「うん! ちょっと格好いいかも・・・・・・」
(あれ、翔くんって結構モテる・・・・・・?)
胸の奥が、少しもやもやする。
そんな私をよそに、松本さんがもう一度声をかけ、合唱練習は始まろうとしていた・・・・・・。
文化祭当日。
合唱コンクールの前に10分間の休憩があるので、各クラスごとに円陣をくんだ。
「思いっきり声出して、楽しんでいこーぜ!」
学級委員の海斗くんが大きな声を出し、私たちは心を一つにして、舞台へと向かった。
私たちの出番が終わった。
初めての中学校での合唱で、みんなが緊張していたし、体育館では声が響きにくいけど、よく頑張っていた。
私も間違えないように頑張った。
今まで歌ってきた中で、一番の合唱だったと思う。
全クラスの合唱が終わり、昼食のバザーが始まる時間。
私の近くにいた指揮者の松本さんのところに、坂本くんたちが集まった。
「松本、練習のときふざけてごめん。松本がしっかり指導してくれたから、さっきみたいないい合唱ができたんだと思う。」
「えっ、いいよ、そんなこと。あれから真面目にしてくれたし」
松本さんは、不真面目だった男子からの急な謝罪に驚いていた。私もびっくりした。
「翔太も、あのとき注意してくれてありがとう」
「おう・・・・・・」
翔くんも少し戸惑っている。でも、私が見ていることに気づくと、にっと笑った。
私はその笑顔に心を打ち抜かれたようだった。
(かっこいい・・・・・・)
やっぱり翔くんはすごい。
そして私は、そんな翔くんが好きなんだ。