IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第10話

「――という訳でっ! 織斑さん、クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでとう~!」

 

パァンッ!

 

乾いた破裂音が食堂に響いた。

 

「……え?」

 

続いて、色とりどりの紙吹雪が私の頭上から降ってくる。

 

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

 

そして。

 

食堂の壁に貼られている大きな紙を見つける。

 

そこには、堂々とした文字で――

 

『織斑一夏 クラス代表就任パーティー』

 

と書かれていた。

 

「…………」

 

私は数秒、固まった。

 

「天羽さん!」

 

振り返れば、そこには満面の笑みを浮かべた天羽さん。

 

……絶対、知ってたよね?

 

「これは、どういうことですか!?」

 

授業が終わった直後。

 

「放課後、食堂に来てね♪」

 

と天羽さんに言われたから来てみれば、これである。

 

クラッカー。

 

紙吹雪。

 

大勢のクラスメイト。

 

そして、なぜか用意されている大量の料理。

 

どう考えても仕組まれていた。

 

「うふふふ……」

 

天羽さんは楽しそうに笑う。

 

「実はね、クラス代表の権利を一夏ちゃんに譲ったのよ」

 

「……譲った?」

 

「そう♪」

 

私は頭の中で、先週の出来事を思い返す。

 

他薦で名前が挙がったのは、天羽さんと私。

 

そして自薦したのがセシリアさん。

 

その後、私とセシリアさんが代表の座をかけて対決。

 

結果は――私の勝利。

 

つまり。

 

「……あ」

 

ようやく理解した。

 

「天羽さんが辞退したから……」

 

「そういうこと♪」

 

「必然的に、私がクラス代表に……」

 

「大正解!」

 

「…………」

 

私は頬を膨らませた。

 

「裏切り者!!」

 

「ええっ!?」

 

天羽さんが驚いたような声を上げる。

 

「だって、最初からそのつもりだったんでしょ!」

 

「うん♪」

 

「即答!?」

 

思わず頭を抱える。

 

天羽さんはそんな私を見て、楽しそうに笑いながら近づいてきた。

 

そして――

 

ぽん、ぽん。

 

「いじけないの。いじけないの」

 

「むぅ……」

 

頭を撫でられる。

 

……ずるい。

 

本当にずるい。

 

この人は、こういう時だけ妙に上手い。

 

怒ろうとしても、あんな笑顔を向けられてしまえば、どうにも怒れなくなる。

 

「さあ、一夏ちゃん」

 

天羽さんが手を広げる。

 

「今日は楽しみましょう♪」

 

「……仕方ないなぁ」

 

こうして。

 

『織斑一夏クラス代表就任パーティー』は始まった。

 

そして――

 

終わったのは、夜十時を過ぎた頃だった。

 

 

「疲れた……」

 

寮の自室へ戻った私は、まずシャワーを浴びる。

 

温かい湯を頭から浴びながら、今日一日を思い返す。

 

「もう……天羽さんったら……」

 

本当に、あの人には敵わない。

 

中学時代からの付き合い。

 

そして同時に――

 

霧の艦隊、その頂点に立つ存在。

 

超戦艦ヤマト。

 

世界から恐れられる存在でありながら、私にとっては昔から知っている一人の少女でもある。

 

そして私は。

 

あの日から、彼女の隣にいることを決めた。

 

世界に喧嘩を売った。

 

そんな彼女についていくと決めた。

 

だから。

 

今さら裏切るつもりなんて、これっぽっちもない。

 

「……まあ、私も大概だよね」

 

苦笑する。

 

普通なら、もっと怖がってもいいはずなのに。

 

私にとっては――

 

これが日常になってしまっている。

 

「……そういえば」

 

ふと、別の顔が頭に浮かんだ。

 

「鈴……元気にしてるのかな」

 

中学二年の時。

 

転校していった女の子。

 

凰鈴音。

 

なぜ、今になって思い出したのかは自分でも分からない。

 

けれど。

 

きっと元気でやっている。

 

そんな気がした。

 

「……さて」

 

私はシャワーを止める。

 

そして、タオルで髪を拭きながら右腕を見る。

 

そこには――銀色のアクセサリー。

 

白式改。

 

そして、その中に宿るイオナ。

 

「イオナ。例のアレはどう?」

 

『シミュレーターは終了していません』

 

頭の中に、落ち着いた声が返ってくる。

 

『ですが、発射は可能です』

 

「そう……」

 

私は銀色のアクセサリーを見つめる。

 

元々は、倉持技研から買い取った白式。

 

それをヒュウガに渡した。

 

そして――

 

メカ好きのヒュウガが、文字通り好き勝手に改造した結果。

 

霧のコアを搭載した、今の白式改が完成した。

 

霧の艦隊と同じ技術。

 

霧の艦隊と同じ力。

 

それを、私は使うことができる。

 

「念のため、ヒュウガにはいつでも修復できるように伝えておいて」

 

『分かりました』

 

「ありがとう、イオナ」

 

『どういたしまして』

 

私は髪を拭きながら脱衣所を出る。

 

そして下着を身につけ、部屋へ戻ろうとしたところで――

 

「あ」

 

「……あ」

 

ばったり。

 

ルームメイトと目が合った。

 

「ご、ごめんね」

 

「うんうん。大丈夫」

 

更識簪。

 

私のルームメイト。

 

そして――私と同じ、倉持技研からISを買い取った専属パイロット。

 

彼女のIS――打鉄弐式改も、蒼き鋼の技術によって生まれ変わっている。

 

けれど。

 

私たちには、それ以上に共通するものがあった。

 

『誰も私として見てくれない』

 

それは。

 

私たち二人が、それぞれの姉によって抱えてきた傷だった。

 

最強と呼ばれる姉。

 

偉大すぎる存在。

 

その妹であるというだけで、自分自身を見てもらえない。

 

私は千冬姉と比べられ続けた。

 

簪もまた、姉の影に苦しんできた。

 

――私たちは、姉のお飾りじゃない。

 

だから。

 

私たちはこちら側を選んだ。

 

誰かの妹としてではなく。

 

誰かの付属品としてではなく。

 

一人の人間として。

 

私たち自身を見てもらうために。

 

 

「……ねえ、タカオ」

 

シャワーを浴びながら、簪は自分のIS――打鉄弐式改へ問いかけた。

 

『何?』

 

「一夏の……どこが良かったの?」

 

少しの沈黙。

 

『…………』

 

珍しく、タカオが黙り込んだ。

 

「タカオ?」

 

『……何というか』

 

言葉を選ぶように間が空く。

 

『その……』

 

簪は首を傾げる。

 

タカオと一夏が初めてまともに戦ったのは、蒼き鋼での試験運用だった。

 

一度だけ行われた模擬戦。

 

結果は――一夏の勝利。

 

それがきっかけだった。

 

それまで一夏に対して特別な感情など持っていなかったタカオが、一夏という存在を意識し始めた。

 

そして。

 

その結果として開発されたのが――

 

『乙女プラグイン』。

 

今ではすっかりタカオ自身の人格に組み込まれている。

 

そして、その始まりとなった理由を。

 

タカオは小さな声で口にした。

 

『…………かっこよかったから』

 

「え?」

 

小さすぎて、聞き取れたかどうかすら怪しい。

 

しかし。

 

次の瞬間。

 

『そ、そういう簪はどうなのよ!?』

 

「え?」

 

突然、声を荒げるタカオ。

 

「わ、私?」

 

『あんたも一夏のこと――』

 

「ストップ!」

 

簪の顔が一気に赤くなる。

 

「ストップ! ストップ!!」

 

『何よ! 最後まで言わせなさいよ!』

 

「言わなくていいから!」

 

簪は慌てて話を打ち切る。

 

その顔は真っ赤だった。

 

『……ふーん?』

 

「な、何……?」

 

『別に?』

 

タカオの声には、明らかに面白がっている響きがある。

 

「…………」

 

簪は黙り込む。

 

そして。

 

心の中で、ぽつりと思った。

 

(……人間って、複雑だな……)

 

一夏といい。

 

自分といい。

 

タカオといい。

 

どうしてこう、人間関係というものは面倒なのだろう。

 

それでも――

 

この日も。

 

蒼き鋼の戦いとは無縁の、穏やかな日常が続いていた。

 

少なくとも。

 

今、この瞬間だけは。

 

何も起こらない――

 

平和な日だった。

 

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