IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第11話

私は――目の前で起きた光景に、思わず目を見開いていた。

 

「ふー、ふー、ふー……どうよ!!」

 

目の前で肩を上下させながら、勝ち誇った笑みを浮かべている少女。

 

凰鈴音。

 

中国代表候補生。

 

そして――私の幼馴染。

 

「……まさか」

 

驚きを隠せない。

 

霧の艦隊が誇る防御システム。

 

クライン・フィールド。

 

ミサイルですら容易に突破できない、絶対的な防御壁。

 

それを――鈴は突破してみせた。

 

「すごいじゃん、鈴……」

 

「ふふん! 当然でしょ!」

 

鈴は胸を張る。

 

けれど。

 

私は笑っていられなかった。

 

クライン・フィールドを突破された。

 

つまり――

 

私の白式改に搭載されている絶対防御が、初めて発動したということだ。

 

『マスター』

 

イオナの声が響く。

 

『損傷を確認。絶対防御を発動しました』

 

「……そっか」

 

私は白式改へ手を伸ばす。

 

そして、その内部から――一つの装備を取り出した。

 

剣ではない。

 

ブレードでもない。

 

銃身と刃が一体化した、特殊な武装。

 

私はそれを握り締める。

 

「……これじゃあ」

 

ゆっくりと、鈴を見る。

 

「本気で行かなくちゃね」

 

鈴の表情から、笑みが消えた。

 

「……へぇ」

 

私が構えた武器を見て、鈴も身構える。

 

「ようやく本気ってわけ?」

 

「うん」

 

私は静かに答えた。

 

「リミッターの解除を申請」

 

右腕の銀色のアクセサリーが淡く輝く。

 

「コード――『******』」

 

『リミッターの解除を受託』

 

イオナの声が響く。

 

『《ヴァール》――解放』

 

ヴァァァン――。

 

低い起動音。

 

手にした《ヴァール》が青白い光を纏う。

 

私は鈴へ銃口を向け――

 

トリガーへ指をかけた。

 

その一週間前。

 

 

「おはよう!」

 

今日も元気よく教室へ入る。

 

――のだけれど。

 

「……ん?」

 

なんだか、いつもより教室が騒がしい。

 

「どうしたの?」

 

私が近くにいたクラスメイトへ声をかけると、彼女はすぐに答えてくれた。

 

「一夏、知らないの?」

 

「何が?」

 

「転入生が来るんだって」

 

「転入生?」

 

こんな時期に?

 

私は少し首を傾げる。

 

IS学園へ転入するには、基本的に各国からの推薦が必要だ。

 

しかも、この時期にわざわざ転入してくるとなれば――

 

「代表候補生の可能性が高いわね……」

 

私が呟く。

 

「その通りよ!」

 

突然。

 

教室の入口から声が飛んできた。

 

全員が一斉に振り返る。

 

そして。

 

そこに立っていた少女を見た瞬間。

 

私は目を丸くした。

 

「久しぶりね。一夏」

 

「……え?」

 

見間違えるはずがない。

 

「まさか……」

 

その少女は、不敵な笑みを浮かべる。

 

「転入生って――鈴だったの!?」

 

「そうよ!」

 

少女――凰鈴音は、胸を張る。

 

そして、なぜか妙に格好をつけたポーズを決めながら叫んだ。

 

「中国代表候補生、凰鈴音!」

 

ビシッ!

 

「地獄の果てから帰還してきたわ!」

 

「……」

 

「……」

 

教室が一瞬、静まり返る。

 

私は思わず額を押さえた。

 

(相変わらず、そのポーズ似合わないなぁ……)

 

六年ぶりに再会した幼馴染。

 

それでも。

 

鈴は昔と何も変わっていなかった。

 

 

昼休み。

 

私と天羽さん、そして鈴は、三人で学食のテーブルを囲んでいた。

 

周囲の生徒たちは――

 

食事の手を止めて、こちらを見ている。

 

まあ。

 

天羽さんと中国代表候補生が同じテーブルにいるのだから、当然といえば当然か。

 

「こうして会うのも久しぶりね」

 

私が言うと、鈴は箸を動かしながら答える。

 

「そうね」

 

それから、ちらりと天羽さんを見る。

 

「……あんたたちもね」

 

相変わらずだ。

 

鈴は天羽さんに対して、どうにも敵意がある。

 

特に――顔ではなく。

 

その下にあるものに対して。

 

「……?」

 

天羽さんはそんな鈴の視線にも気づいているのかいないのか、いつもの笑顔で食事を続けている。

 

私は苦笑した。

 

「鈴がここに来たってことは……」

 

「その予想で合ってるわ」

 

鈴が箸を置く。

 

「……蒼き鋼の技術よ」

 

その言葉に、私は少しだけ表情を変えた。

 

霧の艦隊の装備を、実用可能な形で扱えるのは蒼き鋼だけ。

 

各国が喉から手が出るほど欲しがっている技術だ。

 

しかし。

 

蒼き鋼の本社所在地は、未だに判明していない。

 

通信による接触を試みても、逆探知をかけても、その場所へ辿り着くことはできない。

 

まるで――幽霊会社。

 

もっとも、悪い意味ではない。

 

物資は届く。

 

兵器も届く。

 

契約も存在する。

 

それなのに、本社だけが見つからない。

 

だからこそ、世界中が確信している。

 

蒼き鋼は確かに存在する。

 

ただ――

 

その場所を誰も知らないだけだ。

 

「やっぱりね」

 

私は頷く。

 

「で、私と親しい鈴が選ばれたわけか」

 

「そうよ」

 

鈴はため息を吐いた。

 

「まったく、頭にきたわよ!」

 

「まあまあ」

 

私は笑う。

 

「でも、こうして私たちに会えたんだから、お得だったんじゃない?」

 

「……まあ、それはそうだけど」

 

鈴が少しだけ顔を緩める。

 

「頭の回転が速くなったわね、一夏」

 

「企業所属となれば、色々あるのよ」

 

「へぇ?」

 

「特に――」

 

私は少しだけ声を落とす。

 

「クライン・フィールドの演算とかね」

 

「……」

 

鈴が目を細める。

 

「本当に、あんた変わったわね」

 

「そうかな?」

 

「昔はもっと――」

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

突然。

 

背後から声が飛んできた。

 

振り返る。

 

そこにいたのは――箒とセシリアだった。

 

まあ。

 

大体、予想はつく。

 

二人は私の隣に座っている少女を見る。

 

「この女は誰だ!」

 

「そうですわ!」

 

「いや、いきなり『この女』って……」

 

私は思わず突っ込む。

 

(初対面の相手にそれはどうなのよ……)

 

ともあれ。

 

私は二人へ鈴を紹介する。

 

「凰鈴音さん。箒が転校したあとに入ってきた、私の幼馴染だよ」

 

「幼馴染だと?」

 

箒が反応する。

 

「うん。まあ、中学二年の時に私情で転校しちゃったんだけどね」

 

それを聞いて、二人ともようやく納得したようだった。

 

それ以上の追撃はない。

 

その後。

 

鈴は他の代表候補生には特に興味がない、という話をしていた。

 

……まあ。

 

鈴らしいといえば、鈴らしい。

 

 

放課後。

 

第三アリーナ。

 

私は簪と模擬戦を行っていた。

 

もちろん、本気ではない。

 

あくまで準備運動程度。

 

打鉄弐式改と白式改が空中を駆け、互いの武装をぶつけ合う。

 

「そこ!」

 

「……っ!」

 

簪が攻撃を回避する。

 

「まだまだ!」

 

「うん!」

 

その時だった。

 

「一夏――!!」

 

観戦席から、聞き慣れた声が響いた。

 

「ん?」

 

振り返る。

 

そこには、こちらへ向かって大きく手を振る鈴がいた。

 

「あ、鈴」

 

私は簪へ合図を送り、一度戦闘を中断する。

 

二人で地面へ着地した。

 

「どうしたの?」

 

「こっちにいるって聞いたから来たんだけど……」

 

鈴が少しだけ申し訳なさそうにする。

 

「邪魔しちゃった?」

 

「う~ん」

 

私は少し考える。

 

「まあ、大丈夫だよ」

 

そもそも準備運動程度の模擬戦だ。

 

簪も分かってくれるだろう。

 

「そうそう」

 

私は簪を見る。

 

「彼女が鈴。さっき話してた幼馴染だよ」

 

「初めまして」

 

鈴が簪へ手を差し出す。

 

「二組のクラス代表、凰鈴音よ」

 

「あ……」

 

簪は少し戸惑ったあと、差し出された手を握った。

 

「初めまして……更識、簪です」

 

「よろしくね、簪」

 

「……うん」

 

鈴はそこで、何かに気づいたように首を傾げる。

 

「ねえ、一夏……」

 

「なに?」

 

「この子……」

 

鈴が簪を見る。

 

「なんか、雰囲気違わない?」

 

「……ああ」

 

私は苦笑する。

 

「簪ちゃん、人見知りだから」

 

「人見知り?」

 

「うん。戦闘になると、別人みたいになるけど」

 

「へぇ……」

 

鈴は納得したように頷く。

 

「そういうことね」

 

そして。

 

「あ」

 

何かを思い出したように、鈴が私を見る。

 

「私が二組のクラス代表ってことは――」

 

「来週の?」

 

「そうよ」

 

鈴はニヤリと笑った。

 

「一夏の相手は、私」

 

来週。

 

クラス代表トーナメントが行われる。

 

そして、その参加は――強制。

 

つまり。

 

私は鈴と戦うことになる。

 

「そうか」

 

私は笑う。

 

「じゃあ、私も気合い入れなくちゃね」

 

「ふふん」

 

鈴も負けじと笑う。

 

「あたしだって、負けるつもりはないからね」

 

「うん」

 

「それじゃ!」

 

鈴は手を振る。

 

「またね、一夏!」

 

そう言い残して、アリーナを出ていった。

 

私はその背中を見送る。

 

「……じゃあ、簪ちゃん」

 

「うん」

 

「続き、やろっか」

 

「分かった」

 

そして私たちは、アリーナの閉館時間まで模擬戦を続けた。

 

それが――

 

その日の、最後の平和な時間だった。

 

 

同時刻。

 

イギリス。

 

とある研究施設。

 

厳重な警備システム。

 

複数の監視カメラ。

 

そして、IS関連技術を扱う研究設備。

 

そこに――

 

一人の侵入者がいた。

 

警報が鳴る。

 

「侵入者を確認!」

 

「IS格納庫を封鎖しろ!」

 

研究員たちが慌ただしく走り回る。

 

だが。

 

遅かった。

 

格納庫のロックが解除される。

 

そして――

 

一機のISが姿を消した。

 

この時。

 

世界はまだ知らなかった。

 

これが後に――

 

大きな事件へと繋がっていくことを。

 




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