クラス対抗戦当日。
アリーナ前に張り出された対戦表を見れば、予想通りの組み合わせが記されていた。
――一年一組対一年二組。
――三組対四組。
そして。
「……やっぱり、鈴とだね」
私は白式改を展開する。
蒼い装甲が身体を包み、背後に展開された装備が静かに浮かび上がった。
正面には――
「待ってたわよ、一夏!」
鈴がいる。
彼女も専用IS――『甲龍』を纏っていた。
その両手には、二本の青竜刀。
構えを見るだけで分かる。
今日は、鈴も本気だ。
『それでは、両者とも指定された開始位置まで移動してください』
アナウンスに従い、私たちはそれぞれの位置へ移動する。
鈴が青竜刀を構える。
私は雪片弐型を展開した。
「……」
「……」
互いに相手を見据える。
そして。
『試合開始!』
ブザーが鳴った瞬間――
私たちは同時に地面を蹴った。
「チェイサー!!」
鈴が叫ぶ。
二本の青竜刀のうち、片方が猛烈な勢いで振り下ろされる。
「甘いよ!」
私は左腕を掲げた。
瞬間。
六角形の光が展開する。
クライン・フィールド。
ガキィンッ!
青竜刀が弾かれる。
その隙を逃さない。
「――そこ!」
雪片弐型を振り抜く。
「くっ!」
鈴が身体を捻って回避する。
そのまま距離を取り、再び突っ込んでくる。
「はああああっ!」
ガキン!
ガキィン!
青竜刀と雪片弐型が何度もぶつかる。
一進一退。
いや。
正確には――
私が押している。
けれど、決定打が入らない。
「やるね、鈴」
「当然でしょ!」
鈴は二年前。
まだ何も知らなかった少女から、わずか二年で中国代表候補生にまで上り詰めた。
その努力と実力は本物だ。
だからこそ――
「雪片弐型……」
鈴が距離を取る。
「一夏の試合、見せてもらったわ」
「……なるほど」
私は雪片弐型を構え直す。
「じゃあ、雪片の能力は知ってるわけね」
「もちろんよ」
鈴は青竜刀を構える。
「バリアー無効能力。一撃でも受ければ、その時点で勝負が決まる――」
そして。
「最強の剣ってことでしょ?」
「その通り」
私は頷く。
「でも――」
クライン・フィールドを展開する。
「鈴は、私にダメージを与えられない」
鈴の表情が変わった。
蒼き鋼が保有する技術。
霧の艦隊の防御技術。
クライン・フィールド。
これがある限り、通常のIS装備では私を傷つけることすら難しい。
「……なら」
鈴が笑う。
「それを証明してあげる!!」
「……!」
鈴が一気に加速した。
「はああああっ!」
青竜刀が突きの構えになる。
「そんな攻撃――」
私はクライン・フィールドを展開した。
「無駄だよ!」
ガギィィィンッ!!
青竜刀とクライン・フィールドが正面からぶつかる。
お互いに一歩も退かない。
フィールドが軋む。
青竜刀も悲鳴を上げる。
「くっ……!」
「どうしたの、鈴!」
「まだよ……!」
鈴は歯を食いしばる。
そして。
「――龍砲!」
甲龍の肩部に浮かんでいた装備が――
開く。
「最大出力!!」
ドンッ!!
何かが撃ち出された。
目には見えない。
けれど。
それは真っ直ぐに青竜刀へ命中した。
ガシャンッ!!
「――――!?」
私は目を疑った。
クライン・フィールドが――
揺らいだ。
「まさか……」
次の瞬間。
バキィィィン!!
六角形のフィールドが砕け散った。
「な……!?」
クライン・フィールドが。
突破された。
ISの装備程度では突破できないはずの防御が――
たった今。
破られた。
「――もらったぁっ!!」
青竜刀が迫る。
「くっ!」
避けられない。
ズガァンッ!!
青竜刀が私の左腕へ直撃した。
「――――っ!!」
衝撃。
白式改の左腕装甲が大きく砕ける。
そして。
露出したのは――
何もない空間だった。
いや。
正確には、袖だけが残っている。
その袖から――
ぽた。
ぽた。
赤い雫が落ちる。
「……」
私は自分の左腕を見る。
絶対防御が発動している。
それでも。
ダメージを受けた。
つまり――
今の一撃は、ISの絶対防御すら貫いた。
「ふー……」
鈴が荒い息を吐く。
「ふー……ふー……」
そして。
「どうよ!!」
もう一本の青竜刀を私へ向ける。
勝ち誇った顔。
けれど。
私はその顔を見て――
ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
これは、面白い。
鈴は――
私のクライン・フィールドを破った。
なら。
「これじゃあ……」
私は白式改の内部へ手を伸ばす。
「本気で行かなくちゃね」
「……え?」
鈴の表情が変わる。
私は、白式改から一つの武装を取り出した。
それは剣ではない。
ブレードでもない。
銃身とブレード。
その二つを一体化させた特殊武装。
――《ヴァール》。
私の、本当の切り札。
「……それ、何よ?」
「教えてあげる」
私は《ヴァール》を構える。
「私の本気」
「……!」
右腕の銀色のアクセサリーが輝いた。
「リミッター解除を申請」
『認証』
「コード――『******』」
『リミッターの解除を受託』
イオナの声が響く。
『《ヴァール》――解放』
ヴァァァン――。
《ヴァール》から、低い起動音が響いた。
「……!」
鈴が息を呑む。
私は銃口を向ける。
そして――
引き金を引いた。
ドンッ!!
「!?」
鈴は咄嗟に防御姿勢へ移ろうとした。
しかし。
「……!」
次の瞬間。
横へ飛ぶ。
弾――いや。
攻撃そのものが、鈴の横を通り過ぎた。
「……!」
私は追撃する。
次弾を装填。
「いい勘してるね……鈴」
「一夏……!」
再び狙いを定める。
「――!」
発射。
鈴は回避。
さらに発射。
また回避。
鈴は完全に回避行動へ徹している。
「くっ……!」
「逃げてばかりじゃ、勝てないよ!」
「だったら――!」
鈴が叫ぶ。
「次はこれよ!!」
《ヴァール》の内部から光が集束する。
そして。
発射されたのは――
弾丸ではなかった。
「レーザー……!?」
巨大な光線が一直線に伸びる。
「――!」
私はそれを操作する。
直線だったレーザーが、無理やり軌道を変えた。
鈴の逃げた方向へ。
「くっ!!」
鈴がさらに加速する。
背後から迫る巨大なレーザー。
「なら……!」
鈴が振り返る。
私がいるはずの方向へ視線を向け――
「……え?」
そこに。
私はいなかった。
「一夏……!?」
どこへ消えた?
その瞬間。
「――ガチャ」
鈴の耳に、小さな金属音が届いた。
「……!」
鈴が振り返る。
そこには。
いつの間にか目の前まで接近していた私。
そして。
《ヴァール》を構えている。
「……一夏」
私は笑った。
「楽しかったよ、鈴」
「――っ!」
トリガーを引く。
ドンッ!!
放たれた攻撃が、鈴の腹部を正確に捉えた。
「ぐっ――!?」
甲龍ごと吹き飛ばされる。
鈴の身体が猛烈な勢いで後方へ飛び――
ドガァァン!!
アリーナの壁へ激突した。
「……」
静寂。
数秒後。
『試合終了』
『勝者――一年一組、織斑一夏』
アナウンスが響き渡る。
同時に。
甲龍のシールドエネルギーが――
ゼロになった。
試合終了を告げるブザーが、アリーナ全体へ響き渡る。
私はゆっくりと《ヴァール》を下ろした。
「……鈴」
壁際を見る。
そこには、敗北した幼馴染がいた。
けれど。
その顔に、悔しさだけはなかった。
むしろ――
どこか楽しそうだった。
まるで。
次の戦いを、もう考えているような顔だった。
タイトルアンケートを活動報告でやっています。
よろしくお願いします