IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第14話

三組対四組の試合が始まった。

 

アリーナ中央。

 

三組のクラス代表候補が搭乗するのは、ラファール・リヴァイヴ。

 

対する四組は――更識簪。

 

打鉄弐式改を纏った簪は、静かに相手を見据えていた。

 

『試合開始!』

 

開始の合図と同時に、三組の代表が一気に距離を詰めてくる。

 

「いきます!」

 

ラファール・リヴァイヴが加速。

 

武装を構え、そのまま簪へと突っ込んでいく。

 

しかし――

 

「……」

 

簪は動かない。

 

直撃する寸前。

 

スッ。

 

紙一重で機体を横へ滑らせる。

 

「なっ!?」

 

攻撃を空振りした三組の代表は、すぐさま反転。

 

再び簪へ向かっていく。

 

だが。

 

また避けられる。

 

右。

 

左。

 

上。

 

下。

 

どれだけ攻撃を仕掛けても、簪は必要最低限の動きだけで回避していく。

 

「どうして……!?」

 

攻撃が当たらない。

 

それどころか――

 

簪は一度も攻撃していない。

 

観客席から見ていた生徒たちも、次第にざわめき始める。

 

「なんで攻撃しないの?」

 

「避けてるだけじゃない?」

 

「時間切れを狙ってるの?」

 

その通りだった。

 

これは試合ではある。

 

しかし、簪にとっては――天羽から言われた通りの「遊び」だった。

 

一夏の次の試合まで、時間を稼ぐ。

 

それだけでいい。

 

そして――

 

残り時間が五分を切った。

 

「……そろそろかな」

 

簪が呟く。

 

その瞬間。

 

打鉄弐式改の両側に備えられた常時展開装備が開いた。

 

「えっ?」

 

三組の代表が振り返る。

 

「――なに、あれ?」

 

ガコンッ!

 

左右の装置から、無数のミサイルが一斉に発射された。

 

「――ッ!?」

 

慌てて機体を加速させる。

 

しかし――

 

ミサイルは彼女を追い続ける。

 

「追尾!?」

 

一発。

 

二発。

 

十発。

 

数え切れないほどのミサイルが、逃げるラファール・リヴァイヴを追跡していく。

 

「しつこい……!」

 

必死に旋回し、ミサイルを振り切ろうとする。

 

だが。

 

「……そこ」

 

簪は静かに呟いた。

 

三組の代表が逃げ込もうとしている場所。

 

そこへ向けて――

 

別方向からミサイルが飛んでいく。

 

「なっ!?」

 

前方。

 

後方。

 

左右。

 

逃げ道が塞がれる。

 

「そんな……!」

 

回避できない。

 

次の瞬間――

 

轟音。

 

爆炎。

 

無数のミサイルが一斉に着弾した。

 

アリーナ全体を覆い尽くすほどの爆発。

 

そして――

 

『試合終了!』

 

『勝者、一年四組! 更識簪!』

 

爆煙の中から、打鉄弐式改がゆっくりと姿を現した。

 

簪は何事もなかったかのように、すぐにピットへ戻っていった。

 

「時間稼ぎ、ご苦労様」

 

ピットで待っていた天羽が、簪を迎える。

 

「はい……」

 

簪は打鉄弐式改を解除する。

 

「一応、第一整備室にヒュウガがいるから、メンテナンスしてきなさい」

 

「分かりました……」

 

「次の試合に備えてね」

 

「はい」

 

簪は頷くと、第一整備室へ向かっていった。

 

その背中を見送った天羽は――

 

「…………」

 

ふと、視線を横へ向ける。

 

「………出てきたらどうですか?」

 

返事はない。

 

「隠れているのは分かっていますよ」

 

しばらくして。

 

物陰から、一人の女性が姿を現した。

 

織斑千冬。

 

「先程の試合――手を抜かせていたか」

 

「ええ」

 

天羽は嬉しそうに答える。

 

「一夏ちゃんには、完全な状態で戦ってもらいたいからね」

 

千冬は眉をひそめた。

 

制限時間ギリギリまで、一切攻撃しない。

 

そして最後に――一方的に勝負を決める。

 

あまりにも異様な戦い方だった。

 

だが、今の天羽の言葉を聞いて確信する。

 

これは偶然ではない。

 

「天羽」

 

「はい?」

 

「お前の目的はなんだ?」

 

天羽は少しだけ黙った。

 

アドミラリティ・コード。

 

霧の艦隊。

 

蒼き鋼。

 

そして、一夏。

 

これらについて話すことはできない。

 

ならば――

 

千冬が納得できる答えを返すしかない。

 

「目的など、特にはありませんよ」

 

天羽は笑みを浮かべる。

 

「強いて言うなら――強化でしょうか」

 

「強化……?」

 

「ええ」

 

それ以上、天羽は語らない。

 

「では、私はこれで失礼させてもらいます」

 

「…………」

 

天羽は千冬の横を通り過ぎ、そのままピットを後にした。

 

残された千冬は、しばらくその背中を見つめていた。

 

「……少し、調べる必要がありそうだな」

 

千冬の中には、まだ複数の疑問が残っている。

 

蒼き鋼。

 

霧の進撃の後に突然現れた企業。

 

誰も勝てなかった霧に対抗し、打ち破った企業。

 

専用機を買い取るほどの莫大な資金力。

 

霧の技術を利用した兵器。

 

そして――

 

その企業に所属する一夏と簪。

 

「…………」

 

一つ一つを考えるほど、不可解さが増していく。

 

天羽琴乃は、一体何を知っている?

 

蒼き鋼とは、本当は何なのか?

 

千冬はまだ知らない。

 

その答えに辿り着いた時――

 

自分が絶望を知ることになるなど。

 

一方、第一整備室。

 

「取り敢えず、メンテナンスはこれでいいね」

 

ヒュウガが打鉄弐式改を確認する。

 

「はい」

 

簪が頷く。

 

打鉄弐式改は大きな損傷もなく、メンテナンスだけで済んだ。

 

問題は――

 

「一夏の方ね」

 

ヒュウガが視線を向ける。

 

そこには白式改があった。

 

先程の鈴との試合で、左腕の装甲は大破。

 

一から作り直す必要があった。

 

普通なら数日はかかる。

 

だが――

 

「さすがヒュウガ……」

 

簪が感心する。

 

「誰に向かって言ってるのよ」

 

ヒュウガは得意げに胸を張る。

 

「これくらい、私にかかればどうってことないわ」

 

簪が稼いでくれた時間。

 

その間にヒュウガは白式改の左腕を完成させていた。

 

後は最終チェックだけ。

 

「問題がなければ、次の試合から使えるわ」

 

「ありがとうございます」

 

簪が頭を下げる。

 

「それじゃ――」

 

ヒュウガは、打鉄弐式改に埋め込まれたコアへ視線を向ける。

 

「アンタはどうするの?」

 

『あたし?』

 

コアから声が返ってくる。

 

タカオだった。

 

『別に。このままでいるつもりだけど?』

 

「まあ、アンタたちはメンタルモデルを放棄する代わりに、その姿になったわけだしね」

 

『こっちはこっちで勉強になるのよ』

 

タカオはそう答える。

 

簪と共同生活を始めてから、それなりの時間が経っている。

 

アニメ鑑賞。

 

人間の生活。

 

学校。

 

食事。

 

その他にも、人間が当たり前だと思っていることを一つずつ学んできた。

 

もし今のタカオが再びメンタルモデルを得たなら――

 

人間とほとんど変わらない生活を送れるだろう。

 

『……それに、簪との生活も悪くないし』

 

「タカオさん……」

 

簪が少しだけ嬉しそうに笑う。

 

そんな二人を見ながら、ヒュウガは時計を確認した。

 

「そろそろ、全クラスの試合が終わる頃だね」

 

『案外早いわね……』

 

タカオが呟く。

 

そして簪は――

 

「……一夏」

 

「ん……?」

 

椅子で眠っていた一夏の肩を揺する。

 

「起きて」

 

「ん~~……」

 

一夏は眠そうに目を開ける。

 

「……試合?」

 

「もうすぐ」

 

「そっか……」

 

一夏は大きく伸びをする。

 

「ん~~~~……!」

 

そして白式改へ視線を向けた。

 

「ヒュウガ」

 

「なに?」

 

「修理、ありがとう」

 

「はいはい。分かったから、早く行きな」

 

「へいへい」

 

一夏は白式改を待機状態へ戻す。

 

簪も打鉄弐式改を展開準備状態にする。

 

二人は並んで第一整備室を出ていった。

 

次の試合。

 

それは――

 

一夏と簪。

 

蒼き鋼に所属する二人の専用機同士による、直接対決だった。

 

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