問題なく、全クラスの試合が終了した。
そして――
次の試合が始まろうとしていた。
最初の試合は、一組対四組。
つまり――
私と簪の試合だ。
アリーナ中央。
私は白式改を展開し、簪も打鉄弐式改を展開している。
互いに武器を構え、試合開始のブザーを待つ。
「本気で行くよ。一夏」
簪が静かに言った。
「来なさい」
私は雪片弐型を構える。
「全力で応えてあげる」
互いに、自分が最も使いやすい武器を手に取る。
そして――
ピィィィィィィッ!!
試合開始のブザーが鳴り響いた。
「「はぁああああああっ!!」」
同時に地面を蹴る。
――瞬時加速《イグニッション・ブースト》。
一瞬で距離が消えた。
ガキィィィン!!
雪片弐型と夢現が激突する。
「っ!」
簪が歯を食いしばる。
薙刀を扱う簪にとって、今の私の猛攻を受け続けるのは容易ではない。
一振り。
そう見えた。
しかし――
実際には三回。
私の剣は、常人の目では一度振ったようにしか見えない速度で、三度も振り抜かれていた。
「くっ……!」
簪は強引に距離を取る。
そして態勢を立て直すと、すぐさま反撃。
「――はぁっ!」
瞬時加速《イグニッション・ブースト》。
簪が突っ込んでくる。
「来る!」
私も同時に加速した。
「「はぁああああああ!!」」
再び、二機が激突する。
激突。
離脱。
再加速。
そしてまた激突。
二人の動きは、観客席からでは完全に追えない領域に入っていた。
「な、何が起きてるの!?」
「速すぎる!」
観客たちがざわめく。
だが、私たちはそんなことを気にしている余裕などない。
一瞬でも判断を誤れば、負ける。
その時だった。
「――山嵐!!」
簪が叫んだ。
打鉄弐式改の肩部ウイング・スラスター。
そこに取り付けられていた六枚の板が左右へスライドする。
ガコンッ!
内部から姿を現したのは――
八連装ミサイルランチャー。
それが六箇所。
合計四十八発。
「いっけぇぇぇっ!!」
ドドドドドドドドドッ!!
凄まじい轟音とともに、無数のミサイルが一斉に発射された。
「――多い!」
四十八発ものミサイルが、空を埋め尽くす。
私は迫り来るミサイルを見つめ――
「クライン・フィールド!」
展開された不可視の障壁が、ミサイルを捕らえる。
そして――
ギギギギギギッ!!
まるで巨大な手に握り潰されたように、ミサイルが次々と圧壊していく。
爆発。
爆発。
爆発。
アリーナの空を爆炎が埋め尽くした。
「……ふぅ」
私は息を吐く。
だが――
「クライン・フィールドの消費率、三〇%……」
イオナから報告が入る。
「シールドエネルギーは?」
『残り二五八』
「……」
思った以上に減っている。
瞬時加速《イグニッション・ブースト》を多用した影響だ。
もちろん、簪も同じだろう。
このまま長引かせれば、お互いに不利になる。
「……そろそろ、決着をつけたいわね」
向こうを見る。
簪も同じことを考えているようだった。
「一夏」
「簪」
目が合う。
「この一撃で終わりにしましょう」
「うん……」
私は雪片弐型を構えた。
簪も夢現を構える。
互いに動かない。
静寂がアリーナを支配する。
観客たちも息を呑んでいた。
そして――
「「――行くよ!!」」
再び。
瞬時加速《イグニッション・ブースト》。
二人の距離が一瞬で消える。
「「はぁああああああ!!」」
互いの武器がぶつかる。
――その寸前。
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!
轟音。
アリーナ全体が震えた。
「っ!?」
私たちの間に、強制的にクライン・フィールドが展開される。
そして――
その向こう側から。
一本の光が飛来した。
「――何!?」
セシリアのレーザーとは、比較にならない。
巨大なレーザーがアリーナを薙ぎ払う。
「くっ!」
私は咄嗟に回避する。
「簪!」
「分かってる!」
同時に距離を取った。
見ると、アリーナを覆っていた遮断シールドが――
破られている。
「そんな……」
誰かが、外部から攻撃してきた。
私は攻撃の飛んできた方向を見る。
そこにいたのは――
一機のIS。
全身を装甲で覆った、漆黒のIS。
顔すら見えない。
ただ、こちらを見ている。
『織斑さん! 更識さん!』
山田先生の声が、プライベート・チャンネルから響く。
『今すぐアリーナから脱出してください!』
「そうしたいところですが……」
私は敵ISを見た。
「――そうもいかないみたいです」
『え?』
イオナから報告が入る。
『敵ISに捕捉されています』
同時に。
『こっちも捕捉されているわ』
タカオからも通信が入る。
逃げることはできない。
敵は明確にこちらを狙っている。
そして――
戦う意思も満々だ。
「……簪」
「うん」
「もしかすると――アレを使うかもしれないから」
簪が一瞬だけ目を見開く。
そして頷いた。
「そうだよね」
「……」
「うん。分かった」
次の瞬間。
敵ISが再び攻撃してきた。
「来る!」
私たちは同時に飛び出した。
「ヒュウガ」
観客席。
天羽さんは、パニックになっている会場を見ながら通信を繋ぐ。
「アレは使えるの?」
『簪の方は問題ない』
ヒュウガの声が返ってくる。
『ただ、一夏の方がちょっとまずいね』
「やっぱり?」
『簪の方には元々タカオがいるからね』
ヒュウガが説明する。
『でも一夏の方は後付けだから、まだ完全じゃない』
「……一発撃てればいいわ」
『そのくらいなら大丈夫だけど……』
「なら、使わせるよ」
『了解』
観客席には緊急時用の防壁が展開され、アリーナの様子が見えなくなる。
天羽さんはプライベート・チャンネルを開く。
『一夏ちゃん、簪ちゃん。聞こえる?』
『聞こえます』
『聞こえてます』
『許可が下りたから――アレを使いなさい』
『『分かりました』』
通信は、それだけだった。
そして――
ズドオオオオオオオオオオオンッ!!
防壁の向こうから、凄まじい轟音が響き渡った。
「許可が下りたし――始めるよ」
私は白式改を見た。
「イオナ」
『了解』
白式改のシステムが一斉に切り替わる。
『《ヴァール》を展開』
次の瞬間。
私の手元に、一振りの武装が展開された。
――《ヴァール》。
通常の剣でもない。
通常の銃でもない。
その両方を思わせる特殊兵装。
「オールリミッターを解除」
『了解』
「……」
白式改の出力が跳ね上がる。
『《超重力砲》の発動を確認』
ヴァールが変形する。
銃口が展開される。
それに合わせるように、簪の打鉄弐式改も変化していく。
『《超重力砲》、発射準備完了』
敵ISがこちらを見る。
そして――
動きが止まった。
「ロック完了」
逃げられない。
避けられない。
二つの超重力砲が、敵ISを完全に捉えている。
「「私たちの試合に――」」
私と簪の声が重なる。
「「水を差した罪よ!!」」
発射。
――――ズドォォォォォォォンッ!!
二つの超重力砲が同時に放たれた。
巨大な力が敵ISを飲み込む。
「――――ッ!!」
敵ISは何もできない。
防御することも。
逃げることも。
反撃することも。
できない。
次の瞬間。
敵ISは――
光の中へ消滅した。
「…………」
私はヴァールを見る。
「……終わった」
『……一夏』
イオナの声が少しだけ困ったように響く。
「どうしたの?」
『《ヴァール》、使用不能』
「……でしょうね」
一発撃っただけ。
それだけでヴァールは完全に壊れていた。
「ヒュウガの超重力砲だから、威力があるわね」
『そういう問題ではないと思うけど……』
私は苦笑する。
敵ISが消滅したことで、ようやく教員たちがアリーナへと入ってくる。
そして――
クラス対抗戦は、謎のISによる襲撃事件を受けて、中止となった。
その日の夜。
寮の部屋。
私はベッドに寝転がりながら、雑誌を眺めていた。
「また、ヒュウガにお世話になるわね」
『ヴァールのこともだけど』
イオナが答える。
『一度、本艦へ戻る必要がある』
「……そうなるよね」
私はため息を吐く。
ヴァールの修復。
白式改の調整。
そして――
今日、襲撃してきた謎のIS。
考えなければならないことは、いくらでもある。
だけど。
今はもう――
「……考えるの、疲れた」
『同感』
「寝よう」
『うん』
今日一日の疲労が、一気に押し寄せてくる。
私は雑誌を閉じた。
そして、私たちは早々に眠りについた。
――この時の私は、まだ知らなかった。
今日の襲撃が。
これから始まる、大きな戦いの――
最初の一歩だったことを。