クラス対抗戦は中止になった。
しかし――
授業まで中止になるわけではない。
襲撃事件から数日。
IS学園では何事もなかったかのように通常授業が行われていた。
そして今日は――
私と簪ちゃんは、企業の事情という名目で学園の外へ出ていた。
「そろそろ来るはずなんだけど……」
駅を出てすぐの場所で、私たちは迎えを待っている。
「……あれじゃない?」
簪ちゃんが指差す。
その先から、一台の車がこちらへ向かってくる。
白と赤。
見るからに高級そうなランボルギーニだった。
「……すごい車」
「蒼き鋼って、こういう車も持ってるんだ……」
私たちは車を見ながら、こちらへ近づいてくる車を眺める。
だが――
周囲の人々の視線は、車そのものよりも。
**運転している人物**へ向けられていた。
「……よく免許取れたね」
「……」
私たちは顔を見合わせる。
運転席にいたのは――
「イ400……」
「イ402……」
霧の艦艇。
しかも、どう見ても少女二人。
「全免許取っている」
400が淡々と答える。
「同じく」
402も続ける。
そして二人は、ほぼ同時に免許証を取り出した。
「…………」
「…………」
私たちは免許証を覗き込む。
種類の欄。
そこには――
びっしりと項目が埋まっていた。
「……全部?」
「全て」
「……全部」
「すごい」
私は思わず呟いた。
この二人なら、大型車どころか戦車やら何やらまで普通に運転できそうなのが怖い。
「皆さまがお待ちなので、向かいましょう」
400が促す。
「そうね」
私は白いランボルギーニへ乗り込む。
簪ちゃんは402が運転する赤いランボルギーニへ。
そして――
私たちはホテルへ向かった。
しばらく国道を走り、とあるホテルへ到着する。
地下駐車場へ車を止めると、私たちは400と402に続いてエレベーターへ乗り込んだ。
向かった先は――最上階。
扉が開く。
「お久しぶりです。皆さん」
そこには――
すでに何人もの女性が集まっていた。
そして、その中心にいるのは。
「ヤマト……」
天羽さん。
いや――
超戦艦ヤマト。
そして、彼女の周囲には。
「挨拶はいい。さっさと始めるぞ」
大戦艦コンゴウ。
「コンゴウは、もう少しコミュニケーションを取るべきだと思いますよ」
超戦艦ナガト。
「つうか、このメンバーがここに集まる事態って珍しくない?」
海域強襲制圧艦ズイカク。
「そうね」
超戦艦ムサシ。
霧の大物たちが揃っていた。
……よく考えれば、とんでもない光景だ。
ここにいるメンバーが本気で暴れれば――
この日本が、一瞬で焼け野原になってもおかしくない。
そんな戦力が、ホテルの最上階に集結している。
「では、皆さん揃ったことですし――始めましょう」
ヤマトが微笑む。
私と簪ちゃんも円卓についた。
「もう予想はできているでしょうが……これです」
部屋の中央に映像が投影される。
映し出されたのは――
クラス対抗戦に乱入してきた、あの黒いIS。
「乱入後、一夏と簪によって跡形もなく消滅しました」
ヤマトは淡々と説明する。
「ですが、残された映像を解析した結果――あれは無人機でした」
「無人機……」
私が呟く。
この時代。
ISを一から開発できる人間は、ほとんどいない。
ましてや――
無人ISなど。
誰が作ったのか。
その答えは、ここにいる全員が分かっていた。
名前を口にする必要すらない。
「その程度のおもちゃで、我々に対抗できるとでも思っているのか?」
コンゴウが鼻で笑う。
「私たちにはクライン・フィールドがありますからね」
ナガトも同意する。
確かに、その通りだ。
クライン・フィールド。
霧にとって最大の防御能力。
通常の兵器では、突破することすら困難だ。
「ええ。あの無人機そのものは、そこまで脅威ではないでしょう」
ヤマトはそこで言葉を切った。
「ですが――問題は別にあります」
映像が切り替わる。
「その日に、一夏のクライン・フィールドを突破した生徒がいます」
「……何?」
コンゴウの表情が変わる。
「クライン・フィールドを?」
「ええ」
「たかが人間のISが?」
その場にいた全員が驚く。
私自身も、鈴との戦いを思い出す。
甲龍の一撃。
クライン・フィールドを突破し、私の左腕を破壊した。
「凰鈴音――」
ムサシが口を開く。
「彼女は、要注意人物に認定せざるを得ないな」
「そうね」
ヤマトも頷く。
「クライン・フィールドを突破した方法が偶然なのか、彼女自身が理解しているのか。それによって危険度は大きく変わります」
「……あのウサギ以上に厄介な人物にならないことを祈りましょう」
ナガトが煙管を吹かせながら呟く。
「そうですわね」
ヤマトも苦笑した。
「ところで――」
ナガトが別の話題を切り出す。
「ムサシ。彼女の方はどうなのですか?」
「彼女?」
私は首を傾げる。
ヤマトが聞いているのは――
少し前にムサシへ預けられた人物。
「いい感じに育っていますよ」
ムサシが答えた。
「もうすぐ一か月ですからね」
織斑マドカ。
私の妹――
ということになっている少女。
「U-2501のコアを彼女に与えましたから」
「U-2501……」
「今の彼女に勝てる操縦者は、そう多くないでしょう」
ムサシは自信満々に言う。
「ほう。そこまで言うか」
コンゴウが興味を示す。
「ええ。それに――イギリスにあった『おもちゃ』も彼女に与えましたし」
「……あれはムサシの仕業だったか」
ズイカクが目を丸くする。
「イギリスと言えば、セシリアのところだよね?」
「ええ」
そう。
表には出ていない事件が一つあった。
イギリスの研究施設から――
ISが一機、盗まれている。
「確か……サイレントなんとかだったな?」
「サイレント・ゼフィルスですよ、ズイカク」
「そうじゃ、そうじゃ」
ズイカクが頷く。
「で? そのサイレント・ゼフィルスは、どれくらい強いんだ?」
「彼女のBT適性は非常に高いです」
ムサシが説明する。
「IS学園にある旧式――ブルー・ティアーズなら、余裕で勝てるでしょう」
「そりゃあ、たまげた」
ズイカクも驚きを隠せない。
私は黙って話を聞いていた。
……マドカ。
一体、どこまで強くなっているんだろう。
「話が逸れましたね」
ヤマトが再び話を戻す。
「もう一つ、皆さんに伝えておきたいことがあります」
モニターに新たな資料が映し出される。
「近日、IS学園に転入生が入ります」
表示された写真。
一人は――金髪の少女。
もう一人は――銀髪の少女。
「シャルロット・デュノア」
そして。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
フランスとドイツ。
二人の国籍が表示される。
「ドイツねぇ……」
私は銀髪の少女を見つめる。
ドイツ。
私にとっては――
良い思い出と、悪い思い出。
その両方がある国だった。
「遺伝子強化試験体の子ですね」
ムサシが呟く。
「遺伝子強化試験体?」
私は聞き返す。
「簡単に言えば――生体兵器に近い試験管ベビーですよ、一夏」
「……」
私は画面を見る。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
「ドイツめ……」
思わず、悪意が湧く。
生体兵器。
その言葉は、私にとっても簪ちゃんにとっても――
嫌な響きを持っていた。
「ムサシ」
ヤマトが呼びかける。
「ドイツの調査をお願いします」
「いいでしょう」
「もし――黒なら」
ヤマトの笑顔が消える。
「消して構いません」
「分かりました」
ムサシは静かに頷いた。
「そして、もう一つ」
ヤマトがズイカクを見る。
「ズイカク」
「あたしかい?」
「あなたには、フランスの調査をお願いします」
「……まあ、いいけど」
ズイカクが苦笑する。
「402も同行させますので、心配はいりませんよ」
「……それなら、まあ」
ズイカクは隣を見る。
402はいつもの無表情。
「よろしく」
「了解」
短い返事。
「それでは、各自お願いします」
ヤマトが締めくくる。
円卓を囲む霧の艦艇たち。
その視線の先には――
黒い無人IS。
凰鈴音。
織斑マドカ。
そして、新たにIS学園へやって来る二人の少女。
世界の裏側で、少しずつ何かが動き始めていた。
そして私は――
まだ、その中心に自分がいることを知らなかった。
今日の23時59分にタイトルアンケートを締めきります。
投票していない方、お早めにお願いします。
タイトルアンケートは活動報告の「そろそろ……」でやっています。