たまにはいいかもな……
――バチィッ!!
「――っ!?」
突然。
シュヴァルツェア・レーゲンから、凄まじい電撃が放たれた。
「何よ!?」
私は咄嗟にクライン・フィールドを展開する。
だが――。
強制拘束に回していたクライン・フィールドが、電撃を受けた瞬間に防御モードへと切り替わった。
反動で、私は大きく弾き飛ばされる。
「くっ……!」
空中で姿勢を立て直し、私は再びラウラの方を見る。
「…………なに、これ」
そこにあったのは、もうシュヴァルツェア・レーゲンと呼べるものではなかった。
装甲が赤熱し、溶け出している。
金属がまるで液体のように崩れ、どろどろと形を変えていく。
そして、その中心にいたラウラまでもが――。
「ラウラ!?」
溶けた装甲に飲み込まれていく。
彼女の姿が黒い機体の内部へ沈んでいく。
それを見た瞬間。
アリーナ中に非常警報が鳴り響いた。
『試合中止。全生徒は速やかに避難をしてください』
『繰り返します。試合中止――』
「厄介な物を持ち込んできましたわね」
「天羽さん!?」
振り向く。
観客席にいたはずの天羽さんが、いつの間にか私たちの後ろまで来ていた。
その後ろからは、IS学園の職員たちが続々とアリーナへ入ってくる。
「危険です! すぐに避難を――」
「いえ」
天羽さんは、職員の言葉を遮った。
「大丈夫でしょう」
「……え?」
天羽さんが指差す。
私はそちらを見る。
そして――絶句した。
「……嘘でしょ」
そこに立っていたのは。
黒い装甲に身を包んだ異形。
だが、その姿には見覚えがあった。
かつて千冬姉が使っていたIS。
「……暮桜」
シュヴァルツェア・レーゲンだったものは。
千冬姉の専用機――暮桜へと姿を変えていた。
「VTシステム……」
簪が呟く。
「VTシステム?」
「うん……違法システム」
「…………」
私は呆れて、思わずため息を吐いた。
「……霧に対抗するためでしょうけど」
雪片弐型を構える。
「ここまで馬鹿なことをするとは思わなかったわ」
人間が霧に対抗する。
それ自体は別に構わない。
だけど。
そのために違法なシステムを作り、挙句の果てに人間をISそのものに取り込むなんて。
「面倒事を増やさないでちょうだいよ……」
このまま放置しても、いずれ教員たちが処理するだろう。
ただし――。
その場合。
中にいるラウラごと処理される可能性がある。
「…………」
それは、さすがに寝覚めが悪い。
「天羽さん」
「なに?」
「許可は下りましたか?」
「もう少し待ちなさい」
天羽さんはそう言うと、どこかへ通信を繋いだ。
数秒。
短いやり取りを終える。
そして――。
「……いいわよ」
天羽さんは親指を立てた。
「許可は取ったわ」
「了解」
私は雪片弐型を握り直す。
「では――」
踏み込む。
「終わらせる」
暮桜がこちらへ向かってくる。
その動きは、人間が操っているとは思えないほど機械的だった。
私はクライン・フィールドを展開。
両腕。
両足。
四肢を完全に固定する。
「――っ!」
暮桜が激しくもがく。
しかし、動かない。
クライン・フィールドは、単なる防御壁ではない。
使い方次第では、対象そのものをその場へ縫い付けることもできる。
「悪いけど――」
私は雪片弐型を構えた。
「少し眠ってて」
単一能力――零落白夜。
最大出力。
雪片弐型が、白い光を纏う。
そして。
振り下ろす。
――ザンッ!!
暮桜の装甲が、一刀のもとに切り裂かれた。
「…………!」
次の瞬間。
崩れ落ちる機体の中から、一人の少女が飛び出してくる。
「ラウラ!」
私は咄嗟に手を伸ばした。
倒れ込んできたラウラの身体を、そのまま受け止める。
「…………」
ラウラは意識を失っていた。
だが――。
その顔には。
「……本当に、いい笑顔で気を失っちゃって」
私は小さく笑う。
そして、ようやく緊張が解けた。
「……はぁ」
胸を撫で下ろす。
どうやら、生きている。
それだけで十分だった。
◇
同じ頃。
フランス――サン=マロ。
「デュノア社の見取り図は?」
「ここにある」
ヤマトから調査の許可を得たズイカクは、402からデュノア社の見取り図を受け取った。
人気のない海岸。
ズイカクは釣り竿を片手に持ちながら、もう片方の手で見取り図を広げる。
「ここがメインコンピュータか……」
施設内部の構造を確認し、赤いペンで印をつける。
「で、こっちが社長の自宅」
もう一枚の見取り図を広げる。
「この敷地の構造から考えると――この辺りか?」
「ああ」
402が頷く。
「そこだけ監視カメラが異常に多い。間違いないだろう」
「なるほどな」
ズイカクは社長宅の見取り図にも赤い丸をつける。
「ヤマトからは、正体がばれなければ好きにしていいと言われている」
「それで?」
「決行は夜だな」
ズイカクは402を見る。
「というわけだから、402は本社の方をよろしく」
「何故、私までやらなければならない」
「同時にやった方が警備を分散させられるだろ?」
「…………」
「どっかの映画で言ってた」
「映画を理由にするな」
「まあまあ」
ズイカクは笑う。
「同時に動いた方が面白いだろ?」
「……分かった」
402は渋々了承する。
「ただし、無理だと思ったら引き上げるからな」
「それでいいよ」
ズイカクは見取り図を402へ渡す。
「その時は、その時で連絡してくれ」
「了解した」
402は見取り図を持って、その場を離れていく。
ズイカクはそれを見送ると――。
「……さて」
何事もなかったように釣り竿を握り直した。
「もう少し釣るか」
海岸には、穏やかな波の音だけが響いていた。
だが。
夜になれば――。
フランスのデュノア社を巡り、霧の艦隊が動き出す。