学年別タッグトーナメント。
その第一試合は、ラウラ・ボーデヴィッヒのIS――シュヴァルツェア・レーゲンの暴走によって、途中で中止となった。
だが。
織斑一夏と更識簪による迅速な対応。
そして、天羽琴乃率いる蒼き鋼の介入によって、最悪の事態は回避された。
死者――ゼロ。
重傷者――ゼロ。
軽症者――一名。
大規模な騒動になったにもかかわらず、被害はそれだけで済んだ。
現在。
私は簪と共に、ラウンチの一室で今回の事件について確認していた。
「天羽さんから貰った資料によると、アレ……『ヴァルキリー・トレース・システム』っていうらしい」
「それって……条約……」
「うん」
私は資料をめくる。
「条約違反だよ」
「…………」
簪の表情が険しくなる。
「研究所は?」
「空間消滅したらしい」
「空間消滅……」
まあ。
その研究所がどうして消えたのか。
私たちは知っている。
天羽さんたちが送り込んだ霧の工作員によるものだ。
霧のメンタルモデルは、単独で軍隊を相手にできるほどの戦力を持っている。
そんな存在が本気で動けば――。
研究所一つなど、消すのに時間はかからない。
「…………」
「…………」
しばらく、私たちは資料を眺める。
そして。
「そういえば」
簪が顔を上げた。
「もうすぐ臨海学校があるよね」
「あー……」
言われて思い出した。
「そうだね」
IS学園の恒例行事。
臨海学校。
ただし、今の世界情勢では普通の学校行事とはいかない。
「その日の航路表、送ってもらわなきゃね」
「うん」
簪も頷く。
「もし、霧と鉢合わせしたら……」
「殲滅されちゃうからね」
「…………」
「…………」
二人揃って。
「はぁ……」
ため息を吐く。
霧の艦隊は、不思議なことに陸地への攻撃をほとんど行わない。
しかし。
一度海へ出てしまえば話は別だ。
霧の艦艇を発見した瞬間。
問答無用で侵食弾頭が飛んでくる。
こちらが学生だろうと。
民間船だろうと。
関係ない。
だからこそ――。
臨海学校の日程と航路は、事前に霧へ伝えておく必要がある。
「……本当に、面倒な世界になったよね」
「同感」
簪と私は、再びため息を吐いた。
◇
フランス。
デュノア邸。
その敷地を囲む森林の中に――。
明らかに、この場所に存在してはいけない物体があった。
――段ボール。
しかも、ご丁寧に人一人が入れるサイズ。
その中から、小さな声が響く。
「こちらスネーク。デュノア邸に侵入した」
中にいるのは――。
ズイカクだった。
「指示を頼む」
『…………』
「…………」
『…………』
「……ノリが悪いな」
ズイカクは少し考える。
「お母――」
『誰が、お母さんだって?』
「いいえ。ごめんなさい」
即答だった。
ここ数日。
ズイカクと402は、フランスでの生活にかなり馴染んでいた。
402は家事全般。
ズイカクは情報収集。
問題は――。
402があまりにも家事を完璧にこなすことだった。
掃除。
洗濯。
料理。
生活用品の管理。
もはや完全に「お母さん」である。
だからズイカクは、ついついそう呼んでしまう。
そして、そのたびに402は嫌そうな声を出す。
しかし。
家事をやめることはない。
むしろ完璧にこなしている。
「とりあえず、今から潜入する」
『分かった』
402の声が返ってくる。
『カウント三』
「了解」
『三』
『二』
『一』
『GO』
――パチンッ。
デュノア邸の全ての照明が、一斉に消えた。
「停電!?」
「何が起きた!」
「警備を確認しろ!」
屋敷の中が一気に騒がしくなる。
それを見たズイカクは――。
「よし」
段ボールから飛び出した。
警備が混乱している隙に、一気に屋敷へ向かって走る。
「ここだな」
壁の前で足を止める。
そして。
クライン・フィールドを展開。
――シュン。
壁の一部が消失した。
「失礼するぜ」
そのまま内部へ侵入する。
『そのまま奥へ。五十メートル進んだところに目的地があるわ』
「了解」
慌ただしく動き回る警備員たちを横目に、ズイカクは廊下を進む。
そして――。
「ここか」
床へ手をつく。
クライン・フィールド。
床の一部が消える。
ズイカクは開いた穴へ飛び込み、その下に存在していた隠し部屋へ侵入した。
「…………誰かね?」
弱々しい声。
「そこにいるのは?」
ズイカクは声の方へ向く。
そこにいたのは――。
「お迎えに来たぜ」
デュノア社社長、デュノア氏だった。
「迎えだと?」
老人は困惑する。
「一体、誰が……」
「時間があまりないんだ」
ズイカクは近づく。
「とっととずらかるぞ」
「なっ!?」
ズイカクはデュノア氏を軽々と担ぎ上げる。
「なんだね君は!?」
子供ほどの体格しかない少女。
その少女が、大人一人をまるで荷物のように持ち上げた。
当然、デュノア氏は驚く。
だが。
「説明は後だ」
ズイカクはそれを無視する。
入ってきた穴へ向かって跳躍。
そのまま一気に飛び上がる。
「――誰だ!」
しかし。
「しまった」
タイミングが悪かった。
穴から出てきたところを、警備員の一人に発見される。
「侵入者だ!」
警備員が銃を構える。
ズイカクは舌打ちした。
「面倒だな」
一瞬。
距離が消える。
ズイカクは自前の格闘技で警備員を叩き伏せた。
だが――。
倒れる寸前。
警備員が引き金を引いた。
――パンッ!
「銃声!?」
「こっちだ!」
「侵入者を探せ!」
次々と警備員が集まってくる。
「……仕方ない」
ズイカクは近くの部屋へ飛び込んだ。
そして壁へ手をつく。
クライン・フィールド。
壁の一部が消える。
その向こうへ身を滑り込ませる。
「その力……」
背負われているデュノア氏が、驚愕の表情を浮かべる。
「まさか……君は……」
「今は質問禁止だ」
ズイカクはそう言って、さらに走る。
やがて屋敷の外へ脱出。
待機していた402と合流する。
「遅かったな」
「見つかったからな」
「予定外」
「そう言うなって」
二人はそのままデュノア邸から離脱した。
――作戦成功。
◇
翌朝。
「おうおう」
ズイカクは新聞を広げながら朝食を食べていた。
「載ってる載ってる」
新聞の一面には――。
――『デュノア邸、何者かに侵入される』
そんな記事が掲載されている。
「強盗扱いか」
「実際、物は何も盗んでいない」
402が淡々と答える。
「まあ、いいだろ」
ズイカクは笑う。
デュノア氏は、すでに二人が暮らしていた家へ連れて帰ってある。
そして後日。
蒼き鋼が所有する、世界のどの地図にも存在しない島へ送られた。
そこならば、少なくとも――。
デュノア氏を監禁していた者たちから、手を出されることはない。
「しかし……」
ズイカクは新聞を畳む。
「人間って、本当に色々いるんだな」
「…………」
402は答えない。
ズイカクは、海の向こうを見る。
サン=マロで見たスラム。
デュノア社で見た人間たち。
そして今回救い出した、一人の男。
霧の艦隊にとって。
人間とは、ただの観察対象だった。
けれど。
ズイカクにとっては――。
少しずつ。
その認識が変わり始めていた。
おまけ
やめて! エクスカリバーの砲撃で、『白式』ごと打たれたら、織斑が死んでしまう!
お願い、死なないで織斑! あんたが今ここで倒れたら、セシリアとの約束はどうなっちゃうの? シールドエネルギーはまだ残ってる。ここを耐えれば、エクスカリバーに勝てるんだから!
次回「織斑死す」。Go to the Infinite Stratos!
11巻を読んで思いました。
因みに、これは次回予告ではありません。