IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第20話

 学年別タッグトーナメント。

 

 その第一試合は、ラウラ・ボーデヴィッヒのIS――シュヴァルツェア・レーゲンの暴走によって、途中で中止となった。

 

 だが。

 

 織斑一夏と更識簪による迅速な対応。

 

 そして、天羽琴乃率いる蒼き鋼の介入によって、最悪の事態は回避された。

 

 死者――ゼロ。

 

 重傷者――ゼロ。

 

 軽症者――一名。

 

 大規模な騒動になったにもかかわらず、被害はそれだけで済んだ。

 

 現在。

 

 私は簪と共に、ラウンチの一室で今回の事件について確認していた。

 

「天羽さんから貰った資料によると、アレ……『ヴァルキリー・トレース・システム』っていうらしい」

 

「それって……条約……」

 

「うん」

 

 私は資料をめくる。

 

「条約違反だよ」

 

「…………」

 

 簪の表情が険しくなる。

 

「研究所は?」

 

「空間消滅したらしい」

 

「空間消滅……」

 

 まあ。

 

 その研究所がどうして消えたのか。

 

 私たちは知っている。

 

 天羽さんたちが送り込んだ霧の工作員によるものだ。

 

 霧のメンタルモデルは、単独で軍隊を相手にできるほどの戦力を持っている。

 

 そんな存在が本気で動けば――。

 

 研究所一つなど、消すのに時間はかからない。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらく、私たちは資料を眺める。

 

 そして。

 

「そういえば」

 

 簪が顔を上げた。

 

「もうすぐ臨海学校があるよね」

 

「あー……」

 

 言われて思い出した。

 

「そうだね」

 

 IS学園の恒例行事。

 

 臨海学校。

 

 ただし、今の世界情勢では普通の学校行事とはいかない。

 

「その日の航路表、送ってもらわなきゃね」

 

「うん」

 

 簪も頷く。

 

「もし、霧と鉢合わせしたら……」

 

「殲滅されちゃうからね」

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人揃って。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐く。

 

 霧の艦隊は、不思議なことに陸地への攻撃をほとんど行わない。

 

 しかし。

 

 一度海へ出てしまえば話は別だ。

 

 霧の艦艇を発見した瞬間。

 

 問答無用で侵食弾頭が飛んでくる。

 

 こちらが学生だろうと。

 

 民間船だろうと。

 

 関係ない。

 

 だからこそ――。

 

 臨海学校の日程と航路は、事前に霧へ伝えておく必要がある。

 

「……本当に、面倒な世界になったよね」

 

「同感」

 

 簪と私は、再びため息を吐いた。

 

              ◇

 

 フランス。

 

 デュノア邸。

 

 その敷地を囲む森林の中に――。

 

 明らかに、この場所に存在してはいけない物体があった。

 

 ――段ボール。

 

 しかも、ご丁寧に人一人が入れるサイズ。

 

 その中から、小さな声が響く。

 

「こちらスネーク。デュノア邸に侵入した」

 

 中にいるのは――。

 

 ズイカクだった。

 

「指示を頼む」

 

『…………』

 

「…………」

 

『…………』

 

「……ノリが悪いな」

 

 ズイカクは少し考える。

 

「お母――」

 

『誰が、お母さんだって?』

 

「いいえ。ごめんなさい」

 

 即答だった。

 

 ここ数日。

 

 ズイカクと402は、フランスでの生活にかなり馴染んでいた。

 

 402は家事全般。

 

 ズイカクは情報収集。

 

 問題は――。

 

 402があまりにも家事を完璧にこなすことだった。

 

 掃除。

 

 洗濯。

 

 料理。

 

 生活用品の管理。

 

 もはや完全に「お母さん」である。

 

 だからズイカクは、ついついそう呼んでしまう。

 

 そして、そのたびに402は嫌そうな声を出す。

 

 しかし。

 

 家事をやめることはない。

 

 むしろ完璧にこなしている。

 

「とりあえず、今から潜入する」

 

『分かった』

 

 402の声が返ってくる。

 

『カウント三』

 

「了解」

 

『三』

 

『二』

 

『一』

 

『GO』

 

 ――パチンッ。

 

 デュノア邸の全ての照明が、一斉に消えた。

 

「停電!?」

 

「何が起きた!」

 

「警備を確認しろ!」

 

 屋敷の中が一気に騒がしくなる。

 

 それを見たズイカクは――。

 

「よし」

 

 段ボールから飛び出した。

 

 警備が混乱している隙に、一気に屋敷へ向かって走る。

 

「ここだな」

 

 壁の前で足を止める。

 

 そして。

 

 クライン・フィールドを展開。

 

 ――シュン。

 

 壁の一部が消失した。

 

「失礼するぜ」

 

 そのまま内部へ侵入する。

 

『そのまま奥へ。五十メートル進んだところに目的地があるわ』

 

「了解」

 

 慌ただしく動き回る警備員たちを横目に、ズイカクは廊下を進む。

 

 そして――。

 

「ここか」

 

 床へ手をつく。

 

 クライン・フィールド。

 

 床の一部が消える。

 

 ズイカクは開いた穴へ飛び込み、その下に存在していた隠し部屋へ侵入した。

 

「…………誰かね?」

 

 弱々しい声。

 

「そこにいるのは?」

 

 ズイカクは声の方へ向く。

 

 そこにいたのは――。

 

「お迎えに来たぜ」

 

 デュノア社社長、デュノア氏だった。

 

「迎えだと?」

 

 老人は困惑する。

 

「一体、誰が……」

 

「時間があまりないんだ」

 

 ズイカクは近づく。

 

「とっととずらかるぞ」

 

「なっ!?」

 

 ズイカクはデュノア氏を軽々と担ぎ上げる。

 

「なんだね君は!?」

 

 子供ほどの体格しかない少女。

 

 その少女が、大人一人をまるで荷物のように持ち上げた。

 

 当然、デュノア氏は驚く。

 

 だが。

 

「説明は後だ」

 

 ズイカクはそれを無視する。

 

 入ってきた穴へ向かって跳躍。

 

 そのまま一気に飛び上がる。

 

「――誰だ!」

 

 しかし。

 

「しまった」

 

 タイミングが悪かった。

 

 穴から出てきたところを、警備員の一人に発見される。

 

「侵入者だ!」

 

 警備員が銃を構える。

 

 ズイカクは舌打ちした。

 

「面倒だな」

 

 一瞬。

 

 距離が消える。

 

 ズイカクは自前の格闘技で警備員を叩き伏せた。

 

 だが――。

 

 倒れる寸前。

 

 警備員が引き金を引いた。

 

 ――パンッ!

 

「銃声!?」

 

「こっちだ!」

 

「侵入者を探せ!」

 

 次々と警備員が集まってくる。

 

「……仕方ない」

 

 ズイカクは近くの部屋へ飛び込んだ。

 

 そして壁へ手をつく。

 

 クライン・フィールド。

 

 壁の一部が消える。

 

 その向こうへ身を滑り込ませる。

 

「その力……」

 

 背負われているデュノア氏が、驚愕の表情を浮かべる。

 

「まさか……君は……」

 

「今は質問禁止だ」

 

 ズイカクはそう言って、さらに走る。

 

 やがて屋敷の外へ脱出。

 

 待機していた402と合流する。

 

「遅かったな」

 

「見つかったからな」

 

「予定外」

 

「そう言うなって」

 

 二人はそのままデュノア邸から離脱した。

 

 ――作戦成功。

 

              ◇

 

 翌朝。

 

「おうおう」

 

 ズイカクは新聞を広げながら朝食を食べていた。

 

「載ってる載ってる」

 

 新聞の一面には――。

 

 ――『デュノア邸、何者かに侵入される』

 

 そんな記事が掲載されている。

 

「強盗扱いか」

 

「実際、物は何も盗んでいない」

 

 402が淡々と答える。

 

「まあ、いいだろ」

 

 ズイカクは笑う。

 

 デュノア氏は、すでに二人が暮らしていた家へ連れて帰ってある。

 

 そして後日。

 

 蒼き鋼が所有する、世界のどの地図にも存在しない島へ送られた。

 

 そこならば、少なくとも――。

 

 デュノア氏を監禁していた者たちから、手を出されることはない。

 

「しかし……」

 

 ズイカクは新聞を畳む。

 

「人間って、本当に色々いるんだな」

 

「…………」

 

 402は答えない。

 

 ズイカクは、海の向こうを見る。

 

 サン=マロで見たスラム。

 

 デュノア社で見た人間たち。

 

 そして今回救い出した、一人の男。

 

 霧の艦隊にとって。

 

 人間とは、ただの観察対象だった。

 

 けれど。

 

 ズイカクにとっては――。

 

 少しずつ。

 

 その認識が変わり始めていた。

 




おまけ

やめて! エクスカリバーの砲撃で、『白式』ごと打たれたら、織斑が死んでしまう!

お願い、死なないで織斑! あんたが今ここで倒れたら、セシリアとの約束はどうなっちゃうの? シールドエネルギーはまだ残ってる。ここを耐えれば、エクスカリバーに勝てるんだから!

次回「織斑死す」。Go to the Infinite Stratos!

11巻を読んで思いました。
因みに、これは次回予告ではありません。
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