そこは奇妙な部屋であった。
部屋の至る所には機械の備品が散りばめられ、ケーブルがさながら樹海の広がっている。
「♪♪」
「! この着信音は……」
突然の携帯電話の着信音。折れたウサ耳がビーンと真っ直ぐに立ち、その反応の大きさを雄弁に物語っていた。何故ならこの電話が鳴るのは、初めてなのだから。
「やあやあやあ! 久しぶりだねぇ! ずっとずーーーっと、待ってたよ!!」
相手は、出る前から分かっている。
「欲しいんだよね? 君だけのオンリーワンが……
◇
「海だぁ~~~っ!!」
臨海学校初日、天候にも恵まれて無事に快晴。陽光を反射する海は穏やかで、心地よさそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。
臨海学校の主な日程は、各国から送られたISと装備を二泊三日で稼働試験すること。
一日目の今日は自由行動と言う訳で、私たちは水着姿で浜辺に立っていた。
「今朝の情報聞いた?」
「あぁ。アレのこと?」
一夏と簪は準備運動をしながら今朝報道されたニュースのことについて話し合う。
フランスのIS企業であるデュノア社が倒産したことだ。
結局、デュノア社は第三世代の開発は成功出来ず、イグニッションプランから外され、流れるように落ちていった。
「と、言っても天羽さんが手を打っているだろうし」
一夏の言う通り天羽はもう既に手を打っていた。
倒産したデュノア社を丸ごと買い取ったのだ。
実質、デュノア社は蒼き鋼の傘下に入ることでIS開発を続けることが出来ることになった。
「世界がまた一段と騒がしくなった」
「う~ん。そう言われると何も言えないね」
一夏は苦笑いする。
「例の案件はどうなっているの?」
「それは天羽さんの回答待ち」
例の案件……シャルロットの所有権のことだった。
フランスからしてみれば貴重な候補生がいなくなるのは避けたいらしいが、デュノア社が蒼き鋼の物になってしまった為、フランス側は余り強く言えないが、上手く引き延ばしている。
天羽もそれに関しては少し手を焼いていた。
「よっし!」
準備運動を終え、一夏と簪は海の方へと歩き出すのだった。
◇
「…………」
篠ノ之箒は一人海岸に座り込んでいた。
(トーナメント戦……私は二人の連携に易々と敗れ、その後も動けずにいた。いや……あの時だけじゃない。学園に謎のISが出現した時だって……一夏と共に戦いたかった。……なのに私は、何も……)
箒の手には携帯が握られており、画面にはある人物の名前が映し出されていた。
(せめて私にも専用機があれば……)
篠ノ之束。
箒の姉の連絡先があったのだ。
(だからといって……)
箒は少し悩んでいた。
これが本当に正しい選択だったのか? と。
「私も滑稽な真似をしたものだな……」
箒はその場から立ち上がり、はしゃぐクラスメイトを見つめるのだった。
◇
時刻は夜。
全員、風呂を済ませて食事を取っていたが、その中で一人いない人物がいた。
「こんな所で何をしている?」
「! ちふ……いや、織斑先生……」
箒は一人別行動を取っていた。
そして、そこに千冬が現れる。
「何か心配事でもあるのか?」
「いえ……その……」
「“束”の事か?」
千冬は箒の心配事を的中させる。
束は昔から誰とも違っていた。理解の及ばない人であった。
束がISを発表したことにより、箒の家族共にISの軍用利用を企む他国に利用されないよう国の保護の元に監視されていた。住み家を何度も移すことを強いられ、今や家族は引き離され、挙句の果て本人は失踪した。
一夏と離れる事になったのも、全て束のせいであり、ずっと憎いと思ってきた……しかし、今の箒には―――。
「明日は七月七日だ……姿を見せるかもしれんぞ……あいつ」
「ええ……」
明日は箒の誕生日である七月七日であった。
千冬は妹の誕生日であるがゆえに姿を表すと予想している。
箒もその意見には同意だった。
◇
臨海学校二日目。今日から本格的な作業に入ることになり、千冬は各自に説明を入れる。
「それでは予定通り実装試験を行う。候補生は自国の装備を。それ以外の者は……」
「おっ……織斑先生!!」
しかし、その中をぶち壊すように上空から何かが降って来た。
「上空から何かが接近してきます!!」
真耶は上空から何かが降ってくることを感知していた。
そして、一夏と簪は視力を強化し、空を見つめる。
「あれは……ミサイルではない?」
「どっちかと言うと……」
生徒たちが目視できる距離に近づくと。
「「ニンジンだね……」」
そう。降って来たのは特大なニンジン型の何かだった。
「……やあやあ、お待たせしたねぇ」
そして、中からは―――。
「はろーはろー! みんなのアイドル、篠ノ之束。ここに参上ーーーう!!」
世界を一変させた天災……篠ノ之束があらわれたのだ。
次回は一週間後