「篠ノ之束!?」
ニンジン型のロケットから出て来たのはあの篠ノ之束だった。
「ちーちゃーーーん!!!」
束は千冬を見居つけると飛びかかるが―――
「うるさい。やめろ」
千冬はそんな束を片手で、しかも思いっきり指が食い込むぐらいに力を込めて、顔面からアイアンクローを決めた。
「相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」
「今は授業中だ……何しに来た」
そしてその拘束から束は抜け出し、箒の方に寄る。
「そんなの決まってるじゃない! かわゆい妹に会いに来たんだよっ」
「箒ちゃん暫く見ない内におっきくなったねえ! 特にこのおっぱいが……」
「そういうのはやめてください」
涙目になりながら束は一夏の元に寄ってくる。
「いっちゃん! 箒ちゃんが冷たいよー! ひどいー!」
「当たり前ですよ……」
「いっちゃんも!?」
ガーン! と効果音と共に拒否られ束はorzなる。
一同はそんな中をぽかーんとして眺めていた。
「あの人って本当に篠ノ之博士なの……?」
「随分変わった人なんだね……」
「おい。自己紹介くらいしろ。……生徒が困るだろうが」
「え~めんどくさいなあ」
「私が天才の束さんだよ♪ ハロー! おわり♪」
「それだけ!?」
そう言って、束はくるりんと回ってみせる。ぽかーんとしていた一同も、やっと目の前の人物がISの開発者である篠ノ之束だと気付いたのだ。
「あの……それで頼んでいたものは……」
ややためらいながちに箒がそう尋ねる。
「ああ。そうだったね! もちろん準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」
びしっと直上を指差す束。その言葉に従って、金属の塊が落下して来る。
銀色をしたそれは、次の瞬間消失し、中身が姿を現す。
そこにあったのは―――
「束さんの最新作。全スペックが現行ISを上回る最高性能機……これぞ、箒ちゃんの専用機。『紅椿』だよ!!」
真紅の装甲に身を包んだISがあった。
「紅……椿……」
「それじゃあ早速フィッティングを始めようか!」
◇
「一夏……」
「うん。流石としか言えない……」
一夏と簪は篠ノ之束のことについて話し合っていた。
現在、飛行機や船などは一切運行していない。何故なら霧の艦隊がそれらの運行を妨害しているからだ。
しかし、そんな中を篠ノ之束はいとも簡単に飛んで来たのだ。霧の航路をかいくぐって来れる人間は霧に所属する者しかいなかったと思われていたが、篠ノ之束はそれをやってしまった。
「それにあの機体……」
「やっぱり? こっちも調べたけど、その通りなのね」
一夏と簪はイオナとタカオから送られて来た『紅椿』に関するデータを見ていた。
そこには、衝撃な事実が書かれていたのだ。
機体名 紅椿
IS世代 第四世代
「現行ISを越えるIS……」
現在、第三世代が主流になって来た時に篠ノ之束は第四世代と言う化け物を出してきたのだ。
もちろん、霧が負ける確率はほぼないが、この瞬間から篠ノ之束を相手する場合、一段と警戒せざるを得なくなった。
「よしっ。あとは紅椿が自動で処理してくれるよん。その間にいっちゃーん! 白式見せて、束さんは興味津々なのだよ!」
「…………」
近づいてくる束を一夏は―――
「お断りします」
「ひょ?」
束も一夏が断るとは思っても無かったらしい。
「聞き違いかな? ねえ、いっちゃん?」
「もう一度言います。お断りします」
確かに一夏は束の要求を断る。
それは、その場にいる全員が聞いた。
「……どうしてかな? もしかして、見せられない物があるのかな?」
「さあ、どうでしょうね。ですが、束さん。私はあなたにこの子を見せたくない。いえ……触れさせたくないのですよ」
「……へえー、束さん。もっと興味を持ちゃったな」
その直後、一夏の背から寒気を感じとる。
一夏は無意識にクラインフィールドを展開する。そして、その行動は正しかった。
束は数メートルの距離を一瞬で詰め、一夏の首元までに手を伸ばしてきたのだ。
「む! これが、クラインフィールドか……」
咄嗟に展開したクラインフィールドに束は阻まれる。
バチバチ鳴るクラインフィールドから束は手を離さない。普通の人間であれば、これは強烈な痛みが襲っているはずなのに束は平然としていたのだ。
「あの……」
「おっ! 完了したみたいだね。試しに飛んでみてよ」
「はい」
丁度、『紅椿』のフィッティングが終了し、束はクラインフィールドから手を離す。
束の興味が箒に移ったことで、一夏はクラインフィールドを解除する。
(やっぱりと思ったけど、束さん……人間を止めている)
一夏は『白式改』の強制波動装甲を見る。
ただ掴まれただけなのに、熱量が異常にまで高くなっていたのだ。
白式改の装甲は霧の艦隊で使われている強制波動装甲と呼ばれる物で出来ている。
強制波動装甲は外部からのエネルギーを熱量に変換して一定量まで蓄えることができるが、一定量を超えると通常の鉄装甲と変わらない強度となり、崩壊する。蓄えたエネルギーは時間を掛けて放出または吸収することができ、放出しきればまた元の強度を取り戻す。
クラインフィールドは強制波動装甲から発生する霧の艦隊鉄壁のバリヤーとも言える存在。原理はクラインの壺理論を応用しているらしい。実際の効果は外部からの運動・熱エネルギーの指向性を任意に変換し、攻撃を無力化する事ができる。ただし膨大なエネルギーを伴うものは逸しきれず、下記の装甲で受け止める二段構えになっている。
つまり、先程の行動だけで、クラインフィールドに掛かった負荷が強制波動装甲にだいぶ届いていたのだ。
「織斑先生! 大変です!!」
いきなりの真耶の声に、千冬は向き直る。
「どうした?」
一夏は真耶と千冬の会話を見つめる。
何やら大変なことが起こったらしい。
「…………」
「全員注目! 現時刻より教員は特殊任務活動に移る! 本日のテスト稼働は中止とする!! 各班ISを片付けて旅館に戻り自室で待機! 許可なく室外に出た者は身柄を拘束する!!」
「はっ、はい…………!!」
不足の事態に女子一同は騒がしくなる。
「専用機持ちは全員集合しろ! 篠ノ之お前もだ!」
「はい……!」
妙に気合いの入った返事したのは、箒だった。
「…………」
一夏は何故だがそれが不安要素にしか思えなかった。