IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第24話

「――本作戦は、織斑、篠ノ之の両名による福音の追跡及び撃墜を目的とする」

 

千冬の声が、風花の間に響く。

 

「そして天羽、更識の両名は、霧の艦隊の足止めを担当する」

 

空中ディスプレイには、それぞれの作戦区域が表示されていた。

 

「作戦開始は三十分後。それまでに各自、ISの最終調整を行え」

 

「了解!」

 

全員が一斉に返事をする。

 

作戦は決まった。

 

一夏は白式改を確認しながら、隣にいる琴乃を見る。

 

琴乃はすでに本艦へ通信を繋いでいた。

 

今回の作戦では、通常の蒼き鋼の装備だけでは足りない。

 

だからこそ――

 

「束」

 

千冬が声を掛ける。

 

「紅椿の調整は任せたぞ」

 

「ん~、任された~♪」

 

束は楽しそうに返事をすると、箒を連れて部屋を出ていく。

 

その背中を見送りながら、一夏は琴乃を見る。

 

通信を続けている琴乃の表情は、先ほどまでとは明らかに違っていた。

 

何度も確認を取り、慎重に言葉を選んでいる。

 

それだけ――

 

今回申請しているものが重要なのだろう。

 

やがて。

 

「……了解です」

 

琴乃がようやく頷いた。

 

そして、

 

「簪さん!」

 

「はい」

 

「準備に入ります」

 

「分かりました」

 

どうやら許可が下りたらしい。

 

琴乃は簪へ指示を出す。

 

「先に海岸へ向かってください」

 

「了解」

 

簪が立ち上がる。

 

それを見送った琴乃が、今度は一夏のところへやって来た。

 

「一夏さん」

 

「はい」

 

「念のため――」

 

琴乃は少しだけ声を落とした。

 

「『白式改』の解除コードも申請しておきました」

 

「…………」

 

一夏の表情が僅かに強張る。

 

「分かりました」

 

琴乃はそれ以上何も言わず、その場を離れた。

 

一夏は待機状態の白式改へ手を伸ばす。

 

冷たい装甲。

 

自分の力。

 

そして――

 

まだ使いたくないもの。

 

「大丈夫……」

 

一夏は小さく呟いた。

 

「その力だけは、使わないから……」

 

 

三十分後。

 

海岸。

 

一夏と箒は、すでにISを展開していた。

 

白式改。

 

そして――

 

紅椿。

 

真紅の装甲が、太陽の光を反射している。

 

「じゃあ箒……」

 

一夏は紅椿を見る。

 

「よろしく頼むね」

 

「ああ!」

 

箒の返事は力強かった。

 

ただ――

 

一夏には分かる。

 

箒は少し浮かれている。

 

無理もない。

 

ずっと欲しかった専用機。

 

それも、世界で唯一の第四世代IS。

 

その操縦者に選ばれたのだ。

 

嬉しくないはずがない。

 

『織斑、篠ノ之。聞こえるか?』

 

「はい」

 

「よく聞こえます!」

 

通信機から千冬の声が届く。

 

『今回の作戦は一撃必中だ』

 

二人の表情が引き締まる。

 

『短時間での決着を心掛けろ』

 

画面に目標が表示される。

 

『討つべきは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)! 以降、福音と呼称する』

 

「了解!!」

 

二人が同時に答える。

 

千冬はその返答を確認すると、真耶へ向き直った。

 

「――天羽に繋いでくれ」

 

「はい……!」

 

通信回線が切り替わる。

 

『そちらの状況はどうだ?』

 

琴乃の声が返ってくる。

 

「機材が、もうじき到着します」

 

『そうか。急げ』

 

「了解です」

 

再び通信が切り替わる。

 

『織斑、篠ノ之』

 

「はい」

 

『時間まで待機しろ』

 

「了解」

 

通信が終了する。

 

一夏は空を見上げた。

 

青い空。

 

穏やかな海。

 

しかし――

 

その先では、五隻の霧が進んでいる。

 

そして、さらに遠くから福音が迫っている。

 

「……始まるね」

 

「うむ」

 

箒が答えた。

 

 

同じ頃。

 

海岸では琴乃と簪が空を見上げていた。

 

「……来ます」

 

簪のISが警告音を鳴らす。

 

「ええ」

 

遠くの空。

 

小さな何かがこちらへ接近してくる。

 

徐々に大きくなる。

 

そして――

 

「来ました」

 

琴乃が手を伸ばす。

 

急降下してくる三つの巨大な装備。

 

今回、琴乃が本艦へ申請したもの。

 

宇宙空間に待機させていた――

 

旗艦装備だった。

 

「回収します」

 

二人はそれぞれのISを操作し、落下してくる装備を受け止める。

 

巨大な装備を確保すると、すぐにインストール準備へ入った。

 

「では、私は電脳ダイブに入ります」

 

「分かりました」

 

本来なら、一人のISへ三つもの旗艦装備を短時間で同時インストールするなど不可能だ。

 

しかし。

 

琴乃は一人ではない。

 

蒼き鋼の艦隊全体。

 

その膨大な演算能力を利用する。

 

「接続開始」

 

琴乃の意識がネットワークへ接続される。

 

瞬間。

 

三つの装備が一斉にインストールされていく。

 

通常なら長時間を要する処理。

 

それを――

 

数分。

 

「インストール速度、異常値……」

 

簪が思わず呟く。

 

そして。

 

「インストール完了」

 

三つの装備が認識された。

 

「《天照》《月詠》《須佐之男命》――全てのインストールを確認」

 

琴乃が目を開く。

 

「ありがとう、簪さん」

 

立ち上がった琴乃は、右手を前へ伸ばした。

 

「おいで――ヤマト」

 

その瞬間。

 

光が琴乃を包み込んだ。

 

装甲が展開され、全身を覆っていく。

 

巨大な砲塔。

 

艦橋。

 

そして――

 

戦艦大和を彷彿とさせる、圧倒的な艤装。

 

46cm三連装砲。

 

15.5cm三連装副砲。

 

超大型の戦艦をそのままISへ落とし込んだような姿だった。

 

だが。

 

「全ての装備を解除」

 

今回、それらは必要ない。

 

砲塔や副砲などの通常武装が次々と収納されていく。

 

残されたのは、ヤマトの本体。

 

そして――

 

「本命を」

 

琴乃が手を掲げる。

 

「《天照》《月詠》《須佐之男命》――展開」

 

空間に三つの装備が展開された。

 

一つは巨大なエネルギータンク。

 

一つは、大小四つの巨大なレンズ。

 

そして最後に――

 

巨大な主砲。

 

「超重力砲との連動開始」

 

琴乃が目を細める。

 

「エンゲージ」

 

大型主砲――《須佐之男命》の砲口がゆっくりと開いた。

 

これは、特定の艦だけに搭載される兵器ではない。

 

あらゆるISで運用できるように設計された――

 

超重力砲。

 

「ミカサ戦術システム起動」

 

琴乃の視界に無数の情報が展開される。

 

「全システム、連結を確認」

 

《須佐之男命》の超重力砲は、通常兵器とは根本的に異なる。

 

重力子を利用する兵器。

 

そのため、通常の砲撃のような「射程」という概念が存在しない。

 

エネルギーを供給し続ける限り、その威力は維持される。

 

理論上――

 

距離は障害にならない。

 

ただし。

 

IS単体のシールドエネルギーだけでは、維持できる時間に限界がある。

 

そこで必要になるのが――

 

「《天照》」

 

琴乃の背後に浮かぶ巨大なタンク。

 

そこには、IS約五十機分に相当するシールドエネルギーが蓄えられている。

 

そして。

 

「《月詠》」

 

四つの巨大レンズが展開する。

 

それは単なる望遠装置ではない。

 

遠距離に存在する標的を捕捉し、正確な射撃を可能にするための観測装置。

 

地平線の向こう。

 

遥か彼方。

 

普通のISでは視認すら不可能な距離。

 

しかし――

 

《月詠》には関係ない。

 

「目標――」

 

琴乃の視界に一隻の霧が映し出される。

 

「大戦艦ヒエイ」

 

「…………」

 

簪が息を呑む。

 

「見えてる……」

 

「ええ」

 

琴乃は照準を合わせる。

 

「作戦決行と同時に発射します」

 

「了解」

 

簪がオペレーターとして各システムを確認していく。

 

そして――

 

数分後。

 

『作戦開始!』

 

千冬から全機へ通信が入った。

 

琴乃の目が開く。

 

「――撃ちます」

 

巨大な主砲が唸りを上げる。

 

「《須佐之男命》――」

 

一瞬。

 

世界から音が消えた。

 

次の瞬間。

 

「発射!!」

 

ドォォォォォンッ!!

 

海面が爆発した。

 

超重力砲が海を割る。

 

一直線に。

 

ただひたすらに。

 

遠方へ向かって進んでいく。

 

その速度は、もはや砲弾という言葉では表現できない。

 

海そのものが押し退けられ、巨大な砲撃の軌跡が伸びる。

 

そして――

 

遥か彼方。

 

一隻の霧の大戦艦が、その攻撃を受けた。

 

「――ッ!?」

 

次の瞬間。

 

ヒエイのクライン・フィールドが激しく震える。

 

だが。

 

受け止めきれない。

 

超重力砲の圧倒的なエネルギーが防壁を貫き――

 

艦体へ到達する。

 

「…………」

 

琴乃は静かに見つめる。

 

そして。

 

大戦艦ヒエイの姿が――

 

光の中へ消えた。

 

「…………撃沈を確認」

 

簪が報告する。

 

琴乃は一度だけ目を閉じる。

 

「これで一隻」

 

だが。

 

まだ四隻残っている。

 

そして――

 

別の空では。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を追う二機のISが、すでに飛び立っていた。

 

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