IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第25話

「――それでは、作戦を開始する」

 

千冬の言葉が響いた。

 

その瞬間。

 

すべての作戦が、一斉に動き始めた。

 

「行くよ、箒!」

 

「任せろ!」

 

私は紅椿の腕を掴む。

 

次の瞬間――

 

「――行けぇぇぇっ!」

 

紅椿が爆発的な加速を見せた。

 

一瞬で景色が後方へ流れていく。

 

音速。

 

それどころではない。

 

紅椿は、まるで最初からこの速度で飛ぶことを想定していたかのように、猛烈な勢いで空を駆け抜けていく。

 

『暫時衛星リンク確立……情報照合完了!』

 

紅椿から束の声が響く。

 

『目標の現在位置を確認!』

 

そして――

 

『一夏! 一気に行くぞ!!』

 

「うん!」

 

さらに速度が上がる。

 

数分もしないうちに――

 

「……見えた!」

 

遥か前方。

 

青空を切り裂くように飛行する巨大なIS。

 

銀色の翼。

 

無数の武装。

 

そして――

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……!」

 

目標を捕捉した。

 

『十秒後に接触する!』

 

「構える!」

 

私は白式改から《雪片弐型》を呼び出す。

 

刀身に力を集中させる。

 

《零落白夜》。

 

一撃でISのシールドエネルギーを削り切る、白式改最大の切り札。

 

これを当てれば――

 

「終わりだ!」

 

私は一気に距離を詰める。

 

「零落白夜――!」

 

振り下ろす。

 

だが。

 

「――なっ!?」

 

福音が身体を捻った。

 

紙一重。

 

私の一撃は、銀色の装甲を掠めただけで空を切った。

 

「ちっ!」

 

外した。

 

初撃。

 

完全に回避された。

 

「……!」

 

福音がこちらを認識した。

 

その瞬間。

 

機体が反転する。

 

「来る!」

 

幾重もの光が、こちらへ向かって飛んできた。

 

「っ!」

 

無数の光弾。

 

一発一発が凄まじい速度で飛来する。

 

私はクライン・フィールドを展開した。

 

「これは……!」

 

光弾がクライン・フィールドへ衝突する。

 

しかし――

 

「爆発するエネルギー弾……!」

 

着弾した瞬間、爆発。

 

一度ではない。

 

連続して爆発が発生し、クライン・フィールド全体が大きく揺さぶられる。

 

「くっ……!」

 

私は福音から距離を取った。

 

視界に警告が表示される。

 

**クライン・フィールド残存率――60%**

 

「……嘘」

 

一夏は思わず呟いた。

 

たった数発。

 

それだけで四割近く持っていかれた。

 

IS学園での戦闘。

 

鈴の攻撃を除けば、ここまでクライン・フィールドを削られたことは一度もない。

 

「軍用IS……」

 

目の前の福音を見る。

 

「これが……軍用ISの力……」

 

その時。

 

「一夏!」

 

箒から通信が入る。

 

「大丈夫か!?」

 

「平気!」

 

「私も問題ない!」

 

箒の紅椿にも数発の光弾が当たっている。

 

しかし、装甲に大きな損傷はない。

 

「それより――」

 

箒が福音を見る。

 

「連射速度が異常に速い」

 

「うん」

 

「正面からでは、あの弾幕を突破するのは難しい」

 

箒は武器を構える。

 

「私が動きを止める」

 

「……!」

 

「その隙を突け、一夏!」

 

私は返事をしなかった。

 

いや。

 

できなかった。

 

本来の作戦。

 

《零落白夜》で福音を一撃で落とす。

 

その作戦は失敗した。

 

ならば、ここからは即興。

 

しかも――

 

「限定解除されたIS……」

 

目の前の福音は、通常の第三世代ISではない。

 

何らかのリミッターが解除されている。

 

なら。

 

「……仕方ないか」

 

私は箒を見る。

 

「箒」

 

「なんだ?」

 

「十秒――いや」

 

私は言い直す。

 

「十秒じゃない」

 

「……?」

 

「十七分」

 

「何?」

 

「いや……」

 

私は福音を見る。

 

「十分快稼いで」

 

「…………」

 

箒は一瞬だけ目を見開いた。

 

だが。

 

「……分かった」

 

迷いなく答えた。

 

「任せろ」

 

箒は雨月・空裂を構える。

 

「私が止める!」

 

紅椿が飛び出した。

 

福音へ真正面から突っ込んでいく。

 

私はその場に残った。

 

「……イオナ」

 

『分かった』

 

短い返事。

 

私は白式改の前へクライン・フィールドを展開する。

 

球状。

 

私と白式改を完全に包み込む。

 

そして――

 

私は身体を丸めた。

 

膝を抱えるようにして、ゆっくりと目を閉じる。

 

外から見れば、まるで胎児のような姿。

 

「…………」

 

静かに息を吐く。

 

「《新たな世代への進化》――」

 

白式改が震えた。

 

『システム接続』

 

光が生まれる。

 

一夏の身体を包み込む。

 

白式改を包み込む。

 

その光は、まるで卵の殻のように二人を覆っていく。

 

「――起動」

 

 

同時刻。

 

作戦区域の別地点。

 

ロシア方面から帰還していた第一艦隊。

 

その中で――

 

「大きな重力波を感知!」

 

重巡洋艦ナチのメンタルモデルが叫んだ。

 

「これは……!」

 

「緊急回避!!」

 

「ダメだ!」

 

別の艦から報告が飛ぶ。

 

「間に合わない!!」

 

遥か彼方。

 

海面を割りながら、一筋の巨大なエネルギーが接近してくる。

 

「方向は!?」

 

「ヒエイへ向かっています!」

 

「――!」

 

大戦艦ヒエイ。

 

その名が艦隊ネットワークを駆け巡る。

 

だが。

 

「間に合わない!」

 

その瞬間。

 

ヒエイの横から、一隻の艦が突っ込んだ。

 

「アシガラ!?」

 

アシガラがヒエイの艦体を押し出す。

 

「ヒエイ! 避けろぉぉぉっ!!」

 

位置が入れ替わる。

 

そして――

 

超重力砲が、アシガラを直撃した。

 

「アシガラ!!」

 

巨大な閃光。

 

クライン・フィールドが弾ける。

 

そして。

 

アシガラの艦体が――

 

消滅した。

 

「…………」

 

しばしの沈黙。

 

「……くっそう!」

 

ミョウコウが怒鳴る。

 

「どこの艦隊だ!!」

 

だが。

 

ヒエイは違った。

 

先ほどの砲撃を分析している。

 

「……おかしい」

 

「ヒエイ?」

 

「超重力砲にしては――」

 

ヒエイが目を細める。

 

「小さすぎる」

 

本来。

 

この距離から超重力砲を撃たれれば、ヒエイであっても無傷では済まない。

 

ましてや、まともに受ければ――

 

「まさか……」

 

ヒエイの表情が変わる。

 

「人類が……超重力砲を?」

 

その時だった。

 

「ん?」

 

霧の艦隊専用の戦術ネットワークに、新たな情報が送られてきた。

 

ヒエイがそれを確認する。

 

そして――

 

「……そういうことですか」

 

先ほどの疑問が、一つに繋がった。

 

「この超重力砲は――ヤマト」

 

ヒエイが呟く。

 

「総旗艦ヤマトのメンタルモデル……アマハコトノ」

 

「ヤマトだと!?」

 

ミョウコウが反応する。

 

ヒエイは静かに笑った。

 

「なるほど」

 

そして。

 

「ならば――」

 

大戦艦ヒエイの艦体が変形を開始する。

 

「少し、戯れましょう」

 

艦体各所が展開。

 

装甲の隙間から、大量のミサイルポッドが姿を現す。

 

その姿は、もはや戦艦という言葉では表現できない。

 

無数の武装を搭載した、巨大な戦闘兵器。

 

「目標――」

 

ヒエイが照準を合わせる。

 

「総旗艦ヤマトのメンタルモデル」

 

一瞬の間。

 

「――アマハコトノ!!」

 

第一艦隊が一斉に動いた。

 

大量のミサイル。

 

そして――

 

「侵食魚雷、発射!」

 

海面を突き破るように、無数の侵食魚雷が放たれる。

 

空へ。

 

海へ。

 

あらゆる方向から。

 

そのすべてが――

 

琴乃と簪のいる地点へ向かっていく。

 

「…………」

 

遠く離れた場所。

 

琴乃は、迫り来る無数の反応を《月詠》によって捉えていた。

 

「……来ましたか」

 

簪が振り返る。

 

「琴乃さん……!」

 

琴乃は静かに前を見る。

 

先ほど撃沈したアシガラ。

 

そして――

 

こちらへ向かってくる第一艦隊。

 

「どうやら」

 

琴乃の瞳に、戦意が宿る。

 

「向こうも、本気になったようですね」

 

一方。

 

遥か上空では――

 

「まだか……!」

 

福音を足止めする箒が叫ぶ。

 

そして、その遥か後方。

 

光に包まれた白式改の内部で――

 

「…………」

 

一夏は目を閉じたまま、静かに待っていた。

 

白式改が変わっていく。

 

その姿は――

 

これまでの白式改とは、明らかに違っていた。

 

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