「――それでは、作戦を開始する」
千冬の言葉が響いた。
その瞬間。
すべての作戦が、一斉に動き始めた。
「行くよ、箒!」
「任せろ!」
私は紅椿の腕を掴む。
次の瞬間――
「――行けぇぇぇっ!」
紅椿が爆発的な加速を見せた。
一瞬で景色が後方へ流れていく。
音速。
それどころではない。
紅椿は、まるで最初からこの速度で飛ぶことを想定していたかのように、猛烈な勢いで空を駆け抜けていく。
『暫時衛星リンク確立……情報照合完了!』
紅椿から束の声が響く。
『目標の現在位置を確認!』
そして――
『一夏! 一気に行くぞ!!』
「うん!」
さらに速度が上がる。
数分もしないうちに――
「……見えた!」
遥か前方。
青空を切り裂くように飛行する巨大なIS。
銀色の翼。
無数の武装。
そして――
「
目標を捕捉した。
『十秒後に接触する!』
「構える!」
私は白式改から《雪片弐型》を呼び出す。
刀身に力を集中させる。
《零落白夜》。
一撃でISのシールドエネルギーを削り切る、白式改最大の切り札。
これを当てれば――
「終わりだ!」
私は一気に距離を詰める。
「零落白夜――!」
振り下ろす。
だが。
「――なっ!?」
福音が身体を捻った。
紙一重。
私の一撃は、銀色の装甲を掠めただけで空を切った。
「ちっ!」
外した。
初撃。
完全に回避された。
「……!」
福音がこちらを認識した。
その瞬間。
機体が反転する。
「来る!」
幾重もの光が、こちらへ向かって飛んできた。
「っ!」
無数の光弾。
一発一発が凄まじい速度で飛来する。
私はクライン・フィールドを展開した。
「これは……!」
光弾がクライン・フィールドへ衝突する。
しかし――
「爆発するエネルギー弾……!」
着弾した瞬間、爆発。
一度ではない。
連続して爆発が発生し、クライン・フィールド全体が大きく揺さぶられる。
「くっ……!」
私は福音から距離を取った。
視界に警告が表示される。
**クライン・フィールド残存率――60%**
「……嘘」
一夏は思わず呟いた。
たった数発。
それだけで四割近く持っていかれた。
IS学園での戦闘。
鈴の攻撃を除けば、ここまでクライン・フィールドを削られたことは一度もない。
「軍用IS……」
目の前の福音を見る。
「これが……軍用ISの力……」
その時。
「一夏!」
箒から通信が入る。
「大丈夫か!?」
「平気!」
「私も問題ない!」
箒の紅椿にも数発の光弾が当たっている。
しかし、装甲に大きな損傷はない。
「それより――」
箒が福音を見る。
「連射速度が異常に速い」
「うん」
「正面からでは、あの弾幕を突破するのは難しい」
箒は武器を構える。
「私が動きを止める」
「……!」
「その隙を突け、一夏!」
私は返事をしなかった。
いや。
できなかった。
本来の作戦。
《零落白夜》で福音を一撃で落とす。
その作戦は失敗した。
ならば、ここからは即興。
しかも――
「限定解除されたIS……」
目の前の福音は、通常の第三世代ISではない。
何らかのリミッターが解除されている。
なら。
「……仕方ないか」
私は箒を見る。
「箒」
「なんだ?」
「十秒――いや」
私は言い直す。
「十秒じゃない」
「……?」
「十七分」
「何?」
「いや……」
私は福音を見る。
「十分快稼いで」
「…………」
箒は一瞬だけ目を見開いた。
だが。
「……分かった」
迷いなく答えた。
「任せろ」
箒は雨月・空裂を構える。
「私が止める!」
紅椿が飛び出した。
福音へ真正面から突っ込んでいく。
私はその場に残った。
「……イオナ」
『分かった』
短い返事。
私は白式改の前へクライン・フィールドを展開する。
球状。
私と白式改を完全に包み込む。
そして――
私は身体を丸めた。
膝を抱えるようにして、ゆっくりと目を閉じる。
外から見れば、まるで胎児のような姿。
「…………」
静かに息を吐く。
「《新たな世代への進化》――」
白式改が震えた。
『システム接続』
光が生まれる。
一夏の身体を包み込む。
白式改を包み込む。
その光は、まるで卵の殻のように二人を覆っていく。
「――起動」
◇
同時刻。
作戦区域の別地点。
ロシア方面から帰還していた第一艦隊。
その中で――
「大きな重力波を感知!」
重巡洋艦ナチのメンタルモデルが叫んだ。
「これは……!」
「緊急回避!!」
「ダメだ!」
別の艦から報告が飛ぶ。
「間に合わない!!」
遥か彼方。
海面を割りながら、一筋の巨大なエネルギーが接近してくる。
「方向は!?」
「ヒエイへ向かっています!」
「――!」
大戦艦ヒエイ。
その名が艦隊ネットワークを駆け巡る。
だが。
「間に合わない!」
その瞬間。
ヒエイの横から、一隻の艦が突っ込んだ。
「アシガラ!?」
アシガラがヒエイの艦体を押し出す。
「ヒエイ! 避けろぉぉぉっ!!」
位置が入れ替わる。
そして――
超重力砲が、アシガラを直撃した。
「アシガラ!!」
巨大な閃光。
クライン・フィールドが弾ける。
そして。
アシガラの艦体が――
消滅した。
「…………」
しばしの沈黙。
「……くっそう!」
ミョウコウが怒鳴る。
「どこの艦隊だ!!」
だが。
ヒエイは違った。
先ほどの砲撃を分析している。
「……おかしい」
「ヒエイ?」
「超重力砲にしては――」
ヒエイが目を細める。
「小さすぎる」
本来。
この距離から超重力砲を撃たれれば、ヒエイであっても無傷では済まない。
ましてや、まともに受ければ――
「まさか……」
ヒエイの表情が変わる。
「人類が……超重力砲を?」
その時だった。
「ん?」
霧の艦隊専用の戦術ネットワークに、新たな情報が送られてきた。
ヒエイがそれを確認する。
そして――
「……そういうことですか」
先ほどの疑問が、一つに繋がった。
「この超重力砲は――ヤマト」
ヒエイが呟く。
「総旗艦ヤマトのメンタルモデル……アマハコトノ」
「ヤマトだと!?」
ミョウコウが反応する。
ヒエイは静かに笑った。
「なるほど」
そして。
「ならば――」
大戦艦ヒエイの艦体が変形を開始する。
「少し、戯れましょう」
艦体各所が展開。
装甲の隙間から、大量のミサイルポッドが姿を現す。
その姿は、もはや戦艦という言葉では表現できない。
無数の武装を搭載した、巨大な戦闘兵器。
「目標――」
ヒエイが照準を合わせる。
「総旗艦ヤマトのメンタルモデル」
一瞬の間。
「――アマハコトノ!!」
第一艦隊が一斉に動いた。
大量のミサイル。
そして――
「侵食魚雷、発射!」
海面を突き破るように、無数の侵食魚雷が放たれる。
空へ。
海へ。
あらゆる方向から。
そのすべてが――
琴乃と簪のいる地点へ向かっていく。
「…………」
遠く離れた場所。
琴乃は、迫り来る無数の反応を《月詠》によって捉えていた。
「……来ましたか」
簪が振り返る。
「琴乃さん……!」
琴乃は静かに前を見る。
先ほど撃沈したアシガラ。
そして――
こちらへ向かってくる第一艦隊。
「どうやら」
琴乃の瞳に、戦意が宿る。
「向こうも、本気になったようですね」
一方。
遥か上空では――
「まだか……!」
福音を足止めする箒が叫ぶ。
そして、その遥か後方。
光に包まれた白式改の内部で――
「…………」
一夏は目を閉じたまま、静かに待っていた。
白式改が変わっていく。
その姿は――
これまでの白式改とは、明らかに違っていた。