IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第26話

『連結(リンク)完了まで――残り30秒』

 

真っ白な空間。

 

上下も、左右もない。

 

どこまでも続く純白の虚無の中に、一夏はただ一人、立っていた。

 

けれど――完全な静寂ではない。

 

どこからともなく、イオナの声が響いている。

 

『……早く』

 

一夏は顔を上げる。

 

『早く……』

 

その声には、いつもの無機質さがなかった。

 

焦り。

 

それ以上に――心配しているような響き。

 

(イオナ……)

 

そして。

 

再び、声が響いた。

 

『連結(リンク)の完了を確認』

 

今度の声には、どこか温もりがあった。

 

『第三形態(サード・フォーム)――《ホワイト・テイル》の構築が完了』

 

一夏の周囲を、白い光が包み込んでいく。

 

『とっとと終わらせてこい』

 

思わず、一夏の口元が緩んだ。

 

「……そんなこと言われたら――」

 

白い光の中で、一夏は拳を握り締める。

 

「起きないわけには、いかないね!」

 

次の瞬間。

 

一夏は、自分の全身に纏わりついていた白い外殻を――力任せに振り払った。

 

◇

 

「!?」

 

監視室にいた真耶が、突然叫んだ。

 

「南方から何かが福音戦闘地点へと接近中です!」

 

「なんだ!?」

 

教員たちが一斉にモニターへ視線を向ける。

 

「こ、これは……!?」

 

真耶の隣では、教員の一人が10枚ものパネルを展開し、凄まじい速度でキーボードを叩いていた。

 

「ISの速度ではあり得ません! 瞬時加速《イグニッション・ブースト》の最大速度を――突破!?」

 

「突破だと!?」

 

「中央モニターに映像、来ます!」

 

壁一面を覆う巨大モニターへ、南方から接近する謎の物体が映し出された。

 

「なにかの……種?」

 

白い。

 

巨大な種子。

 

いや――。

 

「……蕾、みたいですね」

 

六枚の白い外核が、中央の何かを包み込んでいる。

 

その隙間からは、螺旋状のエネルギー片が無数に舞い散っていた。

 

まるで――雪の欠片。

 

そして、その異様な物体が凄まじい速度で福音へと接近していく。

 

「識別コード、出ました!」

 

教員の声が裏返る。

 

「『ホワイト・テイル』――GX00-Iona!?」

 

一瞬、室内が静まり返った。

 

「び、『白式改』と判別可能! バイタル・サイン――織斑さんです!」

 

「一夏さん!?」

 

真耶が目を見開く。

 

その瞬間。

 

モニターの中で、白い蕾が――開いた。

 

外殻が四散する。

 

無数の光の粒子が周囲へ舞い散り、その中心から一人の少女が姿を現した。

 

――織斑一夏。

 

白く輝く巨大なエネルギー・ウイングを背負い、その姿は以前の《白式改》とは明らかに異なっていた。

 

巨大な翼。

 

白銀に輝く装甲。

 

そして――。

 

額から頬へと伸びる、淡く輝く紋章。

 

黒かった髪は、水色へと変化している。

 

それはまるで――。

 

雪の中から生まれた、異形の天使。

 

《白式改》第三形態。

 

《ホワイト・テイル》。

 

その姿が、福音の前へと到達した。

 

◇

 

「足止め、ありがとう……箒」

 

一夏は静かに言った。

 

「一夏……なのか?」

 

箒は目の前の少女を見つめたまま、呆然としていた。

 

「一体、その姿は……」

 

「説明は後にして」

 

一夏はヴァールを握り直す。

 

「まずは――あれを止める」

 

「……分かった」

 

箒が頷いた、その瞬間だった。

 

福音の翼が大きく展開する。

 

『《銀の鐘(シルバー・ベル)》――最大稼働、開始』

 

両腕を左右へ大きく広げる。

 

同時に、翼も外側へ向けて展開された。

 

――刹那。

 

眩い光が爆ぜる。

 

「――ッ!」

 

無数のエネルギー弾が、一斉に放たれた。

 

まるで雨。

 

いや――。

 

それ以上。

 

空そのものが、光の弾丸で埋め尽くされる。

 

「《クラインフィールド》を展開」

 

一夏の周囲に、淡い光の膜が広がった。

 

「敵の殲滅を開始する」

 

その言葉と同時に――。

 

《ホワイト・テイル》の翼が、大きく羽ばたいた。

 

――消えた。

 

「!?」

 

箒ですら、その姿を目で追えなかった。

 

次の瞬間。

 

「そこ」

 

福音の頭上。

 

一夏が現れる。

 

手にしたヴァールを振り抜いた。

 

「――ッ!?」

 

福音が間一髪で身体を捻る。

 

ヴァールの刃が装甲を掠めた。

 

しかし――。

 

「速い……!」

 

福音ですら、明らかに動揺していた。

 

今までとは違う。

 

一夏の速度が、完全に別次元へ到達している。

 

「オマエヲ……コワス!!」

 

福音が吼える。

 

一夏は答えない。

 

《ホワイト・テイル》のエネルギー・ウイングが再び羽ばたいた。

 

――瞬間移動。

 

いや。

 

それほどの速度だった。

 

一夏は一瞬で福音の正面へと移動する。

 

「なっ――!?」

 

福音が距離を取ろうとする。

 

しかし――。

 

「逃がさない」

 

一夏は、その背後へ回り込む。

 

福音が振り返る。

 

そこにはいない。

 

左。

 

右。

 

上。

 

下。

 

一夏は空間そのものを縦横無尽に駆け回っていた。

 

ヴァールが唸る。

 

左から。

 

右から。

 

上から。

 

下から。

 

大剣クラスの刃が、残像を生み出すほどの速度で福音へ叩き込まれていく。

 

「――ッ!」

 

福音の防御が間に合わない。

 

そして――。

 

「そこ!」

 

一閃。

 

福音の翼の一枚が、根元から切断された。

 

「――――ッ!!」

 

バランスを崩す福音。

 

だが、それでも落ちない。

 

片翼だけで姿勢を立て直す。

 

「シズメェエエエ!!」

 

福音が一夏へと突進する。

 

脚部スラスターが最大出力で噴射された。

 

そして――。

 

回し蹴り。

 

「……!」

 

一夏は避けなかった。

 

《クラインフィールド》が展開される。

 

ガァンッ!!

 

凄まじい衝撃音。

 

福音の脚がフィールドへ叩き込まれる。

 

だが――。

 

「!?」

 

弾き返されたのは、福音の方だった。

 

脚部装甲が砕け散る。

 

一夏は、その隙を逃さない。

 

「――終わり」

 

福音の腹部へ、ヴァールを押し付ける。

 

零距離。

 

逃げ場はない。

 

「サヨウナラ」

 

トリガーを引く。

 

バラララララララッ!!

 

零距離から叩き込まれる連射。

 

福音のシールドエネルギーが一気に削られていく。

 

「――――!」

 

身体が崩れる。

 

福音はそのまま、海面へと墜落していった。

 

「はっ……はぁっ……はぁっ……」

 

一夏は荒い呼吸を繰り返した。

 

「一夏! 無事か!?」

 

遠くから聞こえる箒の声。

 

「うん……」

 

一夏は呼吸を整えようとする。

 

そのときだった。

 

「ぐっ……!?」

 

突然、胸の奥から込み上げてくるものがあった。

 

「ゲホッ……! ゲホッ、ゲホッ!」

 

口元を押さえる。

 

指の隙間から――赤い液体が零れた。

 

「……やっぱり、耐えきれなかったか」

 

《ホワイト・テイル》。

 

その圧倒的な性能に、身体が追いついていない。

 

内臓へまで負荷が及んでいる。

 

(これで……終わった)

 

一夏は海面を見下ろした。

 

これだけの攻撃を受けた。

 

これだけシールドエネルギーを削った。

 

もう立ち上がれるはずがない。

 

――そう思った。

 

その瞬間。

 

海面が、爆発した。

 

「!?」

 

巨大な光の球が海を吹き飛ばす。

 

海水が球状に蒸発し、その中心から青い雷を纏った何かが浮かび上がった。

 

「……嘘」

 

箒の声が漏れる。

 

海面に浮かんでいたのは――。

 

《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》。

 

自らの身体を抱き締めるようにして蹲っている。

 

青い雷が全身を駆け巡っていた。

 

「これは……」

 

一夏は目を細める。

 

無機質なバイザー。

 

その下にある顔からは、感情など読み取れない。

 

それでも――。

 

分かった。

 

そこにあるものが。

 

明確な敵意。

 

殺意。

 

そして――。

 

怒り。

 

「……いい加減にしてほしいよ」

 

一夏はヴァールを構え直す。

 

福音がゆっくりと顔を上げる。

 

『――キアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

それは、もう兵器の発する音ではなかった。

 

獣。

 

追い詰められた獣が放つ、咆哮。

 

次の瞬間。

 

福音が飛び出した。

 

一夏へ向かって――。

 

一直線に。

 

「……来る!」

 

《ホワイト・テイル》の翼が、再び大きく羽ばたいた。

 




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