IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第26話

連結(リンク)完了まで――残り30秒』

 

真っ白な空間。

 

上下も、左右もない。

 

どこまでも続く純白の虚無の中に、一夏はただ一人、立っていた。

 

けれど――完全な静寂ではない。

 

どこからともなく、イオナの声が響いている。

 

『……早く』

 

一夏は顔を上げる。

 

『早く……』

 

その声には、いつもの無機質さがなかった。

 

焦り。

 

それ以上に――心配しているような響き。

 

(イオナ……)

 

そして。

 

再び、声が響いた。

 

連結(リンク)の完了を確認』

 

今度の声には、どこか温もりがあった。

 

第三形態(サード・フォーム)――《ホワイト・テイル》の構築が完了』

 

一夏の周囲を、白い光が包み込んでいく。

 

『とっとと終わらせてこい』

 

思わず、一夏の口元が緩んだ。

 

「……そんなこと言われたら――」

 

白い光の中で、一夏は拳を握り締める。

 

「起きないわけには、いかないね!」

 

次の瞬間。

 

一夏は、自分の全身に纏わりついていた白い外殻を――力任せに振り払った。

 

 

「!?」

 

監視室にいた真耶が、突然叫んだ。

 

「南方から何かが福音戦闘地点へと接近中です!」

 

「なんだ!?」

 

教員たちが一斉にモニターへ視線を向ける。

 

「こ、これは……!?」

 

真耶の隣では、教員の一人が10枚ものパネルを展開し、凄まじい速度でキーボードを叩いていた。

 

「ISの速度ではあり得ません! 瞬時加速《イグニッション・ブースト》の最大速度を――突破!?」

 

「突破だと!?」

 

「中央モニターに映像、来ます!」

 

壁一面を覆う巨大モニターへ、南方から接近する謎の物体が映し出された。

 

「なにかの……種?」

 

白い。

 

巨大な種子。

 

いや――。

 

「……蕾、みたいですね」

 

六枚の白い外核が、中央の何かを包み込んでいる。

 

その隙間からは、螺旋状のエネルギー片が無数に舞い散っていた。

 

まるで――雪の欠片。

 

そして、その異様な物体が凄まじい速度で福音へと接近していく。

 

「識別コード、出ました!」

 

教員の声が裏返る。

 

「『ホワイト・テイル』――GX00-Iona!?」

 

一瞬、室内が静まり返った。

 

「び、『白式改』と判別可能! バイタル・サイン――織斑さんです!」

 

「一夏さん!?」

 

真耶が目を見開く。

 

その瞬間。

 

モニターの中で、白い蕾が――開いた。

 

外殻が四散する。

 

無数の光の粒子が周囲へ舞い散り、その中心から一人の少女が姿を現した。

 

――織斑一夏。

 

白く輝く巨大なエネルギー・ウイングを背負い、その姿は以前の《白式改》とは明らかに異なっていた。

 

巨大な翼。

 

白銀に輝く装甲。

 

そして――。

 

額から頬へと伸びる、淡く輝く紋章。

 

黒かった髪は、水色へと変化している。

 

それはまるで――。

 

雪の中から生まれた、異形の天使。

 

《白式改》第三形態。

 

《ホワイト・テイル》。

 

その姿が、福音の前へと到達した。

 

 

「足止め、ありがとう……箒」

 

一夏は静かに言った。

 

「一夏……なのか?」

 

箒は目の前の少女を見つめたまま、呆然としていた。

 

「一体、その姿は……」

 

「説明は後にして」

 

一夏はヴァールを握り直す。

 

「まずは――あれを止める」

 

「……分かった」

 

箒が頷いた、その瞬間だった。

 

福音の翼が大きく展開する。

 

『《銀の鐘(シルバー・ベル)》――最大稼働、開始』

 

両腕を左右へ大きく広げる。

 

同時に、翼も外側へ向けて展開された。

 

――刹那。

 

眩い光が爆ぜる。

 

「――ッ!」

 

無数のエネルギー弾が、一斉に放たれた。

 

まるで雨。

 

いや――。

 

それ以上。

 

空そのものが、光の弾丸で埋め尽くされる。

 

「《クラインフィールド》を展開」

 

一夏の周囲に、淡い光の膜が広がった。

 

「敵の殲滅を開始する」

 

その言葉と同時に――。

 

《ホワイト・テイル》の翼が、大きく羽ばたいた。

 

――消えた。

 

「!?」

 

箒ですら、その姿を目で追えなかった。

 

次の瞬間。

 

「そこ」

 

福音の頭上。

 

一夏が現れる。

 

手にしたヴァールを振り抜いた。

 

「――ッ!?」

 

福音が間一髪で身体を捻る。

 

ヴァールの刃が装甲を掠めた。

 

しかし――。

 

「速い……!」

 

福音ですら、明らかに動揺していた。

 

今までとは違う。

 

一夏の速度が、完全に別次元へ到達している。

 

「オマエヲ……コワス!!」

 

福音が吼える。

 

一夏は答えない。

 

《ホワイト・テイル》のエネルギー・ウイングが再び羽ばたいた。

 

――瞬間移動。

 

いや。

 

それほどの速度だった。

 

一夏は一瞬で福音の正面へと移動する。

 

「なっ――!?」

 

福音が距離を取ろうとする。

 

しかし――。

 

「逃がさない」

 

一夏は、その背後へ回り込む。

 

福音が振り返る。

 

そこにはいない。

 

左。

 

右。

 

上。

 

下。

 

一夏は空間そのものを縦横無尽に駆け回っていた。

 

ヴァールが唸る。

 

左から。

 

右から。

 

上から。

 

下から。

 

大剣クラスの刃が、残像を生み出すほどの速度で福音へ叩き込まれていく。

 

「――ッ!」

 

福音の防御が間に合わない。

 

そして――。

 

「そこ!」

 

一閃。

 

福音の翼の一枚が、根元から切断された。

 

「――――ッ!!」

 

バランスを崩す福音。

 

だが、それでも落ちない。

 

片翼だけで姿勢を立て直す。

 

「シズメェエエエ!!」

 

福音が一夏へと突進する。

 

脚部スラスターが最大出力で噴射された。

 

そして――。

 

回し蹴り。

 

「……!」

 

一夏は避けなかった。

 

《クラインフィールド》が展開される。

 

ガァンッ!!

 

凄まじい衝撃音。

 

福音の脚がフィールドへ叩き込まれる。

 

だが――。

 

「!?」

 

弾き返されたのは、福音の方だった。

 

脚部装甲が砕け散る。

 

一夏は、その隙を逃さない。

 

「――終わり」

 

福音の腹部へ、ヴァールを押し付ける。

 

零距離。

 

逃げ場はない。

 

「サヨウナラ」

 

トリガーを引く。

 

バラララララララッ!!

 

零距離から叩き込まれる連射。

 

福音のシールドエネルギーが一気に削られていく。

 

「――――!」

 

身体が崩れる。

 

福音はそのまま、海面へと墜落していった。

 

「はっ……はぁっ……はぁっ……」

 

一夏は荒い呼吸を繰り返した。

 

「一夏! 無事か!?」

 

遠くから聞こえる箒の声。

 

「うん……」

 

一夏は呼吸を整えようとする。

 

そのときだった。

 

「ぐっ……!?」

 

突然、胸の奥から込み上げてくるものがあった。

 

「ゲホッ……! ゲホッ、ゲホッ!」

 

口元を押さえる。

 

指の隙間から――赤い液体が零れた。

 

「……やっぱり、耐えきれなかったか」

 

《ホワイト・テイル》。

 

その圧倒的な性能に、身体が追いついていない。

 

内臓へまで負荷が及んでいる。

 

(これで……終わった)

 

一夏は海面を見下ろした。

 

これだけの攻撃を受けた。

 

これだけシールドエネルギーを削った。

 

もう立ち上がれるはずがない。

 

――そう思った。

 

その瞬間。

 

海面が、爆発した。

 

「!?」

 

巨大な光の球が海を吹き飛ばす。

 

海水が球状に蒸発し、その中心から青い雷を纏った何かが浮かび上がった。

 

「……嘘」

 

箒の声が漏れる。

 

海面に浮かんでいたのは――。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》。

 

自らの身体を抱き締めるようにして蹲っている。

 

青い雷が全身を駆け巡っていた。

 

「これは……」

 

一夏は目を細める。

 

無機質なバイザー。

 

その下にある顔からは、感情など読み取れない。

 

それでも――。

 

分かった。

 

そこにあるものが。

 

明確な敵意。

 

殺意。

 

そして――。

 

怒り。

 

「……いい加減にしてほしいよ」

 

一夏はヴァールを構え直す。

 

福音がゆっくりと顔を上げる。

 

『――キアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

それは、もう兵器の発する音ではなかった。

 

獣。

 

追い詰められた獣が放つ、咆哮。

 

次の瞬間。

 

福音が飛び出した。

 

一夏へ向かって――。

 

一直線に。

 

「……来る!」

 

《ホワイト・テイル》の翼が、再び大きく羽ばたいた。

 




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