IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第27話

「重力子センサーに感!」

 

天羽の隣で、簪が叫んだ。

 

「侵食魚雷並びにミサイルです! 数――1200!」

 

その報告を聞いても、天羽は眉一つ動かさなかった。

 

「……反撃に来ましたか」

 

むしろ、予想通りだったと言わんばかりに落ち着いている。

 

先ほどの一撃で、大戦艦ヒエイではなくアシガラを沈めた。

 

当然、霧の艦隊が黙っているはずもない。

 

だが――問題は別にあった。

 

現在、《須佐之男命》は一度使用したことによって再構成と再チャージの段階に入っている。

 

最低でも――10分。

 

それまでは、再び撃つことができない。

 

「簪さん」

 

「はい」

 

「《須佐之男命》の演算処理をお願いします」

 

「分かりました」

 

簪はすぐに端末へ向き直る。

 

《ミカサ戦術システム》を介して、須佐之男命の再構成処理へと演算能力を割り振っていく。

 

その間にも、重力子センサーが次々と敵影を捉えていく。

 

1200。

 

侵食魚雷とミサイル。

 

それがこちらへ向かって、一直線に飛来している。

 

天羽は海の彼方へ視線を向けた。

 

「……少しだけ、忙しくなりそうですね」

 

そう呟くと、天羽は両手を広げた。

 

瞬間。

 

周囲の空間が歪む。

 

《クライン・フィールド》。

 

ただし――普通のものではない。

 

天羽が展開しようとしているのは、自分一人を守るためのものではなかった。

 

「旅館も、まとめて守ります」

 

淡い光が周囲へ広がっていく。

 

海岸。

 

旅館。

 

そして、その周辺一帯。

 

まるで巨大な透明なドームが形成されるように、クライン・フィールドが空間を包み込んでいく。

 

超戦艦級。

 

その演算能力を持つ天羽にとって、この程度の処理は――。

 

「朝飯前ですよ」

 

天羽は微笑んだ。

 

 

「――ッ!」

 

一夏は、反応できなかった。

 

速い。

 

あまりにも速すぎる。

 

次の瞬間には、福音の手が一夏の足を掴んでいた。

 

「しまっ――」

 

身体が引き寄せられる。

 

ヴァールを振るうこともできない。

 

そして――。

 

一夏が切り落としたはずの翼。

 

その断面が、ゆっくりと蠢き始めた。

 

「……え?」

 

切断された翼の根元から。

 

光が生まれる。

 

一本。

 

また一本。

 

それらが徐々に広がっていく。

 

まるで――。

 

蝶が蛹から羽化するように。

 

白く眩いエネルギーの翼が、ゆっくりと、ゆっくりと再生していく。

 

「……嘘でしょ」

 

一夏の表情が引きつった。

 

そして――。

 

完全に再生した。

 

「一夏を離せぇっ!!」

 

箒が叫ぶ。

 

紅椿が急加速する。

 

「――雨月!」

 

雨月・空裂を構え、福音へ一直線に突撃する。

 

「一夏から離れろぉぉぉっ!!」

 

渾身の一撃。

 

だが――。

 

ギィンッ!!

 

「なっ!?」

 

福音は、空いている片手だけでその刃を受け止めた。

 

完全に止められた。

 

箒の全身に衝撃が走る。

 

「ダメ……!」

 

一夏が叫ぶ。

 

「逃げて、箒!」

 

必死に声を絞り出す。

 

「こいつは――」

 

その言葉は、最後まで続かなかった。

 

福音の翼が開く。

 

白銀の光。

 

眩いほどの輝き。

 

そして――どこか美しさすら感じさせる巨大なエネルギーの翼が、一夏を包み込んだ。

 

「――っ!」

 

一夏は咄嗟にクライン・フィールドを展開する。

 

次の瞬間。

 

「――――ッ!!」

 

零距離。

 

エネルギー弾の雨が、一夏へ叩き込まれた。

 

轟音。

 

閃光。

 

爆発。

 

クライン・フィールドが凄まじい勢いで軋む。

 

本来ならば、ほとんどの攻撃を逸らすはずのフィールド。

 

しかし――。

 

「ぐ……ああああああっ!!」

 

防ぎ切れない。

 

相殺しきれなかったエネルギー弾が、一夏の身体へ突き刺さっていく。

 

「一夏っ!!」

 

箒の叫び。

 

クラインフィールドの蓄積量が――。

 

「95%……!?」

 

一夏の視界に警告表示が連続して走る。

 

限界。

 

あと少しでも攻撃を受ければ、フィールドでは受け止め切れない。

 

「ぐ……っ!」

 

身体が吹き飛ぶ。

 

一夏は海面へ落下した。

 

ドォンッ!!

 

巨大な水柱が上がる。

 

「一夏!!」

 

箒が叫ぶ。

 

だが――。

 

「……っ」

 

一夏は生きていた。

 

辛うじて。

 

本当に、辛うじて。

 

意識だけは残っている。

 

身体を動かす。

 

腕が震える。

 

脚が震える。

 

呼吸すら苦しい。

 

それでも、空中に留まる。

 

「……まだ……飛べる……」

 

だが。

 

(戦う力は……もう……)

 

ない。

 

今の一夏に残っているのは、飛び続ける力だけ。

 

それが限界だった。

 

「一夏を――」

 

箒の瞳に怒りが宿る。

 

「よくもぉぉぉっ!!」

 

紅椿が爆発的に加速した。

 

一気に福音へ接近する。

 

「はああああああっ!!」

 

雨月・空裂が閃く。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

福音が攻撃を放つ。

 

箒は展開装甲を局所的に変形させ、身体を捻る。

 

紙一重。

 

エネルギー弾を回避。

 

そのまま、不安定な姿勢から斬撃を繰り出す。

 

「――そこだ!」

 

ブースト。

 

斬撃速度がさらに跳ね上がる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

斬る。

 

避ける。

 

突く。

 

かわす。

 

撃つ。

 

躱す。

 

両者が高速で交錯する。

 

一進一退。

 

だが――。

 

徐々に。

 

ほんの僅かずつ。

 

福音が押され始めていた。

 

紅椿の出力が、さらに上昇していく。

 

「――いける!」

 

箒は確信した。

 

勝てる。

 

このまま押し切れば――。

 

「これでっ!!」

 

雨月を構える。

 

渾身の打突。

 

「――ッ!」

 

その瞬間。

 

「なっ!?」

 

警告表示。

 

エネルギー残量――ゼロ。

 

「エネルギー切れだと!?」

 

ほんの一瞬。

 

箒の動きが止まった。

 

それだけで十分だった。

 

福音の腕が伸びる。

 

「――しまっ」

 

ガシッ!!

 

「ぐあっ!」

 

紅椿が捕まった。

 

「箒!!」

 

一夏が叫ぶ。

 

福音の翼が開く。

 

ゆっくりと。

 

ゆっくりと。

 

その白銀の翼が、箒を包み込んでいく。

 

「……やめろ……!」

 

一夏の声は届かない。

 

次の瞬間――。

 

「――――ッ!!」

 

エネルギー弾が零距離から炸裂した。

 

閃光。

 

爆音。

 

そして――。

 

箒の身体が、力なく落下していく。

 

「くっ……!」

 

一夏は歯を食いしばる。

 

「箒……!」

 

しかし。

 

福音は止まらない。

 

次に、その手が伸びる。

 

「……っ!」

 

一夏の首が掴まれた。

 

「が……っ!」

 

身体が持ち上げられる。

 

抵抗しようとする。

 

だが――。

 

もう、身体に力が入らない。

 

福音の翼が、再びゆっくりと開いていく。

 

白銀の翼。

 

それが、一夏を包み込もうとしていた。

 

(……また……)

 

理解した。

 

このままでは――。

 

また、零距離からエネルギー弾を撃ち込まれる。

 

今度こそ。

 

クライン・フィールドは耐えられない。

 

身体も耐えられない。

 

そして――。

 

次は、助からない。

 

一夏は霞む視界で、遠くの空を見た。

 

(……ごめんなさい)

 

意識が薄れていく。

 

(琴乃さん……)

 

そして。

 

心の中で、最後に呟いた。

 

(ごめんなさい……!)

 

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