「ぐっ、うっ……!」
ぎりぎりと締め上げられ、一夏は圧迫された喉から苦しげな声が漏れる。
福音の手は硬く一夏の首を掴んで離さない。さらにはエネルギー状へと進化した『
(これまでですか……)
ぽうっと光の翼が輝きを増していく。一斉射撃への秒読みが始まる中、一夏の頭の中にはただ一つのことだけが浮かんでいた。
「あま、は……さん」
知らず知らずの内に、その口からは天羽の名前を呼ぶ声が出ていた。
「天羽さん……」
さらに輝きを増す翼に、一夏は覚悟を決めて目蓋を閉じる。
ィィィィンッ……!!
『!?』
突然、福音は一夏を手放す。
いきなりの出来事に混乱している一夏が、瞳を開けた時に見たのは強力なビームによる狙撃を受けて吹き飛ぶ福音の姿だった。
(何が―――)
「…………」
一夏の視線の先には、蒼く、輝きを放つ機体がある。
「ま……ど、か……ちゃん?」
僅かに潤んだ視界に見えたのは、サイレント・ゼフィルスを纏ったマドカだった。
◇
「《スサノオ》の再構成、チャージ完了まで残り1分を切りました」
霧の第一艦隊の攻撃をクラインフィールドだけで凌ぐのは一苦労であった。
だが、旅館への被害だけは出さないようにと、そこだけを複数のクラインフィールドを展開する。
天羽、簪がいる浜には他害な被害に遭っていたが、何とか持ちこたえいた。
「照準補正。出力全開!!」
天羽はクラインフィールドの高速演算と同時に《スサノオ》の照準を定める。
先程の超重力砲とは火力は違い、今あるエネルギーを全て積み込んだ最大出力。
「発射可能!!」
「超重力砲、発射!!」
天羽は《スサノオ》のトリガーを引く。
超重力砲はそのまま、第一艦隊のヒエイへと飛んでいく。
「させないわ!!」
完全に捕捉されたと思われた超重力砲は―――
「!! 超重力砲が……相殺!?」
「これは……」
天羽はヒエイが一体何をしたのか、知っていた。
これは本来なら超戦艦級のみに搭載される物であったからだ。
「
超重力砲はヒエイを中心に上下に出現した二つのリングの中へと吸い込まれていった。
「衝撃に備えなさい!」
ヒエイは超重砲のエネルギーを打ち消す為に別次元にエネルギーを相転移させたのだ。よって―――
「きゃああああ!!?」
物凄い衝撃波が発生した。
◇
「そこにいろ」
「う、ん……」
マドカは私の生死を確認して、すぐさま福音の方に向き直る。
「殲滅を開始する……」
言うなり、マドカの肌とサイレント・ゼフィルスの装甲に霧のエンブレムが浮き出す。そして、こちらに向かって来る福音へと急加速、正面からぶつかった。
「…………」
《スターブレイカー》を右手だけで構え、斬りかかる。
それをひらりとのけぞって躱した福音を、左手の新兵器《
「逃がさない」
無数のワイヤーアンカーが撃ち出され、福音を捕まえる。シールドエネルギーが発動し、ワイヤーアンカーを断ち切ろうとするが特殊合金で出来たホーク・タイワイヤーアンカーは切れる素振りを見せない。
福音は身動きが取れなくなり、エネルギー翼が大きく広げることが出来ず、マドカに一方的に叩きのめされていく。
「これで、終わりだ」
マドカは福音の胴体へと銃剣の刃を突き立てた。
スターブレイカーの銃剣のから伝わる手応えを感じながら、さらにマドカは全ブースターを最大出力まで上げる。
押されながらも、《流星》の拘束から逃れようと福音は抗う。しかし、結局何にも出来ず銀色のISはやっと動きを停止した。
「やっと……終わった……」
一夏は正直な感想を述べる。
これほどまでに苦労したことは一度もなく、正直今日だけで結構疲れた。
「あっ……」
アーマーを失い、スーツだけの状態になった福音の操縦者が海へと墜ちていく。
「ふん」
マドカが海面接触ギリギリで操縦者をキャッチした。
「ほらよ」
マドカは操縦者を投げ渡し、一夏がそれをキャッチする。
ダメージから回復した箒がマドカに警戒するが、一夏がそれを止めさせた。
「一夏! 何のつもりだ!!」
「彼女には手を出してはいけない……」
福音を単騎で撃退できる実力もあるが、一夏が最も恐れていたのはマドカのISに刻まれていたエンブレムだった。
そして、それに応じるかのように海面から戦艦が浮上して来る。
「超戦艦級……ムサシ」
霧の最大戦力である2隻の内の一つである超戦艦級がこの場に出現したのだ。
「お久しぶりですね。一夏さん」
ムサシの司令塔の上に一人の少女座っていた。その少女が一夏に問いかける。
箒はその少女がなぜそんな所にいるのか、全く分からなかった。しかし、一夏はそれを知っている素振りを見せた。
「貴女がこの海域に出るとは、思わなかったよ。ムサシさん」
一夏は確かに少女の名前を言った、ムサシと。
「一夏……あの少女のことを知っているのか?」
「……霧はメンタルモデルと言う人の姿を持っているのよ。そして、目の前にいるのが超戦艦ムサシのメンタルモデル」
門外不出であるそれを一夏は口にする。
本来なら出会うことはないと思っていたのだが、ムサシから直接出向いてきてしまったのだ。
そして、今この状況を見ている千冬たちにも伝わってしまった。
隠す意味が無くなってしまったのだ。
「そんなに警戒することはないですよ。今日は挨拶ですから」
「…………」
一夏は少なくとも一安心する。
このまま、戦闘になったらこちらは勝つことは絶対にない。
一夏は既に戦闘できるだけの力もなく、シールドエネルギーの全てをスラスターの方に回している。
箒も福音との戦闘でシールドエネルギーが殆どない。
「では、また何処かでお会いしましょう。マドカさん」
そう言って、待機していた蒼いISの操縦者はムサシの甲板に降り立つ。
結局、ムサシの言う通り挨拶を交わすだけで何もしてこなかった。
何とも言えない状況になってしまい、一夏たちは旅館へと戻る。