「…………」
一夏は旅館の縁側から見える海を眺めていた。
一部だけ物凄く荒れているが、後はごく普通の光景である。
「調子はどう?」
「ん? あぁ、問題ないよ」
部屋に入ってきたのは、ヒュウガだった。
作戦開始前に天羽がこっちに寄越したのだ。一夏のISのリミッターを解除は必然だと読んで。
「あんまり無茶は止めた方がいいわよ」
「そうだね」
「…………」
ヒュウガは「はぁ……」とため息を吐く。
一夏の表情から謝罪の意が感じられなかったからだ。
「貴女のコアが完成するまでは、止めときなさいよ」
「その口ぶりだと、もう少しで完成するってことかな?」
「その勘ぶりだけは鋭いのね……えぇ、そうよ」
霧は一隻に一個のコアと呼ばれる物がある。
コアの用量は様々だが、重巡艦クラスになるとメンタルモデルを形成できる。一夏と簪のコアはそれに該当した。
そして、一夏と簪はある計画を進めていた。
「ユニオンコアの作成……いいのかしら? それはつまり―――」
「もう決めたことよ。私は―――霧の一人となる、ってね」
その表情は―――笑顔だったのだ。
ヒュウガは、そんな一夏を見つめることしか出来なかった。
◇
薄暗い部屋に二人。静かにグラスに口を付けて飲んでいた。
「……そろそろ、白状したらどうだ?」
「さて、何のことでしょか?」
月光が部屋を照らし、二人の姿があらわになる。
そこにいたのは、千冬と天羽だった。
「あれだよ」
千冬が指したのは、未だに荒れた海だった。
「一応、企業秘密でしたが……」
天羽は何事もなく処理したかったのだが……まさか、あれを持っていたとは思いもしなかった。
「ミラー・リングシステム」
「ミラー・リングシステム?」
「えぇ。霧の中でも超戦艦級にのみ装備されている、最強装備ですね」
「それだと、少しおかしいぞ。あそこにいたのは―――」
「織斑先生の言う通り、本来であればありえません。しかし、作動を確認した以上そう言うことになります」
「……そのミラー・リングシステムと言うのは、一体なんだ?」
「ミラー・リングシステムは対超重砲防御兵装であり、超重力砲を唯一防げる装備でもあります。原理はワームホールを作り、超重砲のエネルギーを別次元に転移させるというもの。ワームホール消滅時に周囲に破壊的な衝撃波をまき散らすため、現在の様になったのです」
天羽の説明に千冬は驚愕を目にした。
霧の技術力は束を超えていることは承知だったのだが、さらなる切り札を持っていたのだ。
「ワームホールまで、持っているのか……」
「えぇ。私ですらこれを目にしたのは初めてでしたので」
結果、一部の海域が異常気象を起こしてしまった。
あるところは一次元だったり、あるところは七次元だったり、異なる次元がまだらのように存在している。
正常に戻るのに、数年はかかるだろう。
◇
「…………」
太平洋のとある場所。一夏に挨拶を交わしたムサシがいた。
そして、その甲板に座り、海を眺める少女がいる。天羽が亡国機業から連れ帰った織斑マドカだ。
「お身体の方はどうですか?」
「あぁ。凄く気分がいい」
マドカの後ろから近付いてくるのは、このムサシのメンタルモデルだった。
福音事件が終わると第一艦隊を引き連れて、退散した。もちろん、撃沈したアシガラを回収して。
「メンタルモデルと言う物は凄くいいな」
マドカは立ち上がると、ISスーツが私服へと変わった。
いや、変わった訳ではない。私服が構成されたのだ。
「今なら姉さんに勝てる気がする」
マドカは既に人間を辞めていた。
肉体を捨て、ユニオンコアにマドカと言う情報を書き込んだ。唯一人間から霧になった存在である。