IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第29話

「…………」

 

一夏は旅館の縁側から見える海を眺めていた。

一部だけ物凄く荒れているが、後はごく普通の光景である。

 

「調子はどう?」

 

「ん? あぁ、問題ないよ」

 

部屋に入ってきたのは、ヒュウガだった。

作戦開始前に天羽がこっちに寄越したのだ。一夏のISのリミッターを解除は必然だと読んで。

 

「あんまり無茶は止めた方がいいわよ」

 

「そうだね」

 

「…………」

 

ヒュウガは「はぁ……」とため息を吐く。

一夏の表情から謝罪の意が感じられなかったからだ。

 

「貴女のコアが完成するまでは、止めときなさいよ」

 

「その口ぶりだと、もう少しで完成するってことかな?」

 

「その勘ぶりだけは鋭いのね……えぇ、そうよ」

 

霧は一隻に一個のコアと呼ばれる物がある。

コアの用量は様々だが、重巡艦クラスになるとメンタルモデルを形成できる。一夏と簪のコアはそれに該当した。

そして、一夏と簪はある計画を進めていた。

 

「ユニオンコアの作成……いいのかしら? それはつまり―――」

 

「もう決めたことよ。私は―――霧の一人となる、ってね」

 

その表情は―――笑顔だったのだ。

ヒュウガは、そんな一夏を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

薄暗い部屋に二人。静かにグラスに口を付けて飲んでいた。

 

「……そろそろ、白状したらどうだ?」

 

「さて、何のことでしょか?」

 

月光が部屋を照らし、二人の姿があらわになる。

そこにいたのは、千冬と天羽だった。

 

「あれだよ」

 

千冬が指したのは、未だに荒れた海だった。

 

「一応、企業秘密でしたが……」

 

天羽は何事もなく処理したかったのだが……まさか、あれを持っていたとは思いもしなかった。

 

「ミラー・リングシステム」

 

「ミラー・リングシステム?」

 

「えぇ。霧の中でも超戦艦級にのみ装備されている、最強装備ですね」

 

「それだと、少しおかしいぞ。あそこにいたのは―――」

 

「織斑先生の言う通り、本来であればありえません。しかし、作動を確認した以上そう言うことになります」

 

「……そのミラー・リングシステムと言うのは、一体なんだ?」

 

「ミラー・リングシステムは対超重砲防御兵装であり、超重力砲を唯一防げる装備でもあります。原理はワームホールを作り、超重砲のエネルギーを別次元に転移させるというもの。ワームホール消滅時に周囲に破壊的な衝撃波をまき散らすため、現在の様になったのです」

 

天羽の説明に千冬は驚愕を目にした。

霧の技術力は束を超えていることは承知だったのだが、さらなる切り札を持っていたのだ。

 

「ワームホールまで、持っているのか……」

 

「えぇ。私ですらこれを目にしたのは初めてでしたので」

 

結果、一部の海域が異常気象を起こしてしまった。

あるところは一次元だったり、あるところは七次元だったり、異なる次元がまだらのように存在している。

正常に戻るのに、数年はかかるだろう。

 

 

 

 

「…………」

 

太平洋のとある場所。一夏に挨拶を交わしたムサシがいた。

そして、その甲板に座り、海を眺める少女がいる。天羽が亡国機業から連れ帰った織斑マドカだ。

 

「お身体の方はどうですか?」

 

「あぁ。凄く気分がいい」

 

マドカの後ろから近付いてくるのは、このムサシのメンタルモデルだった。

福音事件が終わると第一艦隊を引き連れて、退散した。もちろん、撃沈したアシガラを回収して。

 

「メンタルモデルと言う物は凄くいいな」

 

マドカは立ち上がると、ISスーツが私服へと変わった。

いや、変わった訳ではない。私服が構成されたのだ。

 

「今なら姉さんに勝てる気がする」

 

マドカは既に人間を辞めていた。

肉体を捨て、ユニオンコアにマドカと言う情報を書き込んだ。唯一人間から霧になった存在である。

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