IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

3 / 34
今回は誤字チェックのサイトを経由したから大丈夫のはず……


第3話

 第二回モンド・グロッソ。

 

 その大会で優勝したのは、私の姉――織斑千冬だった。

 

 世界中から注目を集めた、圧倒的な優勝。

 

 しかし。

 

 何故か千冬姉は、その直後にIS操縦者として現役を引退した。

 

 理由は、私には詳しく知らされていない。

 

 ただ一つ分かっているのは――

 

 私が誘拐された事件をきっかけに、千冬姉が大きく変わったということだった。

 

 私の捜索には、ドイツ側も全面的に協力してくれた。

 

 その協力の一環として、千冬姉は一年間、ドイツでIS教官を務めることになった。

 

 そして一年。

 

 千冬姉が帰国した頃には、私の周囲も少しだけ変わっていた。

 

 凰鈴音。

 

 五反田弾。

 

 五反田蘭。

 

 布仏数馬。

 

 昔からの友人たち。

 

 そこまでは変わらない。

 

 ただ――

 

 もう一人。

 

 新しく、この輪の中へ加わった人物がいた。

 

「何でアンタがいるのよ!」

 

「まあ。私がいてはいけないのですか?」

 

「当たり前でしょ!」

 

 教室に響く鈴の声。

 

 その声を受けても、天羽琴乃は涼しい顔をしている。

 

「まあまあ、鈴」

 

「む……」

 

 鈴が私を見る。

 

「一夏の顔に免じて、今日は見逃してあげるわ!」

 

「それ、完全に負けた奴が言う台詞だぞ」

 

「弾!」

 

 次の瞬間。

 

 鈴のローキックが弾の腹へ綺麗に入った。

 

「ぐふっ!」

 

「余計なこと言うからよ!」

 

「確かに今のは弾が悪いな……」

 

 数馬が呆れたように呟く。

 

 蘭は楽しそうに笑っている。

 

 私たちにとっては、いつもの光景だ。

 

 だけど――

 

 天羽さんにはどう見えているのだろう。

 

 私は少し気になって、彼女へ視線を向けた。

 

「…………」

 

 天羽さんは――

 

 笑っていた。

 

 鈴と弾のやり取りを、まるで微笑ましいものを見るように眺めている。

 

「……天羽さん」

 

「はい?」

 

「どうして、私たちのところに入ってきたんですか?」

 

「う~ん……」

 

 天羽さんが少し考える。

 

「そうですね」

 

 そして、教室の後ろへ視線を向けた。

 

 そこには数人の女子が集まっている。

 

 小声で何かを話しながら、こちらを見ていた。

 

 彼女たちは、以前までいつも天羽さんの周囲にいた女子たちだ。

 

「……あの人たちのことですか?」

 

「ええ」

 

 私は少し心配になった。

 

「天羽さん、大丈夫なんですか?」

 

「何がです?」

 

「だって……今までずっと一緒にいた人たちでしょう?」

 

「ああ」

 

 天羽さんは、あっさりとした様子で答えた。

 

「別に気にしていませんよ」

 

「でも……」

 

「それに」

 

 天羽さんが私を見る。

 

「今の私が興味を持っているのは――一夏さんですから」

 

「…………え?」

 

 意味を理解するより先に。

 

 天羽さんが私の顔へ両手を添えた。

 

「えっ?」

 

 私は驚いて身体を固める。

 

 天羽さんは私より少し背が高い。

 

 そのため、私は自然と彼女を見上げる形になった。

 

 そして――

 

「きゃあああああああっ!」

 

 教室中に女子たちの悲鳴が響き渡った。

 

「お、お姉様がぁぁぁ!」

 

「あんな地味な子にぃぃぃ!」

 

「なんであいつなのよぉぉぉ!」

 

「私たちの琴乃様がぁぁぁ!」

 

 中にはハンカチを噛みしめながら泣いている者までいる。

 

「…………」

 

 私は思った。

 

 これ。

 

 完全に敵を増やしたよね?

 

 しかも、かなり大量に。

 

 夜道には気を付けよう。

 

 下手をすると、本当に後ろから刺されるかもしれない。

 

 ……いや、冗談ではなく。

 

    ◇

 

 放課後。

 

 何故か天羽さんは、私たちと一緒に帰っていた。

 

「…………」

 

 弾は妙にテンションが高い。

 

「いやー、天羽さんと一緒に帰る日が来るとはな!」

 

「弾、顔がにやけてるよ」

 

 蘭が呆れたように言う。

 

「だって仕方ないだろ!」

 

「……ふん」

 

 鈴は相変わらず天羽さんを警戒している。

 

 ただ、私が一緒にいるせいか、今日は大人しい。

 

 しばらく歩いていると、弾が立ち止まった。

 

「あっ! 俺たちはここまでだ」

 

「そうだったな」

 

 数馬が頷く。

 

「じゃあ、一夏。またな」

 

「う、うん。またね、弾」

 

 鈴、蘭、数馬、弾。

 

 四人はいつもの道へ入っていく。

 

 私はその背中を見送る。

 

 やがて、四人の姿が見えなくなった。

 

 そのタイミングを見計らったかのように、天羽さんが声を掛けてきた。

 

「一夏ちゃん」

 

「はい?」

 

「今日は一人?」

 

「え?」

 

 私は少し考える。

 

「あ……うん」

 

 千冬姉は今、ドイツにいる。

 

 つまり――家に帰っても一人だ。

 

 だから普段は、弾や鈴の家に遊びに行って、一緒に夕食を食べることが多い。

 

 今日も、そのつもりだった。

 

 しかし。

 

「では」

 

 天羽さんが微笑む。

 

「一緒に食事へ行きませんか?」

 

「…………え?」

 

 頭が止まった。

 

「え?」

 

「ですから、一緒にご飯を食べに行きませんか?」

 

「あ……えっと……」

 

 どう答えればいいのか分からない。

 

 そんな私を見て、天羽さんは楽しそうに笑った。

 

「ふふっ」

 

 そして、何処かへ電話を掛ける。

 

「え?」

 

「少し待っていてくださいね」

 

 数分後。

 

 一台の高級車が私たちの前に停車した。

 

「…………」

 

 私は車を見る。

 

 天羽さんを見る。

 

 もう一度、車を見る。

 

「どうしたの?」

 

「え、え、え……?」

 

「乗りましょう?」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 私の頭が追いつかない。

 

 天羽さんはそんな私の腕を掴む。

 

「大丈夫ですよ」

 

「えっ、ちょっ――」

 

 そのまま車へ乗せられた。

 

「あ、あの……どこへ?」

 

「着いてからのお楽しみです♪」

 

 車が走り出す。

 

 窓の外の景色が流れていく。

 

 数分もしないうちに、人通りの多い街へ入った。

 

「天羽さん」

 

「はい?」

 

「本当にどこへ行くんですか?」

 

「秘密です」

 

「…………」

 

 私は諦めた。

 

 もう、好きにしてもらおう。

 

 やがて車が一つの建物の前で止まった。

 

「ここって……」

 

 私は建物を見上げる。

 

 見間違えるはずがない。

 

「テレシア……?」

 

「そうですよ♪」

 

 天羽さんは何でもないように答える。

 

 テレシア。

 

 国内でも有名な超一流ホテル。

 

 予約は常に埋まっている。

 

 今から食事をしようと思って、簡単に席を取れるような場所ではない。

 

「どうして……」

 

「こちらですよ」

 

 天羽さんは私の疑問を無視して歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 私は慌てて後を追う。

 

    ◇

 

 連れてこられた先。

 

 そこには――

 

 様々なドレスが並んでいた。

 

「…………」

 

「さて」

 

 天羽さんが微笑む。

 

「おめかししましょうか」

 

「……え?」

 

 今日、私は何回驚けばいいんだろう。

 

 そんな疑問を抱いている間にも、天羽さんは次々とドレスを持ってくる。

 

「これもいいですね」

 

「これは……ちょっと派手じゃ……」

 

「では、こちら」

 

「えっ、これも?」

 

「う~ん……」

 

 天羽さんが私の姿を確認する。

 

「これも悪くないですけど……」

 

 何着ものドレスを試着する。

 

 そして――

 

「うん」

 

 天羽さんが頷いた。

 

「これですね♪」

 

 選ばれたのは、鮮やかな青いドレスだった。

 

 肩や背中が大きく開いた、ウェディングドレスを思わせるデザイン。

 

 光を受けるたび、青い生地が美しく輝いている。

 

「……これを私が?」

 

「とても似合っていますよ」

 

「そ、そうですか……?」

 

 自分ではどうにも落ち着かない。

 

 その一方。

 

 天羽さんも着替えていた。

 

 彼女が選んだのは――

 

 私と対照的な純白のドレス。

 

 こちらもウェディングドレスを思わせる優雅なデザインだった。

 

「天羽さんも……」

 

「せっかくですから」

 

 天羽さんが笑う。

 

「お揃いにしましょう?」

 

「お揃い……」

 

 その言葉に少しだけ胸がくすぐったくなった。

 

「それでは、行きましょうか♪」

 

「う、うん……」

 

 私は天羽さんに手を引かれる。

 

    ◇

 

 そして。

 

 私たちはテレシアの最上階へやって来た。

 

 扉が開く。

 

「…………」

 

 誰もいない。

 

 広々としたフロア。

 

 窓の向こうには、夜の街が広がっている。

 

 そして――

 

 中央に一つだけ置かれたテーブル。

 

「ここ……私たちだけ?」

 

「ええ」

 

 天羽さんが席へ座る。

 

 私も向かい側へ腰を下ろす。

 

 やがて料理を待つ時間になった。

 

 しかし、どうしても気になる。

 

「あの……」

 

「はい?」

 

「ここって……本当にテレシアですよね?」

 

「そうですよ♪」

 

「……予約、取れたんですか?」

 

「ええ」

 

 天羽さんはあっさり答えた。

 

「ここのオーナーは、私の仲間ですから」

 

「…………」

 

「少し無理を言って、席を取ってもらいました」

 

「…………はぁ」

 

 私は天井を見る。

 

 今日だけで何度目だろう。

 

 驚くことに疲れてしまった。

 

 天羽琴乃。

 

 彼女と出会ってから、私の日常は確実に変わった。

 

 だけど――

 

 不思議と嫌ではなかった。

 

「一夏ちゃん」

 

「はい?」

 

 天羽さんが優しく笑う。

 

「今日は、ゆっくりお話ししましょうね」

 

「……うん」

 

 私は頷いた。

 

 この時の私はまだ知らなかった。

 

 天羽琴乃が私の人生へ入り込んできたことが――

 

 単なる「転校生との出会い」などではないことを。

 

 そして。

 

 彼女が私に近づいてきた本当の理由を。

 

 まだ、何も知らなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。