IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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織斑一夏
性別:女
見た目は幼い千冬。
バストもそこそこある。
ちなみに専用機持ち。


第5話

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)はじめますよー」

 

黒板の前でにっこりと微笑(ほほえ)む女性副担任こと山田(やまだ)真耶(まや)(さっき自己紹介していた)。

身長はやや低めで、生徒のそれとほとんど変わらない。しかも服のサイズが合っていないのかだぼっとしていて、ますます本人が小さく見える。また、かけている黒緑眼鏡もやや大きめなのか、若干ずれている。

なんというか、『子供が無理して大人の服を着ました』的な不自然さ……というより背伸び感がするんだが、そう思うのは(わたし)だけなのだろうか。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「……………」

 

けれど教室の中は変な緊張感に包まれていて、誰からも反応がない。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと出席番号順で」

 

ちょっとうろたえる副担任がかわいそうなので、せめて私くらいは反応しておこうと思わなくもないのだけど、いかんせんそんな余裕はない。

なぜか。

簡単だ。クラスの全女子は天羽(あまは)琴乃(ことの)をみているからだ。

今日は高校の入学式。新しい世界の幕開け、その初日。それ自体はいい。むしろ喜ぶべきところ。

だがしかし、問題はとにかく全員が天羽さんを見ている点だ。

 

(よく……大丈夫なんだね……)

 

自意識過剰ではなく、本当にクラスメイトほぼ全員からの視線を感じながらも天羽は平然としている。

だいたい、席も悪い。五十音順だから一列目に天羽さんがいるからだ。

私もちらりと天羽さんの方に目をやる。

 

「……………」

 

あの日、私は人類の敵になった。天羽さんや霧の皆と触れ合って、私はあの人たちを裏切ることが出来なかった。……いや、もしかして私は守りかったのかもしれない。

 

「……さん。織斑(おりむら)一夏(いちか)さんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

いきなり大声で名前を呼ばれて思わず声が裏返ってしまった。案の所、くすくすと笑い声が聞こえてきて、私は落ち着かない気分になる。

担任は……まだ来ていないけど、女性らしい。何をしてるんだろうね。

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑さんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

気がつくと副担任の山田先生がぺこぺこと頭を下げていた。しかしあんまり頭を何度も下げるので、微妙にサイズのあってなさそうな眼鏡がずり落ちそうになっている。そしてまた私はそういうどうでもいいところばかり気になっていた。というかこの人は本当に年上なんだろうか。同い年といわれれば受け入れてしまいそうだ。

 

「あ、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介をしますから、先生落ち着いてください」

 

「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 

がばっと顔を上げ、私の手を取って熱心に詰め寄る山田先生。……あの、すごい注目を浴びているんですが。

私はしっかりと立って、後ろを向く。

 

(うっ……)

 

先程のやり取りのせいで視線が一気に私に向けられているのを自覚する。そんな私を応援するように天羽さんもこっちを見ている。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。『蒼き鋼』の専属パイロットをやっています。よろしくお願いします」

 

儀礼的に頭を下げ、上げる。―――ちょっと待ってよ、なんだその『鳩が豆鉄砲を喰らった』的な視線は。そしてこの『嘘じゃないよね?』的な空気はなに?

 

「……………」

 

だらだらと背中に流れる汗を感じる。どうしたらいいの、何を言えばいいんですか。

 

 

『蒼き鋼』は天羽さんの仲間の霧が経営するIS企業の社名である。おもにミサイルや火器類の開発をメインに取り組んでいる。そんな『蒼き鋼』に私は専属パイロットとして雇われていて、私以外にももう一人いるのだが、あの子は四組なので私のクラスにはいない。

もちろん専用機も支給されている。何処かの企業から頂いたISを改良して作った機体を私が使っている。もう一人の子もその企業から連れ帰ってきて機体を改良した。改良といっても霧のコアをISに取り付けただけなんだけどね。

 

 

「……………」

 

―――えーと。

状況を再確認。今私は高校一年、入学式当日。自己紹介の真っ最中。目の前に広がるのは二十九名の女子。後ろには、たぶん半泣きの山田先生。

で、自己紹介を終わるに終われない私。何せ目の前の女子は『もっと聞きたいなあ!』という期待に満ちた視線を私に送り続けている。

 

(このままでは……『暗いやつ』のレッテルを張られてしまう)

 

私は呼吸を一度やめ、そして再度息を吸い、思い切って口にした。

 

「以上です」

 

がたたっ。思わずずっこける女子が数名いた。どんだけ期待してるんのよ。無茶を言わないでよ。

 

「あ、あのー……」

 

背後からかけられる声。涙声成分が二割増している。え? あれ? ダメでした?

パアンッ! いきなり頭を叩かれた。

 

「え?」

 

差ほど痛くはないのだが、あることが頭をよぎった。

この叩き方―――威力といい、角度といい、速度といい、とある人物―――よく知っているとある人物が同じような感じなのですが……。

 

「……………」

 

おそるおそる振り向くと、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているが過肉厚ではないボディライン。組んだ腕。(おおかみ)を思わせる鋭い()()

 

「千冬……姉……?」

 

パアンッ! また叩かれた。ちなみに手加減されているから差ほど痛くない。

 

「ここでは、織斑先生だ」

 

というか、なんで千冬姉がここにいるの? 職業不詳で月一、二回ほどしか家に帰ってこない私の実姉は。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押しつけてすまなかったな」

 

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」

 

さっきの涙声はどこへやら、副担任の山田真耶先生は若干熱っぽいくらいの声と視線で担任の先生へと応えている。あ、はにかんだ。

 

「諸君、私が織斑(おりむら)千冬(ちふゆ)だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

なんという暴力宣言。間違いなくこれは私の姉・織斑千冬。

だがしかし、教室んは困惑のざわめきではなく、黄色い声援が響いた。

 

「キャ――――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

いや別に南北北海道でもいいけどさ。

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

きゃいきゃいと騒ぐ女子達を、千冬姉はかなりうっとうしそうな顔で見る。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

これがポーズでなく、本当にうっとうしがってるのが千冬姉だ。千冬姉、人気は買えないのよ? もうちょっと優しくしようよ。

と思ったが私は甘かった。御坂(みさか)神社の甘酒(というかあれはただの砂糖汁だ)くらい甘かった。五反田(ごたんだ)食堂のカボチャの煮物くらい甘かった(あれは改善を断固要求する)。天津甘栗(てんしんあまぐり)―――は特筆するくらい甘くもないか。そうか。

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと(しか)って! (ののし)って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように(しつけ)をして~!」

 

クラスメイトが元気でなによりですね。

しかし私も自分のクラスの担任が千冬姉だったことに混乱と驚愕(きょうがく)している―――はずだったんだが、先刻の女子の黄色い声で逆に落ち着いた。自分より強い感情が近くにあると人は相対的な意識が働いて落ち着くらしい。その通りだなと身をもって知った。

 

「で? いつまでいるつもりだ?」

 

「あ、はい」

 

私は大人しく自分の席に座る。

ちなみにIS学園というのは、

ISの操縦者育成を目的……説明するのが面倒なんで、分かりやすく言えば『てめー、日本人が作ったISのせいで世界は混乱しているから責任もって人材管理と育成の為の学園作れや。そこの技術をよこせや。あ、運営と資金は自分で出してね』ということ。ヤクザだな、某A国。

そんなことを思っていると、チャイムが鳴った。

 

「さあ、SHR(ショートホームルーム)は終わりだ。諸君らにはこれからISの基本知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本操作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

おお、なんという鬼教官。目の前の姉は人の皮を被った悪魔だろうか。いや悪魔の方がまだ融通が利く。あいつら人間じゃないから。目の前の人間、なまじ人間性能の限界を知っているからタチが悪い。

なにせこの織斑千冬、第一世代IS操縦者の元日本代表なのだ。しかも公式試合の戦歴は無敗。ところがある日突然、引退して姿を消す―――っていうか、学園の教師してたのか……家族の私にくらいには言ってほしいよ……心配した私が馬鹿だった。

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