「天羽さん。今回は何の仕事なんですか?」
402に乗り込んだ私は天羽さんに尋ねる。
「今回は会談よ。貴女たちは警護をお願い」
「わかりました」
私たちを警護役にすることはよっぽどのことである。
こちらの切り札をあんまり見せない為ということで、天羽さんは私たちを選んだのだ。
「目的の場所に着きました」
402のメンタルモデルが天羽さんが指定した場所に着いたことを報告し、私たちはロングコートを被って外に出る。
そこはごく普通の港だが、死角で丁度ここは人目が避けられていた。
私たちは天羽さんの後を追うようについて行く。
◇
「さて、これでよし……っと」
ホテルのスイートルームではスコールが最後の仕上げとばかりに香水を吹いていた。
その身体は相も変わらず豪華絢爛で、一着数十万はするであろうドレスを身に着けている。
宝石類も、大小様々なダイヤが鏤められたネックレスにピアス、指輪、ブレスレットと抜かりが無い。
「……………」
その横でつまらなそうにしているのが、エムだった。
胸のロケットを弄んで虚空を眺めている。
「なあに、エムったら。まだ食事に行くことに不満なの?」
「……私が同行する理由はない」
「あるわよ。私の護衛が必要じゃあなあい?」
「笑わせるな」
スコールとそのISの性能を知っているエム―――彼女にして見れば、皮肉しか出てこない。
「さて、行こうかしら」
「ふん……」
「少しくらい笑いなさいな。今日はあの、天羽琴乃とのご対面なのだから」
「……………」
結局、仕方ないというよりは従うしかないという様子で、エムはスコールの後に続いた。
◇
「……………」
今の世の中に穴を開けた最強の企業『蒼き鋼』の業務執行取締役、天羽琴乃はスコールと対面していた。
世界中の企業が面会を申し込むも代役のみでしか会う事がない彼女をどうやって、この地下のレストランに呼び出したのか―――それはスコールだけが知るところであった。
「お気に召しまして? 天羽さん」
「そうね……。そこの睡眠薬入りのスープ以外は」
企みを暴かれても、スコールは顔色ひとつ変えない。
むしろ驚くべきは、天羽が薬物入りのスープを飲み干しても全く調子を変えないことだった。
(まあ、これくらいは想定内よね。『あの』天羽琴乃なのだから)
スコールはテーブルに両肘を立てて、ニコニコと笑みを絶やさずにいる。
「それで、天羽さん。あの話は考えていただけたでしょうか?」
「あの話ですか?」
「ええ。我々『
「うふふふ……。お断りよ。あなた達みたいな
唯一霧に対抗することが出来る霧の兵器のことは、天羽も隠しもしない。
「そこを何とかお願いします」
「もう一度言います。お断りします」
天羽は布巾で口を拭き、ワインに手を掛ける。
「ふう……。どうしても、ですか?」
「ええ」
「では、これではどうかしら」
スコールが指を鳴らす。
映画のような演出で天羽の後ろでオータムが銃を突き付けてくる。
「それで、お返事は?」
「本当に三流以下の組織ね」
にっこりと笑みを浮かべた天羽は、次の瞬間……。
「!?」
防御態勢すら取ることも出来ず、オータムは派手な音を立ててワインセラーに突っ込んだ。
「ま、まさか……。クライン・フィールドまで……」
天羽はオータムをクライン・フィールドで弾き飛ばし、何も無かったかの様に手に持っていたワインを飲む。
それは、完全にスコールの誤算だった。
脅迫が例え有効に働かなくとも、最悪の場合は自らのIS『ゴールデン・ドーン』でねじ伏せられると思っていた。
それが―――このザマだ。
天羽が本気になれば、ISを起動させても勝てるのか分からない。
いや、そもそもISを起動させるだけの隙があるだろうか。
「いいワインね、これ」
優雅にワインを飲む天羽に、スコールはぎりっと奥歯を噛み締める。
しかし、そこで状況が変わった。
「動くな」
騒動を聞きつけてか、外で待機していたエムがレストランに入って来た。それも、IS『ラファール・リヴァイヴ』を
(―――やったわ。エム、いいタイミングよ)
これで勝負は五分五分―――そう思ったのが甘かった。
「イオナ」
エムの背後にローブを被った少女が現れ、こともあろうに
「くっ!?」
エムは体勢を立て直そうとするが、そんな隙すら与えてもらえず、イオナに一方的に叩きのめされた。
素手でISを躊躇なく壊す彼女にエムは思考が追い付かない。
ラファール・リヴァイヴが半壊した所でSEが無くなり強制解除され、イオナは攻撃を止める。
「……………」
イオナはじっとエムの顔を見て動かない。
エムは、完全に動けない。
動けば負けることを自覚している。
「天羽様」
「なに?」
フードで隠れているが、イオナの表情は微笑んでいる。
まるで気に入った物を見つけたかのような笑みを浮かべていた。
「この子、貰ってもいいですか?」
「「!?」」
スコールとエムが同時に驚いた表所を浮かべる。
「あらあら、気に入ってしまったのね。そうね……」
天羽は考え、答えを出す。
「そうですわ。侵食弾頭の情報とこの子を交換しましょう」
「え―――」
驚きの声を出したんはスコールだった。
「勿論、設計データ込みで」
「そ、それは困りますが……」
スコールは渋る顔しかできない。
なにせ、今のところこちらの切り札はエムしかいない。
それを取られてしまっては、来るべき計画の時に支障をきたす。
「あらあら? 霧の対抗出来る兵器と
「っ……」
侵食弾頭は喉から手が出る程欲しいが、エムをここで失うのはまずい。
しかし、霧の戦艦装備の一つ、クライン・フィールドまで持っているとなるとこちらが勝つのは難しい。
その上、ISを半壊させる程の護衛がいる……。
「わかりました……」
「ありがとうね。イオナ、帰りますよ」
スコールは奥歯を噛み締める。
ここまでの物辱をたった16年しか生きていない小娘にされたのだ。
「そうでしたわ」
天羽はエムの頭をなでる。
「ナノマシンは無効化させてもらいますよ」
「っ!?」
エムに投与してあった監視用のナノマシンまでもが無力化され、スコールは完全に切り札を失ってしまった。
◇
「402、予定を少し変更するわ」
亡国機業との会談はことなく終わり、天羽たちは402に帰還する。
同時にエムも連れて帰って来ていた。
「私たちを送り終わったら、ムサシの所に彼女を連れて行きなさい」
「わかりました」
402の発進を確認した一夏と簪はフードを脱ぐ、エムはその二人の姿を見て驚く。
「お、織斑一夏だと……」
「そうですよ。やっぱり、驚きましたか」
まさか、あの織斑一夏に負けたことよりも、この場にいたこにエムは驚く。
「エムってコードネームでしょ? 本当の名前はなんて言うの?」
「……………」
エムは戸惑う。
「織斑……マドカ……」
「マドカちゃんか、よろしくね」
あの場にいた時は全く別人と思わせる雰囲気にマドカは戸惑いを感じていた。
その後は一方的に質問詰めになってしまうが、マドカのことを色々と聞け、一夏は満足する。
質問が終わる頃にはIS学園に着き、天羽たちは誰にも気づかれず寮に戻った。