IS~空を舞う蒼き鋼~   作:ぬっく~

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第9話

そして翌週、月曜。セシリアとの対決の日。

というよりあの日から特に無く、マドカちゃんはムサシちゃんの所に預けられてしまったし、本当に何も無かった。

と言う訳で今日まで時間を飛ばすよ。

 

「準備はいいか?」

 

「うん。大丈夫だよ、千冬姉」

 

第三アリーナ・Aピットでは織斑先生と山田先生がいる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

私は右腕に付いているシルバーアクセサリーを握る。

光の粒子が私を包み込み、蒼い中世の鎧を思わせるデザインが展開された。

 

「一暴れしましょうか、イオナ!」

 

 

    ◇

 

 

「あら、逃げずにきましたのね」

 

セシリアがふふんと鼻を鳴らす。また腰に手を当てたポーズが様になっている。

けれど私の関心はそんなところにはない。そんなところは、ハイパーセンサーは感知してない。

私と同じ鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。

それを駆るセシリアの手には2メートルを超す長大な銃器―――検索、六七口径特殊レーザーライフル《スターライトmkⅢ》と一致―――が握られていた。ISは元々宇宙空間での活動を前提に作られているので、原則空中に浮かんでいる。そのため自分の背丈より大きな武器を扱うのは珍しくない。

アリーナ・ステージの直径は200メートル。発射から目標到達までの予測時間0.4秒。すでに試合開始の鐘は鳴っているので、いつ撃ってきてもおかしくはない。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

腰に宛てた手を私の方に、びっと人差し指を突き出した状態で向けてくる。左手の銃は、余裕なのかまだ銃口が下がったままだ。

 

「チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは明白の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 

そう言って目を笑みに細める。―――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。セーフティのロック解除を確認。

イオナが告げる情報を、私は一度飲み込んでから整理する。そうしないと、あっという間に殺ってしまいそうだ。セシリアを。

 

「そういうのはチャンスとは言わないよ」

 

「そう? 残念ですわ。それなら―――」

 

 

―――警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

 

「お別れですわね!」

 

キュインッ! 耳をつんざくような独特の音。それと同時に走った閃光が刹那、私に迫る。

 

「遅いわ……」

 

身体を僅かに逸らす。こんなレーザー程度で私に当てるなんて、舐めているのかしら?

 

「っ!?」

 

「どうしたの? 代表候補生だって聞いたのだから期待したのに……」

 

「お黙りなさい!! いいですわ。わたくしの本気をみせてあげますわ!! さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

射撃、射撃射撃射撃。まさに弾雨のごとく攻撃が降り注ぐ。しかも、それらすべてが的確にこちらを狙ってくるが、一発も当たらない。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

セシリアの射撃は正確だ。普通の操縦者であれば一、二発は当たるだろう……しかし、相手が悪かった。セシリアが相手しているのは『()()()』の企業所属のパイロットだったことだ。

 

 

    ◇

 

 

「はぁぁ……。すごいですねぇ、織斑さん」

 

ピットでリアルタイムモニターを見ていた山田真耶がため息混じりにつぶやく。

しかし、千冬は対照的に忌々しげな顔をする。

 

「あいつ、どれだけの死線をくり抜けてきたのだ」

 

「え? どういうことですか?」

 

「あそこまで綺麗に避けることなど、一般人ではできない。企業に所属していたとしても同じだ。しかし、織斑はそれをいとも簡単にやりのけている……」

 

「はぁぁぁ……。さすがご姉弟ですねー。そんな細かいことまでわかるなんて」

 

なんとくなくそう言った真耶に、けれど千冬はハッとする。

 

「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の妹だからな……」

 

「あー、照れているんですかー?照れているんですねー?」

 

「……………」

 

ぎりりりりっ。ヘッドロックが炸裂した。

 

「いたたたたたっっ!!」

 

「私はからかわれるのが嫌いだ」

 

「はっ、はいっ! わかりましたから、離し―――あうううっ!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ真耶を気にもかけない様子であるが真耶はある話を持ち出す。

 

「やはり、『蒼き鋼』の噂は本当なんでしょうか?」

 

「多分だが真実だろう」

 

『蒼き鋼』の噂……それは。

 

「霧の戦艦を捕獲したっと言うのは真実なんでしょうか?」

 

「分からんが、今の世の中に風穴を開けた以上、本当だろう」

 

誰一人と霧の戦艦に歯が立たなかった現状をひっくり返すかのように現れたのが『蒼き鋼』。

そして、唯一霧に対抗できる技術を持った企業でもあった。

そんな話をしている中、ずっとモニターを見つめているのは箒と琴乃だった。箒は心なしか、その表情は険しい。

 

「……………」

 

両手を合わせて無事を祈るような真似はしない。箒はそういう性格ではない。

琴乃はいつも通りにその試合を観戦する。

 

(一夏……)

 

箒がほんのわずかだけ唇を噛んだとき、試合は大きく動いた。

 

 

    ◇

 

 

セシリアの攻撃をまるでどこから来るか分かっているかのように私は避け、近づく。

ライフルの砲口は間に合わない。確実に一撃が入るタイミングだった。

 

「―――かかりましたわ」

 

にやり、と。セシリアが笑うのが見えた。

 

 

ヴンッ―――。

 

 

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。その突起が外れて、動いた。

 

「奥の手ですわ!」

 

回避が間に合わない。しかも、さっきまでのレーザー射撃を行う様子ではない。これは『弾道型(ミサイル)』だ。

 

 

ドカァァァンッ!!

 

 

赤を超えて白い、その爆発と光に私は包まれた。

 

 

    ◇

 

 

「一夏っ……!」

 

モニターを見つめていた箒は、思わず声を上げた。

さっきまで騒いでいた千冬と真耶も、爆発の黒煙に埋まった画面を真剣な面持ちで注視する。

 

「終わりましたね……」

 

黒煙が晴れたとき、琴乃はつぶやいた。けれど、一夏の敗北を示したように思えたにもかかわらず、琴乃は勝利を確信した顔をしていた。

 

「さあ、仕掛けない。イオナ」

 

まだかすかに漂っていた煙が、弾けるように吹き飛ばされる。

その中心には、あの蒼い機体があった。

 

 

    ◇

 

 

「ま、まさか……クラインフィールド!? な、なんで霧のバリアを使えるのですか!?」

 

セシリアは今起こった現象にパニックっていた。

ISの装備を全て使っても破ることすら出来なかったバリアが今ここにある。

そして同時に勝敗が決した。

 

「解放! 『零落白夜』!!」

 

私は《雪片弐型》を呼び出し、セシリアの懐に飛び込む。

雪片は強い光を発し、下段から上段への逆袈裟払いを放つ。

 

 

『試合終了。勝者―――織斑一夏』

 

 

私の喧嘩は私の勝ちで終わった。

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